「えっ、フォワード陣に実際の現場を経験させる!?」
「? うん。訓練の成果もまだ仮想空間でしか体験させられてないし、そろそろ頃合いかなって。」
四課部隊長との打ち合わせがあった翌日、はやてにその事を伝えると予想以上の反応を示された。
フォワード陣の訓練に関しては教導官の免許を持っていると言う事もあり、私が一任されていたので現場体験に関してははやてに相談する前に決めてしまったのだけど……彼女の反応を見る限り、やっぱり拙かったのだろうか。
「う、うぅーん……まぁ、実際に訓練を見てるなのはちゃんがそう思うんなら、多分そう言う頃合いなんやろな……」
「えっと……もし、何か予定入れようと思ってたとかだったら、こっちの予定はキャンセルしても……」
「ああ、そう言う訳ちゃうんや! こっちの方でちょっとな。
……因みになんやけど、それってミッドを離れたりする感じやったりするんか?」
既に予定を組んでいたとしたら場合によっては早い内にキャンセルを入れなければならないと思い確認したところ、予定があるとかではないらしい。
はやての質問から考えて、私かフォワード陣がミッドを離れるかどうかが気になっているみたいだけど……
「ううん。ちょっと都市部からは離れるけど、ミッドチルダの外に行く予定は無いよ。」
「あ、そうなんか? それやったら……うん、大丈夫そうやな……」
「はやてちゃん?」
「いや、こっちの話や。フォワード陣にとっては初任務やし、緊張でミスとか無いように見とったってな。」
「う、うん。」
何が気になるのかを聞いてみたい気もするが、はやてはどうも詳しい事情を話すつもりは無いらしく早々に話を切り上げてしまった。こうなったはやての口が堅い事はこれまでの付き合いで知っているので、彼女の方から話してくれるのを待つ他は無いだろう。
これ以上はやての懸念している事を考えても仕方ないので、もう一つ確認しておきたかった事を聞く事にした。
「あ、そうだ。はやてちゃん。」
「ん?」
「ヴォルケンリッターの事なんだけど、現場体験にシャマル先生とヴィータちゃん借りても良い?
スバルの動きに関しては私よりもヴィータちゃんの方が専門だし、いざと言う時にシャマル先生がいてくれると心強いから……」
今回参加させてもらう作戦はいわば『詰め』の段階に入っており、次元犯罪組織の残党達の逃げ場はもう無い。残る拠点もたった一つを残して既に封鎖されているか破壊されており、残った一つのアジトに残党の大半が集まり籠城中との事だ。現場を指揮している部隊長はこう言った追い込み漁の様な手法を得意とする人らしく、どう足掻いてもあちらに逆転の手は残されていない。
……だが、最後を悟った犯罪者と言うのは何をしでかすか分からないのが怖い所だ。おとなしく捕まって10年以上の懲役を受けるくらいならば、命を懸けて捨て身の特攻をする者や自爆覚悟で道連れを狙う者もいた。……まぁ、私はそう言う相手の攻撃はちゃんと
「なるほどなぁ……まぁ事情も分かるし、聞いた限りやと解決までそう時間もかからんやろうし……うん、ええよ。
二人にもちゃんと了承貰ったらやけどな。」
「ありがとう、はやてちゃん!」
「あ、その感じやともう二人共OK出したあとやったな?」
「えへへ……」
そう、実は二人には既に了承を得ていて、後ははやての許可が必要なだけだったのだ。勿論はやての事だから余程の事情が無ければ許可をくれると言う信頼があっての事だったが、ともかくこれでこちらは万全の布陣で現場に向かえるわけだ。
「で、現場に向かうんは明後日やったっけ?」
「うん。食料の搬入経路も潰して、一日置いたくらいが相手も消耗してやりやすいんだって。
急ぎ過ぎると向こうも全力で抵抗してくるし、あまり時間を置きすぎるとイチかバチかの特攻があって逆効果みたい。」
「相変わらず鬼のようなやり方するなぁ、あの人……」
はやては機動六課の部隊長である関係で、各部隊長と顔を合わせる機会が多い。四課部隊長もそう言った付き合いがある内の一人だったようで、はやては何かを悟ったような表情でそう言った。
「あはは……でも、ちょっと分かるかな。私も
「いや、なのはちゃんの場合名前が知られ過ぎてるのが原因やろ。
『高町なのは』って名前を聞くだけで覚悟を決める次元犯罪者もおるくらいやし……」
嘘でしょ……? そんな事になってたのか、私の評判。道理で現場で対峙した相手の表情が最初から強張ってるはずだ……最初から命懸けだったのか。
……ん? あれ? それってちょっと拙くない?
