転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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後半ちょっとだけ難産です。


成長

昼食を終えて午後の訓練の時が来た。

 

午前中の訓練を仮想空間で過ごしていた俺とティアナは、午後の仮想空間訓練の時間まで普段以上にハードなスケジュールを要求されたのだが――

 

「……どうしたスバル? そんなにニヤついて……」

「え、そんな顔してます?」

 

ジト目で問いかけて来たヴィータに口ではそう答えたものの、正直自分の口角が上がってるのは分かってるし、その上でそれを抑えられない。

 

でも仕方ないじゃないか。最初の模擬戦で手も足も出なかったなのはさんに「ちょっとだけ焦っちゃった」と言って貰えたのだ! 自分達が着実に強くなっている事をつい数時間前に実感したと言う事もあって今の俺の訓練に対するモチベーションは高く、それがほんのちょっと表情に漏れ出しているだけなのだ! 決して訓練を甘く考えているだとか、お遊び感覚と言う訳では断じてないんです!!

 

だから――

 

「そーかそーか、あたしとの訓練がそんなに楽しみだったか。

 ……じゃあ、もっと楽しくしてみるか?」

≪Explosion. Raketen form.≫

「すみませんでした!!」

 

だからそんなに怒らないでくださいってば! 普段使わないから余らせてるって言っても、一時的にとは言え教え子に向けるもんじゃないでしょソレェ(カートリッジシステム)!!

現実世界でそれ相手にするのは怖すぎますって!!

 

……なお、咄嗟の土下座が功を奏したのか訓練の内容は普段の2割増しで許して貰えた。

 

 

 


 

 

 

「……何やってんのよ、あのバカ……」

 

なのはさんが撃ち出した無数の魔力弾を相殺しつつ、ちらりとスバルの方を見れば妙に綺麗な土下座で謝ってる姿が見えた。

 

……大方、訓練開始まであのニヤニヤが止められなかったとかそんな理由だろう。なのはさんに褒められた事がよっぽど嬉しかったらしいからな。仕方のない奴だ。

 

「凄いね、ティアナ! 昨日までとは動きのキレが全然違うよ!

 これだったら直ぐにでも次の段階に行けるかも……!」

「! そうですか? ……えへへ、何か今までとは全然違うなってあたし自身思ってて!」

 

なのはさんが言う様に、今の俺の動きは我ながらキレッキレだ。

それと言うのも訓練を開始して直ぐに感じた事なのだが、視野が広くなった感覚と言うか、色々な物がこれまでよりも鮮明に感じ取れるのだ。

 

……まぁ、そんな余裕が生まれた事でスバルの土下座なんて物まで視界にとらえてしまった訳だが。

 

……振り返ってみれば、これまでの訓練で俺は無意識的に「あ、あの弾、左脚に向かうコースだな」って言う物ばかり注視していたのかも知れない。

警戒と言えば聞こえは良いかも知れないが、その実態はただの視野狭窄という奴でしかなく、その為に今まで多くの動きを見逃していたのだろう。

 

そしてその見逃した動きの先で窮地に陥り、動きを制限されて本来のポテンシャルが引き出せていなかった……そう考えれば、我ながら不思議な程に良く動くこの体の動きにも説明がつく!

 

……そう、恐怖を乗り越え、トラウマを完全に払拭した今の俺はまさに――

 

「もう完全に死角無しって言うか! えへへ……あ痛ぁっ!?」

 

気分の高揚に思わず笑みが零れた刹那、完全な死角から飛んできた魔力弾が俺の左脚に命中する。痛い。

 

「もう、油断しちゃダメだよ。褒めたら直ぐに調子に乗っちゃうんだから……」

「は、はい……!」

 

死角無しと言った途端に被弾した恥ずかしさから顔が熱くなるのを感じつつも、直ぐに訓練に復帰する。

なのはさんはこう言う精神的な動揺に陥った時も「敵は待ってくれないから」と言う、至極もっともな理由から訓練の手を緩めてはくれない。直ぐに自分で立ち直らなければ、無駄に被弾回数ばかりが増えるだけだ。

 

「……左脚に当たったのに、もう動揺は殆ど無いんだね。

 ティアナが立ち直ってくれて、私も嬉しいよ。」

「なのはさん……えへへ、あたしも――あ痛ァッ!!?」

 

……褒められる事に耐性を付ける訓練も積んだ方が良いかも知れない。

 

 

 


 

 

 

――なんか、楽しそうだなぁ。あの二人。

 

「どうしたのエリオ? そんなにスバルさん達の方を見て……」

「ん? ああ、今までよりも生き生きしてるなって思ってね。」

 

フェイトとの訓練の休憩中に二人を見ているとキャロが尋ねて来たので、そう答えて訓練の方へと視線を促す。

キャロにも言ったが、今日の二人の様子はこれまでとは明らかに違った。やっている内容自体は同じ訓練の延長線ではあるのだが、二人の表情……特に、ティアナの表情は見ているこちらの気分も良くなって来るほどに晴れやかな物だった。

