「――『従業員専用』……ここやな。」
「はい。私が扉の前に立てば、鍵は開きます。」
「確か、オートマタの識別信号やったか? 便利なもんやな。」
あれからここに来るまでの車内で、彼女達の事情は一通り聞いた。
それによるとどうやら彼女達は名前や容姿、能力こそアニメで見た『ナンバーズ』と瓜二つだけど、その製造工程には大きな差があったようだ。
――ドゥーエの言葉を信じるなら、彼女達は厳密には戦闘機人ではないという事になるな……ISが使える辺り、技術の流用はしているみたいやけど。
言うなれば機械兵を生体パーツで作るようなもので、人格に関してはインテリジェントデバイスに使うような高度な人工知能をさらに発展させたものらしい。
言うなれば戦闘機人をよりクリーンかつ安全に生み出す為の技術革新であり、その辺りから少なくとも転生者『ジェイル・スカリエッティ』はアニメのジェイル・スカリエッティよりも道徳や倫理を重んじている姿勢が見受けられた。
だが同時にこうも思う。生死体事件の少女然り、ナンバーズ然り……法の抜け道を探るような物ばかり作るから疑われるんじゃないのだろうか、と。
そんな事を考えている間にドゥーエが従業員専用入り口の前に立つと、扉は彼女を認識したのだろう。"ピピッ"と小さな音がした後、すんなりと開いた。
「……それにしても、まさか本当にここまで何事もなく辿り着けるとはなぁ……」
「何度も説明しましたように、罠ではありませんから。」
「あくまでジェイル・コーポレーションの信頼を守る為って言うんやろ? その為に
正直、疑われて困る『裏』が無いのならば堂々としていれば良いのではないか、と言うのが私の考えだった。
なにより、
そう言う意図を乗せた私の問いかけに、彼女はやや困ったように答えた。
「……ジェイル・コーポレーションには、
「前例? …………ああ、そう言えば有ったみたいやな。そんな事も。」
彼女の言う前例の切っ掛けは、ある一つの根も葉もないゴシップだった。
"ジェイル・コーポレーションは秘密裏に兵器を開発している"……そんな誰が何の意図で流したのかも分からない噂が原因で、一度ジェイル・コーポレーションには管理局の捜査のメスが入った事があったのだ。
結果から言えば噂は噂でしかなく、当然開発している兵器等も見つからなかった。
噂の出所も後に特定され、ある一人の男が逮捕されて小さな事件は解決したのだ。
「"
「……すまん、失言やったな。」
「いえ、はやてさんを責めても仕方ない事でしたね。」
と言うのも当時の私はまだ小学生であり、管理局員どころか騎士にもなっていない時だからだ。私がその事件を知ったのだって、今回の一件で過去のジェイル・スカリエッティに前科が無いかを調べ直したのが切っ掛けだった。
「当時、ジェイル・コーポレーションの収益源はジェイル・フォンとたった一つのソーシャルゲームのみでした。今でこそ十分に感じられそうですが、当時はジェイル・フォンの浸透率はそれほど高くなく、ジェイル・フォンでしかプレイできないソーシャルゲームの売り上げも当然芳しくない状況でした。」
「――なにしろ、当時の我が社は出来立てほやほやの新興勢力だったからね。いくら既存の携帯端末より遥かに優れた性能があったとしても、わざわざ買い替えるだけの"信頼"を持ち合わせていなかったのだよ。」
「! どうやらお出ましのようやな、ジェイル・スカリ……エッティ……?」
ドゥーエの説明を引き継ぐ形で割り込んだのは、彼女の父であり、この会社の社長であるジェイル・スカリエッティ本人だった。
どうやら私達が来るのを待っていたらしく、その周囲には数人のナンバーズが護衛のように立っており、その身体は幾重にも重なるロープで厳重に拘束されていた。
――え、もう捕まっとるやん。なんで?
