至る所で魔法がぶつかり合い、その衝撃と爆音が絶え間なく地下大聖堂を揺らす。
"聖女"の起こした『奇跡』によって蘇った少女達の戦闘力は、管理局員達の想定をはるかに超えていた。
「セイッ、ハァァッ!」
「ぐっ……!」
荒々しい掛け声とともに放たれた『少女』の拳撃を障壁で防いだ途端、その拳から
「ははッ!
女って事に気付いた時にはどうしようかと思ったが、この身体もなかなか悪くないな!
これなら存分に……いや、それ以上に俺の技を活かせそうだ!」
「どう言う事だ……魔力の量も多いが、それにしてもこの
後退した局員に即座に接近し、魔力を込めた拳と脚で放たれる怒涛の連撃を受け流しつつ、局員は空戦を繰り広げるフェイトへと視線を向ける。
「ハァッ!」
「あぐぅっ! 痛い、けどぉ……まだまだ力が湧いて来るぅ!!」
「くっ……! やり辛い……!」
そこにはフェイトの攻撃を障壁すら張らずに受け止め、ダメージを負いながらもフェイトを追い回す『少女』の姿があった。
「"聖女"様ぁ! 見てますか!? 私、今貴女のお役に立ててますかぁ!?」
「ええ、勿論。もっともっと体を張って下さいね。」
「はい! 喜んでぇ!!」
嬉々として攻撃を受ける『少女』の姿に、やり辛そうな様子で対処するフェイト。
本来であればとっくに決着がついている筈の二人の戦いは、フェイトにかけられたリミッターと、『少女』の持つ膨大な魔力によって奇妙な均衡を保っていた。
そしてその間にも……
「オイオイ戦いの最中に余所見かぁ!? 俺を見ろ俺をォ!」
「お前は、あの子の姿を見て何も思わないのか!? 今度はお前が
「ちっ……だからこうして戦ってんだろぉが!
俺は俺である為にお前らを倒す! そんでもう一度この時代に俺の
"失伝"したとかふざけんなぁっ!!」
「ぐおぉっ!!?」
攻撃を防ぎつつも説得を試みていた局員は、やや涙交じりの重い一撃に壁際まで吹っ飛ばされながら考える。
――やり辛いな、無理やりに従わせられている相手と戦うと言うのは……!
最初に動いたのは、周囲の様子を窺っていた『少女』の内の一人だった。
彼女は先程の"聖女"の言葉に不愉快そうな表情を浮かべると、彼女に背を向けていた"聖女"へと無遠慮に近付きその口を開いた。
「――おい、そこの嬢ちゃんよぉ……てめぇが"私の兵士"っつったのは、まさか
しかし彼女の口から飛び出した言葉は、その愛らしい声とは裏腹に荒っぽい男性を思わせるもので、局員達の間には『少女』達が蘇った時とは違った意味の動揺が走った。
そんな中、声を掛けられた"聖女"もまた、これまでの印象とは違った気だるげな様子で振り返ると、『少女』に対して言葉を返す。
「まさかも何も、貴女達以外に誰が居るんです?
