話の並び順を変更しました。
「ふふ……ふふふふふ……! くっくっくっく……!」
時空管理局地上本部……第一管理世界ミッドチルダの平和と安寧の維持を掲げるこの施設のとある一室にて、とある男がその強面な顔を引き攣らせる様に不気味な笑い声を漏らしていた。
その様子を見ていたもう一人……この部屋内に存在するただ一人の目撃者である女性は、少々呆れた様子で宥めるように告げた。
「……笑い過ぎです、
「ふふ……解っている。解っているが……くくく……!」
自らの娘であり秘書でもあるオーリス・ゲイズの声に理解を示しつつ、レジアス・ゲイズはなおも愉快そうに笑う。
その様子から、まさか彼がつい数時間ほど前まで怒りと不機嫌の絶頂にあった事を察する事が出来る者はいないだろう。それほどに彼の表情は朗らかだった。
……尤も、生来の強面が原因で少々不気味な絵になってしまってはいるのだが。
「……お気持ちは分かります。
私自身、彼等がこのような決断をしてくれる事は予想外でした。」
「ああ、これで儂の計画の懸念点は無くなった!
もうすぐだ、あともう少しで我が悲願が叶う……!」
手元の資料に目を落とすオーリスを尻目に、執務室の窓から眼下の街並みを見下ろすレジアスは先程の喜ばしい誤算を再び思い返していた。
――クソが! 忌々しい『
その日、レジアスは朝から不機嫌だった。
……いや、より正確に言えば彼が不機嫌になったのは数日前……時空管理局本局から、とある要請を受けた時からだった。
――まだ人手が足りないから、もっと人員を寄越せだと!? こっちが今どういう状況かも解らんのか!!
湧き上がる怒りに思わず自らの机を殴り付けると、その様子を見たオーリスは気を落ち着かせる為に茶を淹れて手渡した。
「……オーリス……済まない、取り乱した。」
「中将……」
茶を受け取ったレジアスは珍しく素直に謝ると、手渡された茶に口をつけた。
そんな父の様子から、オーリスは今回の事が余程堪えたのだろうと察する。
――父の落胆も仕方ない。漸く、これからってタイミングで今回の要請……当たり散らしたくもなる気持ちは痛いほど解る。
今から約十年前、時空管理局にある転換期が訪れた。
500名近い銀髪オッドアイの一斉入局による、セキュリティシステムの一新……それに伴うデスマーチは多くの苦しみを生んだ。
だが、その騒動の只中にあって、レジアス・ゲイズは希望を見出していた。
『これだけの大量の入局者、万年人手不足と宣う海でも管理し切る事は不可能。
必ず地上にも少なくない戦力が入って来る筈だ。』……と。
彼の期待通り、デスマーチ開けには200名以上の銀髪オッドアイが地上本部に配属される事になった。
折角の戦力を活かさない手は無い。彼は早速銀髪オッドアイ達を使い、地上本部の抱える問題点の改善に乗り出そうとした……のだが、彼等はレアスキルを扱えても魔法の扱いが未熟だった。
確かにレアスキルは強力な力であり代替が効かない物も多いが、レアスキルしか使えない者は作戦行動に於いて足を引っ張る事もまた多い。
周りの動きに合わせる事が出来ず、戦場で孤立し、代替が効かない分フォローに人手を要し、そして割に合わない犠牲を出す……そんな戦場をいくつも見て来た彼にとって『レアスキル』と言う物は信用に値せず、銀髪オッドアイ達の現状は到底受け入れられない物だった。
レアスキル無しで戦えなければ、今の地上部隊の立て直しには使えない……多大な戦力を前に、断腸の思いでレジアスは彼等の成長を待った。
腕の良い教導官をつけ、研修が終わるのを待ち、その間地上で起こる事件は極力既存の部隊で解決した。
そして約一年後……研修を終え、実力を付けた彼等は極一部を除き『海』に引き抜かれた。
地上よりも高い給料、多くの昇進の機会……そんな口車に乗せられた者も居たが、彼等が海に行った理由は別の所にあった。
『次元航行部隊に入れば、無印やA'sのなのはに会えるかもしれない』
