「あぁ……夜天の書の、八神はやてか……
こうして直接会うのは随分と久しぶりだね……」
「そんな事はどうでもええ!
何でアンタがここにおるんや!? グレアムおじさんはもう……!」
はやての声で漸く目の前の人物を認識したのか、疲れ切った声で話すリーゼロッテの様子を見たはやては、自らの内より湧き上がる疑問をそのまま投げかける。
数ヶ月前、彼の故郷であるイギリスで行われた葬儀には八神はやても参列しており、その際彼の知り合いの一人から彼の死因は聞いていた。
曰く『天寿を全うした』という事らしく、彼自身が見たと言う遺体には傷一つ無かったとはやては聞いていた。
事件性も確認されず、はやては彼の最期は穏やかな物だったと信じ、それ故にショックも少なく受け止められていたのだ……この時までは。
「父さまが亡くなったあの日……アイツが私達の所に現れたんだ。
それからと言う物、私達はずっとアイツの言いなりさ……
「使い魔……? でも、二人は既にグレアムおじさんの使い魔やった筈やろ!?
それが何で……」
主よりも長生きする事はあり得ない使い魔が、主に先立たれると言う現実。
そして彼女自身の口から語られる受け入れがたい真実に動揺を隠せないはやての耳に、リーゼアリアと同じく使い魔であるアルフの声が届く。
「……いや、既に使い魔だったとしても使い魔の契約が上書きされる可能性はある。」
「アルフ、何か心当たりがあるんか!?」
「ああ、随分と昔の事だけどね。でも今は先ず……」
「うん。詳しい話は後でする……だから、今はこの場を切り抜けよう。
指揮をお願い、はやて。」
詳しい事情を聞こうとするはやてをアルフの視線を受けたフェイトが諫めると、はやては僅かに逡巡した後、意識を切り替えたのかリーゼアリアに背を向けて"聖女"へと向き直る。
「……そうやな。あぁ、そうや。
先ずはここを出な、どうにもならへんな……!」
リーゼアリアの眼を見た時、はやては彼女自身には敵対の意が無い事を理解していた。
つまり、リーゼアリアは"聖女"の命令無しに動く事は無い。背後から襲われるとしても、命令が発せられてからの対処は可能と考えたのだ。
そして彼女を使い魔の契約で縛っている"聖女"さえどうにかしてしまえば、リーゼアリアを
「話はもうよろしいでしょうか?」
「あぁ、律儀に待っていてくれたんか。随分と余裕やないか。」
「それはそうでしょう?
貴女達が私に勝つには私が見た
ですが、それが出来る者は
"聖女"のその言葉の意味は、はやてには直ぐに伝わった。
――一体何時
未来を変えられる者……即ち転生者はこの場に於いては私とヴォルケンリッターくらいのものだ。
だが、転生者にはもう一つルールと言うか、制限がある。
……いや、厳密には戦う事があっても直ぐに
そして、"聖女"自身はこれまで戦意を見せていないのだ。
"聖女"の言う『警戒』も、
その証拠に今まで"聖女"は『話をしましょう』と言う明らかな建前を崩さず、杖を構えるどころかセットアップさえしていない状態のまま。
魔法は使用したが、こちらの拘束魔法を破壊すると言う
そして同時に理解する。
未だに方法は分からないが、リーゼアリアを契約で縛った理由は
――何が"聖女"や、随分とまた悪辣な真似しよってからに……!
戦意を見せず、杖を向けず、その状態であの魔力をかき消す魔法を振るう……その為に"使い魔"と言う存在は確かに理想的だった。
既に多くの戦闘経験を持ち、簡単な命令でその経験を活かせる"リーゼアリア"は、その戦闘技術の高さ故に目を付けられたのだろう。
そしてその用意周到さは、もう一つ情報をはやてに与えた。
――どうやら、今のこの状況は随分と前から計画されていた状況のようやな。
奴の余裕の態度から考えても、ここまでは向こうのシナリオ通りっちゅう訳か。
……しかし、どうにも解せんところがある。
考えながら、はやては周囲の状況を確認する。
――こんなに回りくどい方法で教会に誘い込んで、退路を塞いで……それだけか?
