転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

201 / 276
来訪の理由

「……ふん、驚いて声も出んか? まぁ、無理もあるまい。次元世界の平穏と安寧を守護する時空管理局の最高評議会が、このような姿ではな。」

「だが見た目に惑わされるでないぞ? 我等は今の三提督よりも古くから生きている。本来の肉体が老いて死ぬ前にそれを捨てた故、今はこの身体を代用品として動かしているに過ぎんのだ。具体的には――」

 

黄色い髪の少女が半ば自嘲気味に発した言葉の後を、青髪の少女が付け加えて説明してくれた。

その内容を纏めると、やはり彼等は自らの脳髄以外の肉体を捨てており、今はその脳髄を保管している生体ポッドに取り付けられたユニットを通して、目の前の少女の身体を遠隔で動かしているらしい。

 

――でも、それって……

 

脳裏にふと過った疑問。それが恐らく表情に漏れていたのだろう、赤い髪の少女が私を真っ直ぐに見つめてこう言った。

 

「『でもそれって今回回収された少女達と何が違うの』……とでも言いたそうな表情だな、高町なのは教導官。」

「! あ、えっと……」

「いや、良い。我等が今回こうして直接……まぁ、直接来ていると言うのは厳密には違うのだが、足を運んだ理由はまさに()()なのだ。」

「と、言いますと……?」

 

咎められたような気がして動揺してしまった私の代わりにはやてがそう尋ねると、赤い髪の少女は視線をはやてに向けて詳しい理由を説明し始めた。

 

「『生死体事件』……既にここに居る皆は知っているだろうから詳しい説明は省くが、数年前に我らの判断で捜査が打ち切られた事件があった。」

「はい。『事件性が無い』言う理由やったと伺ってます。そして、今回その理由の説明の為にこちらへ伺うとも。」

「うむ……事実、かの少女達の素体となった被害者はおらず、またその少女自体危険な存在ではなかった。だが我等がかの事件の捜査を打ち切らせたのには、()()()()理由があるのだ。」

 

そこで一度、彼は言葉を区切ると浮遊椅子から飛び降りるように着地し、その全身を見せつけるようにこちらへ振り向いた。

 

「先程、高町なのは教導官に言った事の補足になるが……彼女達と今の我等には共通点が多い。

 それは造られた身体である事や、意志の宿らぬ器と言う役割だけに留まらない。」

「……"同じ人物により造られた物"と言う事ですね?」

「ふ、流石に分かるか。そう、我等の器を造ったのも、例の少女達を造ったのも同じ人物だ。」

「その人物が"ジェイル・スカリエッティ"……という事ですね。」

 

はやてが赤い髪の少女に先んじてその名を出すと、赤い髪の少女は驚いたようにはやてを見つめ、感心したように目を細めた。

 

「! ……驚いたな、既にそこまで辿り着いていたとは。どうやら機動六課は、報告で聞くよりも更に優秀な部隊になってくれたらしい。」

「プレシア博士が言うてました。彼女達のような存在を造り出せる技術を持つのは、彼くらいだろうと。」

「なるほど、彼女ならば確かに突き止められるかもしれんな。……と、話を戻そう。

 先程も言ったように、我等が動かすこの身体は我らの要求によりジェイル・スカリエッティに造らせたものだ。

 当然ながら、その時の取引とこの身体の情報は極秘とされている。」

 

そう自らの身体を指し示しながら話す赤い髪の少女……確かに、最高評議会が今のような姿になっている事どころか、自らの身体を得ていた事も私達は知らなかった。

いや、更に言えば時空管理局最高評議会の存在さえ知らない者もいるくらいだ。この情報がトップシークレットである事は疑いようもない。

 

「そして今でこそ奴が教団と関係を持っている事は明らかとなっているが、当時は我等もそれを感知できていなかった。

 その上でレジアス・ゲイズから『生死体事件』の概要を報告された我等は、発見された少女は何らかのトラブルで我々の身体の予備が我々のもとに届くまでに置き去りにされた物ではないか……と考えたのだ。」

「それで捜査を打ち切らせた……って事ですか!? そんな事で……!」

 

思わずと言った様子で、はやてが声を荒げる。

私も同じ気持ちだ。現場で事件と向き合い、懸命に捜査する局員達の姿は決して他人事ではない。彼等の努力は、私達の作戦を決定付けるにあたっても欠かせないものだ。

それを訳も告げられぬままに突然打ち切られる事が、どれ程の虚無感を抱かせるか……『生死体事件』の事を話してくれたブラバス少将の、苦々しい表情が思い起こされた。

 

だが対する赤い髪の少女ははやての言葉を片手で制すると、あくまでも冷静に告げる。

 

