話の並び順を変更しました。
ジェイル・ギアの生み出した仮想空間の街……その中心にあるコロッセオのような闘技場に、彼女達の姿はあった。
「――そこだッ! 『リボルバーキャノン』!」
「甘いです! 『ソニックムーブ』!」
地上から僅かに浮遊したスバルが滑るような動きでエリオへと肉薄し、風のエフェクトを纏った拳を突き出すが、全身に雷のエフェクトを纏い、瞬間的に速度を上げたエリオに背後を取られる。
「『ルフトメッサー』!」
「『リボルバーシュート』!」
「うわっ!!」
反撃とばかりに繰り出されたエリオの攻撃は、拳に纏わせた風のエフェクトを撃ち出すスバルの攻撃により相殺され、更にその余波が突風となってエリオの体勢を崩す。
「『ウイングロード』!」
それを好機と見たスバルがすかさず光の道を生み出し、追撃を試みるが……
「させません! 『シューティング・レイ』!!」
「くっ、『プロテクション』!」
スバルの動きを牽制する為に放たれたキャロの射撃魔法を防いだ事で、その脚が一時的に止まる。
「今だ! 『紫電一閃』!」
その隙にスバルが追撃の為に生み出したウイングロードを踏みしめ、反撃に出るエリオの持つ槍に雷のエフェクトが迸る。
そのままソニックムーブの高速機動を利用し、スバルへと飛び掛かった瞬間、誰もいない虚空から声が発せられた。
「『オプティック・ハイド』」
その瞬間、スバルの姿が消える。
先程までキャロが足止めをしていたティアナがいつの間にか姿を消し、この距離まで接近していたのだと理解したエリオ。だが……
「! 消えた……けど、まだ遠くには行ってない筈! 『サンダーレイジ』!」
姿が消えても実体が無くなった訳ではない。それならばと槍の纏う雷光をさらに増幅させ、先程までスバルが居た位置に槍の穂先を叩きつけた。
瞬間、穂先が爆発したのではないかと思わせるほどの閃光が奔り、雷で出来たドームが周囲を覆う。
しかしエリオが期待した手応えは得られず、代わりに現れたのは……
「『フェイク・シルエット』」
「!?」
スバルとティアナの姿をした幻影が数十体。
なのはとの模擬戦の話を事前に聞いていたエリオだったが、その圧倒的な数を前に一瞬動揺してしまう。
「エリオ!」
「! キャロ!」
その時、救援とばかりに空から現れたキャロの姿に安堵の表情を見せるエリオ。
そのままキャロはスバルの傍に降り立ち、その両手に光のエフェクトを生み出すと……
「油断したわね、エリオ。」
「えっ……!! しま……ッ!!」
「『シュート・バレット』」
そのままその光弾をエリオに撃ち出し、エリオを戦闘不能にさせた。
そしてフェイク・シルエットによるスバルとティアナの幻影群が解除された時、その場に残されたのはキャロと一対一で向き合うスバルと、スバルの傍で得意げに佇むもう一人のキャロだった。
「うわぁ……えげつない事するなぁ、ティアナ……」
「し、仕方ないでしょ? このゲームの
そう言ったもう一人のキャロの姿が一瞬にしてティアナの物へと変わる……いや、正確には身に纏っていた幻影を解除し、元に戻ったのだ。
「あー……うん、確かにそうかも。
さて、どうするキャロ? これで2対1だけど……」
「……降参です。」
仮想空間内ではキャロの使える手札は、補助魔法を除けばいくつかの射撃魔法が精々だ。
思い返せば最初に幻影魔法でエリオと分断された時から勝ち目は薄かったなと反省しつつ、キャロは降参を示す様に両手をバンザイのように上げた。
「
模擬戦も結構本格的に出来るようになってるし。」
闘技場の受付があるエントランスホール……多くのプレイヤーが各々自由に過ごす部屋の一角にあるテーブルを囲み、先程までの模擬戦……このゲーム内の用語で言えばチームバトルだが、その感想を話し合うスバル達。
「そうね、リアルの方で使ってる魔法は術式をゲーム用にコンバートしなきゃいけないけど、それでもリアルと同じ感覚で使えるのは悪くないわ。」
「流石にデバイスの再現は出来ないみたいだから、現実と同じように動く為にはオプションパーツが要るけどね。」
そう言いながらスバルは自らが装備しているオプションパーツ、『フロートシューズ』を指し示す。
周囲のプレイヤーを見れば、彼等も現実の動きに近づける為か、それとも自らの理想の動きを体現する為か、多くのオプションパーツを装備している者達が居た。
「魔法を全部コマンドワードとして発声しないといけないってのも、幻術魔法使いとしては難しい所ね。
