八神はやて率いる機動六課の4人がジェイル・コーポレーションの内部を案内されている丁度その頃、彼女達の居る場所から遥か地下深く……ジェイル・コーポレーションの地下試験場にて、大人びた風貌の女性とゴテゴテした鎧を纏った人物が対峙していた。
女性の方は全身の力を程良く抜いた特有の構えを取っており、その両手にはナイフが握られている。
対して全身に鎧を纏った人物はそのごつごつしい印象に相応しい大剣を掲げると、その容姿に見合わないかわいらしい声で高らかに宣言し、構えを取った女性に斬りかからんと独特な足運びで駆け出した。
『行っくぞぉ! "サンシャイン・ブレイバァァ"! って……うわっ、とっとっとぉ!?』
『……はぁ、このバカ。隙ありだ。』
『待っ、ちょ、待ってチンク姉……グワーッ!!』
が、その直後、何もない所で躓いてバランスを崩した騎士は、鎧の重さも相まってか女性の眼前で転倒。無慈悲にも繰り出されたかかと落としの追撃により、呆気なく決着がついた。
『――うーん……何か上手く行かないなぁ……』
『セインはゲームの技を再現する事に拘り過ぎなんだ……いいか? 私達に求められてるのは純粋な戦闘力。パフォーマンスじゃないんだ。』
戦い……と言うよりは、今使っている身体に慣れる為のトレーニングを終えた二人は、データの計測結果が出るまでの間先程の組手について話し合っていた。
『あははー、分かってはいるんだけどね。でもせっかくリクエストしてまで再現してもらったんだし、やっぱりやってみたいじゃん?』
『それで戦闘力を落としていたら意味がないだろう……ただでさえ本来の身体との差異が大きい分、バランスを崩しやすいというのに。』
『いやぁ……でも自分の技らしい技も無いし、持ちキャラの技の方が使いやすいかなって。ホラ、元々あたしって前に出て戦うタイプでもないしさ?』
セインが言う様に、彼女が現在鎧姿の騎士になっているのはセイン自身のリクエストであり、鎧の重さに関しても(ゲームで)慣れているから大丈夫だとスカリエッティを説得していた。
事実、彼女は本来の身体とは異なる重心やリーチに対しても誰よりも早く適合し、彼女の主張が正しい事は既に証明済みでもあった。
今の組手の転倒に関しても、ゲームではかかっていた動作補正が無い状態で、ゲームだからこそ許されるスタイリッシュな動きを再現しようとした結果であり、普通に戦えば普通に強いのだ。
『全く……やはり本来の身体に合わせて貰った方が動かしやすいんじゃないか?』
『本来の身体……本来の身体かぁ……』
そのチンクの言葉を聞いたセインは彼女の言葉を反芻しつつ、何かを言いたげにチンクの
今のチンクはスラッとした長身の女性の姿をしているが本来の姿は
その事を指摘するようなセインの目線を受け、チンクは何処か居心地悪そうに尋ねた。
『な、なんだ……何が言いたい。』
『いやぁ……やっぱり気にしてたのかなぁって』
『こっ、この方がリーチが長いし、ナイフを扱う際にも便利なんだ! 別に私の趣味や理想を反映した訳では――』
「そこまでにしなさい、二人共。」
チンクの反論が熱を帯び始めたところで、パンパンと手を叩く音と共に割り込んだ第三者が二人を宥めた。
『ウー姉!』
『……管理局の方はどうだ?』
割りこんだ女性の正体はウーノ。
最初に生み出されたナンバーズであり、その役割はジェイル・スカリエッティの秘書兼、ジェイル・コーポレーションに於けるあらゆるセキュリティの管制である。
また、その役割を持つが故にジェイル・コーポレーションの中枢に自らの核を直接繋げる権限を唯一有しており、今回彼女にはその能力と権限から幾つかの役割が与えられていた。
「今は第4開発室に入ったところよ。クアットロの偽装は成功しているみたいね、今のところは何かを疑う素振りもないわ。」
『さっすがクア姉、この調子なら何も問題なさそうだね!』
『そうでなくては困るがな……今のこの状況を見られたら、説明に手間取りそうだ。』
そう言ってチンクが見渡す部屋の光景は、現在はやて達が案内されているジェイル・コーポレーション内部とは打って変わって、非常に物騒な物だった。
ズラリと並ぶ計器と端末にはセインとチンクを始めとする数人のバイタルが表示されており、その隣に並ぶカプセルには彼女達の本体が目を閉じた状態で横たわっている。
また、先程までセインとチンクが居た部屋……強化ガラスで区切られたスペースには、ジェイル・コーポレーションで秘密裏に開発されたアームドデバイスが所狭しと転がっており、ソレを用いた戦闘訓練が至る所で行われていた。
『別に悪い事しようって訳じゃないのにねぇ?』
『だとしても、やはり個人で回収したロストロギアを組み込んだアームドデバイスの存在はやはり問題となるだろう。……ウーノ、父様が言う"脅威"とは、本当にここまでする必要がある相手なのか?』
