あと、今回久しぶりにオリジナルの魔法が出ますが、例の如くネーミングセンスには触れない方向でお願いします。
『――オオオオォォォォォォ!!!』
竜の咆哮と同時に、視界いっぱいに広がる砲撃の輝きが迫る。
事前に解析されたデータを基に仮想空間上に再現された物ではあるが、その迫力も威力も現実の物と比較して何ら遜色ない破壊の奔流だ。
私はその光へ向けて杖を構えると、迎撃するべく魔法を放つ。
「レイジングハート!」
≪Divine Buster Extension.≫
拮抗は一瞬。眼前にまで迫っていた脅威は、私の放った砲撃に貫かれて霧散する。
しかし、まだ油断は出来ない。何故なら――
「『ウオオオオオオオオオオッ!!』」
振り向いた先には、背後に反り立つように伸びたウイングロードから飛び出したと思われるスバルの姿が
当然片方はティアナの生み出した幻影、二人の得意とするコンビネーションの一つ……に見える。しかし――
「まさかスバルに合わせられるなんてね。フェイトちゃんに聞いていた以上だよ……ヴィヴィオちゃん。」
その実、片方はティアナの魔法でスバルの幻影を被せられた別人……今回フェイトが提案した模擬戦で、いつものフォワード陣に混ざって私と初めて戦うことになったヴィヴィオだ。
本物のスバルと共に拳を握り気合の方向と共に迫る姿は、その動きも速度も全く同じに見える。この辺りはサポートするティアナも巧いのだが、それでも肝心のヴィヴィオ自身にスバルとの体格差を埋める動きが出来なければこう上手くはいかないだろう。
「……だけど、魔力波動は誤魔化せてないね。」
幻影の内側から漏れ出るように感じられる、濃密な魔力……これはティアナのミスと言うより、ヴィヴィオの魔力が強すぎる所為と考えるのが妥当だ。
本来
――手紙には魔力の加減が分からないって書いてあったけど……
ヴィヴィオが持ってきたスカリエッティの手紙の内容を思い返す。
そして考える。今回、幻影のスバルから漏れ出た魔力は、ヴィヴィオが魔力制御に失敗したからだろうか……と。
――違う。ヴィヴィオは
それが私の出した結論だった。
その判断の決め手となったのは……
――『視線』……
今回の模擬戦はフォワード陣の今の実力を試し、そして今もこの戦いを見ている最高評議会に示す為の物だった。
フォワード陣の実力だけでなく、あらゆる意味でヴィヴィオを試す場でもあった。
だけど、同時に私もヴィヴィオに試されているのだと唐突に理解した。
私を試す為に今、ヴィヴィオは無害な少女の
――私を試す……その為にヴィヴィオは機動六課に来たって事かな。
もしも害意や敵意があるのなら、このタイミングでRPをやめたりはしないだろう。
奇襲の機会を待つ為に、まだ無害な少女であり続けた筈だ。
だが彼女が本気を出す機会に選んだのは、互いに危害を加えられない仮想空間……この事から考えて、彼女の……ジェイル・スカリエッティの狙いは少なくとも私達ではないという事になる。
「レイジングハート!」
≪All right.≫
だったらここで私も彼女の望み通り、全力全開の一端を見せる事くらいはしてあげても良いかも知れない。
今回の模擬戦で禁じられている行為は、プロテクションと高高度の飛翔だけなのだから。
「ディバインバスター!」
「くっ……!」
≪Protection!≫
先ず本物のスバルの方には、私自身が構築した砲撃を放って
そして、レイジングハートを向けたヴィヴィオの方には――
≪――Asteroid Breaker.≫
少し強めの砲撃を放った。
――遡る事、30分。
午後の訓練を受ける為に機動六課の仮想訓練所に集まった私達は、訓練の前に模擬戦を挟むと突然なのはさんから知らされた。
その言葉に驚きを隠せないフォワード陣の4人を見る限り、こう言った事は滅多に無いらしい事を悟る。
そしてその訓練には私……『ヴィヴィオ』も参加させると言うフェイトさんの言葉に、再び"スターズ"の二人は驚愕を隠せないようだった。
"ライトニング"の二人は、寧ろどこか納得している風だったが。
そんな彼女達を余所に、今回の模擬戦の原因となったであろう
――状況から考えて、ここまでついて来た
浮遊椅子に深く腰掛けたローブ姿の3人の顔は、ローブのフードを深く被っているとはいえ不自然に暗く、その輪郭すらつかめない。
……重要な点は一つだ。即ち彼等が
それ次第で今回の模擬戦は
――いっそ事故を装って……
……いや、そもそも私がこの時代で知っている顔は非常に少ない。顔を見る事が出来ても、そもそも知らない顔である可能性の方がはるかに高い。
不自然な行動を取る事になるリスクの方が大きいか。
私が彼等の正体を探る方法についてアレコレと考えていたその時、不意になのはさんから声を掛けられた。
「ヴィヴィオは確か、仮想空間を使った戦闘訓練は初めてだったよね?」
「えっ、あ、はい!」
「初めて使う時に色々と登録する必要があるんだけど、一人でもできそう?」
「ジェイル・ギアのと同じ感じだったら大丈夫です!」
ジェイル・ギアに関しては機動六課に来るよりも前から触れる機会も多かったから、すっかり慣れっこだ。セイン姉さんにせがまれてよく対戦していたし。
「そっか、もし分かんない事があったら遠慮せずに頼ってね?」
「はい!」
私がそう返事をすると、続いてなのはさんはローブ姿の3人にも同じような質問を投げかけた。
「御三方も問題はありませんか?」
『うむ……一通りの仕様は把握しているが……』
『確か、アバターに関しては実際の身体の情報を反映すると言う事だったな?』
声と口調は老成した男性の物に聞こえるが、合成された音声だと独特の響きで分かる。
ローブで体を覆っている事からも分かるように、自らの正体を隠す事には徹底しているようだ。
――しかし、今しがた彼が言ったように実際の身体を反映するのであれば、彼等が仮想空間に入るのは彼等にとってもリスクが伴うのではないか?