さっきみたいに幻影の生成と姿を変えるのを同時に熟さないと、相手の目を欺くのも一苦労だもの。」
先程の一戦を振り返り、動きやすさとは違う『やり辛さ』を指摘するティアナ。
それはユーザーのリンカーコアやデバイスの有無等による感覚の差を平等にする為の工夫の一つであり、ティアナ自身も何となくそれを理解しているのだが、やはり直接割を食ってしまっている分不平等に感じているようだ。
「いや、十分えげつない使い方してたって……ねぇ、エリオ?」
「い、いえ! 実戦でパートナーと分断される事の危険性を、また一つ学べましたから!」
同情するようなスバルの目線を受け、慌てて有意義な体験だったと話すエリオ。
「真面目ねぇ……まぁ、安心しなさい。アレはキャロの動きの癖を知ってるあたしだから出来た事よ。
キャロを知らない相手がキャロの姿をしていたら、多分一瞬で見抜けるわよ。」
「そう……でしょうか?」
「不安だったら一度試してみる? 多分スバルにキャロの幻影を被せたら、エリオも一瞬で見抜けると思うし。」
ティアナの言葉で、つい先ほどのような幻影をスバルが纏った光景を想像するエリオ。
その想像の中のキャロは普段の姿とはあまりにかけ離れていて……
「……それは……そうかも?」
「えっ、今なんか失礼なこと想像してなかった?」
「イメージトレーニングがちゃんと出来てるって事よ。ね、エリオ?」
「ふふっ……そうかも知れませんね。」
「二人して酷くない!?」
勇ましく頼もしいキャロを想像していたエリオは、スバルの反応に思わず笑みを漏らす。
チームバトルの後、パートナーの幻影を見破れなかった事で気落ちしていたエリオの笑顔が見られたことに安堵したスバルは、そこではたと気付く。
「……って、そう言えばキャロ遅いね? 確か、観客席のヴィヴィオを迎えに行ったっきりじゃない?」
「……確かにそうね。VR内で起こる危険なんてたかが知れてるけど……探しに行く?」
ヴィヴィオは彼女達が術式のコンバートやオプションパーツの設定をしている時にやや遅れて合流し、今回のチームバトルには参加せず、唯一の観客として観戦していたのだ。
チームバトルの終了後は、エントランスに戻っていないヴィヴィオを心配したキャロが探しに行き、その間に席を取って置こうと言う話だったのだが、それからゲーム内で10分ほど経過した今も二人が帰ってくる気配は無かった。
それを指摘したスバルの言葉を受け、彼女達を探しに行くかと提案するティアナに、エリオが立ち上がり立候補する。
「あ、それでしたら僕が行ってきます。」
「そう? じゃあお願いね。何か面倒事に巻き込まれてたら、あたし達に連絡してくれれば直ぐに行くから。」
「はい!」
――結構、人が多いな。
キャロを探しに出たエリオが最初に抱いたのは、そんな感想だった。
先程のチームバトル中は『プライベートモード』と言う、勧誘したプレイヤー以外が観戦できない設定をしていた為、観客席に居たのはヴィヴィオ一人だったのだが、その設定がされていない今のこの場所は多くの人が行きかっている。
――チームバトルが終わって直ぐにここに放り込まれたのだとすれば、確かにヴィヴィオを見つけるのは一苦労か。
「キャロも迷ってるのかも知れないし、早く見つけてあげないと……」
そう言って目を凝らすエリオの背後に、一人の人物が近付き……その肩をつんつんとつついた。
「っ!? ……って、なんだキャロか。ビックリしたじゃないか。」
一瞬何事かと焦ったエリオだったが、その正体がキャロだった事に安堵し、彼女が一人である事を確認すると問いかけた。
「見たところヴィヴィオは居ないみたいだけど……まだ見つかってないのなら、一緒に探そうか?」
「ううん、もうヴィヴィオは見つけたんだけど……ちょっと、こっちに来て。」
そう言って手を引くキャロを訝しみつつも、大人しくついて行くエリオ。やがて彼女は一つの部屋の前にエリオを連れて行くとそこで立ち止まり、口元に人差し指を立てて静かにするように合図すると、部屋を覗き込んでみてと言うジェスチャーをする。
指示された通りにこっそりと部屋を覗き込むエリオ。
そこはどうやら中世の会議室を模した部屋のようで、大きな円卓と壺や絵画等の調度品がある以外は何もない部屋だった。
恐らくはゲーム的な機能もないフレーバーとして用意された部屋なのだろう、他のプレイヤーの姿もなく、その為そこに一人佇む彼女の姿は直ぐに分かった。
――あれはヴィヴィオ? 一人で何やってるんだ?