当然レジアスはそんな理由である事など知らなかったが、結果は同じだ。彼は自らが育てた戦力の殆どを、半ば裏切りに近い形で持って行かれた。
地上に残った銀髪オッドアイは十名程で、彼等の戦力は確かに破格だったが地上本部の立て直しと言う大目標を前にすればまだ足りない……レジアスは自らの悲願の方を諦めた。
――それから数年後の事だった。
高町なのはを筆頭に、第97管理外世界と言う辺境から数十名の魔導士が入局したのは。
不思議な事に、彼等は自ら地上本部に志願し、配属された。
これだけでも嬉しい誤算だったのだが、更に嬉しい誤算として、彼等は最初から高度な魔法戦が可能な程に鍛えられていたのだ。
地上の平和維持に手一杯で第97管理外世界の事件を知らないレジアスにとって、管理外世界でどうやって彼等がそれほどの実力を身に着けたのかは不思議だったが、もはやそんな事はどうでも良かった。
一度諦めた悲願が胸中に再び燃え上がる。地上部隊の立て直しの機会を、その為の戦力を天が与えてくれたのだと感じた。
それからは早かった。
元々彼等のチームワークが良かった事を活かし、新しく作った部隊に纏めて配属させ、決まった管轄を与えない事で遊撃部隊の様なフットワークを与えた。
更に地上で発生する事件の対処が遅れそうだと判断すれば積極的に介入出来る権利を与え、曖昧となっていた管轄の境界を明確化するまでの繋ぎとした。また、この機会に過剰なほどに育った縄張り意識を改革し、部隊間の連携や引継ぎをスムーズに行えるようにした。
その他にも様々な理由で発生した事件への対応が遅れる問題等にも、一つ一つ目を通し、解決するまでの時間を稼いでくれたのが今も事件の最前線で活躍している『ミッドチルダの銀盾』なのだ。
純粋な戦力である以上に、レジアスにとって思い入れのある部隊……そんな彼等を一部とはいえ『寄越せ』と言われて『はい』と心の底から言える者はいない。
……いないが、しかし上からの要請を客観的な理由無く突っぱねられる訳も無い。
レジアスは地上部隊の立て直しの途中である事を理由に、『あくまで彼等の意思を尊重する』と言う消極的な抵抗しか出来なかった。
そして、今日がその面談の当日だった。
彼等の意思を判断する面談の場には、当然『海』の将官をつけるという条件を付けられており……
「やぁ、レジアス君。今日はよろしく頼むよ。」
「……は。」
――その将官はレジアス中将よりも位の高い『大将』であった。
面談結果の誤魔化しを嫌うだけで大将をこの場に送る訳はない。面談の内容や結果が曖昧だったり、どっちとも取れる場合には権限を行使して強引に引き抜くつもりなのだろう。
この時点でレジアスは殆ど諦めていた。
――だが両者の想定は覆された。
『いえ、私は地上部隊に残る事を希望します。』
その言葉を誰が予想しただろうか。『地上に残る』と言う明確な回答。
『地上よりも高い給料』『地上よりも多くの昇進の機会』……そんな好条件を突きつけられたにも関わらず彼は……否、彼等は全員がその誘いを突っぱねてくれたのだ。
『地上に
『
『まだ
『ここには俺にとって大切な、
そう真っ直ぐ告げる彼等の言葉には、大将である彼でも付け入る隙の無い正義の心があった。……と、レジアスは思った。
……そんなこんなで、来る前よりも随分不機嫌になって帰って行った『大将』とは裏腹に、今のレジアス中将はすこぶる機嫌が良いのだ。
それはもう面談の後からずっとニヤニヤしている程に。
「オーリス、これから地上は変わるぞ。
どの次元世界よりも平和に、誰もが安心して暮らせる最良の世界に……!」
「はい、悲願達成のその時まで……いえ、その後もきっと着いて行きます。」
レジアスの悲願……それは原作とは違い、正しい手段で果たされようとしていた。
原作で結構部下から信頼されている辺り、本来の思想は割と純粋だったのではと言う解釈。
いやぁ、銀髪オッドアイ達が残ってくれてよかった。
えっ? 機動六課解散後?
……。
…………。