言ったでしょう? ――
「な……ッ!!? てめぇ、まさかあの時の――」
「『黙りなさい』、そして『私に忠誠を誓いなさい』。それと『私の事は話すな』。
……さぁ、貴方は"誰"の"何"ですか?」
「……! っ! っっ!!」
『少女』が何事かを口走ろうとした瞬間、その口は"聖女"の一言で開かなくなり、続けていくつかの命令を吹き込まれる。
そして、開かない口で"聖女"の問いに答えようとしているのか藻掻く少女を"聖女"はしばらく愉快そうに眺めた後、口を開く許可を出した。
「ふふふっ……! もう『喋っても良い』ですよ。さぁ、貴方は"誰"の"何"ですか?」
「はい! 俺は貴女の忠実な兵士です!」
「あぁ、言葉遣いと仕草は女性らしくしてみましょうか。」
「はい! ……えっと、こうですかね……?」
「ええ、十分ですよ。
「はい! 以後、徹底いたします!」
自身の在り方を根底から否定されたのにも拘らず、この一瞬で変えられてしまった『少女』は気にした様子も無く拙い敬礼までして見せた。
そのあまりの光景には局員だけでなく、他の『少女』達も唖然とした様子で"聖女"を見ていたが、"聖女"が彼女達の方へ視線を向けると途端に姿勢を正した。今の自分達がどういう状況であるのかを察したのだろう。
「理解が早くて助かります。
ご自分の意思で私に従っていただければ、私も貴女達に余計な手を加えたりはしません。
それどころか貴女達にとっては遠い未来であるこの時代を、ある程度自由に謳歌させてあげましょう。
かつての様な
そう笑顔で告げる"聖女"に、各々の言葉で忠誠を誓う少女達。
その様子を満足気に見ると"聖女"はフェイト達に向き直り、仕切り直す様に口を開いた。
「お待たせしました。
では改めて紹介しましょう、彼女達が私の兵士です。
私を捉えようとするのであれば、代わりに彼女達が相手になるでしょう。」
「――はぁっ!」
≪Plasma Barret.≫
「あばばばばっ!!」
脳裏に過った先程の光景をかき消すように、フェイトが放ったプラズマバレットは一瞬で『少女』を取り囲むと間髪入れずに着弾、電気の性質によりその体を痺れさせた。
<姉さん、解析結果は!?>
<予想通り、あの子達のリンカーコアから"聖女"に対して魔力のパスが伸びてる!
攻撃に参加はしてないけど、"聖女"から魔力が供給されてるみたい!>
<それって……>
戦闘の間、相手の解析に集中していたアリシアの報告を聞いて、フェイトがまず思い浮かべたのは『使い魔と主の関係』だ。
主は使い魔に魔力を供給し、使い魔はその魔力によってその存在を安定させ、供給された魔力で戦う。
だが……
<たぶん、使い魔と主とはまた違った関係だと思う。
普通、使い魔契約の魔法で供給される魔力は一定で、ごく少量でしょ?
でもあの人達の場合……>
<……それは私も感じてた。
彼女達の場合、
<うん。だから異常にタフだし、魔力の量も桁違いに多く感じるんだよ。
それに、魔力の質も聞いていたのとは違うでしょ?>
アリシアの言葉にフェイトは「そういえば」と思い出す。
はやて達から聞いた"聖女"の魔力光は多数の色が混ざったマーブル状、対して今管理局員が戦っている『少女』達の魔力は……
<――どちらかと言うと、私達に近い……?>
<これって、やっぱりそう言う事かな?>
思えば聖女が少女を復活させたときにもヒントはあったのだ。
"聖女"の身体から飛び出したリンカーコアが入り込んだ『少女』達が動き出した……その時入り込んだリンカーコアの元々の持ち主が、今『少女』の身体を動かしている事までは想像できていた。
だが、もしも……
<もし、あのリンカーコアが入るよりも前から
<今はまだ持ってる魔力を力任せに使ってるだけみたいだけど、もし私達やアルフみたいに『2つの魔力を使う戦い方』を見つけちゃったら――!>
<……ちょっと、厄介な事になるかもしれないね。アルフは今どんな感じ?>
<今のところは大丈夫、通常状態で戦ってるよ。
魔力が多くても基本的な動きでアルフの方が上だから、魔力の消費を抑えてるみたい。>
<解った、念話でそのまま通常状態で相手するように伝えて。
相手にヒントを与えないようにって。>
<了解!>
――これでアルフは良いとして……そろそろかな。
相談の間も時間を測っていたフェイトが下を確認すると、地面を蹴った勢いで飛び出して来る『少女』と目が合った。
「良くも痺れさせてくれたわね! 今度はそう簡単にはやられないんだから!!」
そう言って『少女』は2色の魔力を身に纏い、簡易的なフィールドタイプの防御魔法を張る。
どうやら魔力を防御に使う事を覚えたらしい。
――余計な知識を付ける前に、決着を付ける!
