「――と言う訳で、この子が今日から皆の訓練に加わる事になったヴィヴィオちゃん。
最初は分からない事もあると思うから、皆もサポートしてあげてね。」
「ヴィヴィオです! よろしくお願いします!」
なのはがそう言って指示したのは、エリオ達よりも少し年下といった具合の少女だった。
彼女はウサギのぬいぐるみを抱きながら、満面の笑顔で自己紹介を……
――いや、どういう訳!?
思わず出掛かった言葉を何とか堪え、笑顔を作る。
えっ、あれヴィヴィオだよね? 間違いなく。
一体どういう経緯があってこんな状況に……? 休日の間エリオ達から連絡が来る事は無かったから、多分アニメとは違う流れの筈なんだけど……くっ、詳しい話を聞きたいけど、どう考えても厄介事の気配しかしない……!
「ヴィヴィオちゃんって言うんだ! あたしはスバル、よろしくね!」
いや、順応早いなスバル。え、スバルも転生者だよね?
……って言うか、ヴィヴィオが生まれてるって事は……スカリエッティの奴、結局やらかすのか? スカリエッティが転生者なのはほぼ確実なのに……まぁ、そう言うタイプの転生者って可能性はあるけど……いや、それでも何か引っかかるな。見た感じヴィヴィオも人間不信どころかめちゃくちゃ明るいし、とても聖王の器として生み出されたようには見えない。
……待てよ? そう言えば、そもそもスカリエッティが転生者なのに、なんで機動六課が出来たんだ?
この部隊はアニメでは表向きの設立理由として『増加するレリック犯罪への対応』と言う名目があり、裏の目的には『地上本部ないし管理局システムの崩壊を示唆する予言の対処』があった。そして、そのどちらも裏で糸を引いていたのは『ジェイル・スカリエッティ』だ。
言うなれば、機動六課とは
だが、ジェイル・スカリエッティが転生者である現状、機動六課がアニメ通りに作られる物だろうか。ランク昇格試験後の面接の時はテンパって思わずスルーしてしまったが、はやては確かに言っていた。『ロストロギアの捜査は基本的に一課から五課までが行う』と。
つまり、最悪
実際、俺達がやっている事は訓練だけで、今まで事件に関わった事が無い。更に言えばレリックによる犯罪なんて、機動六課に入った後も聞いた事も無い。
「……ア、ティ……てば!」
……そうだ、状況を整理していくにつれてだんだんと妙な事になっているのが分かって来た。
レリック犯罪は起きていないし、クイントさんが命を落とす事になる戦闘機人事件も、レリックが原因とされる空港火災も起こっていない……これらの状況から考えても、スカリエッティが管理局転覆を企てているとは考えにくい。こんな状況で機動六課が作られる理由となった、あの予言が出るだろうか……?
そもそも……
「ティア!」
「……ッ!?」
唐突に肩を揺らされ、思考の海から戻った俺の前には怒ったような表情のスバルの顔があった。
「っ!? え、どうしたのよスバル……」
「『どうした』はこっちのセリフだよ……今のなのはさんの話、聞いてなかったでしょ?」
呆れたような表情になったスバルが、そう言ってなのはの方を手で示す。
そう言えば今は訓練前だった……! スパルタ気質のなのはの事だ、俺のせいで訓練の負荷が上がったり何てことも……!
恐る恐るなのは……さんの表情を窺うと……
「あはは……そんなに怒らなくても良いよ、スバル。
改めて言うと、ヴィヴィオちゃんの訓練はまだ決まってないから、皆の訓練を見学するよって事。
いつもよりも周りに注意するようにね。」
「は、はい!!」
なのはさん……! 優しい所もあるんだ……!