「ああ、すまない。懐かしい話をしているようだったからね、つい口を挟んでしまった。それにしてもあの騒動はまさに痛恨だったよ。何せ信頼を勝ち取らなければ未来が無いというのに――」
「いやいやいやいや! 待て待て待て待て! ちょぉ待て!! それより先に説明する事があるやろ!?」
「……? ……! ああ、この格好かね? ドゥーエを人質に出したと娘たちに伝えたらこうなった。」
「おら、さっさと歩けバカ親父。」
「えぇ……」
「さて、ここで私とドゥーエの身柄を交換すれば私の用事は完了するのだが、以前のような疑いをかけられているのを晴らさないのも不安だね。そこでどうだね? 折角来たついでに、軽く
「自分何でその状態でそんな話持ち掛けられるんや?」
……まぁ、見せてくれるんならそれに越した事は無いんやけども。
カタカタと、慣れない手でパネルを叩く。
空中に表示されているホログラムに並ぶのは、私達の人格AIを構成するものとはまた少し違うプログラム言語の羅列だ。
この入力された文字の一つ一つが今私達が作っている世界の法則であり、人物であり、物語であり、現象を司る。
フルダイブ型のVRゲームを作るのは、一つの世界を作る事と同じである……これはこのジェイル・コーポレーションの社長である父、ジェイル・スカリエッティの言葉だ。
――まぁ、あの人は一度も開発に関わった事ないんだけど。
その理由はいくつかあるが、一番の理由は彼が私達『オートマタ』とは違って機械に自分の精神を潜り込ませる事が出来ないというのが大きい。
機械に精神を送り込んだ状態であれば、私達は現実でこうしてパネルを操作するのとは比較にならない速度で世界を構築していける。
そのおかげでジェイル・コーポレーションは他の会社とは比べ物にならない速度でVRゲームを造り出せているという訳だ。
では何故、今『オートマタ』である私達がわざわざ非効率的な手法でゲームを作っているのかと言うと――
Message:Sunny@32 > ALL:パネル叩くのクソだるい……
Message:Mio@30 > ALL:わかる。めっちゃ非効率でイライラする
Message:Yomi@43 > ALL:なんでパネルに指示を出す手に動くように指示を出すなんて二度手間をするんだ……
Message:Nina@27 > ALL:朝説明しただろう。管理局に調査させるからだ
Message:Mio@30 > ALL:それは聞きましたって。クアットロ姉様がエレベーターとか隠したのもその一環ですよね?
Message:Sunny@32 > ALL:どうせならこの部屋全部クアットロ姉様のISで誤魔化してくれたらいいのに……
Message:Nina@27 > ALL:それでもし部屋に入って来られたらどうする? バレた時に余計に怪しまれるだろう?
Message:Sango@35 > ALL:でもその所為で今日の作業全然進んでない……
Message:Yoyo@44 > ALL:ミ=ゴ姉のとこも? やっぱりリアルは非効率。リアルは死んだ。
Message:Sango@35 > ALL:『サンゴ』だっつってんでしょ!? Sango@35の文字見えないの!?
ホログラムとはまた別に私達の視界にのみ表示される連絡用チャットにて、丁度その話が流れてきた。
どうやらみんな少なからず鬱憤が溜まっているらしい。私もこのもどかしさをぶつける為に会話に加わるとしよう。
Message:Miku@39 > ALL:勝手にこんなこと決めやがってあのバカ社長マジで……
Message:Yomi@43 > ALL:今は何処もこんな感じでしょ……ちょっ、ミクちゃん!?
Message:Shiro@46 > ALL:ミクちゃんめちゃくちゃ荒れてて草
Message:Nina@27 > ALL:キャラ崩れてんぞミク
Message:Mio@30 > ALL:『ナンバーズクロニクル』ではあんなに天真爛漫なのに……
Message:Yoyo@44 > ALL:いつもは優しい子なんです……!
Message:Sango@35 > ALL:誰に弁解してんのよ……
多少オーバーに怒りを表現し過ぎたかなとは思うけど、幾分かスッキリした辺り割と本音が入っていたのかも知れない。
その後もパネルを叩く手は止めずにチャットを続けていると、突然物々しい気配が漂う発言が目に入った。
Message:Yoyo@44 > ALL:緊急事態
Message:Nina@27 > ALL:どうした
Message:Yomi@43 > ALL:またいつものサプライズ?
Message:Yoyo@44 > ALL:違う。これは由々しき事態。正直管理局舐めてた
Message:Mio@30 > ALL:何!? 管理局に何されたの!?
Message:Sango@35 > ALL:あー……皆気にしないで。多分大丈夫だから
Message:Miku@39 > ALL:どう言う事? 突然襲われたとかじゃないよね?