「撃ち抜け、雷神!」
≪Jet Zamber!≫
迎え撃つように構えたバルディッシュが一瞬でザンバーフォームに切り替わり、その刀身が眩い輝きを放つ。
だが……
≪拙い、フェイトちゃん!!≫
「避けろォ!!」
「――ッ!?」
はやてから飛んできた念話に続き、『避けろ』と叫びつつ飛び出してきたリーゼロッテが、その拳に
「くっ!!」
リーゼロッテの速度から回避は間に合わないと判断したフェイトは、慌ててバルディッシュの刀身で攻撃を受けるが、白い魔力を直接叩き込まれた事でバルディッシュに込められた魔力と術式が霧散してしまう。
「ごめん、身体が勝手に動くんだ! 『サポートしろ』って命令されたから……!
うわっ!!?」
言葉の途中で体の向きを変え、リーゼロッテは再びはやてと戦うリーゼアリアの下へと帰って行く。
視線を戻せば既に眼前には『少女』の拳が迫っていた。
「コレはお返しッ!」
<ラウンドシールド!>
その拳がフェイトの頬を打ち据える寸前、アリシアが張ったラウンドシールドが拳を防ぎ……
<バリアバースト!>
一瞬で障壁をバーストさせ、反撃した。
「痛ったあぁぁぁッ!!」
魔力ダメージを受け、白煙を上げる拳を抑える『少女』を尻目に慌てて距離を取るフェイト。
<ごめん姉さん、助かった!>
<気にしないで! アルフに念話は済ませたよ、『了解』だって!>
<うん。……それにしても、厄介だね。>
<リーゼロッテさんかぁ……あの人のサポートが入る以上、大振りな攻撃は難しいね。
かと言って威力の小さい攻撃はあまり効果が期待できないし……>
リミッターがかけられているフェイトの魔法は、その出力を大きく減少させている。
解除できるはやてはこの場に居るが、一度リミッターを解除すれば今度それが出来るのはまたしばらく先になるだろう。
今回の一件は確かに厄介な状況ではあるが『滅び』と言うには規模が小さすぎる事を考えると、温存しない訳にも行かない。
<もしかして、"聖女"の狙いは私達にリミッターを外させる事……?>
<どうなんだろう……? それなら"聖女"が直接戦った方が手っ取り早いような……>
状況から少しでも多くの情報を得ようとするフェイトの前で、拳の痛みに悶えていた『少女』がニヤリとした笑みを浮かべる。
「あぁ……痛かったぁ……! 痛かったけどぉ……良いもの見れちゃったぁ!」
そう言うと少女はフェイトに向けて再び飛翔する。
もう何度目とも知れない突撃に、フェイトは再び感電させて動きを封じるべくバルディッシュを構えると先程同様プラズマバレットを撃ち出した。
「はっ!」
≪Plasma Barret.≫
再び多数のプラズマバレットに包囲された少女。
恐らくは先程と同じようになるだろうと予想していたフェイトは、次の瞬間驚愕に目を見開いた。
「バリア!!」
「な……!」
少女はそれまでとは違い、障壁を張っていた。
・失伝した少女
元は昔の武闘家。
若くして独自の武術を確立させ、数人ではあるが弟子もいた。
全ての弟子を免許皆伝と認めた後、少しでも武の深奥に近付く為、
肉体のピークをとうに過ぎた老体の身で山籠もりの修行を決行。
修行の中で寿命を迎えるつもりであったがその命が尽きる数日前、
銀髪オッドアイの『とある青年』と出会う。
・全てを変えられた少女
元はとある盗賊の下っ端。
リンカーコアを持っていながら魔法が使える事を死ぬまで知らなかった。
飛翔魔法を使ったのも、フィールド系の障壁を張ったのも、ラウンドシールドを会得したのも見様見真似のぶっつけ本番。
"聖女"≒"襲撃者"が初めて戦った相手の一人であり、恨みを買っている。