「――って感じで、対集団戦の訓練が主体だったよ。」
「へぇー、スバルさん達の方はそう言う訓練だったんですね。」
「そう言うって事は、エリオ達の方はやっぱり別の訓練だったのね?」
「はい、僕達の方は強敵一人を想定していて……そうだ、ヴィヴィオが凄く強かったんですよ! 機械兵を操作するのがシグナムさんに替わってからも――」
午前中の訓練後、昼食も終えたフォワード陣達は、そのまま食堂の席でそれぞれの訓練の内容を反芻していた。
「ふぅん……? ねぇ、ヴィヴィオって戦闘の訓練に混じるのって今回が初めてだったわよね?」
「はい! 頑張りました!」
両手で拳を作り、満面の笑顔で答えるヴィヴィオの様子に、ティアナは表面上穏やかに微笑みつつも、その内心では
――いや、シグナムの攻撃を紙一重で躱しつつ反撃するなんて、『頑張った』でどうにかなる話じゃないだろ普通。
エリオの話したヴィヴィオの戦闘内容は、想像するだけで至難の業だ。
シグナムの戦闘センスの高さを知るティアナには、機械兵と言うハンデがあっても容易な事では無いと言う確信があった。
「凄いね、それは……あたしは直接見ていないけど、真似出来る気がしないよ?」
スバルも同様の確信を抱いたらしく、心底驚いた表情でヴィヴィオを見つめている。
ティアナと違って表情を作る事が苦手なスバルの目からは、驚きよりも疑いの色が濃い事がありありと見て取れた。
しかしそんな目を向けられたヴィヴィオは、なおもあっけらかんとした様子で答える。
「私も不思議なんですけど、ずっと戦ってたみたいに体が動いたんです! そしたらどんどん楽しくなってきて、夢中になってる間にお昼の時間になってました!」
「へぇ、不思議な事もあるのね……」
表面上は納得したように振る舞うが、ティアナの内心はまだ半信半疑だ。
彼女はヴィヴィオがたった一度見せた『眼』を覚えている。今回フェイトとシグナムに実力を隠さなかった事で疑いはやや薄まったとはいえ、未だに油断ならない相手と考えていた。
そんな時、スバルが食堂の入り口の方を見て声を上げる。
「あ、なのはさん! ……と、誰?」
「フェイトさんとはやてさんもいますけど……あの三人は知り合いなんでしょうか?」
彼女達の目に映ったのは、なのは、フェイト、はやてに案内されるようにやって来た、浮遊椅子に座ったローブ姿の三人組だ。
年齢も性別もひた隠しにしたその姿に、警戒感を抱くなと言う方が無理だと言う物だろう。
厨房の方では、何時でも戦えるようにリニスがスタンバイしている程だ。
そんな警戒の目を向けているフォワード陣のもとへ、なのはがやって来て声をかけた。
「皆、もうお昼は食べたみたいだね?」
「はい! あ、えっと……あの人達はいったい?」
スバルの問いかけを受けたなのはは最高評議会の方を一目見た後、少し考えてから答えた。
「ゴメンね、詳しくは答えられないんだ。色々と訳があってね。」
「そうなんですね……あ、なのはさんがこっちに来たって事は、もしかして午後の訓練の事で何かお話が?」
もしかして、午後の訓練にも顔を出せない用事が入ってしまったのだろうか……そんな考えもあってスバルがなのはに尋ねるが、なのはから返って来た答えはスバル達の想像だにしない内容だった。
「その事なんだけど、午後の訓練は少しだけあの人達も見学する事になったんだ。」
「えっ……その、何も知らないアタシが言うのも何ですけど、大丈夫なんですか……?」
誰とも知れない相手に訓練内容を明かす……そんな彼女の発言の意図を確認するように、ティアナが質問した。
機動六課設立の目的の重要性を、他でもないなのはから聞いた身である彼女にしてみれば、上官の判断を疑うという失礼に当たる質問と理解していても尋ねずにはいられなかったのだろう。
「うん、身元は把握してるから安心していいよ。訓練もいつも通りで大丈夫だから。」
「は、はあ……なのはさんがそう言うなら……」
だがなのはから返って来た答えは、いつも通りにすれば問題無いという物だった。
その雰囲気からも何らかの魔法をかけられているような様子や、無理している素振りも感じられなかった為、ティアナは一応の納得を見せた。
「えっと……あの人達は訓練に参加する訳じゃないんですよね?」
「うん、あくまで見学だけ。」
「分かりました。……他に変更点とかも無いんですよね?」
「うん……あ、そうだ。」
エリオの質問で何かを思い出したような反応を示したなのはは、「訓練とは関係ないんだけど」と前置きすると、最高評議会の方を指し示して、お願いするように尋ねた。
「あの人達の分の食事を運ぶんだけど、手伝ってくれないかな? あの三人はちょっと訳があって……ね?」
「え? ……あ、もしかして脚が悪いんですか?」
「んー……ちょっと違うけど、立ち上がる訳には行かないみたいなんだ。」
「そう言う事なら任せて下さい!」
キャロの質問には曖昧な返答をするなのはだったが、その事を気にするまでもなくスバルがいの一番に手を挙げて立ち上がる。
「まぁ、スバルもこう言ってますし、アタシも手伝いますよ。」
「僕も。」
「じゃあ私も……」
「私も!」
そのスバルの様子を見てティアナも了承を返すと、彼女に続いてエリオ、キャロ、ヴィヴィオも席を立った。
「皆ありがとう。ヴィヴィオはあまり無茶しないようにね。」
「はい!」
そう笑顔で礼を返すなのはの後を、フォワード陣はついて歩く。
その最後尾で、ヴィヴィオは人知れず何かを考えるように最高評議会を見つめていたのだった。
『――そうか、では戦闘能力は十分だと。』
