作戦開始と共に俺達が転送されたのは、敵のアジトの直ぐ前だった。
ホログラムでも確認したように、敵のアジトの反対側は断崖に埋まるような構造になっている。周囲の砂嵐も利用して存在を隠蔽する為だろうが、こうなってしまえば出入り口が限定されたこのアジトに逃げ込んだ彼等は確かに袋のネズミだ。この作戦が成功した暁には残党は一人として残るまい。
そんな事を考えていると、4課の局員だろう男……銀髪オッドアイが話しかけて来た。
「よぅ、お前機動六課のフォワードだろ?」
「……ええ、ティアナよ。」
どうせ名前も知っているだろうからこちらから名乗ると、銀髪オッドアイは機嫌を良くしたのか表情を崩して話し始めた。
「ティアナだな。俺の名前はジェイク……まぁ、今は良いか。
突入前に注意しておきたいんだが……」
「出入り口が限定されたアジトに突入する以上、出入り口に罠があるのは確実。
これまでに補給部隊の捕縛に転送防止の結界等を行っていた以上、こちらが何時仕掛けて来ても良いように備えてある……って言いたいのなら、大丈夫よ。
確かに現場は初めてだけど、予習はしっかりしてるわ。」
そう、出入り口が限定されている状況はこちらにも当て嵌まる。
敵もこちらがどこから来るのか分かっている以上、罠が張られている事は確実だ。この作戦に於いて、最も警戒するべきタイミングは突入時と考えてもいい。
……それにしても俺がティアナに生まれている以上、こういうアプローチをかけられる事は予想していたが、まさか作戦開始の直前とは……一応この銀髪オッドアイは俺達フォワード陣とは違って、こういう仕事は何度も熟している筈なんだが……
そう言った思いを隠す事無くジト目で見てやると、銀髪オッドアイは一瞬たじろいだ後にこう付け加えた。
「お、おう……流石だな。
……だがこの話は聞いてないんじゃないか?
今回の相手は『ロストロギアを組み込んだ魔導兵器』の製造及び密輸に手を出した犯罪組織なんだが、奴らのボスの検挙時に押収された物品……ロストロギアの個数が一つ足りてない事が分かってる。
ああ、ロストロギアって言ってもそれ自体は警戒しなくてもいい。多量のエネルギーを溜めるだけで、暴発の危険も無い安定した物らしいからな。
だがそんな物でもロストロギアはロストロギア。今回の作戦でもしそいつを押収できれば、間違いなく大手柄って訳だ。」
「! ……何でアンタがあたしにそんな話をする訳?」
「え? あー……その、なんだ。お前たちを応援してるって言うかだな……」
分かりやすい奴だな……ティアナに好印象を与えて親しくなろうって考えだったのだろうが、生憎中身は俺だ。恋愛感情に繋がる事は無い。
「……ま、感謝しておくわ。」
「お、おう! 突入した後もサポートは任せてくれよな!」
ジェイクの期待に応えられる事は無いが、とりあえず情報に対して感謝すると彼は意気揚々と去って行った。
……なんか、悪女になった気分だな。
正直こう言うのは好きではないんだが、かといって『俺、中身は転生者なんで』なんて言える訳も無い。仕方ない事として割り切ろう。
「……なんか、変わった人だったね。ティアの知り合いじゃないんだよね?」
「ええ、初対面ね。まぁ、折角だから貰った情報は利用させてもらおうかしら。」
ロストロギアの押収……これは文句無しのお手柄だ。メインの目標は『実戦の経験を積む』である事に変わりはないが、サブ目標としてこれ以上の物もないだろう。
「良い? 各自油断せずに行くわよ。
そして、余裕があればお手柄もしっかり狙っていきましょう。」
「「「おー!」」」
俺達が小声でそう気合を高めたその時、大砲の音にも似た音が轟き、続いて声が響いた。
「突入ーーー!!!」
その声を合図に、4課の局員達が一斉にアジトに向かい始めた。
作戦が始まったのだ。
川沿いに上流を目指して歩いていると、ふと魔力反応を感じ取り空を見上げる。
「ん? あの魔力弾は……ああ、突入の合図か。
って事は、あたしの方も急ぐ必要があるな。」
そう結論付けると視線を前に戻し、地形を気にしつつも再び歩き始める。
あの後、総部隊長の許可を得て地図を見せて貰ったあたしは、そのまま別行動を継続して独断で動いていた。
念の為に確認しておきたい事が出来たからだ。そしてそれは、あまり当たって欲しくない予想の一つだったのだが……
「……はぁ、こいつはどうも当たり臭いな。
追い込みが得意だってんなら、周囲の地形の把握をするのは最低限だろうに。」
……それとも、それが出来ない事情でもあったのか?
