HE教会地下での戦いが終わった数十分後……HE教会の一室にて待つはやての元に、"聖女"はアルマに付き従うような形で現れた。
「――どうやら、約束はちゃんと守ってくれたようやな。」
「ええ、私もこれ以上の争いは望みませんもの。」
「……私も、その言葉が本心と信じたいものやけどな。」
あっけらかんと言い放つ聖女を警戒しつつも、はやては「ところで」とアルマの方へと視線を移す。
「なんや自分、随分と雰囲気変えたなぁ……」
「あはは……実は――」
最後にあった時と比べるまでもない程の『
「――と言う訳で、出頭させる為の取引の結果、今は私がこの教団の聖女という事に。」
「……この教団も表向きの存在理由があり、そちらを目的に通ってくれる信者さんもいるのです。
私が居なくなる以上は代わりの聖女が必要ですし、彼女であれば貴女も信用していただけるかと思いまして。」
アルマの言葉をそう補足する聖女の説明に、はやては「なるほどな」と一応の納得をして見せた。
聖女の独断とは言え、聖王教会に敵対するような行動を取ったこの教団がこれからも続いていくのかは分からない。だが、例え潰される結末になるとしても、説明もなく突然取り潰したのでは聖王教会も顰蹙を買う事は想像に難くない。
表向きは慈善団体である事が、ここに来て僅かながら影響を与えていた。
「まぁ、話は分かったわ。じゃあとりあえず二人共ついて来てくれるか? 詳しい事は局の方で取り調べるからな。」
そう言ってはやてが周囲に控えていた局員達へ軽く指示を飛ばすと、彼等は元・聖女とアルマの二人を取り囲むような配置につき、移動を促す。
「あの、すみません。実は私はこの後、聖女になった関係で色々と用事があるのですが……」
「ん? まぁ実行犯は明らかやし、アルマさんはきっと軽い取り調べで済む筈や。そう心配する事は無いと思うで?」
「そう……ですね。」
アルマの言葉にそう返したはやては、聖女たちを取り囲んだ局員を先導するように歩き始める。
≪皆、もう警戒はええで。聖女もアルマさんもちゃんとこっちに来てくれたわ。≫
≪了解です、はやて。直ぐに私達も合流します。≫
≪うん、お願いなシグナム。……あ、せや。シャマルは一足先に地上本部に連絡してくれるか? 使える取調室の確認をしておきたいんや。≫
≪分かりました。お任せください、はやてちゃん。≫
聖女が逃走を図る可能性に備えていたヴォルケンリッター達に思念通話を飛ばしながら、はやてはマルチタスクでこの後の予定を確認する。
――取りあえず、最優先事項の聖女の確保は達成した。これで聖王教会の方は納得させられるとして……問題は、例の少女達か。
『生死体事件』と言う名前を以前なのはから聞いて知っていたはやては、未解決のまま捜査が打ち切られた事件の裏に聖女が居た事に、内心頭を抱える。
――よりにもよって……って感じやな。聞いた話やと『生死体事件』は管理局の最高評議会とも関係がある事件や。これは厄介やで……
管理局最高評議会と聖女が『生死体事件』を通して繋がってしまった以上、一度直接確認しなければならないだろう。
そしてその結果、もし最高評議会が黒だった場合は……
――まぁ、いつも覚悟はしとった事や。あの三人が清廉潔白と言う訳ではない事は、前世の頃からよう知っとったからな……
頭を軽く振って思考を切り替える。今は聖女から得られる情報に期待するしかない。
最高評議会を問い詰めるにしても、情報は必要なのだから。
そう考えながら、聖女の方へと視線を向ける。
一体どんな説得がされたのか、それからも彼女は終始大人しく局員の言う事に従っていた。
――不幸中の幸いなのは、聖女がこっちの言う事を大人しく聞いてくれそうって事やな。これなら尋問も直ぐに終わりそうや。
「――と、思ったんやけどなぁ……」
地上本部の一室にて今日の事を振り返りつつ、モニターに映る
映し出されているのは、所謂『取調室』の光景だ。聖王教会で騒動を起こした動機や、今回の戦いで彼女が用いた『生きた死体』、過去の人物を蘇らせた魔法等、彼女から聞き出すべき事は非常に多い。
だが、彼女はそれまでの協力的に思えた態度から一転して、こちらからの問いに答える事はなかった。
……いや、答えないと言う訳ではないのだが、明らかに『ある一定のライン』を越える答えを返さないのだ。
『――はぁ……ったく、何度同じ事を聞かせるつもりだ!? いい加減、本当の事を話せ!』
モニター越しに尋問官の怒号が響く。彼も相当頭に来ているらしいが、その気持ちは私も同じだ。何せ――
