転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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人質

模擬戦の翌日、機動六課隊舎の応接室にて4人の女性がとある来客の応対をしていた。

 

「――こちらが、お望みの物です。」

「拝見させていただきます。……――確かに、受け取りました。」

 

来客……管理局の使いを名乗った銀髪オッドアイの男が手渡したケースから青い宝石のような物を受け取ったはやては、それが前回の事件で押収されたロストロギアである事を確認し、プレシアに手渡した。

 

「彼等からのメッセージも受けております。『貸し出しの期限は予言を回避するまで』との事です。」

「そうですか。……『ありがとうございます』と、お伝えください。」

 

使いの男に対してはやてがそう返答すると、彼はそのまま言葉を続けた。

 

「そしてもう一つ、メッセージがございます。こちらは私の()からです。」

「父……?」

 

突然妙な事を口走った男に対して、何かの聞き間違いかと思いつつも視線を向けたはやては次の瞬間、信じがたい光景を目にした。

 

「はい、私の父様……"()()()()()()()()()()()"からのメッセージです。」

 

そこにいたのはさっきまでの銀髪オッドアイではなく、長い金髪を真っ直ぐに伸ばした女性の姿だった。

 

――こいつは、ナンバーズの……!

 

はやてが即座にハンドシグナルで指示を飛ばすと、ものの数秒でセットアップしたなのはとフェイト、プレシアを含めた4人による包囲が完成する。

しかし、4つのデバイスと膨大な魔力を突きつけられた状態でもなお、管理局の使いに化けていた女性……ドゥーエは冷静そのものであり、抵抗どころか身じろぎさえしていなかった。

 

「……自分、どういうつもりや。許可なく身分を偽る魔法……それも、よりにもよって管理局員に化けるなんて、軽い罪では済まんで。」

「承知の上です。ですが、()()はあくまで魔法とは違う能力による物。少なくとも管理局法では魔法を用いない"変装"は罪に当たりませんよね?」

 

問い詰めるようなはやての言葉に対し、再び銀髪オッドアイの男に化けたドゥーエは淡々と答える。

インヒューレント(I)スキル(S)』と呼ばれるその機能について、転生者であるはやては当然事前知識として持っていた。しかし、実際にそれを使用して見せられたことで、明らかに魔法とは違うメカニズムである事を再確認させられていた。

 

「エントランスに仕掛けられとったセキュリティを突破できたんは、ソレが理由って事か。また厄介な物を……ほんで、その能力を使って自分は何の為にここに来たんや? まさかその"変装"の自慢っちゅう訳やないんやろ?」

「はい。先程も申しました通り、ジェイル・スカリエッティからの伝言を届ける為です。その為に、本来最高評議会からの使者となる予定だった方の姿を借りさせていただきました。」

「その局員は無事なんやろな?」

「誓って危害は加えておりません。本人は今頃、突然入った休暇をのんびりと過ごしている事でしょう。」

「……ならええわ。本題のメッセージとやらを聞こうやないか。」

 

そう話すドゥーエの言葉を鵜呑みにする訳ではないが、直ぐに確認できる事でもないかと判断したはやては銀髪オッドアイの安否確認を後回しにして、一先ず彼女の用件に耳を傾ける。

すると彼女は懐からジェイルフォンを取り出して応接室の机に置くと、その場の全員に見えるように操作し始めた。

 

「これは……ジェイル・コーポレーション周辺の3Dマップか?」

 

しばらくしてドゥーエの操作によって空中に投影されたのは、はやてが言ったようにジェイル・コーポレーションのビルを中心とした3Dの街並みだった。

 

「はい、ここからは父様からのメッセージと共にご覧ください。」

 

そのままドゥーエが操作を続けると、表示された街並みの一角をズームアップするように映像が動き、メッセージが再生される。

 

『やあ機動六課の諸君、私はジェイル・スカリエッティ。君達がこれからジェイル・コーポレーションに来る事だろうと予想し、このメッセージを我が娘に持たせた者だ。』

「!」

 

ズームアップされた街の一角に現れたジェイル・スカリエッティの言葉に、はやて達は息を飲む。

よりにもよってこれから踏み込もうとしている相手に、こちらの動きが筒抜けだと釘を刺された様な物だからだ。

しかしそんな彼女達の反応を気にする筈もなく、映像は進む。

 

『さて、諸君が気になる点はいくつかあるだろうが、先に彼女……ドゥーエを向かわせた理由について簡潔に説明しよう。彼女は言わば"案内人"であり、私から君達に預ける"人質"だ。』

「なっ……!」

 