彼女は片手を耳に当てており、何やら話している様子だった。
しかしプライベート設定が適用されているのか、耳を澄ませてみても会話の内容は聞こえず、背を向けている為表情もうかがえない。
「さっきからあんな感じなんだ。多分誰かと通話してるんだと思うんだけど、邪魔をするのも悪いじゃない?」
「それでこんなに時間かかってたのか……それならせめて僕達に連絡してくれれば良かったのに。」
「ゴメンね、こんなに長くなると思ってなくて……」
謝るキャロに「良いよ、事情は分かったから」と言ってスバルに連絡を入れるエリオ。
そんな間にも、ヴィヴィオの会話は進んでいた。
「――はい、今送信した物で全てです。」
『成程……しかし、考えたねヴィヴィオ。
確かに我が社が管理するVR内であれば、情報の受け渡しが周囲に知られる可能性は無い。』
「今回は丁度タイミングが良かっただけですよ、父さん。」
スバル達の魔法戦を見届けた後、私はこのVRの裏機能を用いて父であるジェイル・スカリエッティと連絡を取っていた。
時間の流れが違う為に予定を伝えてから時間は経ってしまったが、丁度良いタイミングで戦闘も終わってくれた事で何とかなった形だ。
『そして……こっちが、今のフォワード達の戦闘の映像か。
うん、中々よく鍛えられているようだね。ヴィヴィオ、君はどう思った?』
どうやら父は先程の魔法戦の映像を確認しているらしい。
私は先程の光景を思い出しながら、父の問いに答えた。
「そうですね……年齢を考えれば、彼女達の成長は異常と言えるレベルです。
若い頃ほど実力は良く伸びるとは言いますが、それを考慮しても『才能』と言う言葉だけでは説明がつかない物があります。」
『ふむ……だが今の状況を考えれば、その異常は希望だ。どうかね、彼女達の成長を見て、高町なのはが滅びの原因だった場合の勝率は?』
「……そうですね、不確定要素はありますが……私も含み全員で対峙した場合の勝率は『60%』でしょうか。」
『ず、随分と伸びたね……? えっ、フォワードの成長ってそんな事になってたのかい?』
「落ち着いてください、理由をお話しします。」
確かに彼女達の成長速度は凄まじいが、勝率の変化に最も影響したのはそれではないのだ。
私が父に詳しい事情を話すと……
『……なるほど、スバルがなのはのプロテクションをね……
確かに前回の報告にも彼女の守りの脅威性について書かれていたね。』
「はい。もっとも、如何にして彼女のプロテクションを破る事が出来たのかは不明なので、かなり希望的観測になりますが。
……詳しくは先程のデータに報告書も入っていますので、そちらを参照いただければ。
キャロとエリオが心配したのか、迎えに来てしまいましたので。」
少し前から私の背後に気配を感じてはいたが、報告の途中だった為気付かないふりをしていたのだ。
だが今しがたその気配が一人分増えた。どうやらかなり心配させてしまったらしい。
『ふむ、確認したよ。ありがとう、ヴィヴィオ。
……ああそうだ、フォワードの皆とは仲良くやっているかい?
偶には遊ぶ事も必要だよ。』
「父さん……世界の危機にそのような……」
『心に余裕を持ちたまえ、という事だ。
世界の危機が訪れていない内から余裕をなくしていては、いざと言う時に力を発揮できないぞ?』
「……はぁ、解りました。
偶の休日くらい、楽しむ事にします。」
『うむ、その意気だ。
ともに楽しい時間を過ごせば、自然と友達もできるさ。』
「は? いえ、別に友人の作り方が分からない訳では……父さん? 父さん!?」
父が最後に言いたい事だけ言って通話は切れた。
私は背後の彼女達に、開口一番どう接するべきか考える。
――友人……か。
ずっと考えていた。私は彼女達に対して隠している事が多すぎる。
本来友人とは全てではないにしても、ある程度心の内を曝け出せる相手の事を指す。
だが、私は彼女達に何一つとして明かしていないし、明かせない。
そんな私が友人となって良いのか、そう呼んで良いのか……だが父はそんな内心を見抜いていたらしい。最後のアレもきっと、私が友達を作る口実にでもなればと思ったのだろう。
――まったく、私が言い出した事とは言え、父は何処までも私を『聖王』ではなく『娘』として扱ってくれるのだな。
その事を嬉しく思いつつ、心を決める。
「……あっ、キャロお姉ちゃん! エリオお兄ちゃん! 待っててくれたの?」
「うん、ずっとお電話してるみたいだったから。」
「誰と話してたんだい?」
「お姉ちゃんがね、今ここに来てるんだって! だから話してたの!」
機動六課は滅びの対策として設立された一時的な部隊。
私と彼女達の関係も同じく、一時的な物……そのつもりだった。
「そうなんだ……ヴィヴィオはお姉ちゃんの所に行くの?」
「ううん、キャロお姉ちゃんたちと一緒に行くよ?」
だけど、先ずはその考えを改めよう。
この部隊が解散となった後もずっと続く関係に……いつか、私が真実を話した時に今の私の発言を共に笑えるような、そんな友人になる為に。
休日回らしい休日回は今回でラストです。
来週の投稿時に休日回の話順を並び替えます。
……順番ごっちゃで大変そうだな、来週の私は。(他人事)
2022/09/04 追記
先週の私絶対許さねえ