『聖王教会での魔法の無断使用の動機は!?』
『はい、私達"HE教団"には聖王教会に対する敵意はありません。今は私の短絡的な行動を恥じるばかりです。』
『お前が動かしたと言う少女達は何だ!!』
『彼女達は私的な理由で集めていた人形です。動かしたのは、私の魔法ですわ。』
『出所を聞いているんだ! 協力者が居るんだろう!!』
『ええ、信者の方々にはいつも助けられてばかりです。彼等が日々協力してくださったからこそ、私達は今日まで活動を続けて来れたと言っても過言ではありませんわ。』
『~~ッ!! 貴様、舐めているのかッ!!?』
終始こんな調子だ。
聖王教会の一件は個人の判断でやってしまったが反省していると言う主張は一貫しているが、それ以外は徹底的にはぐらかしている。
実のところ、あの場で動いた少女達20人は既に押収され、プレシアさんを中心としたチームによる解析が進められている。
依然同じような少女を解析したと言う話は聞いていたし、その結果もそろそろ出るだろう。
そして、それは既に"聖女"にも明かしている。『隠しても無駄だ』と言う言葉と共に。
だが、それでも彼女は同じ返答を繰り返すばかりで……まるで彼女こそが人形であるかのような印象を抱かせた。
その時、部屋の扉が開き、一人の女性が入って来た。
「はやてさん、今良いかしら?」
「プレシアさんか。検査の結果が出たんか?」
「ええ。そちらの方は……進展はないみたいね。」
手元に小型の端末を持ったプレシアさんは、私が今しがた目を向けていたモニターを見ながら私の隣まで歩いて来ると、私に端末を手渡した。
「困ったもんや。あからさまに嘘と分かる内容をずっと繰り返しとる。」
「そう。……何だったら私の方で記憶を抽出する事も出来るけれど?」
「んー、その辺は人権が云々で認可の手続きが面倒やからなぁ……
極悪人だったり犯罪の規模が大きければ認可も降りやすいんやけど、今回の相手は表立った犯罪歴があんまなくてな。」
「そう言えば、聖王教会内で魔法を無断行使しただけだったわね。彼女の罪状って。」
「あぁ、場所が問題ではあっても流石にそれだけではちょっと弱いんや。
せめて生死体の少女の出所が分かれば、そっちからアプローチできるかもとは考えてるんやけどな。」
「成程ね……だったら、今回の検査結果は力になれるかもしれないわ。」
プレシアさんの言葉の意味は、端末の情報を読み進めるうちに理解する事となった。
「! これは――」
そこには今回押収された少女達の検査にて、これまでに確認された2例の『生死体』と同様の結果が得られたことに加えてこう記載されていた。
――『以上の共通点から、今回押収された少女達と、一例目の少女の"製造者"を同一の人物と断定する。』
「生死体と呼ばれる少女達は、非常に独特な製造過程で生み出されているの。
その特徴が今回の検査でも確認できたわ。詳しく聞くかしら?」
「興味深い話ではあるんやけど、また今度の機会にお願いするわ。確認なんやけど、製造過程が同じでも作者は違うってパターンではないんやな?」
「確かに同じ技術力と設備があれば再現は可能でしょうけど、今回に限っては考えにくいわね。"彼"レベルの技術力を持つ者が、そう何人もいるとは考えられないもの。」
プレシアさんがここまで言う人物となると、もう私には一人しか思い当たる人物は存在しない。
転生者である事がほぼ確実であり、それ故に事件を起こさないのではと考えていたのだが、その認識を改めなければならないようだ。
「……なるほどな、ジェイル・スカリエッティさんか。」
「ええ。確たる証拠は無いから、その資料には記載していないけれどね。
世間的には彼は大企業の社長と言うイメージが強いけれど、その本質は科学者よ。
人造魔導士研究の第一人者でもある彼ならば、彼女達の製造も可能でしょうね。」
彼の作り出した少女があの地下聖堂から見つかった。それも20人……今まで発見された生死体の実に10倍の数だ。
コレが示す可能性の中で最悪なのは『ジェイル・スカリエッティが聖女に協力しており、聖女を捉えてもジェイル・スカリエッティが自由であれば計画が続く』と言う物だ。
早急にジェイル・スカリエッティにも話を聞かなければならないが……
「任意の事情聴取が精々やろな……」
「そうね。最初の生死体事件の捜査も打ち切られているし、その時に『事件性は無い』と言う結論まで出ているもの。実際、被害者も存在しないし、犯罪と言っても精々が不法投棄が成立するかどうかくらいの物よ。」
