転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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思ったより過去編部分が伸びてしまいました。


取り調べ

最高評議会との"交渉"から暫く経ったある日、私は研究所にて培養槽の様子を見ながら思考を巡らせていた。

 

――予定よりも進捗が遅い……やはり、あの研究所を手放したのは悪手だったか? ……いや、だが本当の意味で自由になる為には必要だったことも事実だ。

 

今私が居るこの研究所は、あの時の交渉で彼等から引き出す事に成功した研究資金をつぎ込んで新たに造ったものだ。

以前使っていた研究所の設備は魅力的ではあったが、あそこには証拠隠蔽用の起爆装置が仕掛けられており、そのスイッチを握るのが彼等である以上リスクの方が高すぎた。

 

勿論"交渉"前の段階で既にそれまでの資料は端末に全て移しておいたし、バレずに持ち運べそうな設備は安全確認をした後に持ち出していたが、それでも数段グレードダウンした設備では研究の進捗に影響が出ないはずもない。

 

「……やはり、新たに資金を得るルートが必要だな。」

 

予てから考えてはいた。

今の研究課題……『遠隔操作可能な人工魔導士の身体』は彼等との契約によるものだが、本来の悲願と極端にかけ離れたものではない。

この研究に費やした時間や経費が本来の目的へと還元可能だからこそ、交渉材料として持ち掛けたのだ。

 

……しかし、それでも圧倒的に研究費が足りない。

()()()()()を叶える為には、それこそ資金はいくらあっても足りないのだ。

 

「って言っても、そっちはそっちで金要るんじゃないっすか?」

「まぁ、そうなのだがね……」

 

話しかけてきたのは、私の友人である銀髪オッドアイの少年だった。

彼とは以前、街で見かけた私の後をつけていたところを、我が娘に捕らえられたのが切っ掛けで知り合った。

 

その後、紆余曲折あって互いに転生者である事を理解した私達は友人となり、定期的にこの研究所に顔を出すようになったのだ。

と言っても、単純に気が合ったから友人となったという簡単な話ではない。

お互いに相手に求めるものがあったからこそ、こうして付き合いが続いているのだろう。

 

「さぁて、さっさとやっちゃいますか。コレに魔力込めれば良いんですよね?」

 

指を鳴らしながらそう言って彼が手を触れたのは、魔力を溜めておく事に機能特化したストレージデバイスだ。最高評議会経由で入手したそれを私が更に改造し、魔力発揮値に換算して約1万程度ならば貯めておく事が出来る。

 

「ああ。いつも通り、満タンになるまで頼むよ。」

「はいはい。……まぁ、毎度の事ながら時間はかかるんで、その間待ってもらう事になりますが。」

「それが君の願いの代償なのだろう? 確かに難儀ではあるが、仕方ないさ。」

 

私が彼に求めたのは、彼の莫大な魔力。

現状私の研究に於いて最も大きな課題となっているのは、人工リンカーコアの生成だ。

人造魔導士の身体を0から構築するにあたって最も再現の難しい部分であり、コレが実現できれば私の目標にも一歩近づける。

 

「それで、そっちはどうです? そろそろ場所分かりました?」

「残念ながら、難航しているよ。設備が乏しい事もあるが、ただでさえ広大な次元世界を移動しているというのが最も大きな問題だ。」

「あー……まぁ、俺もまだ万全に知識を得られた訳じゃないんで、まだまだ待っても大丈夫っすけど。」

「そう言って貰えると助かるよ。」

 

対して彼が私に求めたのは、"時の庭園"の座標と"プロジェクトF"の知識だった。

どうやら彼は"時の庭園"に用事があり、可能な限り早い段階でプレシアの下に向かいたいらしい。

そして暫く彼女の下に留まる口実として、彼女の研究の協力者になりたいのだという。

 

……まぁ、ここまで聞かされれば同じ転生者である私にも彼の目的は見えて来る。

 

恐らくはフェイト・テスタロッサかアルフか……或いはリニスの救済、大穴でプレシアの救済と言ったところか。もしかしたらその全てかも知れないな。

私としては自分の研究以外に目的は無いのだが、同じ転生者である私を警戒してか、その辺の詳しい事情は教えてはくれなかった。

 

