転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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想定以上の転生先

「なのはー!こっちこっち!」

 

通学バスに乗った途端、この数年ですっかり聞きなれた友達の声が聞こえた。

 

「あっ!アリサちゃん、おはよー!」

 

原作における高町なのはの親友アリサ・バニングスだ。

隣では、同じく親友の月村すずかが手を振ってくれている。

 

そう、俺は原作のなのはと同じようにこの二人と友人関係を構築する事が出来た。

とりあえずスタートは上々と言ったところだろう。

 

(今のところ原作通りに進める事が出来ているけど、これからどうしようか…)

 

笑顔の二人を見て今後の方針を考える。

というのも、()()()()()()()()()()()()()()()可能性があるからだ。

 

その可能性に思い至ったのは今向かっている学校、

私立聖祥大附属小学校の入学式の時だった…

 

 


 

―2年前 私立聖祥大附属小学校 入学式

 

俺は今、なのはの母である高町桃子さんと共に私立聖祥大附属小学校の入学式にやってきていた。

 

ここが原作でなのは達が通ってた私立聖祥大附属小学校か…

周りもみんな親子連れで、既に母親同士のコミュニケーションが形成されつつあるようだ。

桃子さんも話に加わるようで、手を引かれている俺も当然その場にとどまることになる。

 

しかし俺は暢気にしている時間は無い。

原作の流れに合わせ、高町なのはRPの完成度を高めるべくすることがあるのだ。

とりあえずアリサ・バニングスと月村すずかと友達にならないといけないし、

今のうちに顔を合わせておきたいな…

 

「どうしたのなのは?そんなにきょろきょろしちゃって…」

「何でもないよ!?今度からここに通うんだなって見てただけだから!」

 

(うーん、焦って桃子さんに怪しまれるのも良くなさそうだな…

原作で友達になってたって事は多分そう言うきっかけがあったんだと思うし、

今は素直に手を引かれておこう…)

 

「ふーん?

 …ね、なのは?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、もしかしてお友達?」

「えっ!?」

 

そう言われて見まわしてみると確かに『見られている』…

それも『有名タレントに街中で遭遇した時の野次馬のような目』だ。

 

直ぐに可能性に思い当たる。

もしかして、今俺を見ている新入生って全員…

 

そして改めて同級生を見まわして、俺はそいつを見つけた。

 

 

 

朝日をキラキラと反射させる『銀髪』。

 

右目が赤、左目が金の『オッドアイ』。

 

妙に整った顔立ち。

 

 

 

(間違いなく転生者です。本当にありがとうございました。)

 

これほどわかりやすい目印があるだろうか?いや無い。

それも、その容姿が一人や二人じゃない。

 

ざっと見てこの場に10人以上いる…

『転生者』がじゃない。『銀髪オッドアイの転生者』が、だ。

 

何やってんだよお前ら。

親の表情見てみろよ。

実の子とおんなじ顔が並んでて混乱してるじゃねぇか…

 

銀髪オッドアイ達も同じ容姿を持つ仲間(?)に気が付いたようだ。

途端に自信たっぷりだったキメ顔がしょぼくれていく…

 

文字通り絵に描いたようなイケメンになれたと言うのに、

ハンコ絵のような状態になってしまっているからだろうか。

そして自然と一ヶ所に集まって何やらひそひそ相談し始めると言うシュールな光景が…

 

思わず少し笑いそうになるが何とか堪えた。

この光景で笑うのは『テンプレ踏み台転生者』と言う言葉を知っている奴だけだ。

桃子さんもこれには困惑しているだろうと思い見上げてみれば…

 

「ふ、…くふっ…」

 

あれ?何やら笑いをこらえているような表情…肩も少し震えているような…

 

「な、なんでもないの。

 ただ、少し驚いちゃって…ふふっ…」

 

嫌な予感がする。

いや、この状況で困惑より笑いが込み上げると言う事は…

 

(おいおい…まさか、()()()()()なのか…?

全然気づかなかったぞ?『6年間も一緒に生活していたのに』…!)

 

確信した。高町桃子。

なのはの母であり、今目の前にいるこの女性は…転生者だ。

 

考えてみればその可能性は十分にあった。

なのは()と言う例があるんだ。なのは()以外のキャラは全員本人なんて()()()()()()()

 

転生者は約3000人。

そして、その3000人は全員が『原作キャラ』か『魔法』に関わりたいと願ってこの世界に転生したはずだ。

 

しかし仮に3000人全員が『高町なのは』に関わりたいと願ったとしても、

そのまま人を増やそうものなら海鳴市の人口が3000人以上急激に増える異常事態だ。

 

当然そんな報道はどこのニュースでもやってなかった。

 

つまり、原作キャラや組織の中に紛れ込んでいる事になる。

神様はそうすることで、海鳴市の人口を極力変えずに転生者の願いを叶えたのだ。

 

さて、それはどういうことか。

『高町なのはに関わりたい転生者が最も希望する立場とはどこか』?

