転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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多分過去編は次回で完結かな……?


特別な出会いと別れ

老人のリンカーコアを得てから、早数年の時が流れた。

その間、俺は未来視の光景を覆すに足る力を得る為、優れたリンカーコアの持ち主を探して様々な国を転々としたのだが……

 

「中々、思い通りには行かないもんだなぁ……」

 

あれからと言う物、成果は芳しくなかった。

収穫が無い訳ではないが、あの老人程のリンカーコアには中々巡り会えず、居たとしても国の重要人物で中々近付けなかったり、まだ若く寿命が遠かったりと回収に至らない事が殆どだったのだ。

 

「まぁ、優秀な奴ならそりゃ最初に国が抱え込むよなぁ……」

 

正直甘く考えていたところはあった。

ファンタジー世界を題材にしたアニメやゲームでは、割と『冒険者』だとか『傭兵』だとかの中にやたら強い奴が居るのが鉄板だったからだ。

だが現実的に考えてそんな奴を国がスカウトしない訳無いし、余程の事情が無ければそんなスカウトを断れるはずもないのだ。

……そもそも『冒険者』なんて職業、少なくともこの時代のこの世界には存在していなかったし。

 

――ここは逆に都から離れた村とかの方がチャンスはあるか?

 

都では優れた教育を受けられるからか、才能ある者は直ぐに頭角を現して(目を付けられて)しまう。

ならば逆に都から離れた村で、『磨かれる前の原石』を探す方がワンチャンある気がする。

そう考えた俺は滞在していた宿をチェックアウトし、今度は村を探す旅に出た。

探すとは言っても、行商人が使うのだろう道があるので早々迷いはしないが。

 

 

 

それからさらに数年、立ち寄った村にて中々の出会いがあった。

 

「……いらっしゃい。何か買うかい?」

 

見つけたのは一人の青年だった。

村の一角で露店を開いていた彼は俺が見つけた時には既に左脚を失っており、憎しみを湛えた眼で俺にそう声をかけて来た。

当然そんな様子の彼に好んで近付こうとする者は居らず、そして逆にそんな状態だからこそ俺も直ぐに彼を見つけられたのだ。

 

……そう、全身からまるで刃のように鋭い魔力波動を放つ彼を。

 

「なぁ、アンタ。その脚は何か訳有りか?」

「見かけ以上に図々しいね、オッサン。

 ……まぁ、つまらない話だが、()()()()()()()話してやるよ。」

「そうか、それじゃ……このナイフでも貰おうかな。」

 

見かけ以上にって……いや、まぁ確かに身体は盗賊だが。

 

しかしまぁ、なんとも商魂たくましい事だ。だが物を買えば話してくれると言うのは、こちらとしても話が早くて助かる。……まぁ、ナイフの値段は異常に高かったが。

 

「まいど。……さて、どこから話すかな。」

「……さらに物買わなきゃ最後までは話さないってのは無しだぞ?」

「しねぇよそんな事。だが……そうだな、切っ掛けは1年前の事なんだが――」

 

 

 

――聞けば、彼は元々夫婦で行商を営んでいたが、ある日王都での商売の為に品を運んでいたところを大規模な盗賊団に襲われたのだとか。

雇っていた護衛は数で突破され、商品と馬は奪われ馬車は壊され、愛する妻は殺された。彼自身は馬車の下敷きになった事で死んだと思われ生き延びたが、その時の負傷が原因で脚を失ったという事だった。

 

「……まぁ、こんな所だ。ここらじゃ珍しくもないし、聞いてもつまらない話だったろ?」

「いや、金を払っただけの価値は見出せたよ。」

 

彼の話と、妙に高い商品……そして、物腰穏やかな彼が放つとは思えない攻撃的な魔力。これだけの情報があれば彼の抱える物も自然と分かると言う物だ。

これは交渉材料として最適だと考え、俺は早速話を切り出した。

 

「――ところで、アンタ。その盗賊に復讐出来るって話、興味ないか?」

「……成程、アンタも商売人だったって訳か。

 そうだな……商品は買ってくれた事だし、取りあえず話だけは聞いてやるよ。」

「まいど。」

 

