仮想空間での模擬戦が行われている機動六課隊舎より、数十㎞離れた位置に聳える高層ビルの最上階……『社長室』とプレートがかけられた一室にて、空中に投影されたモニターを見つめる一組の男女の姿があった。
「……よろしかったのですか? こんなタイミングであの子に全力を出させて。」
「ん? ああ、ヴィヴィオの事だね。大丈夫さ"ヨミ"、心配いらないよ。」
やや不安気な"ヨミ"と呼ばれた女性の問いかけに対して安心させるような口調で答えた男性……ジェイル・スカリエッティは、モニターに映る光景を見ながらその理由を語り始めた。
「高町なのはの実力と本質を測ると言うのも目的の一つではあるが、それ以上にコレは私から機動六課と最高評議会に対するメッセージさ。」
「メッセージ、ですか?」
「ああ。"見極めが済んだ"と言う、最高評議会へのメッセージだよ。」
元々ヴィヴィオが実力を発揮する時は『最後の見極め』か、『高町なのはが滅びの原因と確信した場合』のどちらかと言う取り決めがされていた。
前者であれば滅びに対してどれほどの戦力となるか、また本当に彼女が滅びの原因とならないかの最終確認。
後者の場合は高町なのはの拘束及び無力化をそれぞれ目的としていた。そして、偶然か必然か、実に好都合な事に仮想空間と言うお誂え向きな場所でその機会が訪れた。
「ついでに互いに危害を加えられない状況で実力を明かした事で、先日の出来事でヴィヴィオに抱いたであろう不信感や警戒もある程度解ける事だろう。本当に良いタイミングで絶好の機会がやって来たものだ。」
「……実力を隠していた事について、詰問される可能性があるのでは?」
「なに、その際は私が直接説明するとも。近々彼女達はここにやって来るだろうしね。」
「それは……大丈夫なのでしょうか?」
「確かに元々想定していた予定とは違うが、まぁ任せておきたまえ。それよりも、気を取り直して観戦に戻ろうじゃないか。これほどの魔法戦は中々目に出来るものではないよ。」
そう言ってジェイル・スカリエッティはモニターの戦いに目を向ける。
ヨミが見つめるその表情からは、未来に対する不安は一切感じられなかった。
それはヴィヴィオにスバルの幻影を被せ、二人が私の立てた作戦通りに攻撃を仕掛けた後の事だった。
遠距離からの射撃魔法で援護するべくタイミングを窺っていた時、目に飛び込んできた予想外の光景に思わず言葉が漏れた。
俺がこれまで見て来たどんな魔法よりも高出力、高威力の砲撃……それを俺よりも幼い子供に対して、なのはさんが撃ったと言う事実。
それ自体、眼を疑うような光景ではあったが、それよりも俺を驚愕させたのは……
「あの砲撃を受けきった……? いや、そもそもヴィヴィオの見た目が……!」
そう、確かにヴィヴィオに砲撃は命中した。
俺も流石に作戦を放棄して救出の為に動こうとしたその時、圧倒的な魔力の暴力とでもいうような砲撃が内側から爆ぜるようにかき消されたのだ。
そしてその中から現れたヴィヴィオはなのはさんと同じくらいの年齢になっており、全身に虹色の魔力を纏っていた。
――方法は分からないが……一瞬で成長したんだ! あの砲撃を吹き飛ばせる年齢まで!
等と半ば現実逃避気味な冗談を考えてしまったが、その内容そのものは事実だ。アニメでは確か、聖王のゆりかごの機能だったかレリックだったかが原因で同じような姿になっていたが……この場にそのどちらもある筈がない。
――何か隠しているとは思っていたけど……俺が思っていた以上に隠し事多いなアイツ!?