「……もしかして、私は参加しない方が良いかな?」
「まぁ、少なくとも名前は伏せておいた方が無難やろな。
言うまでも無い事やと思うけど、間違ってもなのはちゃんは前線に立ったらあかんで? 向こうはそれだけで特攻スイッチONになるんやから。」
「う、うん……」
いや、覚悟決めるの早くない? 姿見ただけでそんな破れかぶれにならなくても良いじゃん……
これもう私が一人で前線に立って『私、高町なのは!
そんなやり取りの二日後……
ミッドチルダの辺境、岩肌が剥き出しになった荒野の山岳地帯。岩山の裂け目に隠れるような形で四課が設置した簡易拠点に、彼女達の姿があった。
「良く来たな新入り。
事前に聞かされているとは思うが、俺達はお前達を守る為に戦力を割く事は無い。
自分の身は自分で守るんだ。良いな?」
「「「「はい!」」」」
そう言ってフォワードの4人を見回すのは、既に初老に差し掛かろうというのにがっしりとした筋肉の鎧を纏った男性だ。
彼こそが四課の部隊長であり、この現場を指揮する指揮官でもあった。
そして彼は次に、フォワード陣と共にやって来た3人の女性に目を遣ると、先ず一人の女性に対して口を開いた。
「シャマル殿は確か、医療のスペシャリストとの事。
今回の作戦、未だ重傷者は出ていないが、この後の作戦では消耗しているとはいえ激しい抵抗が予想される。
万が一負傷者が出てしまった時にはぜひ、お力をお貸しいただきたい。」
「ええ、勿論。
命がある患者なら、一人も漏らさずに助けて見せます。」
「それは心強い。この場に来てくれた事、感謝する。」
そう言ってシャマルに礼をし、その隣の女性……とは言っても、外見上は少女だが、彼女に対しても一礼をし、口を開く。
「ヴィータ殿……あー、折角来てくれてこう言うのは何だが……」
「ああ、分かってる。あたしは今回の作戦は基本的にサポート役だ。
あたしが戦うには、この作戦には人が多すぎるからな。
フォワード陣が危なくなった時以外は動かねぇ……それで良いか。」
「……そのお気遣いに感謝する。」
そう、今回の作戦でヴィータは前線に出る事は無い。彼女の技の大半が周辺の広範囲に影響を及ぼすからと言う事情もあるが、そもそも今回の参加理由がフォワード陣の経験値稼ぎだ。
戦場の経験が長いヴィータが出張っては、その目的も達成できない。
……そしてそれは、残ったもう一人の女性にも言える事であるのだが……
「……あー……っと、高町教導官殿?
「あはは……これには訳がありまして……」
残された一人……高町なのはは、普段の管理局の制服ではなく、白を基調としたバリアジャケットの上から黒い外套を身に纏っていた。
これははやてとの話し合いの中で決めた事で、高町なのはがこの場に来ている事を次元犯罪者たちに気付かれないようにする為の工夫だった。
その事を四課部隊長に告げると、彼は一応の納得を示したようで……
「なるほど、確かに噂には聞いた事がある……なんでも、戦場に立つだけで犯罪者の心を折ったとか。」
「そんなに!?」
「ははは! まぁ、噂には尾ひれがつく物だ。とは言え、全てがでたらめとも考えにくい。
拠点の外に出る時は、出来る限り奴らの眼につかない様に気を付けてくれると助かる。」
「はい……」
そう冗談交じりに話す四課部隊長の元に、局員が一人やって来て告げる。
「部隊長、そろそろ時間です。」
「ん? ……ああ、確かに。では各々作戦通りにな。
奴らはいわば袋のネズミだが、古来より窮鼠は猫を嚙むと言う。
いつもの『詰め』だが、油断だけはするな。」
「はっ。」
「それと、彼女達が今回の作戦に参加する機動六課だ。
案内を頼むぞ。」
「彼女達が……はい、解りました。
それでは機動六課の皆さま、作戦区域に案内しますので、私について来てください。」
そう言って先導する局員に、フォワード陣がついて行くのを見送ったなのはは最後に部隊長に振り返ると小さく礼をして拠点を出ていった。
作戦開始まで、後数十分。
四課部隊長に何か名前つけるべきか迷った結果、時間が無くて名無しになりました。
必要になったら突然名前が付くかも?
おまけ
――とある服役囚の証言
『……はい、今となっては犯罪に手を出した事には後悔しかありません。
『……いえ、
それだけで私は自分の愚かさに気付く事が出来たのです。』
『