商売人だからか表面上は興味なさげに見えるが、魔力の反応は誤魔化せない。

「話だけは」と言いつつも、その一方で彼の魔力は「逃がさない」と言いたげに俺を取り巻いている。おかげで彼の魔力の質が良く分かった。

 

……今しがた買ったナイフよりも遥かに鋭く、そして脆い諸刃の剣。そんな雰囲気を感じた。

 

 

 

それから一週間後、彼の復讐は無事成し遂げられた。他ならぬ、彼自身の手で。

 

俺がやった事は簡単だ。彼にユニゾンし、身体の主導権を彼に預け、魔法の力を与えた。勿論、俺の補助付きだった為、彼は即座に魔法を自由に扱えるようになった。

 

飛翔魔法によって空を飛び、盗賊のアジトを見つけるまでが6日。そしてその翌日、アジトの洞窟を襲撃し、射撃魔法と拘束魔法で制圧。

その後、俺が買った物と同じナイフによって、彼は妻と自身の未来の仇をその手で討ったのだった。

 

「……ありがとうございます。おかげで、俺の悲願は果たされました。

 貴女に最大限の感謝を……今、()()をお支払い致します。」

 

復讐を終えた彼はそう言うと、盗賊達を殺したばかりのナイフで自ら命を絶った。

……身体の主導権を奪って止める事も出来たが、俺はそうしなかった。

 

彼の心には、もう本当にこの世に対する未練が一切残っていなかったからだ。ユニゾンした事で、彼が今まで生き長らえて来た日々の全てが苦痛と共にあった事を知ったからだ。

 

「感謝か……」

 

彼が死んだことで再びユニゾンデバイスとなった俺の胸に手を当てると、彼のリンカーコアの力を感じる。それ自体は身体を替える度に感じてきた事ではあったが、今回に限っては少しばかり違う感覚もあった。

 

――このリンカーコアは、魔力が非常に滑らかに動く。まるで、リンカーコアの方から協力してくれているかのように。

 

「……もしも『この感覚』がそのおかげなのだとしたら、今後の方針を考え直すべきなのかもしれないな。」

 

俺が先週彼から買った原石は、どんな宝石よりも素晴らしい輝きを放っていた。

そしてその魔力は復讐を遂げた為か、或いはその過程で磨かれた為か……或いは、彼の言った『感謝』の為か、1週間前と比べて遥かに力強く変化を遂げていたのだ。

 

 

 


 

 

 

「――へぇ……中々興味深いわね、その話。」

「あぁ、俺も色々と身の振り方を考える切っ掛けになった男だったよ。」

 

あれから時は流れて数十年。

俺は目の前の女性に、これまで集めて来たリンカーコアの持ち主についての話をしていた。

盗賊狩りに励んだ事や、山で修行していた武闘家の話もしたっけ。

 

「リンカーコアの機能は精神的な影響を受けるって言うのは分かっていたけれど、他人のリンカーコアを扱える存在の意見はやっぱり参考になるわね。」

 

彼女はそう呟きながら、手元にある紙束に凄い勢いでペンを走らせている。

 

「大魔導士サマの研究の役に立てば幸いでーす。」

 

冗談めかしてそう言いながら『窓』が映し出す景色を横目で眺めると、そこには一面大都市の夜景が広がっていた。

 

――そう、ここはとある大国にある彼女の家の地下に作られた研究室だ。

以前考えた事もあったように、優れた魔導士と言う物は国も捨て置かない。特に、彼女のような『次元魔法』まで扱える者となればなおさらだ。

だから、こんな所に彼女の様なフリーの大魔導士が居ると言うのは非常に珍しいのだが……

 

「……その『大魔導士』って言うの、やめてよね。

 万が一にも聞かれたらどうするのよ。()()続けられなくなっちゃうじゃない。」

「はいはい、以後気を付けまーす。()・大魔導士様。」

「そう言う意味で言ったんじゃないわよ!?」

 

……彼女の場合、事情が少々特殊だ。

 

