前々から言っていたように、休日回の話順を並び替えたので(多分出来てる……と信じたい)、読み飛ばしにご注意ください。
――PM 7:47 機動六課隊舎
訓練の再開を目前に控えた夜、八神はやての執務室に機動六課の隊長陣が揃っていた。
「――シグナム達が、一方的に負けた相手……?」
「……間違いないのね?」
聖王教会での出来事を聞いたフェイトが、信じられない様子でシグナムの発した言葉を繰り返す。
傍にいたシャマルも今聞いた話が信じられないのだろう、シグナムに確かめるように尋ねた。
「ああ……あの魔力波動、私が間違えるものか……」
「で、でもよぉ……そいつ、女だったんだろ?
だったら偶々魔力波動が似ただけの別人って可能性も……!」
「……私が奴の結界を切り裂いた時、一瞬ではあったが"白いカーテン"が見えた。
あれを扱えるのは、奴と……その術式を解析し、永年かけて再現したザフィーラしかいない。」
「そ、そうか……」
「……むぅ。」
シャマルの問いになおも間違いないと断言するシグナムにヴィータが可能性を提示するが、返答として挙げられたもう一つの根拠を前にザフィーラ共々閉口した。
「ザフィーラのあの魔法って、元はソイツの物だったてのかい……」
「厳密には魔法ではないがな……原理としては、むしろ属性変換資質に近い。
一般的に知られていない辺り、奴のオリジナルだろう。」
アルフの呟きにザフィーラが簡潔に答えたところで「話を戻すで」とはやてが口を挟み、再び全員の注目を集めると口を開いた。
「アイツは『私の教会でお会いしましょう』……そう言うた。
わざわざ聖王教会で一悶着起こした事も含めて考えると、間違いなく私等を誘い込むつもりや。
何らかの罠が仕掛けられているとは思うが……厄介な事に次元世界最大の宗教である『聖王教』の総本山にちょっかい出された以上、こっちも何もせん訳には行かん。」
そう言ってはやては頭を抱える。
次元世界最大規模の宗教組織と言うのは伊達ではない。いかに『禁忌』や『制約』が緩い宗教であるとは言え、それが敬虔ではない事とイコールではないのだ。
ましてや総本山である『聖王教会』に侵入し、そこで許可もなく魔法を使用したともなればそれは聖王の威光に対する挑戦と捉える者も出て来るだろう。
信徒達の管理局への信頼を損ねない為にも、罠の可能性があろうと行動を起こさない訳には行かない事情があった。
そんな重苦しい空気が漂う中、ふとなのはの疑問が響いた。
「……もし罠だとして……何が目的なんだろう?」
「ん? どういう事や、なのはちゃん?」
問いの意味を尋ねるはやてに、なのはは自らの感じた"不自然さ"を確かめるように話し始めた。
「もしも今回聖王教会に来たって言う人が予言の"凶星"だとすると、目的は"滅び"に関する何かなんだよね?」
「まぁ、そうなるやろな。」
「今までで比較的有力って言われてる説の通り、"滅び"が管理局の崩壊やミッドチルダの消滅を指すなら、もっと
なのはの感じた違和感はそこだった。
以前なのはが過剰な訓練を己に課していた時、なのはは数々の"滅び"のシチュエーションを想定し、
『向かって来ようと』……即ち、罠や待ち伏せと言った受け身の姿勢になるのはこちら側だという想定が前提に有ったのだ。
「……確かに、目的に反して受け身な姿勢って言うのは気になるところやな。」
それを指摘されたはやてはなのはの主張に一理あるとして、戦いの経験が最も豊富であろうシグナムに目配せする。
その視線を受けたシグナムは長らく戦いに身を置き、戦争にも参加した経験から最も考えられる可能性をピックアップし、話し始めた。
「……目的として分かりやすいのは、『教会に管理局の主戦力を集中させる事』だろう。
全ての戦力を割く事は無いにしても、教会に踏み込んだ戦力分、他の守りは薄くなる。」
「その隙に本命を襲撃する可能性があるっちゅう事か……」
「……或いは……」
「うん?」
はやてが敵の狙う"本命"が何処かを考えていると、シグナムがぼそりと言葉を漏らした。
その呟きをはやてが問うと、シグナムは先程の仮説を話した時よりも自信なさげにこう続けた。
「いえ、或いは"そもそも罠ではない"と言う可能性もあるかも知れないと……私自身、根拠を求められれば『直感』としか言いようがないのですが。」
「罠やないって……聖王教会にちょっかいを出しておいて、単に話し合いの場を設けるだけが目的とは考えにくいで?
