転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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合流

リオン、バルト、クリームの三人が仮眠から覚めて約1時間後……三人の姿は、時空管理局の地上本部にある面会室にあった。

用意された簡素な椅子に腰かけて面会相手を待っている三人の下へ、扉が開いて一人の女性が姿を見せた。

 

「む、八神はやて部隊長か。」

「! 面会人とは、御三方の事でしたか。」

 

リオンの声に姿勢を正したのは、三人が待っていた面会相手ではなく八神はやてだった。

彼女は"聖女"への面会手続きを行おうとした際、既に先約が居る事を告げられ、その正体を探る意味もあって同席を願い出たという経緯があった。

だがその正体が最高評議会の三人であると知り、安堵の表情で一礼する。

 

「ああ、先程確認した()()との擦り合わせをな。……しかし、流石に()()()まで同席する事になるとは想定していなかったぞ。」

 

バルトがそう言って鋭い視線を向けたのは、はやての直ぐ後ろを歩かされるようについてきた拘束済みのジェイル・スカリエッティだ。

まさか現在重要参考人と言う立場にして、更に個人的にも因縁のある相手がこの面会室の『同じ側』で会う事になるとは思わなかったのである。

 

だがそんな棘のある視線を向けられていながら、ジェイル・スカリエッティは恭しく一礼すると毅然とした態度で口を開く。

 

「おやおや、コレは奇遇ですなお三方。その節はどうも。」

「……その状態でよくそんな口が利けるものだな。呆れを通り越して、もはや感心するぞ。」

「お褒めにあずかり光栄ですな。」

 

余裕溢れる物腰とは裏腹に、現在のジェイル・スカリエッティは拘束中……即ち、拘束具にベルトでガチガチに固められている状態だ。

流石にそんな姿で紳士的な振る舞いをされても、優雅さどころか滑稽さばかりが目立つのは仕方ない事だろう。

だが当のスカリエッティは、何処かその状況を楽しんでいる様な表情さえ見せていた。

 

「……まあ良い、ところで八神はやて部隊長。こ奴をここに連れて来たと言う事は、貴様はこの男を"シロ"と見たということか?」

「いえ、まだ判断は保留中です。しかし……どうやら例の"聖女"について、確認したい事があるらしく。」

「……協力の意思がある、と?」

 

はやての言葉を聞いたバルトが胡散臭いモノを見る眼でスカリエッティを見つめると、スカリエッティは自らの口で説明を始めた。

 

「まぁ、有り体に言えば"司法取引"と言うやつですよ。私が"彼女"に()()を提供したのが事実である以上、用途を知らなかったとはいえ"共犯"と扱われる可能性は高い。なのでこちらから先に手を切り、身の潔白を証明したいという話です。」

「ほう……"司法取引"とな? その提案を持ち掛けるには、少々貴様は奴と関りを持ち過ぎているように思えるが?」

「なぁに、もしも私が何の成果も出せなければそれまでで結構。しかし、仮に私の協力によって捜査に大きな進展があったと判断された場合、私の"共犯"について御一考いただきたい。」

「貴様のその態度……余程、自信があると言う事らしいな。よかろう、貴様の成果次第でその取引、飲もうではないか。」

「! 良いのか、奴からの情報を信用しても……」

 

スカリエッティから持ち掛けられた司法取引を飲むと言ったバルトの言葉に、クリームが思わずと言った様子で口を挟む。

しかしバルトはクリームを軽く手で制すると、続けてスカリエッティに告げる。

 

「当然、真偽はこちらで判断する。先程も言ったが奴と"聖女"が通じているのならば、口裏を合わせている可能性もあるからな。だが当然、そう言った事情が判明すれば……」

「良いとも、どのような条件でも飲もうじゃないか。必要であれば"主義"すら歪めて見せよう。」

「ふ……その言葉、忘れるでないぞ?」

「……むぅ、成程な。」

 

ジェイル・スカリエッティの『"主義"すら歪めて見せよう』との言葉に、我が意を得たりとほくそ笑むバルトと、そんなバルトの様子に納得いったのか感心するような眼で見るクリーム。

 

そんな二人の様子を尻目に、リオンははやて達とのやり取りを経てお互いの情報を共有していた。

 

「――えっと、つまりリオンさん達は回収された少女達の魔力残滓を?」

「ああ、生死体には"聖女"自ら魔力供給を行っていたと言う報告は受けていたからな。奴の独特な魔力波動の正体こそ、予言にあった"天の眼"に繋がるかもしれんと思ってな。」

「やはり"天の眼"こそ滅びを齎す直接的な原因……っちゅう事ですか。」

「少なくとも滅びと関連が高いのは確実だろう。ロストロギアかレアスキルか……或いは魔導生物や兵器かも分かっていないがな。そちらこそ、ジェイル・コーポレーションでの収穫は何か見つかったか?」

「はい、実は……」

 