互いに本当の目的を隠しながら、相手の目的に協力する日々。

友人としては少々特殊な関係ではあったが、それでもなかなか悪くないと思える日常だった。

 

 

 

「――失礼、ジェイル・スカリエッティさんですね?」

 

そんな日常に変化があったのは、とある来訪者が切っ掛けだった。

 

「そうだが、君は?」

「申し遅れました。私、こう言う者です。」

「……名刺とは、これまたご丁寧に。」

 

丁寧に差し出された縦横数cm程度の紙片を受け取り、お辞儀する。

……何処かこのやり取りが魔法世界っぽくないと感じるのは、私がこの魔法社会に順応していないせいだろうか? 等と考えながらその内容を確認すると、そこに書かれていたのはある意味で非常にスピリチュアルを感じる文言だった。

 

「"聖女"ときたか……」

 

書かれていたのは所属する団体らしき"HE教団"と言う胡散臭い名称と、"聖女"と言う文字。後は連絡先と教会の住所だけだった。

 

――まさか自分の名前すら書いていないとは、これを"名刺"と呼んで良い物か考え物だな。

 

そんな私の内心を知ってか知らずか、目の前の女性は笑顔を浮かべて話を続けた。

 

「はい。小さな教会ではありますがその歴史は意外と古く、由緒ある教団なんですよ。」

「……生憎と、私は自分の人生にそう言った"支え"を必要と思わない質でね。勧誘と言う話であれば丁重に――」

「いえ、今回は貴方と"取引"をしたいと思いこちらに顔を出させていただきました。」

 

そう頻繁ではなかったとはいえ、前世でもあった勧誘の類だろうと思い断ろうとすると、彼女はこちらが予想だにしなかった"取引"を持ち掛けてきた。

 

「取引?」

「はい。お受けしていただければ、()()()()の報酬は支払わせていただきます。」

「ふむ……? ――っ!?」

 

提示された端末に踊る金額を見て、私は思わず二度見してしまった。

どう考えても個人が気軽にポンと払える額ではない。

支払われるのが正規の金なのか怪しいし、なんなら本当に支払う気があるのかも疑わしい。

だが、もしもこの金額を本当に支払ってくれるのだとすれば……

 

――そうだ、これだけあれば……

 

「起業資金としては十分でしょう?」

――自ら起業し、更なる資金源を……ッ!?

 

「――なっ!?」

「ふふ、こう見えても歴とした聖女ですからね。人の悩みを見抜くのは得意なのです。……御不快に感じましたか?」

「……いや、少々驚いただけだよ。だが、君の言う"取引"……話だけでも聞かせて貰おうか。」

 

報酬の金額を見た時は支払う気があるのか疑わしかったが、彼女のこう言った特技を以ってすれば金を稼ぐ方法など、確かに幾らでもあるのだろう。

……尤も、きれいな金と言う保証はないが、そんな保障など巧妙に隠したこの研究所に来た時点であってないようなものだ。

 

「ちょっ、大丈夫なんですかスカさん!? そいつ、何かヤバい気配しますよ!?」

「因みにですが、今貴方達が探している"時の庭園"の座標を私は知っています。」

「受けましょう!!」

「……ちょっと黙っていたまえ。」

 

そう忠告の為に口を挟み、速攻で懐柔されたのは友人である銀髪オッドアイの少年だった。

今日も彼はここに顔を出しており、デバイスに魔力を溜めて貰っていたのだ。

勿論彼が危惧していた部分に関しては承知の上だ。資金が必要だと感じていたタイミングで顔を出し、こちらの望み通りに大金をくれるような取引を持ち掛けるなんて、あまりにも都合が良すぎて気持ち悪い程だ。

 

「ただし、話を聞いた上で受けるかどうかはこちらで判断させて貰うよ。私も犯罪に加担するような真似はしたくないのでね。」

「勿論です、当然の権利ですから。では……」

 