「我等の脳髄が保管されている区画は、座標、構造、そして存在そのものが時空管理局のトップシークレットの一つだ。

 それは我々の身の安全の為だけではなく、管理局の重要な記録や情報の殆どがその区画に保管されているからでもある。

 少女及び、格納されている生体ポッドからこの区画の情報が洩れる事だけは、何としても避けねばならなかったのだ。……もっとも結果的には、少女及び生体ポッドからこの区画に繋がる情報は見つからなかったのだがな。」

「でも、それでも何らかの報い方はあった筈やと……私は思います。」

「……そうだな。当時の我等は事件現場から長く離れすぎていた。

 そこにある感情を抜かれ、淡々と概要を伝える報告書しか見る事が無かった為に、彼等の思いを失念していた事を認めよう。

 事件が解決した暁には、レジアス・ゲイズにも何らかの形で報いる事にしよう。」

 

その言葉を聞いたはやてが、ポカンとした表情で発言主の赤い髪の少女を見つめる。

フェイトも普段より目を大きく開いている辺り、相当驚いている様子だ。きっと私も似たような表情をしているのだろう、居心地悪そうに赤い髪の少女が尋ねた。

 

「おい、何だその意外そうな顔は?」

「え……あ、いえ、もっと頭の固い人達やとばかり思ってたもので……」

 

言葉を選ぼうとして失敗した様な発言をするはやてに、赤い髪の少女はそれを咎める様子も無く、寧ろ自らを皮肉るような表情で答えた。

 

「ふん、最近は以前と違って様々な物を直接目に出来るようになったからな。徐々に人間らしさが戻って来たのだろうよ。

 ……脱線してしまったな、話を戻すぞ。」

「あ、はい。」

「さて、我等の身体が回収された少女と殆ど同じである点と、生死体事件の捜査を打ち切った理由を話したところだったか? ならばこの辺りで前置きは良しとしよう。」

 

彼女がこれまでに明かした内容は十分に爆弾情報だと思うのだが、それらを前置きとして赤い髪の少女は更に爆弾発言をかました。

 

「さて、ここからが()()()()()()()()()()()()()()()()()だが……我等の身体を隅々まで調査せよ。」

「!?」

「そう驚く事でもあるまい、八神はやて部隊長。お前が昨日、我等に通信を繋いだ理由が分からぬ我等と思うか?

 我等はこの身体の創造主がジェイル・スカリエッティである事を全面的に認める……そして、この身体の創造主と回収された少女の創造主が同じであると結論が出れば、我等もジェイル・スカリエッティへの捜査権をやる事が出来る。我等はその為にここに足を運んだのだ。」

 

赤い髪の少女がニヤリとした笑みを浮かべてそう言うと、続いて黄色い髪の少女が複雑そうな表情で告げる。

 

「本来ならば今の最高評議会がこのような姿である事等、我等も明かしたくはなかったのだが……奴が教団と通じている事が判明した以上、優先すべきは事件の解決だ。」

「少女達の報告を読む限り、彼女達と我等の体の構造は全く同じと言う訳ではないようだが、共通している器官は既に確認済みだ。

 『疑似リンカーコア』を調べよ。それで全て、繋がる筈だ。」

 

青い髪の少女が最後に胸元に手をやりながらそう締めくくると、赤い髪の少女が私達に向き直る。

 

「これより1時間、我等はこの身体との通信を切る。その間に調べ尽くせ。機動六課の設備と、プレシア博士ならば可能だろう。

 検査前に何か質問があれば、今の内にせよ。」

 

そう赤い髪の少女が言うと、場が静まり返る。

質問があるかと急に言われても、正直唐突に与えられた情報の整理で手一杯だ。何を聞きたいかの整理をする前の段階で質問を求められても、中々頭が回らない。

 

……だけど、何でこう言う時って『無理にでも質問をしなきゃ』って思っちゃうんだろうね? 気付けば私は一つの質問をぶつけていた。

 

「……その身体はご趣味ですか?」

「断じて我等の趣味ではない!! 質問はないな!? 切るぞ!」

「あっ、ちょっと待っ……もう切れてもうたみたいやな……」

 

我ながらどうしてそんな事を聞いたのだろうと考える間もなく、彼女達は逃げるように浮遊椅子に座ると、目を瞑り動かなくなった。

 

「……やっちゃった?」

「いや、まぁ正直気の利いた質問も無かったしええんやけどな。ただ最後の反応はちょお気になるなぁ……」

「それも今は後回しにしよう。時間も限られてるし、母さん呼んで来るね。」

「ああ、お願いな。」

 

そう告げて取調室から出て行ったフェイトを見送ると、はやてちゃんは最高評議会の身体を乗せた浮遊椅子を押しながら言った。

 

「じゃあなのはちゃん、私等でこの子ら運ぼか。」

「あ、うん。そうだね。研究室で良いかな?」

「ああ、今なら一番の部屋も空いとるやろし、フェイトちゃんにも念話で伝えとくわ。」

 




最後ぶつ切りですみません。
ちょっと長くなりそうだったので……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。