転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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ハッピーエンド教会前にて

休日明けの機動六課……訓練に使う広場にて、シャーリーと木之元から直々にフォワード達へとデバイスの返還が行われていた。

 

「――よし、これで全員に行き渡ったね?

 じゃあ続いて今回の調整の内容と、追加した機能について説明するよー」

 

そう言って、木之元は少し自慢気な様子で内容を述べていく。

 

彼女がデバイスに施した調整は、今までよりも魔力の伝達速度や瞬間的な最大出力を強化すると言った基礎スペックの向上と、それぞれの戦闘データの解析で判明した癖をカバーまたは、逆にそれを強みとして活かす為のギミックの追加だ。

 

言葉にして羅列すると小難しい事を言っているように聞こえるが、要するに今までよりも戦いやすく、且つ強くなったと考えて間違いは無いだろう。

実際、彼女は小学生の頃からそう言った改良を良く行って来た為、その手の調整でミスをする事は非常に稀だ。

 

「――と、まぁこんな感じで、以前よりも一層君達に合わせた調整になったって事なんだけど……

 これまでとは全然感覚も変わると思うから、本格的な訓練の前に取りあえず使ってみて慣れた方が良いかな。」

 

と、フォワード達に説明した後、木之元はなのはの方を振り返りそう締めくくる。

 

「うん、分かった。それじゃあ……」

「えっと……すみません、質問良いでしょうか?」

「キャロ? うん、良いよ。」

 

おずおずと言った様子で手を挙げたキャロになのはが質問を許可すると、キャロは周囲を一度確認すると尋ねた。

 

「えっと、フェイトさん達は……?」

 

彼女が尋ねたのは、訓練開始時刻になっても姿を現さない隊長陣の事であった。

実際、この場に来ている隊長陣は高町なのは一人であり、フェイト・テスタロッサはおろか、ヴィータやシグナムと言ったヴォルケンリッターの姿も見えない。

いつもであれば最低でもなのはを含む二人以上の隊長陣が訓練に付き添う事になっており、こう言った事は非常に珍しかった。

他のフォワード達も同様の疑問を抱いていたのだろう、なのはの返答を待っている。

 

するとなのはは少し困ったような笑みを浮かべると、申し訳なさそうに答えた。

 

「ゴメンね、今日は私だけなんだ。ちょっと皆外せない用事が入っちゃってて……」

 

なのは自身、苦しい言い訳だという事は理解している。

隊長陣が訓練に付き添うのは訓練中、フォワード陣に何かあった場合に対処する為であり、余程の用事でもなければ『当日来れない』なんて事が無いように予めスケジュールを調整できるし、実際にそうしてきた。

 

更に言えばこの日の前日は休日だったのだ。

外せない予定があったとしても、予定の調整はいつもより容易だったはずだ。

 

――やっぱり、この言い訳は苦しいよ、はやてちゃん……

 

予め決めていた通りに説明を続けるなのはも無理がある内容だと理解しつつも、本当の事を話す訳にも行かない。

彼女の眼から見てもフォワード陣は大分成長したとは思うが、それでもまだもう少し足りないのだ。

滅びの予言に記された"凶星"……その第一候補との戦闘になるかもしれない場所に連れて行くのには。

 

 

 


 

 

 

その日の午後1時頃……HE教会の前に数台の車が停車すると、その中から数人の女性が姿を現した。

その顔ぶれを知る者からすれば、一体何事かと興味をそそられると同時に動揺が走るだろう……そんな面々だった。

 

「皆、予め説明しておいた通りや。

 聖王教会での行動がアイツの独断か教団の総意か分かるまでは、こっちも下手な動きは出来んで。

 アイツに妙な大義名分を与えんようにな。」

「ああ。」

「承知。」

「……おう。」

「ええ。」

「はい、はやて。」

「任せて下さいですよ!」

 

その数七名、ヴォルケンリッターとその主八神はやてはHE教会の前に降り立つと、続いて停車した乗用車の中から降りて来た女性に目を向ける。

 

「フェイトちゃん達も、あまり気ぃ張らんようにな。

 あくまで今回、私達は表向きただの客として来とるんや……中で何かあるまでな。」

「うん、分かってるよ。」

『勿論!』

「……」

 

はやての言葉に了承を示すフェイト達だったが、その中の一名は教会を見てじっとしていた。

 

「――アルフ、ちゃんと聞いてた?」

「……えっ!? あ、ああ勿論! ちゃんと大人しくしてるよ!」

「……まぁ、ちゃんとフェイトちゃんの言うこと聞くんやで?」

「子ども扱いかい!? ……」

 

フェイトにつつかれて正気に返ったのか、慌てて返答するアルフ。

しかし、その直後には何かを考えるような表情になり、再び黙り込んでしまった。

 

彼女のこんな姿は珍しいと言いたげに視線を交わすはやてとフェイトだったが、アルフの内心はそれどころではなかった。

 

――どういう事だい? この匂いは……だって、もう()()()()は居ない筈じゃないか。気のせいなら良いんだけど……

 

「フェイト、はやて……()()()()()()()冷静にね……」

「アルフ……?」

「……気には留めておくわ。」

 

その後も数台の乗用車から何人もの職員が降りて来るが、その中にはやてがよく知る者は()()()

彼等は今回の作戦の為に様々な部隊から急遽借りて来た戦力たちだった。

借りてきたと言っても要請したのが昨日の夜だ。それも正規の手続きを通していては間に合わない為、はやてのコネを通してなんとか集めた物。

部隊としてはなんとも心許ない20人弱程度の人数ではあるが、転生者の視点と情報を持つはやてには、今回の作戦には必要不可欠な戦力であると言う確信があった。

 