「はい、シグナムに交代した後の事はまだ確認していませんが、現状どのフォワードよりも高い実力を備えている事は確かです。」
料理を運んでくると言って席を離れた高町なのは教導官達が帰ってくるまでの間、私はフェイト・テスタロッサ執務官からヴィヴィオの訓練状況を確認していた。
それによると、やはり聖王の遺伝子情報から生み出された彼女は、生まれつき高い戦闘能力を保有しているらしく、スカリエッティの言う様に『高町なのはが滅びの原因だった場合の最高戦力』の候補として申し分ない事が良く分かった。
――もっとも、今となってはそれが新たな不安のタネではあるのだがな。
高町なのはを抑え得る実力を持つ者が獅子身中の虫だった場合、そんな彼女を抑えられる戦力も限られてくる。
勿論その場合は高町なのは教導官が抑えてくれるだろうが、最悪の場合を想定するならばもう一人か二人は候補が欲しい所だ。
『テスタロッサ執務官自身と比べた場合、どうなのだ。リミッターの無い状態で彼女と戦って勝つ自信は?』
「『勝てない』とは立場上言えません。ですが、どちらが勝つにしても接戦となるかと。」
『……ふむ、少々意地の悪い質問であったな。許せ。』
目の前の女性もまた、機動六課の最高戦力の一人だ。
そしてヴィヴィオの実力を垣間見た、少ない証言者でもある。
そんな彼女だからこそ尋ねたこの問いだったが、その返答は芳しくは無いモノだった。
残る候補としては八神はやて部隊長を除けば、シグナム副隊長が候補の筆頭となるか……
いや、以前とは違い我等自身も戦力として数えられるようになった今、ここで結論を急く必要はない。午後の訓練、自身の眼でヴィヴィオを測ってからでも遅くはない……か。
そう結論付けた時、背後から食欲をそそる匂いと共に声がかけられた。
「料理を持ってきました。どうぞ。」
『ああ、ここに置いてくれ。』
私の言葉を受けて、テーブルの上に幾つもの料理が並べられていく。
どうやらフォワード陣の者達も運んでくれたようで、ローブの頭部に仕掛けられたカメラがその姿を映している。
そして最後に、私の目の前に異様に高く積まれた料理の山が「どん!」と大きな音を立てておかれた。
『……これは?』
私が尋ねると、料理の山を持ってきた青いショートカットの女性……確か、スバル・ナカジマ二等陸士だったか? が答えた。
「はい! オススメの物が色々あったので、全部持ってきました!」
なんとも恐ろしい事に、カメラ越しに確認した表情には一切の悪意が無く、また彼女に尋ねたところ、彼女は普段からこのくらいの量は食べているらしい。
『そ、そうか。ありがたくいただこう……下がって良いぞ。』
「はい! 失礼します!」
――一番の失礼はこの料理の山なのだが……まぁ、良いか。
運んでもらっておいて叱りつける訳にも行くまい……そもそも我等の身分を隠すように言ったのも我々自身だ。そんな状況で何を示して失礼だ等と叱れる物か。
スバルが自分達の席へ戻るのを確認し、ローブの内側から身を乗り出して目の前に堆く積まれた料理に手を付けつつ、今のがフォワードのスバルかと席に着いたなのはに尋ねる。
「はい、スターズのスバル・ナカジマです。フォワードの中でも特に近接戦闘に優れていて……更にその出自から特殊な対魔法攻撃を有しています。」
『ふむ。報告にもあったが、理論上あらゆる魔法を強制的に破壊できるとか。』
彼女の出自に関する報告書にも当然目は通したが、まさか戦闘機人の技術が用いられていたとはな……
当時人員不足を補うためにスカリエッティに研究させた技術が、こうして悪事にも使われている様をこうして見せ付けられるとは……かつての我々の眼がそこまで見通せない程に曇っていたという事実を突きつけられているようだな。
「はい、少なくとも私のプロテクションまでなら破壊できる事は確認しています。」
『なんと……それは実に素晴らしいな。』
「はい、私の自慢の生徒たちですから!」
だが、結果的にそれが良い方向へと向かっている事実もまたここにある。
そしてそれを為したのは、目の前の女性、高町なのはだ。
予言に『光』として記された彼女の働きによって、彼女達は今正道を歩めている。
――『凶星が照らす先は虚構 光が行き着く末は絶望』……今だ明かせぬこの一節が、カリムの予言のただ一度の過ちであると信じられたならどれ程気が楽だろうか。
『高町なのは教導官、いずれ来るだろう滅びの時、お前と肩を並べて戦える事を楽しみにしているぞ。』
「はい、その時には全力全開を尽くします。」
そう言った彼女の瞳には、予言に記されていなくとも見える光が灯っていた。
……それはそれとして、逃避していた現実に目を向ければ、目の前に佇むのはまるで嵩が減らぬ摩天楼が如き
『時に高町なのは教導官、早速共同戦線と行きたいのだが……』
「……すみません、私もちょっとお腹いっぱいで……」
この後、皿を運んだスバルが責任持って5分で完食した。
今回出そうとしていたけど無理だったので、最高評議会が決めた暫定的な名前を書いておきます。
●最高評議会 議長→リオン
赤い髪の少女の姿。
名前の元は赤系の色『バーミ
男性名としてもおかしくない為、割と受け入れている。
●最高評議会 書記→バルト
青い髪の少女の姿。
名前の元は青系の色『コ
男性名としてはおかしくない為、割と受け入れている。
●最高評議会 評議員→クリーム
黄色い髪の少女の姿。
名前の元は『クリーム色』から。はやて命名。
プレシアに名前を告げた為、変更不可という事に。
不満気。めっちゃ不満気。