転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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なのはの入院

5年前……私は時空管理局最高評議会からの指示で、自らの部隊を設立する事になった。

 

『“滅びの予言”に対抗する為の部隊を作れ』……リンディさんに連れてこられた地上本部のとある会議室の通信でそう聞かされた時、その場には『彼女』の姿もあった。

 

『私は大丈夫だから、はやてちゃんははやてちゃんのやる事に集中して』……そう言った彼女の表情は、今も記憶に焼き付いている。

 

 

 

……それから2か月程経ったある日、私は病院の廊下を走っていた。危ないからと制止する声さえ無視して、ただ心の急かすまま目的の病室に向かって走っていた。

 

「――なのはちゃん、大丈夫か!?」

 

病室の扉を開けて、親友の姿を探す。

彼女が倒れたと聞いた時は何かの間違いかと思った。だって彼女は昔から誰よりも強く、頼もしい存在だったから。

 

だけど、連絡をくれたフェイトちゃんから原因を聞き……()()彼女ならやりかねないと言う考えに至り、予定を直ぐに片づけて駆けつけたのだ。

 

「あ、はやてちゃん……? ごめんね、ちょっと良く見えなくて。」

 

そんな彼女の言葉に一瞬、頭が真っ白になるが、直ぐに()()ではないと思い至った。

と、言うのも……

 

「あの、すいません。ちょっとそこ通して貰えますか?」

「あ、悪い。邪魔だったよな。」

「お前らちょっとは道開けろよな。はやてが来たんだから。」

「お前もだぞ。」

 

――いや、銀髪オッドアイ集まり過ぎやろ!? 何人来とんねん!

 

現在病室には十人以上の銀髪オッドアイがお見舞いに来ており、完全に彼女の視界を塞いでいただけだったのだ。

 

銀髪オッドアイ達をかき分けるように進み、なのはちゃんの前に辿り着くと、彼女は2か月前と変わらない笑顔で私を迎えた。

 

「ごめんな、なのはちゃん、直ぐに来れんくて……」

「ううん、良いよ。それよりも、はやてちゃんは大丈夫なの?

 新設する部隊の手続きとか色々あるでしょ?」

「大丈夫や。今済ませられる事は粗方片づけて来たし。

 ……フェイトちゃんから聞いたで。原因はオーバーワークやって。」

 

そう、彼女が倒れた原因は『オーバーワーク』だった。

管理局に所属した新人の魔導士が自らの成長に伸び悩んだ時、或いは周囲の期待に応える為に過剰な訓練の果てに倒れてしまうという事はままある。

 

彼女がそんな失敗をしたのは、偏に『あの時聞かされた内容』が原因だという事は分かっていた。

 

「あ、あはは……ごめんね、心配かけちゃって。でも私は大丈夫……」

「っ! 『大丈夫』やあらへんやろ! 『ごめんね』やあらへんやろ!!

 なのはちゃんが『オーバーワーク』になるって言ったら、それはもう普通のオーバーワークな筈無いやん!

 一体どんな無茶したんや!? 何で誰も止めんかったんや!?

 何で……ッ! ……何で、私は気付かなかったんや……!!」

 

彼女の表情は2か月前と変わらない笑顔だった……何かを無理やり堪えて強引に造ったような、影の差す笑顔。

胸中に溢れる後悔の激しさに思わず涙がこぼれた。

 

「はやてちゃん……」

「ちょっと考えればわかった筈やないか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()んや……!」

 

予言によって強制的に舞台に引き上げられた一人の少女、その心中は少し考えれば分かる筈だった……私には測りきれない程の重責を背負わされた彼女の苦しみが、共有しきれない程に辛い物なのだと。

 

……なのに私は、力になってあげなければならない場面で彼女に甘えてしまった。

部隊編成に伴う諸々の手続きで手一杯だからと、私の仕事も重要な役割だからと……彼女の優しさと強さに甘えてしまったのだ。

 

そんな私の様子を見て、なのはちゃんが静かに銀髪オッドアイ達に声をかけた。

 

「……ごめんね、皆。ちょっと、二人にしてくれる?」

「お、おう。……あー、俺達には何かまだ状況分かってないからこう言うのもアレだけどさ……取りあえず、後遺症とか残らなくて良かったよ。

 お大事にな、なのは。」

「きっと事情があるんだろうけどさ、ちゃんと休む時は休めよ。未来の教導官がそんなんじゃカッコつかないぞ。」

「俺らと訓練してた時の事思い出せよ、割と雑に休憩挟んでただろ?」

「入院中退屈だからって、一人スーパーボールすんなよ? 今はリンカーコアをちゃんと休ませとけ。」

 

彼等は思い思いにそんな言葉をかけて病室を出ていき……

 

「俺も昔……あー、その、なんだ…………」

「言う事思い浮かばんなら早よ行けや。」

「ふっ……ありがとな、はやて。」

「いや、図星なんかい。」

 

最後の一人が出て行くと、病室には私となのはちゃんだけが残された。

彼等の言葉を聞く内に小学生の頃、皆で集まって訓練に励んだ記憶が蘇り思わず笑みが零れる。

 

「……っはは、ホンマにアホばっかりやな。何も知らん癖に……」

 

気付けば彼等と会わない日が増えていた。私達と彼等は別の部隊に所属する事になり、自然と取っていた休みも知らず知らずの内に先延ばし。

……いつの間にか疲れ切っていた心が、ほんの少しだけ楽になった気がした。

 

