時刻は午前9時26分。
なのは達は機動六課隊舎の近くにある広場にて、フォワード陣の教導を取っていた。
「ティアナ、集団戦の時は射撃した魔力弾の軌道を目で追うのは危ないよ。
注意が逸れるし、付け入る隙に繋がるからね。」
「はいっ!」
「スバル! お前はもうちょっと相手の動きを見ろ!
戦う相手が馬鹿正直に真正面からぶつかってくれると考えんな!」
「お、押忍っ!」
ここ数日の訓練内容は、以前のような『個々の力を伸ばす物』から『チームとしての戦い方を突き詰めるもの』へと変化していた。
そして今行っているのは、50体の仮想敵……の代わりに用意された、プレシア製の機械兵達相手の模擬戦だ。
プレシア製とは言っても構造自体は比較的シンプルで、更に安全の為に自動操縦ではなくマニュアル操作ではあるが、それを動かしているのはそれぞれ近接戦闘と遠距離砲撃のスペシャリストであるヴィータとなのはだ。
その動きには隙が少なく、更にはしっかりと戦略や連携も使って来るという、そこらの次元犯罪者よりもよっぽど手ごわい敵として、二人の前に立ちはだかっていた。
「自分の魔力弾も相手の攻撃も、マルチタスクの魔力感知で常にある程度把握しておく事。
ティアナの機動力なら半径3mくらいさえ注意していれば、十分対応できるはずだよ。」
「はいっ!」
「あまりティアナから離れるな! 数の差がいくらあろうと、一か所で戦える数には上限がある!
仲間と離れるって事は、それだけ戦う相手が増える事だと常に意識しろ!」
「押忍っ!!」
所々で連携の甘さや不慣れな点を指摘しつつ機械兵を操作するなのはは、内心で"スターズ"の実力を上方修正する。
――前に見た時よりも連携が良くなってる。ランク昇格試験の時の不自然さも消えてるし……足りないのは経験くらいかな。
これまでフォワード陣が経験した集団戦は、ブラバス少将の部隊に付き添いで参加した一件のみで、それも相手は魔力も扱えない者が大半の寄せ集め部隊だった。
数人程傭兵崩れが混じっていた関係で予想外の痛手は被ったが、経験らしい経験はその数人の傭兵崩れ分しかなかったと言って良い。
集団戦で気を付ける基礎的な部分……『敵の連携』への対応力が、今の二人には足りていなかった。
――フェイトの方も同じ……ううん、
そんな事を頭の片隅で考えていたその時、手元の端末で時計を確認したヴィータがなのはに声をかけた。
「なのは、そろそろじゃねぇか?」
「え? ……あ、ホントだ。」
そろそろと言うのは、この後に訪れる来客対応の事だ。
なのはを含む部隊長は彼(?)等の応対の為に、一時的にフォワード達の教導を副隊長に任せる事になっていたのだ。
――ちょうどその頃、なのは達が模擬戦をしている場所からやや離れた広場にて。
「じゃあ後はお願いするね、シグナム。」
「ああ、任せておけ。」
"ライトニング"の教導に当たっていたフェイトは、そう言って操作していた大型機械兵の制御をシグナムに預けた。
こちらで行っていた訓練はスターズの集団戦を想定したものとは違い、強敵を相手にした立ち回りを重視している。
その点で言えば生来の速度を活かした戦いが得意なフェイトよりも、永年の戦いで勘を培ってきたシグナムの方が本来適任と言えるのだが、今回フェイトはある目的があって機械兵の操作を行っていた。それと言うのも――
「フェイトお姉ちゃん? 何処かに行くの?」
「うん、ちょっとね。続きの訓練はシグナムが担当してくれるから、
「うん!」
今回の訓練には、ついにヴィヴィオも本格的に参加する事になっていたからだ。
以前よりフェイトがヴィヴィオに対して感じていた違和感は、今回の訓練でその正体を現していた。
それを伝える為に、フェイトはシグナムに念話を繋げる。
≪シグナム。機械兵の操作だけど……
≪無論、承知している。敵うならば、このような人形を介さずに戦ってみたいものだがな。≫
ヴィヴィオの実力はエリオとキャロを上回るどころか、リミッターを外したフェイトやシグナムにも匹敵する。
いや、もしかしたら……
――本当の戦い方次第では、私達よりも強いかもしれない。
そんな予感を、今回の模擬戦でフェイトは確かに掴んでいた。
尤も……
「はぁっ……はぁっ……くっ!」
「ふぅ……ふぅ……ヴィヴィオちゃん、思ってたより強い……?」
ヴィヴィオのおかげで模擬戦が厳しくなったエリオとキャロにとっては、中々たまったものではなかったが。
「ふむ……ではキリも良いし、一度休憩を挟もう。各自今の模擬戦で指摘した反省点を、次の模擬戦にどう活かすか考えておいてくれ。」
「はい……!」
「はいぃ……」
「はい!」
シグナムの言葉に対する3人の返答を背中越しに聞きながら、フェイトもまたなのは同様に機動六課の隊舎へと歩を進めるのだった。
――9時58分……もうそろそろか。
エントランスに備え付けられている時計で時刻を確認しながら、息を整える。
≪緊張してるみたいやな、なのはちゃん。≫
≪うん。管理局の事実上のトップだし、画面越しに話す事はあっても直接会うのは初めてだし……≫
≪突然の事やったしなぁ……まぁ、私はこう言う事には慣れてるし、いざとなったらフォローはしたるから安心しとき。≫
≪うん。ありがとう、はやてちゃん。≫
アニメではとっくに体を捨てて脳髄だけになっている最高評議会が、直接六課に来ると言う話を聞いた時は何かの冗談かと思ったけれど……こうして私を含めた機動六課の隊長陣がエントランスで待っている事実に、じわじわと今更ながらに現実感が湧いて来た。
それと同時に、冗談と思ったが為に一度は目を背けた疑問が心の中で育って行くのを感じる。
――直接来るって、どんな状態で来るんだろう……?