――あの髪と目の色、そして実力から考えて今回の相手はほぼ間違いなく転生者や。

 

そう作戦を振り返る中、脳裏に懐かしい女性の姿が思い浮かぶ。

 

――あの人は……美香さんは言うてた。転生者同士の戦いは互いが合意の上での物を除いて天使が仲裁に入る……今回の作戦、私とヴォルケンリッターはどうしても前面に出られん。でもそれは向こうも同じ筈や。相手の攻撃を私とヴォルケンリッターが防ごうと動けば、相手も私達には危害を加えられない……その隙を突いてフェイトちゃんや今回招集した転生者以外の魔導士が突けば、なのはちゃんが居らんくても早々負ける事は無い……普通なら。せやけど……

 

この事は転生者ではない者に説明する訳にも行かず、はやてとヴォルケンリッター達の間でのみ共有された内容だ。

転生者の視点で見れば、今回の相手が如何に強大であろうと立ち回り次第で封殺できる。

だが、それ故に今回の相手の目的が分からないのも確かだ。

 

――せやけど、皆の話からするとこの事は相手も知っとる筈や。何しろ、あいつ自身も一度天使に戦いを仲裁された経験がある。となると、相手も何らかの策を用意している筈や。そして、きっとそれこそが奴の本命。

 

借りてきた戦力の指揮官と挨拶を交わし、動きの打ち合わせをしながらも八神はやては考える。

 

――今回、相手の狙いとして可能性が高いと考えられた『高町なのはの撃墜による管理局の戦力低下』……それが当たっているとすれば、私達はこれからとんでもない罠の中に飛び込む事になる。その対策は一応考えて来たけど……

 

「……危険な役回りと知ってて引き受けてくれた事、彼女の友人として感謝します。」

 

そう言ってはやてが頭を下げたのは、今は機動六課でフォワード陣を教導中である筈の()()()()()だった。

いや――

 

「そっ、そんな! わ、私こそ光栄ですっ! あのなのはさんの()()()なんて大役を任せて貰えるなんて!」

 

正確には高町なのはの姿に化けた管理局員だ。主に人質や誘拐が関わる事件の解決の為に取られる手法の一つではあるのだが、今回はそれを敵の策の封殺に使おうと言う作戦だ。

当然、敵の策が予想通り高町なのはを狙ったものであるならば、彼女には多大な危険が伴う。しかしそれは木之元に急遽徹夜で用意して貰ったデバイスにより、安全策が講じられていた。

 

「既に何度も説明したと思うけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 記録された魔法の出力の関係で『再現』は一回きり……それも、セットアップの瞬間に半ば暴発に近い形で発動する事になる。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とはいえ、相手もそれを前提に来る筈や。」

「は、はい!」

 

木之元が今回の為だけに用意したレイジングハートそっくりのデバイスには、なのはそっくりのバリアジャケットと、なのはの魔力で構築されたプロテクションが封印されている。

魔力が膨大すぎて発動の制御も出来ず、意図的に暴発を起こして強引に発動する事しか出来なかったが、それでもなのはのプロテクションである事には間違いない。

後はその守りを頼りにしつつも、ヴォルケンリッター……特にザフィーラが主体となって彼女を守る事で相手の策を逆に封殺すると言う作戦だった。

 

……のだが……

 

「……何か、凄い緊張してるなぁ……そんななのはちゃん見たの初めてや。」

「す、すみません!」

「いや怒ってる訳やないんやけどな。」

 

――なんやこの可愛らしいなのはちゃん。持ち帰りた……調子狂うわぁ……

 

肝心のなのは役がこの調子では相手も直ぐに勘付く事だろう。

なのはやフェイトに憧れて入局したと言う話だったので、それも仕方ないのかも知れないが……

 

「えっと……もっとリラックスして、自然体にするとそれっぽくなると思う。」

「こ……こうですかっ!?」

「ふふっ……背筋ピンとし過ぎだよ、もっと落ち着いて。」

「わ、わわっ! こ、光栄です!!」

『なんか、小動物感凄いねー……お持ち帰』

「姉さん。」

『じょ、冗談だって!!』

 

聖王教会の騒動があったのは前日の事であり、作戦が固まったのも前日……何が言いたいかと言うと、演技指導が足りていないのだ。

高町なのはに憧れているだけあって、戦場の彼女に関する演技はほぼ問題無い。だが、こと普段の姿と言う物は有名であるほど出にくいもので……

 

「……なのはは普段私の事『フェイトちゃん』って呼ぶけど、大丈夫?」

「ちゃっ、ちゃん付けですか!?

 ふぇ……フェイト、ちゃん……う、うぅ……頑張ります……!」

 

急遽車内に連れ込んでの演技指導が始まったのだった。

 

「因みになのはちゃんは私の事も『はやてちゃん』って呼ぶで?」

「はやてちゃん……ですか……はい、気を付けます!」

「……何や釈然とせぇへんなぁ……」

 

……始まったのだった!




影武者ちゃんははやてさんを軽く見ているのではなく、なのはさんとフェイトさんに対する憧れが強すぎるだけなのです。
はやてさんは役職の関係上、あまり表に出て活躍していないイメージがあるので……

途中で「ん?」と思った方もいると思うのでここで一部キャラの認識を書いておきます。

・はやて⇔なのは
 互いに非転生者だと思っている。
・はやて⇔フェイト(アリシア)
 互いに非転生者だと思っている。
・フェイト⇔なのは
 互いに転生者だと知っている。
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