一戦交えるんが目的なら、それこそ聖王教会でやったやろうし……」
「はい……私自身、妙な感覚なのですが……
……すみません、少し整理する時間をください。」
そう言ってしばらく考え込むシグナム。
はやてとしても直接戦った事があるシグナムの直感は無視しがたく、シグナムの答えを待つ事にした。
「――やはり、違和感があります。
私達が以前戦った"奴"の実力を考えると、今地上に於いて"彼女"に対応出来る可能性があるのは、我々機動六課のみの筈なのです。」
「まぁ……"滅び"に対抗する為に無理くり戦力を集中させとるからな。現状最も実力のある部隊の一つやとは私も思う。」
実際、今の機動六課の戦力を他の部隊と比較すれば、『過剰』と言う評価が相応しいだろう。
そんなはやての言葉にシグナムは一つ頷きを返すと、話を続けた。
「問題は、何故そんな部隊の前に態々姿を現したのかです。
私達は今日、奴に出会うまで
「……! そうか……確かに、そうや。
本命があるのなら、もう取っている筈や。でも……だったらアイツの狙いはなんや?」
「『私達が教会に足を踏み入れる事』……それそのものが"目的"……そう言わざるを得ません。」
「なるほど、それはつまり…………何の為や?」
「……断言は出来ませんが……自らに有利な場所で
シグナムがそう言いながら、一人の女性に目を向ける。
自然とその場に居る全員の視線が、その女性に集まった。
「……えっ、私?」
その女性、高町なのはは驚いたように自身を指差していた。
――同刻 時空管理局本局 古代遺失物管理部 4課 隊舎 ブラバス少将の執務室
「――そうか、では『生死体事件』の被害者は……」
『ええ、送った報告書の通りよ。
一例目の少女が、今回見つかった少女と同じ出自なら……だけれど。』
ブラバス少将は自らの机に備え付けられた端末を通して、機動六課隊舎のメンテナンスルームに居るプレシアからの報告を受けていた。
報告の内容は、彼女が機動六課に移る前に依頼した『生死体事件』の被害者と思われていた少女に関してだ。
彼女はあの後、プレシアによって様々な検査にかけられ、その体を隅々まで調べ上げられていた。
その結果、プレシアは『今回の事件に被害者は存在しない』と結論付けた。
「むぅ……だが、君の言う様に彼女が『造られた存在』だと言うのなら、その素体になった者が居る可能性があるのではないかね?」
『その可能性は否定できないけれど……少なくとも、彼女と似た容姿はしていないでしょうね。』
「ほう……それは何故?」
『彼女の造られ方が特殊だからよ。
普通、彼女のような『人造魔導士』を生み出そうとするなら、貴方が言う様に素体を用意するのが最も手っ取り早いわ。
……まぁ、人間の人造魔導士だと法に触れるけれどね。』
『私のように……』という言葉を飲み込み、プレシアは続けた。
『だけど、彼女の場合はそういった法の抜け道を突くように造られている。
素体の遺伝子情報を組み替え、培養した生体細胞を使って各種臓器を作り出し、それをまるで組み立てるかのようにして生み出された少女……
まるで、細胞で組み立てられた機械兵ね。』
「成程な……だがその造り方の場合、手間やコストはどうなる?