「……ええ、少なくとも父様はそう睨んでいるわ。」
彼女達の父であるジェイル・スカリエッティは、彼女達に自らが想定する脅威に関して必要以上の情報を与えていない。
それは彼の知る情報……2つの未来予知を合わせても、"滅び"の正体が不明瞭であるからだ。
……尤も、2つの情報を持つ強みとして、彼の想定する脅威は管理局の想定よりも幾らか具体性のある物となってはいるのだが。
『めんどくさいなぁ……ヴィヴィオのデバイスみたいに、正式に認可取っちゃえばいいのに。』
『仕方あるまい。管理局内にスパイがいる可能性が高い以上、我々の動きを察知される危険性は最小限に留めなければ。』
「そうね……と、忘れる所だったわ。さっきの戦闘で得られたデータによると――」
認可を取るにしても情報を渡すにしても、管理局とコンタクトを取れば内部のスパイにも情報が渡りかねない。
だからこそ彼は動いたのだ。
こうして自らが唯一信頼できる相手……機動六課に、身柄と情報を明け渡す為に。
帰りの護送車の中で、ジェイル・スカリエッティが話した内容は私達にも少なくない衝撃を与えた。
「管理局内にスパイやと……!?」
「まだ憶測の域に過ぎないがね。だが、相手の想像はつくよ。」
「一体何処の……」
「まぁ、待ちたまえ。まだ憶測の域に過ぎないと言っただろう? それを確かな物とする為に、こうして地上本部に向かっているんじゃないかね?」
彼が言う様に、はやてが運転するこの護送車は現在時空管理局の地上本部へ向けて移動している。
だがその理由は彼の言う物ではなく――
「アホ言うな、あくまでそっちは"ついで"や。本題は"聖女"との繋がりとやり取りに関する事情聴取って事を忘れんな。」
「おっと、そうだったね。まぁそれに関しても話すとも。"ついで"の用事を片づけたらね。」
はやての釘差しにも動じずに、軽い調子で話すジェイル・スカリエッティ。
彼から聞きたい事は多いが、いずれにしても向こうの取調室に着いてからとなるだろう。
この後の取り調べで、聖女の目的が分かれば良いんだけど……
そんな事を考えていると、ジェイル・スカリエッティは唐突にプレシアに向けて口を開いた。
「……そう言えば、君も私に何か聞きたい事があるんじゃないのかね? プレシア女史。」
「あら、気付いていたのね。」
「君がわざわざついてきた辺りから、何か用があるのだろうとは思っていたよ。今まで切り出さなかったところを見ると、個人的な疑問なのだろうと言う事も想像がつくさ。……"彼"の事であっているかな?」
ジェイル・スカリエッティが『彼』と言葉を発した瞬間、私にはフェイトが僅かに反応したように見えた。
そしてどうやら、プレシアの用事はその"彼"に関係するものだったらしい。
「ええ、てっきり貴方の会社に居るものだと思っていたのだけれど、少々当てが外れたわ。」
「全くの外れと言う訳ではないよ。彼が我が社に顔を出す事も少なくない。……それで何が聞きたい?」
「勿論居場所よ。リニスが会って話がしたいらしくてね。」
「ふむ……やはり君達は直接の繋がりこそ切れても主従と言う訳か。頑張る部下の為に何かしてやりたい気持ちは私にもわかるが……残念ながら今は協力できない。」
「……何故か聞いても?」
「今彼はまさに我が社の、そして世界の為に動いて貰っているからさ。そして今私は彼の
「……家族?」
「ああ、私と彼はある意味で家族構成が似ていてね。親も妻も居ないが、家族が多いんだ。……彼の特性を知っている君なら、想像は付くだろう? そして今の君なら分かるだろう? 血の繋がりが無くとも、それが己の半身のように大切な存在だという事も。」
話題の"彼"が家族を持っていると聞いた時はプレシアもフェイトもキョトンとした様子だったが、その後の返答で何かしら納得したらしい。
私には見当もつかないが、どうやら余程複雑な家庭事情を抱えた男のようだ。
「……そう、リニスの知らない間に
「二人共、地上本部が見えて来たで。降りる準備しといてや。」
「仕方ないわね、話はここまでにしましょう。」
ジェイル・スカリエッティの返答に何やら考えていたプレシアだったが、はやての言葉で意識を切り替えたらしい。
降車の際に逃亡等されないよう、警戒する姿勢を取った。
「漸くついたか……さて、今の君は果たして誰なのだろうね」
迫る地上本部を見上げて何やら呟いたジェイル・スカリエッティの言葉の意味を知るのは、この直ぐ後の事だった。
本当はクアットロも出そうと思ってたんですけど、いざ書いて見ると何か口調がしっくりこなくて断念。
『善人なクアットロ』のイメージが出来なかった事が敗因です。
イメージが固まらないとクアットロの出番ごと壁抜きで消えるので何とかしないと……