「……まぁ良い。万が一が無いように、こうしてあたしが動いてんだからな。
幸いここも転送妨害用の結界内、どうとでもなるだろ。」
後はなのはに念話だな。アイツにも動いて貰う事になりそうだ。
≪……なのは、聞こえるか?≫
≪うん、聞こえてるよ。ヴィータちゃんの方は、どうだった?≫
≪多分当たりだ。予め言っていたように頼む。≫
≪分かった! こっちの方は任せてよ。≫
≪おう、頼りにしてる。≫
「……さて、と。こっちはこれで大丈夫として……早いとこ見つけねぇとな。」
アイツ等が残党共のリーダーを追い詰める前に……うん?
「この魔力反応……なるほどな、調査してねぇわけだ。」
ねずみを捕まえる為に、虎の尾を踏むバカはいねぇ。
目指す先から感じる強烈な気配に、内心納得しながらも念の為に敢えて歩を進める。
「何時だって万が一って奴は“まさかこんなことしないだろう”って隙を突いて来るんだからな。」
……おかしい、
残党との戦いの中、俺はそんな違和感を抱いていた。
確かに合図と共に突入した俺達は、当然のように大量の砲撃の集中砲火を受けた。
だがその砲撃はそれを予測していた4課局員達の張った障壁であっさりと防がれ、その直後一気に雪崩れ込んだ局員達と残党達の乱戦状態に入った。
だがその乱戦の中にあってものを言うのは連携力だ。敵を上手く分断し、且つ味方とより強固な連携をとれる者が勝つ戦場。
ちゃんとした訓練を受け、高い練度を誇る4課局員と比べ、奴らは文字通りの烏合の衆。
一人、また一人と呆気なく無力化されては捕縛されて行く。
残党達の中には魔法を使えないのか、違法改造した魔力銃を撃って来る者もいた。電気の性質変換を再現しているのか、当たると痺れる魔力弾は厄介だったが速度が遅い。
簡単に躱せる上に、逆に別の敵を誘導、射線上に飛び出させてやればフレンドリーファイアさせてやる事も出来た。
いや確かに普段稽古をつけてくれるのがなのはさん達である以上、当然見劣りはするだろう。
だがあくまであっちは訓練で、こっちは実戦だ。手段を択ばない相手でもあるし、多少ピンチになる事もあるだろうか……なんて考えていたのに……
「うおおぉぉ!!」
例えば今、魔力で出来た刃を振りかざして突撃してくる残党がいる。
だがその速度はフェイトよりも断然遅いし、込められた魔力はなのはさんの足元にも及ばない。比較対象の二人は手加減してくれている状態であるのにも拘らずだ。
ギリギリで身を躱し、返しに魔力を込めた蹴りを打ち、非殺傷設定の魔力弾を撃ち込んでやればあっさり意識を失った。
そんな程度の連中相手では周囲を見回す余裕も当然残っており、目指すべきセンターガードの基礎を頭の中でおさらいする。
『足を止めて、視野を広く』
乱戦となった状況で、素早く敵と味方を見分ける。
そして戦場を把握して、迫る危機には……!