俺はそっちの分野に関しては門外漢ではあるが……今回の少女がその手間に見合った物だとは到底思えん。」
プレシアの説明を聞き、少女……『生きた死体』がどんな存在かを理解したブラバス少将は、胸の内に抱いた疑問を投げかける。
自分には彼女を造る理由が想像できないが、自分と違いその方面に明るいプレシアならば、自分には見えないものが見えるかも知れないと思ったのだ。
『勿論手間もコストもとんでもなく掛かるわ。
貴方の言う通り、普通に考えれば今回の少女は手間と成果が合っていない。
実際、彼女には自発的な意思……そうね、"魂"と呼べるものが無い。
機械兵とは違って命令を理解する事もない以上、彼女が目覚める事も動く事も無いでしょうね……これでは人形と変わらないわ。』
しかし、彼女の返答は自分の想像とそれほどの差は無く、ブラバス少将はここに来てある種の『手詰まり』感を抱いた。
被害者はおらず、法にも触れない……これでは少女の正体が判明したところで、本格的な捜査に入るのは難しいと。
「そうか……しかしそうなると、以前俺の知り合いが言っていたような『事件の揉み消し』は無かったという事か?
いや、或いは彼女はただ失敗作だっただけで、裏で何らかの計画が動いている可能性はあるか……」
『それに関しては私の知るところではないわね。
分かる人には何かしらの用途があるのかも知れないし……ただ、一つ言える事があるわ。
例の少女、"魂"は入ってないけれど
彼女はそうあるべき存在として作られ、そして何らかの目的の為に放置されていたのよ。』
「……一体、誰が何の為にそんな事を?」
ブラバス少将の疑問も尤もだろう。
コストばかりで何も利益にならない人造魔導士を造るくらいなら、それこそ生体パーツで作る事さえ捨てて、ただの人形を作れば良いだけなのだ。
『目的は不明ね。ただ、造った者……いえ、
「ほう……誰かね?」
そしてその結論はプレシアも同じで、彼女にもその目的は判然としない……だが、彼女には今回の検査で新たに一つの心当たりが浮かんでいた。
プレシアは『生きた死体』と自ら評したその少女を生み出した技術を解析するうち、ある時から記憶の底で何かが疼くような感覚を覚え始めていた。
それがある種の『既視感』である事に気付くのにそう時間はかからなかったが、その時は途中で捜査が打ち切られた為に既視感の正体までは分からなかった。
だが今回の検査にてプレシアはその既視感の正体が、かつて自らも目を通した研究……『プロジェクトF』である事に気付いたのだ。
そして『生きた死体』の製造がその技術をもってしても、並の研究者には不可能である事も……
そう、プレシアがただ一人『生死体の少女を造る事が出来る』と挙げた名は――
『"ジェイル・スカリエッティ"……嘗て『プロジェクトF』と言う、人造魔導士の研究をしていた男よ。』
――同刻 HE教会 地下
とある一室に並ぶいくつものベッドの上に、同じ様な姿勢で寝転ぶ銀髪オッドアイ達の姿があった。
彼等の頭部には一様に『J/C』のロゴが付いたヘッドギアが装着されており、そのどれもが『プレイ中』を示すランプを点滅させている。
そんな中をただ一人、静かに歩く少女の姿があった。
「ジェイル・ギア……本当に素晴らしい発明ね。
コレのおかげで彼等を集めるのも、
少女は静かに彼等の眠る部屋を見回すと、満足げな表情で部屋を後にする。
「昔は大変だった……私以外の転生者がいると、私の能力はまるで働いてくれなかったから……」
やがて彼女が辿り着いたのは、地下をくり抜いて作られた大聖堂……63体の『生きた死体』が眠る場所だ。
その最奥に立ち、彼女は虚空をしばらく見つめると……
「……明日、14時頃になると未来が
予想以上に動きは早いですが、想定内ですね。
仮想空間から戻って来たら彼等に予め丁重に案内するように言っておきましょう、彼女達と敵対する事は望まないでしょうから。」
彼女はそのまましばらく宙へと視線を走らせた後、やがて誰に対してでもなく呟いた。
「これで漸く私の計画は進められる……良かった、本当に……」
その口元が三日月の様な弧を描く。
「――
当然ジェイル・スカリエッティも何らかの形でかかわってきます。
あ、VRに関しては完全にスカさんの独断で作ってます。たまたま"彼女"にとっても都合の良いアイテムだったと言うだけですね。
はやての部屋での話し合いにプレシア、リニスが居ないのは、彼女達は予言について聞かされてない側だからです。