ジェイル・スカリエッティの言葉に、思わずはやての声が漏れた。

そのままドゥーエに対して視線を向けると、彼女は平然とした様子で映像を眺めていた。その様子から、彼女は自身が人質である事を承知でこの場に一人やって来たのだという事が伺えた。

 

『気を悪くするだろうが、先ず話を聞いてほしい。君達にはこの後、映像に記したルートでジェイル・コーポレーションまでドゥーエを連れて来て欲しいのだ。そこで人質の交換を行いたい。万が一道を忘れたり、迷ったりしても心配はいらない。このルートは普段、ドゥーエ……我が娘達が出入りする従業員用の出入り口だ。ドゥーエが居れば案内してくれるだろう。』

 

映像はジェイル・コーポレーションから少し離れたところにある地下駐車場から入り、とある扉を抜けた先の通路を進んでいる。通路は似たような光景が続き、潜るドアにも何の変哲もない為迷いやすい構造になっているようだ。

 

『そして、彼女と交換する人質は他ならぬ私自身……ジェイル・スカリエッティの身柄だ。』

「……は?」

『分かりやすく言えば"降伏"と言う奴だよ。元々敵対していたつもりはないが、疑われる心当たりはあるからね。会社と娘達を守るために、私は一先ず大人しく捕まる事にするよ。娘を人質として送ったのも、私が君達に逆らわない保証の様なものだ。こうでもしなければ、いくらこちらに敵意が無いと言っても信じては貰えないだろう?』

 

確かに、とはやては内心で一応の納得を見せる。

生死体事件と聖女との裏の繋がりが明らかになったこのタイミングで、突然敵意が無いと言われても「はい、そうですか」とはならない。

だが、敵対の意思が無いのに何故こちらの動向に目を光らせていたのか……と言ったようないくつかの疑問は消えない。

 

――何処までが真実で、何を隠しているか……それを何とかして探り出す必要があるな。

 

はやてがそう考えている間にメッセージは終盤に差し掛かって行き、映像には『従業員専用』と書かれた扉が映っていた。

 

『以上が我がジェイル・コーポレーションまでのルートだ。他に気になる事があればドゥーエに聞くと良い。彼女の知っている範囲ならば、包み隠さず答えてくれるだろう。では、君達がジェイル・コーポレーションに来るのを待っているよ。』

 

最後に映像のジェイル・スカリエッティがそう言うと、彼のメッセージは映像とともに消えた。

残された彼の娘であるドゥーエは、そのまま淡々とジェイルフォンを懐にしまうと立ち上がる。

 

「――そう言う訳ですので、早速行きましょうか。」

「……まぁ、ええ。どの道ジェイル・コーポレーションには乗り込むところやったんや、望み通り出向いたろうやないか。」

「良いの、はやてちゃん? これって罠なんじゃ……」

「こっちの動きが読まれとった以上、どっちのルートで行っても変わらんやろ。それに……このドゥーエって奴の監視も必要やからな。」

 

諫めるようななのはの疑問にそう答えながら、はやてはドゥーエが"変装"と表現したIS"ライアーズ・マスク"の能力を思い出し、考える。

 

――人質、か……よう言うわ。こんなん警告とそう変わらんやんけ。

 

彼女が自ら正体を明かさなければ、はやて達はドゥーエをここに置いたままジェイル・コーポレーションに向かう可能性もあった。そしてその上でもしも彼女やジェイル・スカリエッティに敵意があれば、彼女は"変装"を駆使して機動六課を混乱に陥れる事も容易に出来たのだ。

ヴォルケンリッターを始め、多数の実力者を擁する機動六課を陥落させる事は流石に難しいだろうが、爆弾の一つや二つ仕掛けるくらいは出来ただろう。

 

――完全に先手を取られた形やな……まぁ、こっちの動きがバレとった時点でこうなる事は決まっとったか。

 

「とは言え、一応拘束はさせて貰うで。さっきの"変装"で好き勝手されたら敵わんからな。」

「ええ、それくらいでしたら構いませんよ。」

 

はやての僅かばかりの抵抗として使用された拘束の術式を、ドゥーエはこれまた一切の抵抗をせずに受け入れた。

身体の前で合わせられた両手首から肩口にかけて無数の光輪が縛り付け、更にその上からグレイプニルによる魔法封じまで重ねられた念入りな拘束だ。

だというのに一切慌てる様子の無いドゥーエの態度は、それでもイニシアチブを握るのは彼女達だという印象を抱かせた。

 

――ほんま、やり辛い相手やわ。

 

「……さぁ、行こか。」

「はい。あぁ、それともう一つ、移動は一般車かそれに偽装した車両でお願いします。あまり大事にはしたくありませんので。」

「この人質、注文が多いなぁ……」

 

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