今回と次回にちょっと入るくらいの短めなものになるはず……
「――やれやれ、全く彼等の頭の固さにはほとほと呆れるばかりだな。」
人知れず存在する研究所にて、一人の男が手元の端末を操作しながら愚痴をこぼす。
そこに表示されているのは、彼に研究するようにと提示された"命令"――『人造魔導士及び、戦闘機人の量産計画書』だった。
――転生した直後に違法研究に手を出せとは……これが警察組織のトップがさせる事かね。
溜息交じりにその男……ジェイル・スカリエッティは、計画書の内容に目を通す。
ジェイル・スカリエッティとして転生した為だろう、生まれたてだと言うのに人造魔導士の製造方法等のノウハウが頭に自然と浮かんでくる。
更に『欲望の量・質を自分の物レベルにして欲しい』、『自分の意思が言葉や仕草等以外で誘導、コントロールされないようにして欲しい』と願った事で、彼の生みの親である最高評議会が埋め込んだ"楔"も予定通りに無効化出来ていた。
これならば最高評議会の意思を無視して、自分自身の目的の為に動く事も出来るだろう。
だが、彼は敢えて最高評議会の指示に従う事にした。
――動くのは今ではない。今の時点で彼らと交渉のテーブルに着くには、こちらの言い分を通す材料が足りない。
例えば今、彼が最高評議会に対して自由を願い出たとしても、それが通る事は万が一にもないだろう。
彼等にしてみれば、自分の指示に従わない
彼等の生命維持装置に細工をしたり、直接的な破壊を行うと言った方法もあるが、それが成功するかどうかも賭けだ。
確かに彼等は動けない脳味噌だが、だからこそ彼等のメンテナンスをするスタッフの監視の目を掻い潜る必要がある。
そのどちらの手段を取るにしても、目の前の"計画"を利用しない手はなかった。
『――今、何と言った? ジェイル・スカリエッティよ。』
「ふむ……確かに少々回りくどい言い回しだったかも知れないね。ならば単刀直入に言わせていただきましょう。私は私でやりたい事があるので、貴方方の計画からは抜けると言ったのですよ。」
ある日の定例報告。
本来ならば研究の進捗報告と今後の計画関する指示をやり取りする為の極秘回線にて、ジェイル・スカリエッティは最高評議会に対して辞意表明を行った。
当然ながら最高評議会の動揺は凄まじく、完全に制御下にあると思っていたジェイル・スカリエッティからのその言葉は、彼等にとってまさに青天の霹靂だった。
『……何故そうしようと思ったのか、理由を聞かせて貰おうか。』
「先程申した通り、他にやりたい事があるのですよ。今まで貴方方から指示された研究や、時空管理局のセキュリティの強化……"人造魔導士"や"戦闘機人"に関する研究成果にも一定の納得を得ていただけた事ですし、この辺りが私にとって"潮時"なのですよ。」
『潮時だと? バカな、貴様の求めるものは……』
最高評議会の一人が信じられない様子で呟いたその言葉から何を言いたいのか察したジェイル・スカリエッティは、「ああ……」と納得したように呟くと、ここで一つネタバラシをする事にした。
「貴方方が私に刷り込んだ願望に関しては、既に私の中には存在しませんよ。」
『なっ……!?』
「……いや、少し違うな。"あの程度の願望"など、生まれる前から私の中にあった無数の願いの一部でしかないのです。」
"生命操作技術の完成"……時空管理局の慢性的な人員不足と言う課題を解決する為に、コードネーム"
それは未だに全貌が知れぬアルハザードの知識と技術を持つジェイル・スカリエッティを制御する為の楔であり、保険でもあった。
だが、その願望は彼にとっては生まれるより前……前世の頃から当然のように付き合い続けてきた願望の一つでしかなかったのだ。
ジェイル・スカリエッティがそう告げると、最高評議会は残念そうに一つの決断を下す。
『……そうか、貴様を制御しようとする事自体が間違いだったという訳か。』
『仕方ないな。』
『そうだな、少々勿体ない気もするが……"廃棄"する他あるまい。』
「ほう……"廃棄"?」
彼等の発した不穏なその響きを、ジェイル・スカリエッティは余裕の笑みと共に繰り返す。
『然様、今貴様のいる研究所にはこう言った事情を想定し、こちらから遠隔で操作可能な自爆機能が備わっている。』
『ジェイル・スカリエッティよ、制御を外れた貴様は既に危険分子の一つでしかない。』
『貴様を生み出したのが我等の過ちであるならば、その存在を抹消する事も我等の務めだ。』
最高評議会は計画の当初からあらゆる保険をかけていた。
