転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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難産続きです。本格的に本編に入ったらもう少しスムーズにいくはず……!


試作機

機動六課の正式稼働から数日が経ち、『仮想戦闘空間シミュレータ』を使用しての訓練も本格的な物へと変わって来た。

 

それは訓練の段階が『それぞれの現状を把握する段階』から『それぞれの課題に向き合う段階』へと変わった事に起因しており、これからが訓練の本番である事を意味していた。

 

 

 

「――よし、では今日の訓練はここまで!」

「「「「あ……ありがとう、ございました……」」」」

 

仮想空間の訓練の締めとして行われた、多対一の組手……フォワード陣の相手を務めたなのはは、疲労困憊と言った様子のフォワード陣を見回して笑みを浮かべる。

 

「たった数日でここまで変わるなんて、正直驚いたよ。

 連携に関してはまだ粗削りだけど、最初の時よりも十分成長してる。」

 

彼女の言う様に、フォワード陣の実力はこの数日間で爆発的に向上していた。

 

スバルは障壁の強度は勿論、敵の攻撃の機微や周囲の戦況を把握出来るようになり、

ティアナは射撃の精度と連射力が向上し、敵の攻撃に対処しつつ的確な牽制も同時に行えるようになった。……もっとも、例の癖の改善は未だ努力中と言ったところではあるが。

キャロに関しては仮想空間ではフリードリヒやヴォルテールを連れ込めない為、そちらに関する訓練はやや遅れている。しかしその分補助魔法の訓練に集中していた為、幅広い選択肢を得た。

 

そして特に大きな成長を見せたのは……

 

「特にエリオ君の成長速度は早いね。

 途中の動き、ちょっとティアナを意識してたところあったんじゃない?」

 

エリオ・モンディアルだった。

なのはがそれに気づいたのは、模擬戦中に誘導弾でエリオを包囲した時の事だ。

エリオは突然の窮地に慌てた様子だったが、一瞬何かを閃いたような表情を見せるとその途端に動きが変わった。なのははその瞬間的な、しかし急激な変化を見逃さなかった。

 

「あ、はい。魔力弾に囲まれた時、確かティアナさんがこんな訓練をしてたなって思い出して……結局対処しきれなかったんですけど。」

「ううん。デバイスの形状も戦い方も違うのに、ちゃんと自分の形にしようとしてて驚いたよ。」

 

向かって来る魔力弾の着弾順と魔力量を見極め、槍状のデバイス『ストラーダ』による対処に切り替えた判断は早く、実際の対処も最初の方は上手く行っていたが……やはり銃とは違って大きな動きを必要とする槍では追いつかず、最終的には墜とされてしまっていた。

 

しかし結果的には失敗してしまったものの、その行動に移せたのは間違いなくエリオの吸収力と普段の観察力、そして素早い状況判断と対応力によるものだ。

そこを褒めるように励ましてやると、エリオは照れたように頬を掻いた。

 

「……うん、そろそろかも知れないね。」

「?」

「なのはさん?」

 

そう小さく呟いたなのはの言葉にスバルとティアナが反応すると、なのははうっすらと微笑みながら言う。

 

「ここで皆さんにお知らせがあります。」

 

そこで間を置くなのはの様子に、思わず息を飲むフォワード陣。

そしてなのはの表情がパッと華やぎ、こう告げられた。

 

「明日の訓練はなし! つまり……休日になります!」

 

「「「「……? ……っ!」」」」

 

一瞬何を告げられたのか理解していなかったフォワード陣だったが、その意味を理解したと同時に仮想空間中に歓声が轟いた。

その喜びようは凄まじく、とても訓練中に出すような声ではない。

だが仕方なかったのだ。思っていたよりもキツイ訓練の数々、成長している実感を得にくい模擬戦相手……肉体に疲れが溜まりにくい分、精神は疲弊していた。

 

 

 

やがて歓声も収まって来たころ……耳を塞ぎながらそれを待っていたなのはは、パン!と手を叩きこう告げた。

 

「はい、一旦落ち着いて。もう一つお知らせがあります。

 今日の訓練終了後……つまりこの後に皆のデバイスを一度預かるね。

 皆が強くなったのに合わせて、デバイス達もアップグレードするよ!」

 

そして数秒後、本日二度目の歓声が響き渡ったのだった。

 

 

 


 

 

 

いつもと違い軽い足取りで隊舎に帰って行ったフォワード陣を見送った後、なのははとある人物に彼女達のデバイスを手渡していた。

 

「いやぁ、凄い喜びようでしたねー、あの子達。

 この部署にまで声が聞こえましたよ?」

「あはは……やっぱり『強くなった』って認められた証みたいなものだからかな。

 達成感って言うのもあると思うよ。」

 

どうやらあの後もテンション高めで帰ったのだろう、彼女達の喜びようはなのはがこの部署に来るよりも早く伝わっていたようだ。

 

「成程……では私達もこの子(デバイス)達のアップデートを頑張らなくては!」

「うん、お願いね。シャーリー、木之元さん。」

「はい! しかと任されました!」

「オーケー!」

 