リーゼアリアもこちらの退路を塞いで以降、動かす気配もない。
じりじりと追いつめて……まるで
その時、はやての脳裏に衝撃が走る。
それはこれまで直面した信じがたい事実……そのどれよりも信じられない彼女の狙い――その可能性に気付いたが故に。
――……正気か? いや、でもあの発言から考えてその可能性は高い……でも、何の為や?
そんな事しても、百害あって一利なしやろ……いや、でも他に考えられん……!
詳しい目的は分からん。分からんが……――
半ば直感的な閃きだったが、はやては不思議と確信を得ていた。
『聖王教会ではやて達が来ているタイミングで騒動を起こした事』、『何の抵抗もなく通された地下大聖堂』、『こちらの逃げ道を封じつつも危害を加えようとしない姿勢』、『銀髪オッドアイの溜まり場と化した教会』……これら全てに共通の理由があるとすれば……
――戦えん。私も、
「……シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラは私と一緒にリーゼアリアの無力化と退路の確保!
もう一人の"聖女の側近"も――」
「あたしは"こんな奴の側近"なんかじゃないッ!!」
「! その声……」
――やっぱりアンタやったんやな、リーゼロッテ。
「……リーゼロッテも、私等で対処する!
「「「「了解!」」」」
大声で飛ばされたはやての指示に、了承の意を返す局員たち。
その様子を見て"聖女"は呟く。
「……この布陣、どうやら目的を見抜かれましたかね……? 流石に全てではないでしょうけど……」
小さく漏らしたその言葉に続いて、"聖女"はバレない程度に視線を走らせる。
「行くよ、アルフ!」
「あぁ、サポートは任せな!」
――ですが、はやてさんも存外、
「フェイトさん、アルフさんを含めて21人……流石に多勢に無勢と言う奴ですか。
仕方ありません……それでは、私の『奥の手』を見せてあげましょう。」
――近くに来ている筈の『彼女』、或いは『彼』に見抜かれては一巻の終わりなのですから。
思惑を胸に秘めた"聖女"が指を鳴らすと、"パチィン!"と子気味の良い音が聖堂に響き渡り……
「な、何だ!? 地面から何かが飛び出して……!」
「筒……? いや、これは……!」
長椅子がせりあがり、その下から無数の筒……"生体ポッド"が飛び出して来る。
「――"生死体事件"の……!」
「"生死体事件"……? ああ、管理局ではそう呼ばれていたのですか。
まったく、彼女達の内二人も連れ去ってしまうとは……
まぁ、
局員の内の一人……恐らくは最初の生死体事件に関わった彼の呟きにそう返した"聖女"は、続けて一つのコマンドワードを口にする。
「"コアリリース"」
そのコマンドワードの効果なのだろう、"聖女"の身体が光を放つと、その内側から20個の光の球……否、
「なんや、今の……ッ! まさか!?」
「仮にも"聖女"ですからね、
その言葉が示す様に、リンカーコアが吸い込まれた少女達は次々にその閉じられていた眼を開き動き始める。
生体ポッドの内側で呆然とする者や、現状の把握に努めようとしているのか周囲を見回している者、ポッドのガラスを乱暴に叩き始める者などその反応は様々だった。
「どうやら上手く定着できたようですね。
ふふ……そう慌てなくても、今開けて差し上げますよ。」
再び"聖女"が指を鳴らすと
「さぁ、これで人数は五分五分です。私の"兵士"がどれほど戦えるのか……先ずは貴方達で試させていただきましょう。」
この小説内でのリンカーコアがどういう設定かについては、無印編の最終盤で少しだけアンジュが話している通りです。