「……なにか失礼な事考えてない?」
「い、いえ、何も!」
慌てて取り繕うと、なのはさんは「ふ~ん?」と訝しげな表情になりつつも、直ぐに「まぁいいや」と切り替えて『もう一人の人物』の紹介に移った。
……って、あの人は……
「周りに注意するようにって言ったけど、勿論ヴィヴィオちゃんの安全は
普段はやる気なさそうだけど、魔法の腕は確かだから。」
「やほやほ~……ご紹介にあずかりました、
一応バックヤードスタッフの筈なんだけどなぁ……」
「いや、普通にロングアーチで登録されてたけど……」
「えぇ!? 聞いてないよ!!? 働きたくない!!」
「「「「「えぇ……」」」」」
……何か凄い事言ってるな、あの人。なのはさんとの会話の雰囲気からして結構いつもの事みたいだけど……
「えっ……と、大丈夫なんですか? 何か凄い事言ってますけど……」
おずおずと手を挙げたスバルがなのはさんに問いかける。確かになのはさんの人選とは言え、肝心の本人があの調子では不安になると言うもの。
勿論俺も注意するとは言え、流れ弾が当たりでもしたら一大事だ。
「大丈夫、こう見えてやる時はやる子だよ。
私が子供の時にこの子が使った結界型の防御魔法なんて、Aランク相当の魔導士7人の一斉攻撃さえ防いでたくらいだし。」
「「えぇっ!?」」
えっ、この人そんなに凄いの!? って言うかなのはさんが子供の頃って言ったら、絶対この人も子供だよね!? いや、そもそも、無印かA's時代にそんな状況になる事ある!?
「いやーそれ昔の事でしょ? 今の私の魔力って、Cランクじゃなかったっけ?」
「リミッターつける前はAランクだったよね?」
「いやそうだけど、でも今はホラ、Cだし……」
「あの時の防御魔法ってAランクじゃ張れないと思うんだ。それに体の成長も考えると、あの時の朱莉ちゃんの魔力はもっと少ない筈。
……レアスキル、申請せずに隠してるよね?」
「…………まぁ、それはホラ、申請自体は別に義務じゃないし。」
「レアスキルはリミッターで封じてないし、使えるよね?」
「いや、でも……そう! あのスキルは使った後防いだダメージが全てフィードバックして、それはもう体中の骨がバキバキに……!」
「あの後授業中に爆睡してたじゃない……」
「……! ……、…………くぅっ!! やるじゃん……」
……なんて酷い争いなのだろう。全力でサボろうとする朱莉と全力で働かせようとするなのはさん。まぁ、なのはさんの言い分が全面的に正しいみたいだけど。
それにしても、強力なレアスキル持ちでなのはさんのクラスメイトだったか。完全に転生者だな、この人。
……まぁ、転生者ならヴィヴィオを危険な目に会わせる事も無いだろうし、その点はなのはさんの言う通り心配いらなそうだ。
その後、尚も食い下がる朱莉を説得したなのはさんは、朱莉をヴィヴィオの守りにつけ、今日もいつも通りの午前の訓練が始まった。
因みにとどめの一言は『働いた実績がないと、流石に六課に居られなくなるよ?』だった。
いやぁ、まいったな~……働きたくないってのは本心だけど、それ以上に働く訳には行かない事情もあるし……
「よろしくお願いします! 朱莉さん!」
「あ、あはは~、よろしくね~……」
ヴィヴィオちゃんが転生者じゃないって言うのが一番の問題なんだよなぁ~……
あまり無暗に介入する訳には行かないけど、守らない訳にも行かない。……この子の場合は自分で身を守れると思うけど、それをなのはちゃんに伝えるのも介入になっちゃうか……はぁ。
「? どうしたんですか?」
「ん~? いやいや、何でもないよ~
先ずは誰のとこ行く~?」
許可が必要ない範囲の能力でカバー出来るとは思うけど、魔力使うのって魔力波動の調整が面倒なんだよなぁ……
「えっと……なのはさん!」
「わぉ、もしかして最初からメインディッシュに行っちゃうタイプ?」
よ、よりにもよって流れ弾が一番危険な所かぁ~……
まぁ、逆に言えばここさえ乗り切れば他はある程度安全だし……うん、ポリシーに反するけど頑張ろう……
……はぁ、アイデンティティー崩れるなぁ、もう……
朱莉さん的には割とガチに板挟み。
以下、現在明かせる設定。
天野朱莉
魔導士ランク:A→C(-4ランク)
※計測された上記の魔力値は偽装
普段朱莉や美香等の天使が使用する力は『魔力』とは異なる別のエネルギーであり、
それしか扱えない。ただし外見上をこの世界の魔法に似せたり、魔力の特性を帯びさせて計測させたりは出来るので、それで誤魔化している。
機動六課に入る理由は天使の職務を全うする為なので、実質義務。(構成するメンバーの大半が転生者)
『やらなきゃいけない事はやるけどそれ以外はやらない』がモットーであると自称しているが、若い頃は『やらなきゃいけない事』に関しても気分が乗らずにサボった事が何度かあり、5回程地獄行きを経験している。