なのはの言葉に答えたのは両手に抱えたデバイス達を大切そうに握るシャーリーと木之元 菜都美だ。

 

彼女は恋人の斎藤 俊樹と共にミッドに移り住み、デバイスマイスターとして管理局に入局していた。

機動六課にスカウトされた事で地上本部に勤める斎藤とは職場が離れてしまったが、元々職場で会う事は滅多に無い為かその辺りは気にしていない様子だ。

 

「あ、そうだ、なのはちゃん! 試作ドローンのログデータ抽出し終わったからさ、ついでにフェイトちゃんの所に持って行ってあげてくれない?」

 

そう言って木之元が指差したのはアリシアが会話する時に使っていたドローンだ。

今は充電用の端末に収まっており、画面には『No Signal.』と表示されている。

 

「え、良いけど……ここに本体が無くても大丈夫?」

「大丈夫大丈夫! ベースのデータはこっちの端末に全部入ってるし、何なら今度は小型化も狙ってるから、完成したら試作機の方はもう使わなくなると思うよ?」

「そうなの? なんかちょっと寂しいね……」

 

少し残念そうな表情でそう言うなのはに対し、「良いの良いの」と言いながらドローンの方に歩いて行く木之元。

やがて「よいしょ」と言う言葉と共にドローンを抱えると、なのはのほうに歩いて来た。

 

「試作機の仕事は機能や挙動の問題点を洗い出すまでで終わり。

 次の機体にそのノウハウを引き継がせる事が本懐。

 なのはちゃんは今みたいな優しさを持っていても良いけど、あたし達はそれを持ち続けてたら破産しちゃうよ。」

 

そして木之元は「維持費も結構かかるし」と言いながら、ドローンの背面をなのはに向けてこう言った。

 

「それに実際、要らない機能もついちゃったままだしね。

 例えば……『コネクト』!」

「えっ!?」

 

木之元がコマンドワードを唱えると、ドローンから伸びた光がなのはに繋がり……

 

「『今のって……えっ!?』」

「強制接続機能だよ。ホラ。」

 

自分の声がダブって聞こえる事に違和感を覚えたなのはに、木之元がドローンの画面を見せてやると、画面にはなのはの姿が映っていた。

 

「『えっ、これって……』」

「うん、接続できたみたいだね?

 じゃあこのまま連れてっちゃってよ。

 手で持って運ぶのって結構重いでしょ? コレ。」

 

「そこも課題の一つなんだー」と続けながら手をフリフリと振る木之元に見送られながらなのはは部屋を後にした。

 

 

 


 

 

 

「『へー……これって勝手について来るんだ……確かに楽かも。』」

 

そう言いながら廊下を歩く高町なのは。背後には木之元に手渡されたドローンがふよふよと浮かびながらついて来ている。

廊下にはなのはと同じように自分の家に向かう者や隊舎に向かう者も多く、すれ違う彼等は興味深そうにその様子を見ていた。

 

そしてそんな人の中からなのはに声をかける者が一人。

 

「お、なのは。今帰りか? ……なんだそれ?」

「『あ、斎藤君。うん、これをフェイトちゃんに届けたら帰ろうかなって。』」

「……あー、何か前に木之元から聞いた事あったわ。

 それフェイトが表に出てる時にアリシアも話せるようにしたって奴だろ?」

「『うん、大体そんな感じ。』」

 

少し考えてそう結論付ける斎藤。

より正確には表に出ていない人格の声を届ける為の物なのだが、同じような物だと考えてなのはは口にしなかった。

 

「『斎藤君はこの後木之元ちゃんに用事?』」

「ん? ああ、ちょっとデバイスの整備を頼もうと思ってたんだが……もしかして、何か間が悪かったか?」

「『えっと、実は……』」

 

 

 

「……なるほど、新人のデバイスのアップグレードか。

 となると流石のアイツもちょっと忙しくなるだろうし、また今度にでも頼むか。」

「『ゴメンね、久しぶりに会うのに……』」

「良いって、偶々間が悪かっただけだし。

 それに確かに整備は今度にするって言ったけど、顔を見せないとは言ってないしな。」

 

斎藤がそう言って笑顔を見せると、少し安心したのかなのはの表情も少し緩む。

 

「……しっかし、さっきからなのはの声が二重に聞こえるって……なんか変な感じだな。」

「『アリシアちゃんが使ってる時はこうならないんだけどね……

  やっぱり私の人格が一つだけだからかな?』」

「ふーん……相変わらずの謎技術だなぁ……」

 

そう言いながらドローンをまじまじと眺める斎藤だったが……

 

「っと、それじゃあ俺そろそろ行くわ。

 引き留めちまって悪かったな、なのは。」

「『ううん、じゃあまた今度ね。』」

「おう! ……ん? また今度?」

 

なのはの挨拶に違和感を覚えた斎藤が振り返った時には、既になのはは視界から消えていた。




-2022/02/07 22:50 追記-

最後の方の文章を修正しました。
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