Message:Sango@35 > ALL:大丈夫大丈夫。ちょっとそこの通路通りがかっただけ。
Message:Shiro@46 > ALL:なんでそれだけでヨヨがそんな事になってんの?
シロの疑問は尤もだ。ヨヨはいつも落ち着いている印象で、動揺した姿を見た者は私の知る限りいない。
振り回されるタイプと言うよりは寧ろ振り回すタイプで、その性質は本人の趣味であるサプライズにも表れている。
Message:Sango@35 > ALL:大丈夫だって。
Message:Miku@39 > ALL:えぇ……何か不安
Message:Sango@35 > ALL:そろそろミクの部署の辺り通りがかるだろうし、通路見てたら分かるんじゃない?
Message:Mio@30 > ALL:って事はうちの部署じゃん……因みに管理局って誰が居た?
Message:Shiro@46 > ALL:あ、それ気になる。有名人いるかな……?
Message:Yoyo@44 > ALL:高町なのは
Message:Nina@27 > ALL:えっ
Message:Miku@39 > ALL:えっ
Message:Mio@30 > ALL:えっ
Message:Sunny@32 > ALL:えっ
Message:Shiro@46 > ALL:えっ
突然示されたビッグネームに反応してか、この部屋に響いていたパネルを叩く音が一斉に止んだ。
どうやら発言していなかっただけでこの部屋の全員がチャットを見ていたらしい。
Message:Sunny@32 > ALL:サンゴ、まじ?
Message:Sango@35 > ALL:まぁ居たけど……
Message:Nina@27 > ALL:もう駄目だ……おしまいだ……
Message:Yoyo@44 > ALL:あんなの勝てるわけがない
Message:Sango@35 > ALL:いや戦う必要ないから
Message:Yomi@43 > ALL:でも歩く時の余波で街路樹吹っ飛ばしたんでしょ……?
Message:Sango@35 > ALL:ネットのミームを本気にしないで
まぁヨミの発言は流石に冗談だとしても、睨んだだけで次元犯罪者が失神したという伝説を持つあの高町なのはが来るとなるとどうしても緊張が走る。
そして直後、部屋がしんと静まり返ったおかげで廊下から近付いて来る足音が耳に入った。
誰が言い出した訳でもなく、皆が鬼気迫る表情でパネルを叩き始める。絶対にこの場をやり過ごす……その一心で。
そして、足音は部屋の入口に差し掛かり、直後ドアが開き……えっ?
「ここは今丁度ビッグタイトルの続編が作られている開発室だね。『ベルカの伝説』というタイトルは聞いた事あると思うんだが……」
――いや父様、それ機密情報……って言うか、えっ!?
Message:Mio@30 > ALL:社長縛られてて草
Message:Shiro@46 > ALL:しかもなんでそのまま案内してんのさw
Message:Nina@27 > ALL:って言うか普通に機密話してるんだけど……
Message:Sunny@32 > ALL:えぇ……何このプレイ
Message:Miku@39 > ALL:……あっ、もしかしてヨヨが動揺してたのって!?
Message:Sango@35 > ALL:うん。
Message:Yoyo@44 > ALL:あんなの私でもした事ない……管理局のサプライズ力恐るべし……
Message:Nina@27 > ALL:何だそんな事か……
ニーナ姉さんの安堵と同時に父様達は再び廊下を歩いて行った。
全く、ヨヨの発言を真に受けるんじゃなかった。って言うか、サプライズ力って何よ……
でもこの後父様一度捕まるって話なんだよね……大丈夫かな。
もしかしたら2、3日は戻ってこないかもしれないし、もうちょっと顔見ておけば良かったかも。
Message:Mio@30 > ALL:って言うかあの縄持ってるのノーヴェ姉様だし、縛ったのもノーヴェ姉様なんじゃないの?
Message:Yoyo@44 > ALL:っ!! これからはお師匠様と呼ばせていただきたい……!
Message:Nove@9 > ALL:断固拒否する
Message:Yomi@43 > ALL:あれ……余波は?
Message:Miku@39 > ALL:本気だったんだ……それ
・オートマタ専用回線
本来は魔法さえ使えないような極限状態でも秘密裏に連絡を取る為の機能だったが、そんな物騒な機会が訪れる事はそうそうない為、社内チャット同然の使い方しかされていない悲しい機能。