彼女は元々その高い魔力を買われ、この国の『戦略魔導軍将』と言う、それはもうとんでもなく偉く厳つい部隊の将だった。

だが度重なる戦争に嫌気がさし、周辺が平和になるや否や一方的に軍を辞め、その魔導技術を総動員して身を隠しているのだ。

 

しかもあろう事か、その逃げ出した王城が拝める距離で店まで出していると言う豪胆っぷり。最初に聞いた時は実は見つけて欲しいかまってちゃんかと思った程だ。

だが彼女、未だに国から逃れ続けている。信じられない事に、手配書まで出ていると言うのに見つかる気配もないのだ。

 

まぁ、手配書の似顔絵と今の彼女の顔は似ても似つかないので無理もないが。

……魔法のあるこの世界で手配書の似顔絵がどの程度役に立つのだろう。

 

そんな事を考えている間に、彼女のペンが止まった。

さて、それなりに長い付き合いだ。この後の彼女の行動は察しが付くので、俺も浮遊して彼女の傍に寄る。

すると彼女はいつものように次元魔法の『窓』を消すと、俺にこう言った。

 

「さ、ユニゾンするわよ! 仮説を立てたら証明しなきゃ!」

「了解、ユニゾン・イン。」

 

……彼女の研究はあくまで彼女自身の趣味だが、その内容は彼女のリンカーコアの質の高さ以上に興味深いものだった。

それは彼女が大魔導士であるがゆえに手を出せる研究であり、そして『例の光景』を覆し得る可能性を秘めた物……

 

「さて、あたしの仮説が正しければ、この世に二つとして同じものが無いとされる魔力波動には()()()()がある筈よ。

 それこそ属性変換を行っても変わらない波が。先ずはそれを見つける所から始めましょう!」

≪了解、それじゃ一つずつ試していくぞ。

 ……最初、盗賊Aの魔力波動だ。≫

「んー……うん、オッケー、記録した。じゃあ次!」

≪はいはい、じゃあ盗賊Bな。≫

「……よし、次! いやぁ、あの日フィールドワークに出て正解だったわ!

 アンタみたいな野生のユニゾンデバイスと会えたんだもの!」

≪一応、野生じゃないんだが……≫

 

彼女が今行っている研究は、この時代には既に存在していたとある魔法技術の延長線にある物だ。

しかし、彼女以外には未だ誰も手を付けていない開拓であり、そして俺は彼女がその開拓を成功させる未来を既に見ている。

それ故に俺は彼女に態と見つかるように、フィールドワークに出た彼女の前に現れたのだ。

()()()()()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

……あれから、色々な事があったな。

 

「――見つけたわ、これよ! この魔力の波が、全ての魔力の流れの基礎部分!」

≪これと言われても、俺にはどれを言ってるのか分からないんだが……≫

「アンタそれでもデバイスなの!? ほら、これよ! コレ!!」

≪デバイスだからってそこまで精通出来たら、今頃人間が研究する部分は残ってないと思うぞ?≫

 

彼女の研究に付き合っていると、それはもう多くの発見と刺激を得られた。

言っている内容は半分ほど脳を素通りしていたが、嬉しそうに早口で捲し立てる彼女を見るだけでも楽しかったものだ。

 

「――この女性なんだが、未だに消息が掴めないのだ。」

「まぁ……でも、それってもう結構昔のお話なんですよね?」

「……あぁ、正直俺ももうとっくにこの国から出て行ったんじゃないかって思ってるんだが、上が諦めてないみたいでなぁ……っと、今のは聞かなかった事にしてくれ。」

「兵士さんも大変なんですね、お疲れ様です。」

≪白々しい……≫

≪うっさい!≫

「やっぱり第二皇子が惚れてたって話はマジだったのかねぇ……」

「そのお話、詳しく。」

≪おい。≫

 

そうそう、店に国の兵士が手配書を持ってきた事もあったっけ。

結局ユニゾン中の髪と目の色を変装に利用した彼女に気付く事は無かったが。

 

「――ふっふっふ……さぁ、隠さず見せなさい!」

「やだよ!? 身体は女同士でもこれセクハラじゃないのか!?」

「昔の研究者がどうしてユニゾンデバイスの見た目を少女にしたのか、気になったら仕方なくなっちゃったのよ!!」

「知らねぇよ! 俺が知りたい……いや、なんか知りたくなくなってきた……」

 

今振り返ってもやっぱりアレはセクハラじゃないかと思うんだ。いや、女同士とか関係無しに。

……いや、確かになにもされなかったけどさ。

 

「――出来た……出来たわ!!