動揺の疑問を抱いたのだろう、なのはさんが確認するように尋ねる。
「はい。市販されているジェイル・ギアと違って、この仮想戦闘空間シミュレータは訓練の内容をより現実に反映しやすいよう、現実の容姿を用いる事を強制する仕様になっています。ですから、その……」
『――いや、良い。我等の容姿が割れたところで、それだけでは大きなリスクにはなるまい。』
『……致し方あるまい。』
そう3人が言うと、彼等の纏うローブの腹部が割け……その中から3人の少女が現れた。
「!?」
「えっ?」
「は?」
「へ?」
「ええっ!?」
彼等の意外な素顔に驚きを隠せないフォワード陣の4人がそれぞれ声を漏らすが、私も内心同じ気持ちだ。
彼等の……いや、彼女達のこれまでの言動やなのはさん達の対応から考えて、彼等の正体は時空管理局の重役だとばかり考えていた。
それが実際には自分達とそう変わらない、或いは明らかに年下の少女だったとなれば、その驚きも無理からぬことだろう。
……まぁ、私もあまり人の事は言えない状況ではあるが。
そんな驚きの声には耳を貸さず、彼女達は一方的に自己紹介を済ませた。
「私の名は"リオン"だ。短い付き合いとなるが、よろしく頼む。」
「"バルト"と言う。君達の奮戦を期待しているぞ。」
「…………くっ、"クリーム"、だ。我々の事は特に気にする必要はない。普段通りの姿を見せてくれ。」
若干一名、不本意そうな自己紹介だったが、やはり私の記憶に引っかかる者はいないか……
ならば今回は私も全力を出す事は避け、次の機会を待つとしよう。
……そう考えていたのだが、その予定は仮想戦闘空間シミュレータに入った直後に覆された。
「――ん? 通信?」
アバターや使用デバイス等の登録を行う為の空間で、外部からの通信を示すアイコンが唐突に目の前に現れたのだ。
――私の登録が上手く行くか心配した誰かだろうか?
そう思いつつアイコンをタップし、いつものヴィヴィオの仮面を被る。
「はい! ヴィヴィオです!」
『やあ、我が娘よ。君の近況を知ってタイミングを窺っていたのだが……と、どうした? 何かあったのか?』
「い……いえ、何でもありません……」
通信が繋がり、表示されたモニターに映し出されたのは父であるジェイル・スカリエッティの姿だった。つらい。
――よ……よりにもよって最も見られたくない姿を、一瞬とは言え父に見せてしまうとは……!!
勿論これも自らの使命であると分かってはいるが、それとは別に言い知れぬ恥ずかしさが身を包むのを感じる。
生まれたてのアバターの顔が熱くなるのを実感しつつ、何とか平静を装い要件を確認するべくモニターに目を向けると……
『……ん? ああ、成程! 恥ずかしかったのかね? 心配せずとも非常に愛らし――』
「よ、要件は! 何でしょう!?」
今は褒められても恥ずかしくなるだけだ! 早く要件を聞かせてくれ!
恐らくは緊急事態だから繋いできた通信なのだろう!?
『っと、そうだね。あまり時間をかけては怪しまれるか。……では早速本題に入る前に、確認と行こう。君が今置かれている状況は私の方でもある程度把握しているが、完全ではないからね。その上で、こちらの想定と同じ状況であるならば、君に頼みたい事があるのだ。』
「頼みたい事、ですか?」
『ああ、予定を早める必要が出て来たのだよ。』
『まぁ、それも確認できた状況によるのだが……』と、前置きして父は続けた。
『君は今機動六課に私が設置した仮想戦闘空間シミュレータでこの通信を受けている筈だが、そこに入る前の部屋……確か、仮想訓練所と言ったかな? そこに
「! はい、確かに確認しております。」
『うむ、ここまでは想定の通りか。……ところで、君は彼等の正体についてどの程度聞かされたかな?』
彼等……と言うか彼女達だが、顔と名前以外に知らされていない事を告げると、父は突然笑い始めた。
『は、あっはっはっはっは!! そうか、成程! "リオン"に"バルト"に……く、くっくっく……"クリーム"、か! いやぁ、これは……ふふっ……くっ……! 思っていたよりも面白い事になっているようだね!』
「あの、笑い過ぎでは……? 少女達の名前をそのような――」
流石に人の名前を笑うと言うのはどうなのだろう? そう考え、父を咎めようとした時、突然爆弾のような発言が父の口から飛び出した。
『ああ! すまない、実は彼等は
「……はい?」
未だに笑いが収まらない様子の父が言うには、どうやら身体を捨てて脳髄だけになった彼等の要望で父が作り出した身体が彼女たちなのだそうだ。
……因みに、脳の構造で彼等が本来男性であると理解した上であの身体を作ったらしい。何か恨みでもあるのだろうか?
