「いやぁ、こうしてティアと食べ歩きするのも久しぶりだね。」
「そうね。ここしばらくは隊舎と訓練所を往復するばかりだったし……」
久しぶりの休日……スバルとティアナはティアナのバイクで少しばかり遠出し、ここ首都クラナガンで大いに羽を伸ばしていた。
久しぶりに歩く街並みの光景は二人が知る物と微妙に変化しており、今彼女達が手に持つアイスのフレーバーも以前は無かった今流行りの新作らしい。
こういった変化に興味を示しては積極的に飛びつくスバルと、やれやれと言った表情で彼女に続くティアナの様子はとても時空管理局の一員とは思えない程に年相応の物だった。
「ティア、次はどこ行こっか?」
「あたしは特に行きたい所がある訳じゃないけど、そうね……
あ、ちょっと気になってたのがあったんだっけ。」
食べ終えたアイスの包み紙をゴミ箱に捨てたスバルがティアナに尋ねると、彼女は少し考えた後にふと思い出したような様子で答えた。
「ティアが気になってるところかぁ……どこ?」
「んー……ああ言うのって、どこにあるのかしら?
……ゲーセン?」
首を傾げながらハッキリしない様子で出された場所に、今度はスバルが首を傾げる。
「ゲーセン……って、なんかティアにしては珍しいね?」
「だからさっきも言ったでしょ? ちょっと気になっただけって。」
「ん-……まぁ、良いや。あたしも興味出て来たし! 行こっか!」
ともあれ、元々どこを回るかも決めずに街に繰り出し、気の向くままに散策しようと決めていたため、一先ずは彼女の言うゲーセンに行ってみる事となった。
…
「成程ね、こういう事だったんだ。」
様々な筐体から発せられる音に包まれた店内の、一際人気を集めるスペース……その行列に並びながら、スバルは目的地の光景に一人納得したように頷いた。
彼女達の並ぶ行列の先には様々な機材が取り付けられ、ごてごてしたゲーミングチェアの様な筐体が幾つか並んでいた。
その頭上に取り付けられた大型モニターには、その筐体で遊んでいる様子が映し出されており、並んでいる間も退屈しない造りになっている。
そしてそのモニターの画面にはいくつかの小さな映像が表示されており、そのどれもが1対1の魔法戦だった。
その光景を見上げながら、ティアナはスバルに応えるように言った。
「仮想現実の訓練やった後、スバルが言ってたでしょ?
この技術はゲームにも使われてて、適性とか気にしないで戦えるって。
空戦ってどんな感じなのかとか、砲撃型とか近接型とか、こういう形でも実際に体験できれば実際に相手にする時役に立つと思ったのよ。」
「確かに距離とか戦い方で攻め時って変わるからねー……あたしもそう言うところ意識してやってみようかな。」
ティアナの言葉は何も『センターガード』にのみ当て嵌まる事では無い。スバルのポジション、フロントアタッカーにも同様に言える事だった。
「あら、じゃあ一度対戦してみる?」
「良いよ! じゃああたしは折角だから空戦の砲撃型、防御マシマシのスタイルで!」
「もろに誰かの顔が浮かぶわね……じゃああたしは空戦の近接型、速度盛り盛りで戦ってみようかしら。」
「あはは、やっぱりティアもそう言う事するんじゃん!」
「アンタに合わせたのよ。」
実戦に役立ちそうと言う考えがあったとしても、この日はあくまで休日だ。楽しむ事を最優先にと言う考えは一致しており、お試しと言う事もあって二人は何処かの二人を真似する事にしたらしい。
……のだが。
『わわっ、ちょ! 当たらな……! うひぃ!?』
『くっ、これ……っ! 制動が効かな……っ!?』
結局のところいくら訓練を積んでいようとお互いに初めての空戦、それも本来の体と違うアバターを操作する魔法戦も初体験とあっては上手く戦いにならないのも道理。
更に言えば、二人の使うアバターはどちらも特定の能力に極振りしたピーキーな性能だ。まともな試合にならないのは当然だった。