考えれば自然に思い当たるポジションがある。俺の目の前に。

 

そりゃそうだ。俺だって()()()()()()()()よ。

 

俺の予想が正しければ俺のクラスメイトは、いや同学年のほぼ全員は…

転生者(俺が欺かなきゃいけない相手)』だ…

 


 

 

いや、あの時は絶望したね。

自宅でも学校でもRPをしなくちゃいけないって事は安住の地なんて無い。

 

確実にアースラにも転生者は居るだろう。多分クロノはそうだ。

 

と言うか、こうなってくると原作キャラ全員転生者でもおかしくない…

むしろ積極的に魔法にも原作キャラにも関われるのだから可能性としては高いかもしれない。

 

そうなった場合、俺はどうする?

 

原作キャラになってしまった転生者は転生者にバレたら理不尽な要求をされるかも知れない。

場合によっては逆恨みで危害を加えられるかもしれない。

 

でも同じ状況に陥ってしまった仲間ならどうだろう?

打ち明ければ互いにフォローし合えるのではないか?

それぞれが気を休められる場を手に入れられるのではないか?

 

…時期的にもうすぐ原作が始まる。

今週中…いや、早ければ今夜俺は夢を見るだろう。

ユーノ・スクライアがジュエルシードの封印に失敗する夢を…

 

ユーノが転生者だった場合、俺はそれを見抜けるのか?

見抜けたとして、どうすれば良いのだろうか…

 

「ホラ、ここ空いてるわよ!」

「おはよう、なのはちゃん」

 

とりあえず、今はこの二人との時間を楽しもう。

アリサ・バニングス(転生者)月村すずか(転生者)との腹の探り合いをな!

 

この二人が転生者なのは原作でもあった喧嘩の仲裁時に分かった。

 

~アリサとの初対面時~

「あっ!なの…初めまして、アリサ・バニングスよ!よろしくね!」

 

~すずかとの初対面時~

「きっ…奇遇っだね!ワ、ワタクシ、月村すずかって言いまする!!よよろしくお願いいたしますわよ!?」

 

以上が喧嘩仲裁時の二人の言動である。

この直後、先ほどの喧嘩など無かったかのような不自然さで仲良し3人組が結成された。

 

凄く分かりやすかった。

アリサはなのは(原作キャラ)に会えた感激が強すぎてRPが崩れてたし、

すずかに至っては緊張のし過ぎで色々変だった。

そもそも初対面で何が奇遇だと言うのか。

 

さて、この二人にはもちろん俺の正体は話していない。

明らかになのはに関わりたかった二人で、さらに言えば隠し事が苦手な二人だ。

この二人が俺の正体を知れば多分テンションが目に見えて下がる。

 

そうなれば原作のような明るさは多少なり失われ、他の転生者が感づいてしまうかもしれない。

向こうも自分が転生者であると悟られないようにRPしてるのは、俺にとっても幸いなのだ。

 

それに、この二人は例え俺が転生者であると知ったとしても

敵意や悪意を向けてくるような性格じゃないというのはこの数年で理解している。

 

そんな二人の事を俺自身ありがたい友人だと思うし、

原作の関係を抜きにしても良い友人でありたいと思う。

 

だけど…

 

「なのはは昨日なんか変な夢とか見なかったー?」

「私、最近動物に興味あるんだー」

 

原作開始のタイミングをなのは()の夢で探ろうとするのはやめてくれないかな?




高町桃子についての捕捉
・高町桃子に転生した女性の願いは『幸せな結婚生活』『はやて以上の魔力量』『体型含めて美人になりたい』なので、現在の生活に非常に満足している。
・魔力に目覚めれば魔力量の関係上相当強いが、そもそもデバイスを持って無いので戦えない。

アリサについての補足
・願いは『なのはの同級生になる』『一生金銭面で不自由しない生活』『明るい性格』。
・中身は男性だが幼少期から淑女としての嗜みや振る舞いについて厳しく躾けられている為、言動に現れる事はない。

すずかについての補足
・願いは『なのはの同級生になる』『大勢の家族』『凄まじい運動神経』。
 実は原作より遥かに運動神経が高いが、その異常性を理解しており隠している。
 全力を出すと豹と同じくらいの速度で走れ、垂直飛びで5mは余裕でジャンプできるが本編ではほとんど発揮されない。
・中身は男性で、元々おとなしい性格。
 すずかに転生したとバレた時の事を考えて怖くなり、それらしい振る舞いをしている。(主人公と同じような感じ)

銀髪オッドアイの補足
・願いで『イケメン』とあやふやな願いを言う人が多数。
 →神様がそのうちの一人に『人間におけるイケメンの定義』を聞く。
 →「銀髪オッドアイだろ常識的に考えて」との返答。
 →『イケメン』と願った人全員が銀髪オッドアイになる。
・実は目の色の組み合わせや顔立ちは微妙に違う。
・管理局にはもっと居る。

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