それはジェイル・スカリエッティが彼等に逆らえないようにする為であり、万が一にその存在ごと
『時空管理局の最高意思決定機関である我々には過ちの一つもあってはならない』……そんな狂った正義が下した決断は――
「おやおや、それは――随分と甘く見られたものだね。』
『『『!?』』』
通信越しではなく、直接響いた彼の声により無に帰した。
『――き……貴様、ジェイル・スカリエッティ! どうしてここに!?』
「なに、退職前に直接上司の下に顔を出すというのが礼儀と思いましてね。」
彼等が気付いた時には既に、ジェイル・スカリエッティの姿は最高評議会の前にあった。
『そうではなく、どうやってここに来たのかと聞いているのだ!』
「ふむ、そう言えば私の愛する"娘達"の紹介がまだでしたね。」
厳重に秘匿された空間に並ぶ3つのカプセルの前で、彼は腕を広げるようにしてこれまたいつの間にか背後に居並ぶ"娘達"を紹介する。
『娘だと……? ――っ! まさか、戦闘機人か!?』
「いえ、彼女達は私の生み出したオリジナル……"オートマタ"です。戦闘機人のように素体を必要とせず! 戦闘機人と同じ能力を有する事も出来る! そして戦闘機人よりも遥かに……! コストがかかる。」
『……最後のは欠点ではないか?』
『いや、それよりも問題は……! 貴様、何故その娘達の事を隠していた!? 貴様からの報告書には"オートマタ"の存在など……!!』
「決まっているでしょう? 先程貴方方が下した判断が全てですよ。その為に私は貴方方に従うフリをしながら、着々と準備を進めていたのですから。」
ジェイル・スカリエッティは生まれた時から天才だった。そうなるように造られた事もあるが、それ以上に……否、"それ以前に"神から直接才能を与えられた転生者なのだ。
原作知識とジェイル・スカリエッティの頭脳を持つ彼には、最高評議会の計画や思考等は全て筒抜けだったのだ。
『ならば、今の通信は……!』
「ああ、それは"彼女"の能力だね。」
「お初にお目にかかります"クアットロ"と申しますわ。挨拶代わりの私の"劇場"……お楽しみいただけたようで何よりです♪」
『く……ッ!』
クアットロのIS"シルバーカーテン"は、電子システムにさえ影響を与える看破困難な幻影を操る能力だ。ソレを用いて極秘回線の内部に彼女が生み出したジェイル・スカリエッティの幻影とやり取りをする姿は、彼女にとって非常に愉快な物だったのだろう。楽し気にそう
――おかしいな、一応交渉の場だから失礼な態度は控えてくれと言っておいた筈なのだが……
もっとも、その人を小馬鹿にしたような口調は交渉の為に来たこの場には不適切であり、ジェイル・スカリエッティは内心で頭を抱えたが。
「……さて、交渉と行きませんか?」
『交渉だと……? ここに侵入した時点で既に貴様は犯罪者だ。時空管理局の最高意思決定機関である我々が、犯罪者と交渉する事などあり得ぬ!』
「これは異な事を。貴方方が私にさせようとした研究も、一般的な管理局法に当てはめれば立派な違法研究……犯罪を教唆、強要する事もまた犯罪ならば、私達はまさに同じ穴の狢ではありませんか?」
『正義の為には致し方ない事だ!』
『綺麗事だけで次元世界の管理は務まらぬ!』
「そう、まさにその通り! ですからここでもう一度、目を瞑っていただければ良い。今まで貴方方がしてきたように、この私の自由意思に無関心でいて下されば良いのです。そうしていただければ、私は貴方方に"同様の自由"を差し上げられる。」
『何を……!』
「自由に動く身体、再び前線に立てる力、報告越しの世界をもう一度ご自分の目で見て、肌で感じられる"自由"……ご興味がお有りの筈です。」
『……!』
それはまさに悪魔の囁きにも等しい、魅力的な提案だった。
下から上がって来る報告の内容に対して"何故"、"どうして"、"自分が居れば"……そう感じた事は10や20ではきかない。
多くの報告を受け、多くの指示を飛ばして来たからこそ、歯痒い思いをしてきた回数は誰よりも多かった。
『…………何が望みだ。』
『おい!』
『何を勝手な……!』
『仕方あるまい。奴がその気になれば、我々の命は直ぐにも消える。そうなれば、次元世界の正義を守る事も叶わぬ。』
恭しく頭を下げたその下で、ジェイル・スカリエッティの口が吊り上がる。
彼は今、まさに垂らした釣り糸の針が確実に食い込んだ実感を得ていた。
なお、この後美少女になる模様(最高評議会最大の誤算)