イベントストーリーもなのはの世界観に寄せて作っていただいてますし、興味がありましたら、コラボ期間中だけでも触れてみると良いかも知れません。
「――なるほど、その少女が例の……?」
「はい、洞窟出口から東南東に数㎞のところにある洞窟で発見したんですけど……」
そう言いながら拠点に持ち帰った生体ポッドを見せると、ブラバス少将は机の中から地図を取り出し、ある一点を囲むように指でなぞった。
「……地図で言うと、この付近か。
だが、この付近は数ヶ月前に調査済みだ。そんな物があれば報告に上がる筈。
ポッドの状態から考えても、放棄されたのは最近と考えて良いだろう。」
そう、彼の言う様にポッドの表面には砂や埃のような付着物も無く、砂嵐が頻繁に発生する地域に置かれていたにしては傷も無い新品同然の状態だった。
内蔵されているバッテリーに残っているエネルギーの残量からも、あの場所に放棄されてからそれほど時間が経っていない事は容易に想像が付く。
私は彼の推理に同意するように頷き、そして気になっていた事を聞く事にした。
「……あの、ブラバス少将は『生死体事件』について知っている事はありますか?」
『生死体事件』……私はその名前を聞いた事は無かったけど、どうやらレイジングハートが言うには、その事件は私が
こっちに来て割と直ぐに管理局に入った私が聞いた事も無いと言うのが気になり、拠点に戻ったら聞いてみようと思っていたのだ。
するとブラバス少将は僅かに困ったような表情になりつつも、こう答えた。
「むぅ……俺自身、それほど詳しい訳ではない。
ただ、あの少女を発見した部隊は俺の知り合いが率いていた部隊でな……そいつの自棄酒に付き合った時、愚痴交じりに気になる話を聞いた。」
「気になる話……」
私よりもずっと前から管理局に勤める彼が詳しくない……その事を疑問に思いつつも、彼の言う『気になる話』の詳細を聞くべきと思い、続きを待つ。
そして、それは今しがた抱いた疑問の答えを暗示するものだった。
「……管理局の上層部の指示で、事件の調査が打ち切られた……と言う話だ。」
「! それって……」
彼の下に詳細な情報が来るよりも早く事件の捜査が打ち切られる……端的に言ってしまえば、それは
そしてその行為が表す事はただ一つ……
「にわかには信じられん……いや、信じたくない話だが……
生死体事件には管理局の上層部が絡んでいる可能性が高い……そう言う事なのだろうな。」
彼は苦々し気にそう言うと、生体ポッドに目を移してこう続けた。
「とは言え、だ。
今回の少女の状況が『生死体事件』の物といくら似ていても、あの時の少女とは別人だ。
その上、捜査を打ち切られた事件がこうして続いている事が分かった以上、動かない訳にも行くまい。」
そして少しの間彼は目を閉じ、何かを考えるようなそぶりを見せると、私の方を見て言った。
「……少女発見の報告や、諸々の手続きは俺の方でやっておこう。
どうにもとんでもない厄介事の気配がするが、発足して1年も経っていない部隊に負担はかけられんからな。」
「お任せしても良いんですか?」
彼の言う通り今回の事件はかなり厄介な事情が見え隠れしている事件だ。
特に上層部の指示で捜査が打ち切られた辺り、アニメで散々後ろ暗い事をしていた最高評議会も絡んでくるのはほぼ確実だろう。
そう言う意味も込めて尋ねると、彼は私を真っ直ぐに見据えてこう答えた。
「今の君には、向かい合わなければならない事が多すぎる。」
「……ありがとうございます。」
「……納得いかないか。無理もない。
最高評議会と言えば、君達機動六課の後ろ盾の一つ……その彼等の不正を、君が黙って見過ごせる性格ではない事は分かっている。
だからこそ、今はこちらの事は我々に任せておけ。
今の
「……分かりました。」
彼の言う『彼女』……ティアナの心の傷は相当に深い。確かに他事に意識を割いていては向き合う事も出来ないだろう。
訓練校時代に一度克服したと思っていたトラウマは、知らず知らずの内に動きの
あの日の面接でそれを知らされた時も、ティアナが相当なショックを受けていた事は表情で分かった。
それからその癖と向き合う過程で、ティアナは自分の過去から来る恐怖とも向き合い、これまで訓練を重ねて来たのだ。
……時に、執拗に左脚を狙う事もあった。ティアナが相殺できるギリギリの魔力量を込めた事もあった。躱す事が正解の弾を混ぜ、的確な判断が出来るか試した事もあった。
ティアナは気付いていただろうか、彼女の表情が何度も引き攣った事に。