 これが魔力の基礎の波に直接影響する、新たな属性変換よ!!」

≪……すげぇな。この眼で見ると、やっぱり。≫

「ふふん、もっと感心してくれても良いのよ! そして、この術式を反転させれば!」

≪色が黒く……!≫

「こっちも大成功ね! 名付けるなら……属性変換『極光』と『深淵』!」

≪名前はもっと何とかならない? そんな名前が正式名称になったら俺はもう『白』『黒』で呼ぶよ?≫

「何でよ!?」

 

悲願成就の瞬間は俺も心の底から喜んだものだ。例え、出来ると知っていたとしてもな。

……名前はちょっと予想外だったが。

 

「――やっぱりあの時、城に帰っておくべきだったかも知れないわね。」

「いや、帰っても結果は変わらないと思うぞ?」

「いやいや、でも私忘れてないから。第二皇子は多分、いや間違いなく私に気があった!」

「そしてその第二皇子は隣の国の王女と今日結婚、と。」

「……今から式場に行って攫えないかしら。」

「婚期逃したってだけで何てこと考えるんだ、お前は!? 今度は手配書に『生死問わず』って書かれるぞ!?」

「そうよねぇ……」

「……? なんだよ、こっち見て。」

「……思えば、私達って長い付き合いよね?」

「え、お前もしかして今物凄い性癖の扉開こうとしてる?」

「ふふ、冗談よ。ただ、不思議と寂しくない理由が分かっただけ。」

 

なんやかんやで本当に長い付き合いになったよな、まぁ俺は最初からその予定ではあったんだけどさ。

 

……そう、俺は最初から、アンタの最期の時まで一緒にいるつもりだったんだ。

 

「――えぇ、気付いていたわ。貴女の目的が私のリンカーコアだって事くらいね。」

「そうか。いったい何時から……って聞くまでもないか。」

「貴女がリンカーコアの持ち主のお話をしてくれるまでは分からなかったわ。

 最初は驚いたけど……でも、隠さずに話してくれたんだって考えたら、ちょっと安心もしたの。

 少なくとも、黙って持って行くような子じゃないってね。」

「……そっか。じゃあ、話してて良かったな。

 隠し続けてたら……多分、もっと辛かった。」

「あら? 貴女はもう、結構な人の死を見て来たんじゃないの?」

「そうだな……だけどお前ほど親しい人の死に付き合うのは、二人目だ。

 最初の人は……俺の唯一の家族だった。」

「……その話は、まだ聞いた事が無かったわね。()()、聞かせて貰える?」

「今度……って事は……」

「えぇ、私のリンカーコアも、貴女の中に加えてちょうだい。

 何時の日か、また貴女とお話しできる時を待っているわ。」

「……わかった。俺も、その日が必ず来るように頑張るよ。

 また今のように、今以上に平穏な日々を共に過ごせるように。

 ――ユニゾン・イン。」

「……ありがとう、あの日、私の前に現れてくれて。」

≪っ!≫

 

 

 

――こんな筈じゃなかったんだけどな。

 

リンカーコアを手に入れた後、俺はいつも独りになる。今回もそうだ、何十年ぶりに俺は再び独りに戻った。

戻っただけなのに……

 

何時ものように、力強い熱を感じる胸に手を当てる。

 

そこにはいつも以上に眩い輝きと、それ以上に暗い穴が開いたようで……

 

『――妖精!? 貴女、妖精よね!!?』

 

あの日望んでいた物は確かに手に入れた筈なのに……

 

『――私の家に来ない? きっと楽しいから!』

 

 

 

「参ったなぁ……本当に、こんな筈じゃなかったんだけどなぁ……!」

 

俺にはこのどうしようもない喪失感をどう整理すれば良いのか分からなかった。

 




今回の二人は地下大聖堂で出てきてない二人です。
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