≪ティア! ヴィヴィオが!≫
≪ええ、解ってる。こっちからもしっかり見えてるわ。≫
≪前にティアが言っていたのって、コレなのかな!?≫
スバルからの念話で思い返すのは、いつだったか食堂で見たヴィヴィオの眼だ。
あの時の彼女が見ていたのは間違いなくスバルだったが、その後気にしていた内容はどちらかと言うと『なのはさんのプロテクションを破壊した時の話』だったように感じた。
その事から想像するに、やはりあの時から既にヴィヴィオはなのはさんと戦う事を想定……いや、なのはさんを倒すという目的を持って動いていたのだろう。
この予想は既にスバルにも伝えていた為、彼女はその確認の為に念話で連絡を取ってきたのだ。
≪多分、そうね。私の予想は的中したって事だと思う。≫
≪そっか……でも仮想空間で倒そうとするって事は、やっぱり本格的に敵対するつもりは無いって事だよね?≫
≪まぁ……そうね。≫
≪何!? 今の間!?≫
≪何でもないわ。それよりも早くこっちに戻って来なさい。ヴィヴィオの実力に合わせて作戦を練り直さないといけないんだから。≫
≪なんかはぐらかされた気がするけど……了解!≫
スバルは最後にそう言って念話を切った。
『本格的に敵対するつもりは無い』……か。正直、まだ"そう"断定するのはちょっと怖い所がある。
彼女が今まで実力を隠していた以上、裏にどんな計画が渦巻いているのか分からない。
――だけど、それが想像できない時点で俺がどうこう出来る範囲ではないからなぁ……
スバルに俺の考えを伝えなかったのも、それが理由だ。敵対するかもしれない、計画があるかも知れない……そんな曖昧な状況で中途半端な警戒を抱いていては、却っていざと言う時に動きを妨げる原因となる。
そう考えて気持ちを切り替えるべく頭を振った俺を見て、何か思う事があったのだろう、傍にいたキャロが話しかけてきた。
「あの……ティアナさん。」
「え? 何、キャロ?」
「えっと……ヴィヴィオの事は、あまり気にしなくて大丈夫だと思います。私もエリオもヴィヴィオとはよく一緒にいますけど、悪い事する子には見えなかったので……」
「! ……ふふ、大丈夫よ。あたしだってそこまで深刻に考えてはいないわ。だから安心しなさい。」
そう言って安心させる様に頭をポンポンと軽く叩いてやると、キャロはホッと安心した様子を見せた。
――まったく、小さい子供を不安にさせて何やってるんだろうな俺は。
先ずはこの模擬戦で、俺達の訓練の成果を見せつけるのが先だろう。
このままじゃヴィヴィオのインパクトが強すぎて、印象に一切残らないなんて事だってあり得るぞ。
――大体、ヴィヴィオと戦っているなのはさんが平然としている時点で『警戒不要』と言っている様な物じゃないか。
今だってヴィヴィオはスバルから吸収したのだろうディバインバスターや、私から吸収したのだろうクロスファイアーシュート等多彩な攻撃を繰り出しているが、そのどれもがなのはさんに的確に捌かれている。障壁を使わないと言う制限下でだ。
つまりなのはさんにはまだまだ余裕があると言う事。
本当に強い人は戦っている姿だけで味方を安心させ、鼓舞できる。それと同時にこう言われている気がした。
――『貴女達は私に見せるものが無いのかな』……と。
勿論直接そう言われた訳ではないが、戦い続けるヴィヴィオを見て思う事が無い訳でもない。
だって、俺達はまだ何も見せていないのだから。
「キャロ、ここからはギアを上げるわよ。さっきの咆哮、もう一度撃てる?」
「! はい! まだまだ撃てます!」
「頼もしいわね。」
さっきの作戦でなのはさんに撃ったキャロの魔法。
初速、弾速、威力、規模……そのどれもが優秀な、キャロしか使えない特殊な
――まさかヴォルテールの
勿論この仮想空間にヴォルテールは存在しない為、実際のデータを基に再現しただけではあるが、その威力は本物だ。
スターズと比べてやや決め手に欠けていたライトニングにおける、優秀な切り札となるだろう。
そして実戦でそれを十全に生かす為にも、今回の模擬戦は貴重な機会だ。連携にうまく取り入れつつ、それだけに頼らない作戦を立てなければならない。
――エリオとスバルの切り札も組み込んで、キャロの咆哮召喚をフィニッシャーに持って行く……俺が幻影魔法でサポートすれば、一応可能か。
そう考えてなのはさんを見ると、自然とヴィヴィオの戦いも目に入って来る。
……先程のキャロの不安げな顔が脳裏に過った。
――ああ、分かってるよキャロ……
先程立てた作戦を自ら棄却する。あの作戦は俺とスバル、エリオとキャロで動く為の作戦だ。
『一人足りてない』……さっきのキャロに、そう言われた気がした。
――突貫工事だが、ヴィヴィオの戦力も巧く組み込む。もうこの世界はアニメとは違う。
スバルが合流するまでの間、俺はヴィヴィオの戦いを見続けた。
ヴィヴィオの力を可能な限り把握し、上手くフォワード陣の作戦に組み込めるように。
アインハルトが機動六課に居ればはやてが率いる第3のチームとして『ナイトナイツ』みたいなものも出来たかななんて妄想。(どう考えても持て余すので没)
・キャロの咆哮召喚
事実上のギオ・エルガ。
仮想空間ではあくまでデータの再現なのでキャロの意思のみで撃てるが、現実ではヴォルテールとの連携攻撃なので意思疎通が必須。
とは言ってもヴォルテールとの関係は依然として良好なので、それほどの齟齬は無い。
使用する魔力量は召喚分の魔力だけなので、威力と比較すると非常にリーズナブル。
・ヴィヴィオの魔法に関する補足
この小説内のヴィヴィオは原作と違いなのはやフェイトよりもフォワード陣と接する事が多かったため、使用魔法もフォワード陣に傾倒しております。
ただし、固有の能力(振動破砕等)や、特殊な装備が必要と思われる技(リボルバーシュート等)、召喚竜が必要な技(咆哮召喚等)はラーニング不可としております。