まさか脳髄が漂うカプセルが浮かんでくる訳ではあるまい。そんなの人目に付いたら大事だし、何かしら方法は考えている筈だ。
≪どう思う? フェイトちゃん。≫
この中で唯一の転生者仲間であるフェイトに念話を繋ぎ
≪私に聞かれても……まぁ、姉さんの使っているドローンみたいに、ホログラムを使って話すって手もあるんじゃないかな?
ドローンにカメラとか集音マイクとかつければ、その場に居なくても違和感なく会話は出来ると思う。≫
≪あ、そっか……≫
そう言う発想はなかった。
確かにホログラムなら姿はどうとでもなるし、忙しくて直接足を運べないと言ってしまえばそれで済む話だからだ。
≪ちょっと残念?≫
≪……ちょっとね。≫
最高評議会がどんな姿をしているのかちょっと気になっていただけに、想像が付いてしまうとがっかりしてしまうのは致し方ないだろう。
≪二人共、来たで。≫
――!
はやてからの念話で姿勢を正すと同時にエントランスの自動ドアが開き、3人の人影が姿を見せた。
――ホログラムじゃ、ない……?
『――出迎え、御苦労。八神はやて部隊長。』
「こうしてお目にかかれる事を心待ちにしておりました、最高評議会殿。」
最高評議会の開口一番に、即座にそう恭しく返すはやての姿に心強さを感じつつ、私は最高評議会の面々をそれとなく観察する。
全身を覆い隠す様な黒いローブを身に纏った3人の姿はハッキリしており、ホログラム特有の半透明さは無い。直接来ると言ったのは文字通りの意味だったと考えて問題無いだろう。
年のせいで脚を悪くしているのだろうか、全員とも地球で言う車椅子の様な役割を担う器具に深く腰掛けているが、立つ事が出来ればその身長は結構高そうだ。
『――我々の姿が気になるかね、高町なのは教導官。』
「! あ、えっと……」
『安心したまえ、責めている訳ではない。この出で立ちは訳あって素顔を隠さねばならぬゆえの物だ。
気を悪くしないでいただきたい。』
「あ、はい。」
――し、心臓に悪い。滅多な事はする物じゃないな。
それにしても、昔戦場で活躍したと言うのは間違いなさそうだ。人の視線にこうも敏感だとは……常に警戒を怠っていない様子もうかがえるし、常在戦場の心得を欠かしていない。これが老いてなお衰えないと言うやつなのかもしれない。
『さて、早速本題に入りたいのだが……』
「はい。それではご案内します。」
そう言って歩き出すはやてに、私もついて行く。
今回の来訪に伴い、最高評議会は誰にも中を見られない密室での対談を要求してきた。
直接そこで話すのも私達3人だけという条件もあり、用心深い性格なのは間違いないだろう。
「この部屋です。設置されていた警備用のカメラは一時的に取り外しておりますので、この扉を閉じてしまえば外部に中の情報が出る事はありません。」
『……成程、取調室か。』
『くく、まるで次元犯罪者になった気分だな。』
「……御冗談を。」
『気を悪くして済まない、コイツはつまらん冗談が好きな質でな。』
思っていたよりも若干ノリが軽いようにも思える三人を部屋に招き入れ、扉を閉じる。
これで部屋の外と内は完全に隔離され、最高評議会の要求を満たした事になる。
『……確かに、我らの出した条件を満たす部屋を用意してくれたらしいな。
では我等も姿を見せるとしよう。』
『うむ……仕方あるまい。』
『……少し、魔法を使用するぞ。』
「? はい、構いませんが……」
服を脱ぐのに何故魔法が……? という疑問は、直後に解消された。
最高評議会の一人が使用した魔法によって、彼等の身体を覆っていたローブが外されるとそこに居たのは……
「女の子……?」
浮遊椅子の上に置かれた大人の体型を象った骨組みの中にちょこんと座る、青、黄、赤の信号機カラーの髪色を持つ3人の少女達だった。
時空管理局最高評議会の苦肉の策……
因みになのはの視線に敏感だったのは常在戦場とかではなく、骨組みのズレを常に気にしていたからです。