『あぁ……これ程笑ったのは久しぶりだ。っと、話題が逸れたね。幸いな事に今君の置かれている状況は、私が想定した中でもかなり都合の良い状況のようだ。』
「都合が良いと言うと……私の本来の役目に関する事ですね?」
『話が早くて助かるよ。そう、高町なのはの実力と本質を探る場として、これ以上のタイミングはあるまい?』
確かに、仮想空間ならば全力でぶつかって仮に相手や自分が怪我をしたとしても現実に影響は出ない。なのはさんが"滅び"の原因だった場合でも、そうではなかった場合でも、実力を見るにはうってつけの舞台と言える。
そしてその場には最高評議会もいるのだ。彼等の本体が何処にあるとも知れない脳髄だと言うのも都合が良い。あの場に居ながら即座に全管理局員に指示を出せるという事なのだから。
「委細承知しました。つまり私に求められる行動は――」
『うむ、全力で高町なのはの実力を確かめたまえ。ああ、そうだ。今回の戦闘データはこちらでも確認しているから、君が記録する必要はない。模擬戦に集中してくれ。』
「了解です。」
……はっ!? 今のは走馬燈か!?
なのはさんがこちらに砲撃を放った瞬間、これまでの経緯が脳裏をあっと言う間に過ぎ去っていった。
しかし、眼前にスローモーションで迫る砲撃の脅威は未だ去っていない。この一撃を捌けなければ、彼女の実力を測るなどとても出来ない!
――障壁だけでは足りない、こちらも砲撃を使用して威力を削がなければ!
「"紫電――」
既にティアナさんが張ってくれたスバルさんの幻影は剥がれ、リボルバーキャノンに偽装していた魔力の輝きが晒された。
眩い虹色の魔力光が溢れ出し、周囲の空間さえ一瞬染め上げる。
「――一閃"!!」
その膨大な魔力を全て一瞬で集約させて放った"紫電一閃"は、なのはさんのアステロイドブレイカーの威力を幾分か削るが、かき消すには至らない。だから――
「"プロテクション"!」
短い時間ではあるが射線の中心から僅かに体をずらし、障壁を張る。そして砲撃が障壁に触れた瞬間!
「"バリアバースト"!」
プロテクションで受け止めた砲撃の威力を利用し、弾かれる要領でアステロイドブレイカーを回避する事に成功――
「まだだよ。」
「……えっ!?」
気付けば、回避したと思った砲撃が再び眼前に迫っていた。
ホーミングした訳ではない、回避した砲撃は未だその残滓を空中に残している。砲撃の方向から考えても、再びなのはさんが放ったと考えるべきだ。
――この一瞬で砲撃に必要な魔力を再収束した!?
……仕方ない、ここまで明かすつもりは無かったが……!!
「……やり過ぎではないか?」
高町なのはの放った
「確かにな……だが、我等が図るべきはヴィヴィオの力だけではない。高町なのはの実力を見ると言う点では、この一瞬でも十分の価値があった。」
バルトに続き、クリームが戦いを振り返るようにそう評価した。
確かに一つの術式で連続して砲撃を放つ高町なのはの魔法には驚かされた。もしも彼女が"滅び"の原因となった場合の対策の為にも、ここで確認できたことは僥倖だろう。だが――
「いや、まだ終わっていないようだ。ここからがヴィヴィオの本領と言ったところのようだな。」
今も連続で砲撃を受け続けていたヴィヴィオが、突如として常軌を逸した魔力を纏い、アステロイドブレイカーを吹き飛ばした。
彼女の全身は彼女の魔力光である虹色に覆われており……
「身体の成長……いや、変身魔法か?」
その姿は高町なのはと同じような年齢の女性へと変化していた。
ヴィヴィオが使った紫電一閃は、普段の訓練でエリオが使った物を観察してラーニングしたものです。
最初になのはさんが掻き消した竜の咆哮に関しては次回(まぁ、バレバレだと思いますが)
以下補足
●アステロイドブレイカー
高町なのはが地獄の訓練中に編み出した魔法の一つ。
術式の構築時に魔力を予め多く使用する事で、高威力の砲撃を秒間1発の頻度で連発出来る。
連発で撃っている時に方向を変える事で、逃げる相手を追うように撃つ事が可能で、『"どんな相手でも"倒せるように』と言う理念を基に、ナハトヴァールの様な多層式の障壁を持った相手を想定して作られた。