転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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仲間として

肌がひりつく。

一瞬一瞬が異様に長く感じられ、それと同時に自らの動きが刻一刻と洗練されて行くのが見えた。

心の何処かで何となく理解した。この感覚は、私が"私"の動きを取り戻していく過程なのだと。

 

――手足の長さが嘗ての聖王に近付いたからだろうか、それともあのデバイスを使っているからだろうか……受け継いだ記憶と経験が、みるみるうちに馴染んで来る……!

 

父が自ら手掛けたデバイス『セイクリッド・ハート』は、嘗て『聖王核』と呼ばれたロストロギアを基に造られているのだと父から聞いた。

普段は機動六課から支給された訓練用のデバイスを使っていたが、ウサギのぬいぐるみの中に隠されたこのデバイスは常に私と共にあった。

 

それを使用した事で私とセイクリッド・ハートは一つとなり、身体は成長した。

……理屈は分からない。だが彼自身が手掛けた仮想空間内で()()なったという事は、恐らく現実でも()()なるのだろう。

詳しい話は今度父に機会を見て尋ねるとして、今向き合うべき問題は……

 

――この身体になっても、捌くのが手一杯とは……! 滅びの原因となりかねないと疑われる訳だ!

 

記憶にある聖王の体格に近付いた直後、私は膨れ上がった魔力を使い怒涛の猛攻を仕掛けた。

この時代で学んだ魔法、聖王の記憶から得た技術を総動員し、最初の内は互角に戦えていた……そう思っていた。

 

だが、なのはさんが"アクセルシューター・クラスターシフト"と言う射撃魔法を発動して全ての状況が変わった。

数える事さえ億劫になる程の膨大な魔力弾の群れは、彼女の意思一つで自由自在に戦闘空域を駆け巡る。

使用者であるなのはさんは操作に集中する必要があるためか眼を閉じて一切動かないが、彼女の周囲には常に20個以上の魔力弾が守りを固めており、更には残った無数の魔力弾があらゆる方向から襲って来る為、こちらは一切攻める事が出来ない。

更に恐ろしい事に――

 

「"バスター"」

「ッ!」

 

彼女が指令を下せば、周囲のどこかで砲撃魔法が作られて発射されるのだ。

下手に回避すれば隙を晒す事になりかねない為、その都度魔力を込めた拳で打ち消してはいるが……

 

――魔力の消費が激しい!

 

周囲を巡る無数の射撃魔法に込められた魔力量は、ティアナのクロスファイアーシュートとは比べ物にならない程多く、それがクロスファイアーシュートと同じ程の大きさになるまで凝集されている。

当然それが集まって生成された砲撃の威力は言うまでもなく、弾くのにも多大な魔力を消費する。

そしてそんな魔力弾がまだ周囲には数えきれないほど存在しており、まるで檻のように私を閉じ込めているのだ。

 

――この状況を打破する方法は分かっている。分かってはいるが……!

 

まだ私の魔力は十分残っている。砲撃で包囲網に穴を作り、全速力の飛翔魔法で()()()()()()()()()()、この密集した魔力弾群を逆に一網打尽に出来るだろう。

だが、肝心の飛翔魔法の速度が足りていない。既になのはさんに私の速度を見切られたのだろう、魔力弾の包囲網は私が脱出するにはギリギリ速度が足りない絶妙な距離を保っていた。

 

――後少し……もう一押しあれば……!

 

丁度私がそう考えたその時だった。

 

「! あれは……」

 

突如なのはさんが目を開き、私の後方に目を向けた。

釣られるように彼女の視線を追うと、空中を巡る無数の魔力弾が形成した壁の向こうに、魔力弾とは違う軌道で横切る影が見えた。

 

――あれは確か……キャロのフリード!? 何故こんな所にやって来た! あまりにも危険だ!

 

そう叫ぼうとしたその瞬間、私の身体にキャロの魔力が流れ込み、力が湧き上がるのを感じると同時に理解した。

彼女は私の現状を打開する為に、こんな所まで近付いて来たのだと。

私を仲間と思ってくれているからこそ、危険を冒してまで助けに来てくれたのだと。

 

そして同時に、もう一つ理解せざるを得なかった。

 

――私は、彼女達の事を……心の何処かで戦力外だと考えていたのか……

 

スバルはなのはさんのプロテクションを破壊した"何か"を持っており、ティアナはそれをなのはさん相手に成功させるだけの作戦構築力と魔法がある。

キャロにはフリードとヴォルテールと言う2体の竜がついており、先ほど見たヴォルテールの咆哮の威力は数ある砲撃魔法の中でも最上位に相当するだろう。

エリオはまだ発展途上だが、時に同僚から、時に隊長陣から動きや魔法を学び取り、目を見張る速度で成長しているのを見て来た。

今でも既に一角の魔導士を名乗るに値する実力を有していながらもその成長速度に衰えは見られず、いずれは管理局のエース級の実力を身に着ける事は間違いないだろう。

 

だが、私はそれを理解していながらも心の何処かで『私がやらなければ』と思っていた。

確かに使命感はあっただろう。

機動六課内に於いて、なのはさんが滅びの原因となり得ると言う情報を知っているのは私しかいなかったのだから、人一倍気負っているところはあった筈だ。

 

だがそれ以上に私は彼女達を侮っていたのだと、私に流れ込んだキャロの魔力が教えてくれた。

 

――今なら、行ける!