リオンの問いにはやてが答えようとしたその瞬間、受刑者側の扉が開き、中から管理局員の男性が姿を見せた。

 

「お待たせいたしました! これより面会を開始します! 規則により面会時間は最長30分、如何なる物であろうとも物品のやり取りは一切禁止と致します。また、会話のやり取りはこちらで記録させていただきます事をご了承願います。」

「うむ、ではそちらの報告は面会の後としよう。」

「はい。後ほど。」

 

局員の男性の声が響くと、先程まで話していた面々も自然と声を潜めてその視線を受刑者側の面会室へと向ける。

リオンとはやての了承を確認し、"聖女"をここまで連れて来た局員がその身をずらすと、その背後に隠れていた少女が静かに歩み寄ってきた。

 

――む、この違和感は……どこかで……?

 

その仕草を見て奇妙な既視感を抱いたリオンだったが、その正体を理解する前に"聖女"が口を開いた。

 

「皆様、この度は面会の為に御足労いただきありがとうございます。……おや、貴女は――」

「……先日ぶりやな。私の顔見るんが嫌や言うなら、席外すで。」

「いえ、折角会いに来ていただけたのですから、そのような事は言いませんわ。」

 

彼女はリオンの隣に立つはやてに気付くと、そう言って一礼し、再びリオンに向き直る。

 

「それで、私に何かお話があるとか……? 取り調べには素直に応じているつもりですが……」

「ふん……おい、先に機会を譲ってやる。この嘘に塗れた"聖女"とやらから、真っ当な情報の一つも聞き出せんようでは、取引等も毛頭不可能だぞ?」

 

だがリオンは"聖女"の問いには答えず、ジェイル・スカリエッティへ向けてそう言い放った。

 

「おや、早速私の出番かね? まぁ良いとも、非常に合理的な判断だ。……さて、先ずはお初にお目にかかる"聖女"殿。私はジェイル・コーポレーションの社長を務めております、ジェイル・スカリエッティと申します。以後、お見知りおきを。」

 

リオンの言葉を受けたジェイル・スカリエッティは、拘束具を付けたままぴょんぴょんと跳ねるように移動し、聖女の正面に立つとそう言って紳士的な礼をして見せた。

 

「ま……まぁ、社長さんでしたの? 初めまして、私は先日まで"HE教会"で――」

「――あぁ、もう良いよ。大体わかったとも。」

「え?」

 

だが、その異様な姿に面食らいながらも挨拶を返した"聖女"の言葉はそこで遮られた。

思わぬ対応に呆然とする"聖女"だったが、一方でリオンやはやて達の反応は顕著だった。

 

「……ふん、成程な。」

「ど、どう言う事や!? 一体、いつの間に……!?」

「えっと、皆さま……? いかがなされましたか?」

「貴様は黙っていろ、もはや用も無い。」

 

ピシャリと言い放つリオンの言葉に、シュンとした様子で俯く"聖女"。何も知らない者がその姿を見れば、さぞ哀れに見えるだろう。

だが、この場に居る者にはもうその手が通用する道理はなかった。

 

「先に種明かしをしてあげよう。とは言え、流石に想像もつくだろう? 私は貴女と……いや、正確には"聖女"と既に会った事があるのだよ。何年も前にね。」

「……! そう、だったのですね……」

 

この場の全員……面会内容の記録用に立ち会っている管理局員以外の全員は、既に今しがたジェイル・スカリエッティが告げた事実を知っていたからだ。

 

「因みに、私が()()と確信したのは、君がここに入ってきたその時からだがね。」

「!? な、なんで……」

「ふ、気付いて当然だろう? 今、君が使っているその身体を作ったのも、この私だからだよ。」

 

その言葉に最も驚愕を露わにしたのは八神はやてだった。

 

「なっ……! まさか、"聖女"も"生死体"やったっちゅうんか!?」

「その呼び方はあまり好きではないのだが……まぁ、そう言う事だね。だが、ここまで言えばわかるだろう? 確かに君は"聖女"()()()()()()()()()()を捕まえた……だが、その時すでに中身は入れ替わっていたのだ。」

「……いや、それでもおかしい……! 私も影武者を使われる可能性くらい考えとった! だから入れ替わる隙なんて与えんかった……――ッ! まさか……」

 

その瞬間、はやての脳裏に無数の光景がフラッシュバックする。

それはまさに、天啓とも呼べる衝撃だった。

 

――戦いの後、聖女を連れて来た天使さんは髪と眼の色を銀髪オッドアイに変えとった。あの時は聖女を継ぐ時のルールって言われて疑わんかったけど、もしも……もしも!

 

あの変化が()()()()()()()()()()……?

 

はやてはここにきてようやく今まで考えてこなかった可能性……いや、恐らくは無意識に考えないようにしていた可能性に気付く。

それは彼女の想定し得る状況において、最悪にして最大の敵の存在を示していた。

 

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