『正確な弾丸をセレクトして命中させる』
こちらに飛んできた魔力弾。恐らく流れ弾であろうそれを観察し、魔力量を把握。
クロスミラージュから打ち出した『全く同じ魔力量の弾丸』は対象に命中し、完全に相殺した。
――うん、やっぱりちゃんと強くなってる! やっぱり周りがおかしいだけだったんだ!
着実に出ている訓練の成果に、気分が高揚するのが分かる。
普段の組手では相手がなのはさんである分、全くと言って良い程成長を実感できない為、正直どのくらい成長しているのか自分では分からないのだ。
そしてそれは俺だけではない。
直ぐ傍で敵の攻撃を障壁で受け流し、カウンターの一撃で意識を刈り取ったスバルや、少し離れたところで二人連携し上手く立ち回っているエリオとキャロの表情からも、その高揚っぷりは見て取れた。
――これならやれる!
一瞬目が合っただけで、そんな声が聞こえた気がした。それ程俺達4人には余裕があり、それが今まで足りなかった自信に繋がって行った。
しかし、広がった俺の視野には別の光景も映っていた。
それは4課局員と残党の戦いの内の一つ……連携に優れている筈の局員が、逆に残党に分断されて不利な状況を押し付けられている光景だった。
この乱戦状態となった戦場を俯瞰してみると、そう言う光景がちらほらあるのが分かる。恐らく敵の練度にバラつきがある為に起こる光景なのだろう、戦いの立ち回りを理解している残党がこの状態を利用し始めている。
先程俺に話しかけて来たジェイクの姿も見えたが、アイツはどうやらそんな状況でも問題無く動けているらしい。出来る限り窮地に陥った味方をサポートするようにしているが、残党が壁のように行く手を阻んでいる。
――……仕方ない、手を貸すとしよう。
初対面でアプローチをかけられて若干の苦手意識はあるが、今のアイツの表情はおふざけ無しの本気って感じだ。情報の借りもある事だし、これくらいは良いだろう。
≪スバル、エリオ、キャロ! これからの立ち回りについて、話があるわ!≫
――くそっ、思ったよりも敵の動きが良いな……!
突入時、予想通りに仕掛けられていた罠を突破し、乱戦状態に持ち込んだまでは良かった。
これまでにもそう言う状態になった事は多かったし、この後の流れもきっと同じようになるだろうと考えていた。
だが……
――この乱戦の中で敵に指揮官が生まれやがった!
間違いなく念話で指示を飛ばしている者がいる。それ程急激な変化が奴らの動きにはあった。
更に質の悪い事に……
――連中の中に傭兵崩れでもいたのか……? 即席にしては戦場の把握が上手すぎる。
一部の仲間を切り捨ててでもこっちの戦力を分断し、各個撃破しようとしている。
今もそんな状況を視界にとらえているが……
――チィッ! 射線が通らねぇ!
俺を包囲するように動く奴が居る。多分戦力としては当てにならねぇからって、俺みたいな遊撃を止める為の壁役だ。
飛翔魔法で飛ぼうにも、この部屋の天井は妙に低い。予めこういう状況を想定し、意図的にそう設計していたのだろう。奴らのボスはそう言う男だった。
――クソ、この肉壁さえなければ!