「生死体そのものに違法性は?」
「それも無いわ。彼女達は生体パーツで組み立てられた魔導兵の様な物なのよ。
生体パーツの生成自体は合法だし、自ら動かない彼女達自身には危険性が存在しないもの。犯罪者がデバイスを使う事があっても、デバイスや製造者が悪とはならないのと同じでね。」
分かっていた事だが、ジェイル・スカリエッティには聖女以上に犯歴が無い。生死体を生み出したのが彼だと判明しても、それで追加される罪状はプレシアさんの言う通り不法投棄だ。死体遺棄にもならない。
そして任意の事情聴取の拘束力は非常に弱い。正直に話すとは思えないし、もしもジェイル・スカリエッティが黒だった場合、それで警戒されてしまえば今度こそ付け入る隙を失う事になるだろう。
それにしても不法投棄か……なのはちゃんが見つけたものと、数年前に発見されたものは両方とも人の目に触れにくい所に捨てられたように置かれていたらしいが、今となっては
もしもあれらが捨てられていたのではなく、聖女の依頼であそこに置かれていたとすれば……そうやって彼女達を受け渡す取引が成立していたとすれば……
「厄介やな……アプローチの方法が見つからん。」
「……それなんだけれど、更に別の角度から調べる事は出来るかもしれないわ。」
「別の角度?」
「思い出してみて? 最初の生死体事件の捜査が打ち切られた理由を。
貴女もなのはちゃんから聞いている筈よ。」
「――あ……
「ええ、彼等は間違いなく何かを知っているわ。少なくとも、製造者は当時すでに知っていたと考えるのが自然ね。」
そうだ、当時の捜査が打ち切られた理由は上からの指示だ。あの時は生死体事件の被害者が存在しないからと言う理由で納得させたようだが、今は違う。
生死体事件は聖女と繋がっていた。そして聖女は"滅び"に最も近い位置にいる"凶星"……ならば、"滅び"に対抗する為に設立された
「ありがとうなプレシアさん! 私先に六課に戻るな!」
「あ、その前に一つお願い良いかしら?」
「ん?」
「"彼"に会う事になった場合、私にも教えてくれない? 可能であればその場に同席もしたいわ。」
「それくらいならええで! 任せとき!」
「ええ、期待しているわ。」
「――以上が今回押収した少女達の概要です。」
『むぅ……』
『そうか、とするとあの時の少女は……』
今回の事件の顛末を伝えると、最高評議会の3人は少なからず動揺したようだった。特に、補足情報と言う体で報告した生死体の検査結果は、彼等にとってはより大きな衝撃を与えたらしい。
だが、こちらの本題はここからだ。
「また、今回の検査で実際に指揮を担当したプレシア・テスタロッサの報告で気になる点が。」
『! ……申してみよ。』
「はい。彼女の報告によると、数年前に『事件性無し』として捜査が打ち切られた『生死体事件』でも同様の検体を確認していたとの事です。
その際に捜査を打ち切る決定的な切っ掛けとなったのは――」
『……うむ、我らの判断だ。』
ゆさぶりも兼ねての報告に対する返答は、こちらが予想していたよりも幾分素直な物だった。
隠す気が無いという事なのだろう、その意思を受けて単刀直入に問いかける。
「それは、如何なる理由でしょうか。」
返答によっては、貴方達自身が捜査の対象になるぞと言外に告げると、彼等は私の予想外の提案を持ち掛けて来た。
『警戒するな、もはや隠す気は無い。だが今のように通信を介している状態では伝わらぬ事もある。
……明日の10時頃、機動六課の隊舎にて待っていろ。我らが直々に向かう。』
『なっ……!? 正気か!? 今の我等は……!』
『だからこそだ。直に目にすれば、自ずと伝わろう。』
『……くっ……!』
議長の申し出に真っ先に反応を示したのは、副議長だった。だが、私も内心では彼以上に信じられない気持ちだった。何故なら……
――どういう事や? 最高評議会は全員が体を捨てて、今は脳だけの状態の筈……それが直々に六課に来るやと……?
「分かりました。お待ちしてます。」
私が今の彼等の状況を知っていると思われても面倒なので、動揺を悟られないように深々と一礼してそう返すが……私も少なからず混乱していた為だろう、それ以上の追及をせぬままに通信は切られてしまった。
長くなりそうだったので色々と途中の描写を省いたりしたので、所々説明不足な所とかおかしい所があるかも知れません。
遠慮なく指摘していただければ直して行こうと思います。(元々意図していた箇所の場合はそのままにするかもしれません)