「あー……あの二人初めてであのキャラ使ったのか。」
「大会とかでぶつかるとえげつないレベルでボコられるから正直苦手だったけど、ああいう姿を見ると初々しいねぇ……」
「わかる」
そんな温かい目で見られている間も二人の試合はなんやかんや続き……
『ちょ、どいて!!』
『む、無理! 速すぎるってぇ!!』
『“Double K.O.!!”』
「はは! わかるなー、ああなるの。」
「なー。久しぶりに俺達もあの型使ってみるか?」
「マジか? 結構人に見られるぞ?」
「別にいいだろ、どうせアバターしか映らねぇんだし。」
「……ま、偶には良いか。」
この後の試合の雰囲気に多少の影響を与えて終了となった。
「あはは……やっぱり慣れない戦い方に変えるのって、適性関係無く難しいね……」
対戦を終え、先程のゲームスペースからほど近いベンチに腰掛けたスバルが、苦笑いしながら手に持ったカードを見つめる。
それはゲーム終了後に筐体から排出された物で、先程の対戦のフィニッシュの瞬間を捉えた一枚なのだが……
……そこに映っていたのはスピードに振り回されたティアナと、慣れない空戦で避ける事も出来なかったスバルのアバターが正面から頭をぶつけている光景だった。
同じカードを持ったティアナも苦い表情で先程の筐体上部のモニターを見る。
そこには今遊んでいる二人の戦いが映し出されており、彼等は慣れた動きで空戦をしていた。
……中には先程の二人のように、キャラの動きに振り回されている試合もいくつかあるようだったが。
「しばらく練習すればあんな風に動けそうだけど……流石に一日やそこらじゃ無理そうね。
……これって確かジェイルギアにもあるのよね?」
ティアナがそう言ってスバルに尋ねると、スバルは懐から取り出したジェイル・フォンの検索機能で何事か調べた後、画面を見せながら答えた。
「あるけど、流石にゲーセンの仮想現実の方がクオリティは高いし……
何より結構値段も張るよ? ジェイルギア……ほら。」
スバルがティアナに見せたジェイル・フォンの画面にはジェイルギアの画像と値段が映し出されており……
「……け、結構って言うには高くない?」
それは管理局員とは言え、実家を離れた二人には軽々しく手を出せる値段ではなかった。
「伊達に最新技術使ってないからねー
だからゲーセンのフルダイブシステムが人気なんだろうね。」
「……次の休暇に触るとしても、戦い方の参考にするには非効率的ね。」
「あはは、まぁ隊長達の戦い方の事は隊長達に聞くのが一番かもね。」
そうスバルが締めくくりながら立ち上がると、ベンチに座って彼女を見上げるティアナに再び問いかけた。
「それじゃあ次はどこで何やる? まだまだ休日は残ってるよ!」
そう言ってスバルが差し出した手を取り、ティアナは答える。
「今度はアンタに任せるわよ。どこに行くの?」
スバルはその言葉に少し考えると、思いついたように何事か答えてティアナの手を引き駆け出した。
束の間の休息、彼女達の一日はまだ終わらない。
「エリオ、次はあっちに行ってみない?」
「うん、いいよ。」
時を同じくして、エリオとキャロもスバルとティアナのように街に出ていた。
しかし街を縦横無尽に動き回る姿は、街を楽しむと言うより……何かを探しているような雰囲気を感じる。
それもその筈、彼等はある使命感を胸に街に出て来ていた。
――もしもヴィヴィオが原作と同じように逃げ出しているのなら、俺達が見つけないと!
彼等もジェイル・スカリエッティが転生者である事は百も承知だ。
彼等の知るアニメと同じ日に休日を貰っていると言う確証が無い事も分かっている。
しかしヴィヴィオをジェイル・スカリエッティ以外の違法研究者が生み出すと言った『修正力』が働く可能性を考えれば、呑気に休日を謳歌など出来るはずもなかった。
……だが
――いない。いや、そもそも意図的に見つける方が無理なんじゃないのか?