どうにも攻めあぐねていたその時、突然目の前の肉壁の一部が凄まじい速度で吹っ飛んだ。
「えっと……どうも!」
「えっ? あ、どうも……」
拳を振り抜いた姿勢からこちらに顔を向けてそんな挨拶(?)をするスバルに、俺もつい気の抜けたような挨拶を返してしまった。
そしてスバルが切り開いた直線の道を辿って、ティアナ達3人がやって来た。
「情報料代わりに助けてあげるわ。これでチャラね。」
「はは……助かったわ。マジで。」
そしてティアナはその最小限のやり取りの後、他のフォワード3人と連携して敵を倒していく。
その活躍は4人の連携がかなり高いレベルで仕上がっているって言うのもあるが、個人の実力も非常に高いレベルでバランスよく纏まっている。それぞれの才能もあるんだろうが、なのは
「ほら、道は出来たわよ! アンタも遊撃手なんでしょ! 動きなさい!」
「……おう!」
参ったな……『機会があればカッコいい所見せてやろう』なんて事も考えてたんだが、逆に見せられちまった。
俺が助けようとしてた奴も既にエリオが助けているし、キャロは多くの局員に同時に補助魔法をかけている。この乱戦の中でそれが出来る程鍛えられている。
先程のスバルの動きも、俺の近接戦闘技術を大きく上回っていたし……
……うん、こいつらに任せた方が良さそうだ。
「ティアナ、伝えておく事がある。」
「何!?」
「地下への入り口を見つけた。一部の連中がこそこそとそこに入って行くのもな。
奴等の動きを見る限り、地下には緊急用の脱出口がある可能性が高い。
ロストロギアもきっと持ち出そうとしているだろう。」
「!」
そして俺はこの部屋の奥……何かを作る為の機材を強引に床から引っぺがして作られたバリケードを指差して告げる。
「お前達が行ってくれ。俺達4課の誰が行くよりも確実だ。」
「……アンタは?」
「さっきは油断して後れを取ったが、もうあんなミスしねぇよ。
ここは任せて先に行きな!」
そう言って、とっておきの魔法を発動させる。
≪Servant turret.≫
周囲に浮かび上がった5つの光弾はそれぞれが俺の意思で任意の方向へ魔法を放てる砲塔だ。パスを繋いでいるから魔力が常に供給され、魔力が切れて消える事も無い。
説明だけ聞けば大した事なく聞こえるかもしれないが、これが案外強力なんだよな。
ちょっとばかしチャージが必要だからさっきまでは使えなかったが、ティアナ達が時間を稼いでくれたおかげで問題無く起動できたのだ。
「……何でそれ最初に使ってないのよ。」
「んんッ!?? いや、ちょっとした、ほらアレだ。制約とかルールとか!?」
言えねぇ……ホントは使ってたけど最初の罠の砲撃の時、咄嗟に盾にしたから消えましたなんて絶対に言えねぇ……!
「……まぁ良いわ。じゃああたし達はアンタの言う地下に行くから、ここは任せるわよ。」
「おう、安心して行きな!」
そしてバリケードの隙間を潜り抜け、地下へと向かうティアナを見送り……おっと。
「邪魔はさせねぇっての!」
ティアナ達の後を追おうとした残党に、砲塔の一つから小規模の砲撃を喰らわせ、気絶させる。
砲塔5つ、それぞれ独立した動きも可能な上、撃てる魔法は魔力弾から砲撃、バインド、障壁となんでもござれだ。
習得の為にマルチタスクの練習ばっかしてたんで、俺自身の近接戦闘能力が低い事と、慌てた時にこいつを直接盾にしちまう悪癖以外の弱点は……無い!
「さぁ、こいつを使わせた俺に勝てる奴は……! あー……ちょっとしかいねぇ!!」
いけねぇ、カッコつける為の口上の途中でなのは
しまらねぇなぁ、どうも……
ティアナ(あいつ死亡フラグ立ててたけど大丈夫か……?)
本来なら前回までに地下突入はさせたかったのですが、文章量が思った以上に長くなってしまった……
今回出てきた転生者
・ジェイク
StSメンバーではティアナが一番好きだった。
機動六課のようなマンツーマンではないが高町なのはの教導を受けた事があり、地獄を見た4課局員の内の一人。
とっておきの魔法はなのはには一切通用しなかった。
≪Servant turret.≫
ジェイクのとっておきの魔法。『魔力弾』ではなく『魔法』を任意に放てる砲塔。ただし砲塔から砲塔を出す事は色々と不効率。
パスを繋ぐ必要があり、生成に多少の時間がかかるが生成してしまえば敵の砲撃の盾にでもしない限り壊れたりはしない。(最大のプレミ)
因みにプレミの原因は、操作性が高すぎて咄嗟に庇う反射的な動きにも対応してしまう為。