頬を伝う汗の中に、微かに涙が混ざっていた事に。
それでも私は心を鬼にして試練を与え続け、ティアナはその度に乗り越えて来た。今度こそ完全に自分の中の恐怖に打ち克つ為に努力を重ねて来た。
――そして、今日の実戦でその努力が否定された。
彼女を今苛んでいるのはきっと、恐怖でも後悔でもなく……途方もない無力感だ。
いくら頑張っても、目標に到達する事が出来ないんじゃないか……そんな不安に押し潰されるような感覚は、私も覚えがある。
……今こそ、伝える時なのかもしれない。
私の過去の過ちを……そして、機動六課が生まれた意味を。
――俺は、今まで何をやっていたんだろう。
あの後、残党のリーダー捕縛とロストロギア回収の功績でいくらかの褒賞を貰い、隊舎に帰って来たが、考える事は今日の失敗に関する事ばかりだった。
今日の失敗の光景が頭から離れない。
確かにあの日の状況を思い出させるような要素はいくつもあったし、防ぎようのない事態だったかも知れない。
特にクロスミラージュに石が当たった瞬間は、当時の光景すら目の前を過った。
だけど、それらの恐怖に打ち克つ為に今までの訓練はあったのだ。
スバルやエリオ、キャロには無い、俺の欠点……それを補い、それから前に進む為の訓練だったのに、俺は結局恐怖に呑まれてしまった。
……これじゃ、スバル達との実力に差が開くばかりだ。
俺が過去に向き合って訓練している間にも、スバル達は未来へ向けて訓練を重ねている。
今日だってスバルに助けられてばかりだったし、エリオとキャロの連携は既に俺とスバルのソレを上回っているように感じた。
俺だけだ……俺だけが成長出来ていない。
過去から伸びる腕に、足を掴まれて前に進めない……そんな絶望感。
振り切らなければいけないのに、振り切る為に頑張ってきたはずなのに……
――ダメだ、思考がループしている。
そう分かっていても止められない。
今日の失敗はそれだけ俺にとってショックだったのだろう。
「ティア、そっちは訓練所だよ。」
「え……ああ、そう言えば今日はもう訓練は無いんだったっけ……」
スバルの制止を受け、漸く思い出す。
今日は初めて実際の現場を経験して疲れただろうという事で、もう自室に戻って休むように言われてたんだった。
「……あたしには、ティアが今どれだけ辛いのか分からない。
多分、あたしが想像できないくらい苦しいんだと思う。
だから……」
そう言ってスバルは微笑んで、励ますように言葉を続けた。
「ティアが良ければ、あたしに話してくれないかな。
あの時の事を知ってるあたしになら、何か助けになれるかもしれないでしょ。」
「スバル……」
思えば俺はずっとスバルに助けられてきた。
恐怖に潰されそうだった今日も、背中に悪寒が走った夜も、面接でどもった時も……そして、恐怖が心にこびり付いたあの日も……
今だって、スバルは俺の助けになってくれようと手を差し伸べてくれている。
そう思うと、余計に自分が情けなく思えてきてしまう。
いつまでお前はスバルに甘えるつもりだ、そんな状態で胸を張ってコンビと言えるのか……そんな、後ろ向きな事ばかり考えてしまう。
「……ごめん、スバル。これだけは、自分で向き合わないといけない事だから……」
「そっか……うん、分かった。でも無茶だけはしないでね。」
「ええ……」
『自分で向き合わないと』……か。なんて詭弁だろう。
その言葉自体が、スバルから逃げる為の口実だと言うのに……
「あ、ティアナ。今ちょっと良いかな?」
「なのはさん……はい、大丈夫です。」
夕食を食べ終えて自室に戻る途中、なのはさんに呼び止められた。
今日はこの後予定もないので素直に頷くと、なのはさんは「ついて来て」と言って隊舎の外へと歩いて行く。
そんな彼女について行く事数分、辿り着いたのは……
「……あの、なのはさん。ここって……」
「うん、いつも訓練で使ってる広場だよ。今なら二人っきりで話せると思って。」
なんだ……てっきり二人っきりで訓練でもするのかと思った。
俺がそう考えている間にも、なのはさんはいつぞやのように地面に座り、隣に来るように促す。
彼女に促されるまま腰を下ろすと、なのはさんは開口一番にこう切り出した。
「今日の事、スバルから聞いたよ。」
「……すみません。」
「あっ! えっと、そうじゃなくて……あはは、ゴメンね急に。
私もまだ本題をどう切り出そうか迷ってるみたいで……」
どうやら一対一の反省会という訳でもないらしい。
それに俺はともかく、なのはさんが迷うような本題って何だろう……ッ!?