でも『エリオ、私、下水道見たくなっちゃった』なんて言う訳にも行かないしなぁ……
そう考えこむキャロの両手には、先程屋台で買ったクレープとドリンクがしっかり握られている。
どうやらクレープ特有の匂いが放つ魅力には勝てなかったようだ。
「ほら、キャロ。口元にクリームが付いてるよ。」
「あ、ありがとう。エリオ。」
両手が塞がっている為、エリオに手に持ったティッシュで拭って貰い、お礼を言うキャロ。
するとエリオが突然こう切り出した。
「心配する気持ちは分かるけど、今はこうやって休日を楽しもう。
ヴィヴィオが生まれてない可能性もあるんだから。」
「それはそうだけど……って、え、エリオ、気付いて……? って言うか、エリオも……!?」
驚いた様子でエリオに顔を近づけながら、キャロがヒソヒソと尋ねる。
「あれだけあからさまに路地裏とかマンホールを気にしてたら流石にね……
でも、あれだけ動き回ったら地下の異音を聞くなんてそれこそ無茶だよ。
本気で見つけたいなら、それこそ下水道に降りて行かないといけないけど……」
そう言うエリオにキャロは少し考え、やがて覚悟を決めて切り出した。
「ねぇ、えりお? げすいどう、いこ?(はぁと)」
クレープとドリンクを持ったままの手を顔の下に持って行き、上目遣いと渾身の猫撫で声でのおねだり。どうやら相手が転生者である事を知り、返って手段を択ばない事に対する抵抗感が減ったらしい。
……なお、効果は低かったうえに、頬にはクレープのクリームが付いた。
「いくら声が可愛くても、流石にそのお誘いには魅力を感じないかな……
……それに、最悪の場合僕達が見つける必要も無さそうだよ。ほら。」
「あ、あれって……」
頬のクリームを拭って貰いながら、エリオが示す先をキャロが見れば……
……そこには人目を気にしながら、こそこそと下水道に降りていく銀髪オッドアイの姿があった。
「僕の記憶が正しければ、彼も管理局の銀髪オッドアイだ。
例え動機が不純だったとしても、ヴィヴィオが助かる可能性は高いと思うよ。」
「……うん、そうか。それならまぁ、安心? なのかな……一応。」
何処か安心しきっていない様子ながらも、エリオの言葉に一先ずの納得を見せたキャロ。
「大丈夫だよ。
……むしろヴィヴィオの年齢で大丈夫じゃなかったら、僕達は自分の心配が必要になる。」
「うん、大丈夫だね。流石にあの年齢に手を出す人が管理局に入れる訳が無いもんね。」
エリオの言葉と表情に、今度こそ迷いを振り切ったキャロは意識を切り替える。
今度こそ本当の意味で休日を始める為に。
その様子を感じ取ったのだろう、エリオが改めてキャロを誘った。
「じゃあ、次は映画でも見に行こうか、キャロ。
せっかくの休日なんだから楽しもうよ。」
「そ、それは良いけど、エリオは気にしてないの?
その……私が、アレって事。」
キャロの事情を知ったエリオの対応が変わらないのが不思議に感じたのだろう、キャロが訝し気な目をエリオに向ける。
「うん、僕はどっちでも良いからね。
生まれや前世がどうだろうと、友人は友人だよ。」
「あ、それ以上の感情は無かったんだ。」
「……僕も今のキャロの年齢は対象外だよ。」
「ふふ、冗談だよ。」
この日から、二人の連携の精度は少し良くなった。
それはお互いの隠し事が一つ減り、本当の意味で距離が縮まったからなのだろう。
その頃、機動六課隊舎。
オフィススペースでデバイスのアップグレードに伴う訓練メニューの調整を行っていたなのはの下に、六課のスタッフから連絡が入った。
「――お客さん? 私に?」
『はい、なのはさんに会いに来たと言っているので、お知り合いかと思いまして。』
「うーん……誰かが会いに来るって話は聞いてないけど……
分かった、取りあえず私が応対するね。場所は?」
『お願いします。今はエントランスに待たせていますので……と言っても、『応対』って堅苦しい感じでも無いとは思いますが……』
「……? 分かった、エントランスだね?」
疑問を感じながらエントランスに到着したなのはは、思いがけない来客の姿に思わず目を見開いた。
「――あ、高町なのはさんですよね?
始めまして! 私、『ヴィヴィオ』って言います!」
「……えっ」
なのはの元を訪れたと言う、ウサギのぬいぐるみを片手に抱いた少女の姿は、なのはの『原作知識』にある『高町ヴィヴィオ』そのままの姿だった。
ヴィヴィオを探していた銀髪オッドアイ「……えっ」