 

「ッ!」

 

私と目が合ったなのはさんが、微かに息を飲んだのが分かった。

そして周囲の魔力弾群の動きに僅かな変化が起きた事も……だが、遅い!

 

「"ディバインバスター"!!」

 

視界を染め上げる虹色の砲撃が、周囲を巡る星団の檻をこじ開ける。

その残光も消えぬ間に、私は檻の外に飛び出していた。

 

「ヴィヴィオ! こっち!」

「キャロ……っ、ちょっと待ってて!」

「えっ?」

 

私を誘うキャロに一言告げてなのはさんに向き直ると、先程まで私を閉じ込めていた星団がなのはさんの構える杖の先に収束するのが見えた。

 

「"ブレイカー"」

 

次の瞬間こちらに向けて放たれたのは、今の私の体を飲み込んでなお余りある規模の収束砲撃だった。

だが、今の私なら――!

 

「紫電、一閃ッ!!」

 

右の拳に全霊の魔力を込め、身を翻しながら右フックの要領で砲撃を殴りつけると、収束砲撃はその軌道を僅かにそらされ、私の数cm横を通り抜けていった。

 

「す……凄いね、ヴィヴィオ……」

「キャロの強化魔法のおかげだよ。私だけだったら多分、躱しきれなかった。」

 

唖然とした様子のキャロの言葉にそう返答し微笑むと、キャロは更に唖然とした様子で言葉を漏らした。

 

「なんか、雰囲気変わったねヴィヴィオ……?」

「うん。……後で話すよ。」

 

……全部はまだ話せないけど、私が打ち明けられる全てを話そう。

本当の意味で仲間になる為に。近い内にきっと訪れる脅威に、皆で立ち向かえるように。

 

≪キャロ! ヴィヴィオ! 今の大丈夫だった!?≫

≪あ、ティアナさん! はい、私達は大丈夫です!≫

≪心配させてごめんね、ティアナ。こっちも無事だよ。≫

≪……えっ、今のヴィヴィオ? 随分雰囲気変わったわね……≫

≪うん、キャロにも言われた。≫

≪ふーん……まぁ、良いわ! 早速だけど、次の作戦よ! なのはさんに何とか一泡吹かせてやりましょう!≫

≪はい!≫

≪任せて、ティアナ。≫

≪……何かやりにくいわね……≫

 

 

 


 

 

 

――まさか、あの状態から抜け出すなんて……ちょっと見誤ったかな。

 

フリードに乗り、ティアナの下へと飛んで行くヴィヴィオを見送りながら、先程の一戦の反省点を纏める。

 

アクセルシューターのバリエーションとして開発した『クラスターシフト』は、込める魔力と生成する魔力弾の数をひたすらに増やした魔法だ。

操作にも相応の集中力が必要なばかりか、操作可能範囲も通常のアクセルシューターより狭くなっている。

しかしその分、捉えた相手を逃がさない事に関しては大抵の拘束魔法を上回る魔法だったのだが……

 

――逃げられた場合の"ブレイカー(収束砲撃)"も対処されちゃったし、"滅び"にはちょっと力不足かな。

 

強化魔法を受けたとは言え、たった二人の魔導士で対応できる程度の拘束力では、恐らく"滅び"には通用しない。

それで通用するなら、今の機動六課なら完封できるだろう。

 

――それにしても、あの時のヴィヴィオの眼……大切な事には気付いて貰えたみたいだ。

 

彼女はこれまで何処かフォワードの皆と馴染めていないと感じる事があったけど、きっともう大丈夫だろう。

そして、彼女に対するフェイトの憂いもきっと消えた筈だ。

あの眼は心の底から仲間を信じる者にしか出来ない……少なくとも、私はそう信じる事にした。

 

そんな事を考えていると、ふと周囲の変化に気が付いた。

 

――霧……? 仮想空間の天候は今固定にしてあるから、これは……魔法?

 

観察している間にも霧はどんどんと濃くなり、ティアナ達の姿も見えなくなる。

 

――魔力感知も……成程、この霧に使った魔力が目晦ましになるのか。

 

確かにかなりやりにくい環境だ。プロテクションを縛っている為、身を守ると言う事も出来ない。とは言え、

 

――感覚だけど、半径数m程度なら魔力感知も出来るかな。

 

私もありとあらゆる相手に対応しようと鍛えた事がある身だ。大抵の状況は想定した事がある。

ティアナの作戦が、フォワード達の実力がその想定を超えてくれるか、見せて貰うとしよう。

 

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