「はやてちゃん……」

「分かってる……あいつ等も分からんなりに気ぃ遣ってくれてるんはな。

 ……それで、どんな無茶したらこうなるんや。ホンマにオーバーワークだけなんか?」

 

フェイトちゃんからそう聞かされてはいたし、やりかねないとは思ったが、それでも心の何処かで信じ切れない話ではあった。

彼女の魔力量は予言で『光』と呼ばれるだけあって、文字通りの別格だ。

幼い頃から彼女が魔力の使用で疲弊した様子を見た事は無かったし、どれほど模擬戦を重ねても周囲の銀髪オッドアイ達が肩で息をしている中、けろっとした様子で自主練をしているのが彼女の常だった。

そんな彼女がよりにもよってオーバーワークで倒れるなんて、悪い冗談にしか思えなかった。

 

「うん……はやてちゃんがさっき言ってた通りだよ。

 『予言』のこと聞かされて、私が唯一それを防ぐ事が出来るって言われて……

 でもどうすれば良いのか分からなくて……だったら、何が来ても良いようにって色々無茶して……

 はやてちゃんは手続きが山ほどあるし、フェイトちゃんも執務官の仕事があるから巻き込んだら悪いし……」

「なら、さっきの皆でも良かったやろ? 組手でも模擬戦でも、皆なら付き合ってくれるやろ?」

 

皆ならなのはちゃんから誘えばそれこそ二つ返事で付き合ってくれるだろう。別れ際の言葉を思い返しても、彼等ならば程良く休憩を挟んでくれたかもしれない。

何より、昔は皆で訓練した仲なのだ。遠慮する理由が思い浮かばなかった。

 

そう尋ねると、彼女は目を瞑り首を横に振るとこう答えた。

 

「そんな事したら、きっと皆の方が壊れちゃうよ。」

「……ホンマに何してたんや……」

 

その後は二人で近況を話し合った。

私は部隊編成の手続きがようやく一段落しそうなことを、なのはちゃんは訓練の内容や成果を……聞けばフェイトちゃん達とも既に話した後で、彼女達はもう仕事で出てしまったらしい。彼女達の予定はしばらく空きそうにないとの事だった。

 

そして、肝心の訓練の内容についてだが、正直頭がおかしいのではないかと言わざるを得ない物だった。

 

魔力弾の過剰生成、砲撃の連射速度強化に障壁の硬度強化、飛翔魔法の速度強化の為に絶えず魔力を放出している様な無茶なんてものではない訓練の数々……文字通り『何が来ても対応できる存在』になる為、彼女は時間が空いている時はいつもそんなメニューを熟していたらしい。

毎日ではないとはいえ、こんなメニューの訓練を行っていては倒れない方がおかしいだろう。

 

「……ホント、私もダメやな。自分の事ばかりやなくて、なのはちゃんの事もちゃんと見とったら気付けたはずやのに。」

「ううん、私も心配させないように隠してたから……結局、皆に心配かけちゃったけどね。」

「いや、これから一つの部隊の総部隊長になるんや。やっぱりこういう変化には気付くべきやった。

 ……そう言えば、レイジングハートはどうしたんや? 止められなかったんか?」

「勿論止められたんだけど、私が『自分の魔力だけでも訓練を続ける』って言って無理に付き合わせちゃって……

 『それならせめてサポートした方が安全だから』って。」

 

どうやら彼女は周囲の制止を振り切って地獄のような訓練を継続していたらしい。それもそうか、あんなメニューの訓練を知っていて止めない訳がないのだから。

しかしそれを知っていたのはインテリジェントデバイスであるレイジングハートだけ……彼女を止めるには文字通り『体』を張らないと止められないのだろう。

 

「……分かった。私も付き合うわ。」

「はやてちゃん?」

「こっちの手続きももう直終わるし、そうなったらしばらくは自由な時間が取れる。

 なのはちゃんも後遺症が無い言うても、もう暫くは検査とかあるやろ? それが終わるまでにこっちの手続き終わらせて、なのはちゃんの訓練に付き合うんや。

 ……無茶しそうになったら文字通り力づくで止めるから、覚悟しいや?」

「はやてちゃん……うん、ありがとう。」

 

……きっと本来はもう訓練をさせないようにするのが正解なのだろう。今の時点でも彼女の実力は圧倒的で、何が来ても迎え撃てるように思える。

だったらもう無茶はさせずに戦略を組む事で万全を期す……そんな在り方が最も安全だ。

 

だけど、それで彼女は安心できるだろうか? 『もしも自分の実力不足で世界が滅んだら』……そんな不安を抱かない筈がない。きっと今回のオーバーワークも根幹はそこなのだ。

 

『安心する為の訓練』、『不安を忘れる為の訓練』……訓練していないと不安なのだ。

そんな状態で訓練をしないように言ったところで、きっと彼女は私の目の届かない所で同じ訓練を繰り返してしまう。

ならば直接その場で見守り、無茶をしそうになったら強引に止める……その方がきっと確実だ。

 

 

 

……なお、初日で息も絶え絶えになり、直ぐにヴォルケンリッター全員を巻き込んだことに後悔はない。




一番活躍したのはシャマルさん。次いでザフィーラさんです。

前回と今回の2回に分けましたが、それでも文章が長くなりすぎたので最高評議会とのやり取りとかはカットしました。
分かりにくい所や矛盾と感じる所があれば遠慮なく指摘していただければありがたいです。

アンケートの結果、ヴィヴィオの名前については変更無しとさせていただきます。
投票のご協力ありがとうございました!

『ヴィヴィオ・スカリエッティ』と言う名前について

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