まさか……!
「あ、あの! あたし、もしかして機動六課から……!」
「ち、違うから! そう言うのでもないから落ち着いて!!」
思わずなのはさんの肩を掴んでしまったが、彼女の反応から見限られたと言う訳でもないようだ。
だけど、だとすると彼女の言う本題って……
「……落ち着いた?」
「あ、はい。……すみません、なんか、取り乱してばっかりで……」
「謝らなくても良いよ。私もちょっと誤解されるような事言っちゃってたし。」
なのはさんはそう言って俺を宥めると、やがて夜空を見上げて呟いた。
「……辛いよね、自分の努力が上手く形にならないのって。」
「え……」
「……実はね、私にもあるんだ。
ティアナみたいに、努力が報われなくて苦しんだことが。」
「なのはさんが……?」
本当に……? にわかには信じられない。
確かにアニメではなのはさんは一度撃墜され、リハビリを行っていた過去が描かれていた。
だけど、今のなのはさんは明らかにアニメで見たなのはさんよりも強い。俺はてっきり、周りの銀髪オッドアイがなのはさんをサポートし、撃墜事件が無くなった事でリハビリに割いていた時間を訓練に充てられたからだと思っていたのだが……俺の兄を助けてくれた、アイツみたいに。
そう考えていると、なのはさんは夜空から俺へと視線を移し、こう切り出した。
「ティアナはさ、『滅びの予言』に自分が登場したとしたら……どうする?」
そしてなのはさんは俺に話してくれた。そのあまりにも理不尽な運命を。
『予言』の事、『光』と『凶星』の事、『滅び』……そして、自らの『失敗』の事を。
「私もティアナと同じなんだ。
自分の目標に潰されそうで、それでも足掻いて……結局失敗して、友達に助けて貰って今ここに居る。」
「そんな……! だって、なのはさんは何も悪くないじゃないですか!
予言で突然そんな大役を押し付けられて、それでパニックにならない方がどうかしてます!
あたしは違う……! あたしは結局、最初から失敗ばかりで……助けて貰ってばかりで!」
そうだ、全然違う……俺は結局のところ自分の失敗が引き金の自業自得で、なのはさんは突然『正体も分からない滅び』に立ち向かわせられただけだ。
前提条件も、規模も、責任の重さも全然違う。
なのはさんと比較する事で、ますます自分が小さく見えて……惨めな気分になる。
なのはさんが『未来』を背負っているのに、俺は所詮自分の事ばかりで……
「一緒だよ。
……だって、私も怖かったから。」
「え……」
「怖いものに立ち向かい続けるって、凄く辛いよね。
自分が一人だと思ってると余計に苦しくて、その結果失敗しちゃったら、自分の全部が否定されたような気がして……それでますます誰かを頼れなくなって、どんどん苦しくなって……」
背負っているもの全体からすれば、それは所詮些細な共通点の集まりだ。
だけど、そんな些細な共通点を一つ一つ示して、彼女は『同じだ』と言ってくれる。
『未来』と『自分』……彼女と俺はこんなにも違うのに……
「分かるよね、ティアナ。
私も貴女も戦ってる相手は一緒なんだ。
自分の中の恐怖……私も一度、それに負けた。
だから今、ティアナが一番何を怖がってるのかも良く分かるんだ。」
なのはさんの視線が俺を射抜く。その眼は凄く穏やかで優しいのに、間違いなくその光は俺を貫いた。
「貴女の努力は何一つ否定されてないよ。
今までの訓練の日々は、ただの一秒だって無駄になんかなってない。
だって、
「なのはさん……」
「もし自分が信じられないなら、私を信じて。
私は貴女。恐怖に一度負けて……それでも最後は打ち克って成長した貴女なんだから。」
「……ありがとうございます。」
現金なものだと自分でも思う。『やっぱり俺となのはさんは違う』と叫ぶ自分が、心の片隅に居るのも分かる。
それでも彼女の言葉は俺に勇気をくれた。
「なのはさん……その、聞いて欲しい事があります。
今更かって、思われるかもしれないですけど……」
……今なら、話せるかもしれない。
俺の心にこびり付いた恐怖……その原因となったあの日の事を。
今回中に過去編に入ろうと思っていましたが、生死体事件関係の話を持ってきた弊害で一話分伸びてしまいました。
改めて次回からティアナの過去編に入ります。(多分1話か2話分の筈)
GWロスに負けない様にしなければ……