 

「――ホントだ。ティアナさん、凄く楽しそうだね。」

「うん。スバルさんもティアナさん程じゃないけど楽しそうだ。

 やっぱり、トラウマを克服出来たって言うのが大きいのかも……」

「お昼休憩の時に話してくれたあの事だよね。

 ティアナさんにあんなトラウマがあったって言うのも驚いたけど、それ以上になのはさんの克服のさせ方の方が衝撃的だったなぁ……」

「あぁ……うん。確かにアレはね……」

 

キャロの言葉を聞いて俺もあの時の衝撃を思い出した。

スバルとティアナが昼食を終えた後、訓練の再開までにちょっと時間があったから気になっていた訓練について聞いてみたのだが、なのはさんがやっていた訓練は俺の想像していた物とはかけ離れ過ぎていたのだ。

 

「まさか崖の上から()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、ね……」

「仮想空間内と分かっていてもゾッとするよね……」

 

ティアナに詳しく聞いたところ『心に刻まれたトラウマの状況を再現し、成長した自分の力でその状況を乗り越える事で恐怖を克服』と言うかなり強引なやり方だったようで、最終的には視界さえも奪われたらしい。

どんな脅威も一度その状況を乗り越えてしまえば次からは脅威でなくなると言う理屈と言うのは分かるのだが、それにしたってかなり強引なやり方だ。

これでは珍しくスバルがガチギレしたと言うのも頷ける。

 

……まぁ、その後の模擬戦で普段の訓練による成長を実感できたことや、プロテクションを破れたこと。その時のなのはさんの一瞬焦った表情を見た事で大分溜飲も下がったらしく、今では怒りもそれほど残ってないのだそうだ。

 

「でも、ちょっと羨ましかったんでしょ?」

「……まぁ、言い訳はしないよ。」

 

勿論、俺に拷問紛いの訓練を受けたいと言う願望がある訳ではないし、そもそも克服したいトラウマも持っていない。

俺が羨ましかったのは、なのはさんとの模擬戦の方だ。

 

「スバルさん達みたいに、自分の成長を確かめて貰えるって言うのは……うん、やっぱり素直に羨ましいね。

 確かに僕達はスバルさん達と比べて直接訓練を付けて貰える機会は少なかったけど……それでもフェイトさんに期待されているって事は伝わって来たから、応えられる機会がずっと欲しかった。」

「特にフェイトさんはエリオの憧れでもあるもんね。」

「うん、そうだね。フェイトさんの戦いを見る事が出来たのは、僕を助けてくれたあの日が最後だったけど……それでもあの時の光景は忘れられない程、鮮烈に記憶に残ってるよ。」

 

そう、俺の目標の姿はあれから一切変わっていない。

 

どうしようもない窮地に突如雷のように天から現れた光が、その障害の尽くを薙ぎ払ってくれたあの安心感……当時はそのカッコいい戦い方に憧れたのもあるけど、時間が経った今、自分が本当になりたかった目標の正体も分かってきた。

 

『あらゆる不安を一瞬で消し去り、その自らの姿で恐怖の記憶さえ塗りつぶす』――

 

……当時の記憶をいくら振り返っても、当時感じた痛みや恐怖を何度思い返しても、いつも最後に残るのはあの時見たフェイトの姿に対する憧れの感情だった。

 

どんなピンチや障害の記憶も『フェイトに助けて貰えた』と言う思い出と言う形でしか残させない在り方は、何処までも激しく……そして優しい。

 

俺もそんな(やさ)しいヒーローになりたい。そして、だからこそ――

 

「だからこそ今の僕達の全力をフェイトさんにぶつけてみたい。

 期待に応える為にも、目標の像をより明確にする為にも。

 協力してくれる? キャロ。」

「勿論! ……まぁ、今は補助魔法でしか助けてあげられないんだけど。」

「いや、流石にアレ出されると僕の訓練の成果とか霞んじゃうからね?

 ……フリードはともかく。」

「クルッ!?」

 

仮想空間のシステムの関係上、召喚竜の再現が難しい事にこの時ばかりは感謝した。

まぁ、なんだかんだでフリードも仮想空間に入れるようにアップデートはされたのだが、こちらは問題ないだろう。

 

抗議の声を上げるフリードを腕に抱えてあやしながら、俺とキャロはフェイトの訓練が一段落したヴィヴィオの方へと歩を進めるのだった。




ヴィヴィオ「エリキャロパート中ずっと訓練してました」(ゴムボール避け)

ヴォルテール君はね……出せる機会がホント来ない。ゴメン。
一応活躍する事件も用意してたんだけど、プロット書き直した時に消えちゃったし……

因みにヴォルテール君解禁したらキャロは滅茶苦茶強くなります。具体的に言うと初任務の事件に出て来た魔導砲(ヴィータ曰く『ガラクタ』)くらいなら正面からかき消せます。
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