そう言って彼女は友人の方に視線を送った。

どうやらここからは二人きりの会話を望んでいるらしい。

 

「そう言う訳だ。済まないが、席を外してくれるかね?」

「了解っす! 座標の件、是非よろしくお願いしますよ!?」

 

何と言うか、欲求に素直な男だな彼は。悪い連中に騙されないと良いが……

っと、そうだ。

 

≪そう言う訳だ。いざという時は頼むよ、セイン。≫

≪はい! いつでも大丈夫ですよ!≫

 

誰も知らない場所で初対面の、それも胡散臭い相手と二人きりと言う状況を素直に受け入れるのは余程の自信家か危機意識の足りない者くらいだろう。

私も当然の備えとしてセインに待機して貰った。

突然の襲撃や誘拐に対処する為の当然の備えと言うやつだ。

 

「……まぁ良いでしょう。()()()()()()()同席を認めます。当然の用心ですからね。」

「おっと、コレもお見通しか……大したものだね、聖女と言うだけはある。」

≪父様! 何かコイツ怖いよ!?≫

≪大丈夫だ。いざという時まではしっかり隠れていなさい。≫

 

怯えるセインを宥めつつ、私は彼女に向き合うと告げた。

 

「……さぁ、取引の話をしようじゃないか。」

 

 

 


 

 

 

「――と、まぁそう言う訳で私は彼女との取引の末、彼女から資金の援助を受けてジェイル・コーポレーションを立ち上げたのだよ。」

 

"聖女"との面会を終えた後、私達は取調室でジェイル・スカリエッティから"聖女"との繋がりに関する話を聞いていた。

だがその内容が指し示す事実は、どれも聞いた事のない物ばかりであり……

 

「ジェイル・コーポレーションの設立時期を考えると、20年以上も前になるが……」

「よもや我等の目をここまで出し抜くとはな……」

「く……貴様、もう他に裏で繋がっている相手など居るまいな!?」

「少なくとも、"私が技術を提供している相手"と言う意味でならば居ないよ。"本業"の方で色々と取引したり、雇ったりと言った事はあるがね。」

 

それらの証言は、以前からジェイル・スカリエッティと繋がりがあった最高評議会にも大きな衝撃を与えていたようだ。

彼等にとっては一種の"裏切り"にも近いであろう内容を告げたスカリエッティは、彼等の追及に対しても平然とした様子で答え続けている。

 

「生死体関連以外で取引はしてないだろうな!?」

「もちろ……あぁ、いや。もう一つあったね。もっともこちらは今回の一件とは関係ないと思うが……」

「~~っ! 判断するのは我々だ! 貴様は内容を話せば良い!」

 

その余裕の態度が癇に障ったのだろう、熱くなったクリームが思わずと言った様子で"ダン!"とテーブルを叩くと、スカリエッティはやれやれと肩を竦めながら話し出した。

 

「"未来を変える事が可能か"を確かめて欲しいとの事だったよ。それに関してどう捉えるかは君達の自由だが。」

「未来……! 例の予言か!? まさか貴様その内容を……!」

「落ち着きたまえ。例の予言が出たのは今から約11年前。私が彼女と取引したのは、そのさらに前の話だ。当時はあのような予言が出る事も知らなかったとも。」

「それに例の聖女には未来が見えると言う噂もあった。初めは聖王教会に対する対抗心や()()()の一種かと思っていたが、事実なのだとするならばあり得ん話ではない。」

「む、むぅ……では奴は何の為にそのような事を……?」

「……或いは、()()()()()()()()()()()()()例の予言が出たのかも知れぬ。」

 

バルトがそう口にした新たな可能性に、ジェイル・スカリエッティはやや考え込むと一言発した。

 

「…………成程、確かにその可能性はあるのか。」

「き、貴様! 何を他人事のように……!!」

「奴との取引の為に何をしたのか、洗いざらい吐いて貰うぞ!!」

 

その言葉に再び熱くなるクリームとリオン。

私はその様子から取り調べが長引く気配を感じ、手を挙げた。

 

「あの……済みませんが、先に私が一つだけ質問しても構いませんか?」

「む……それは優先するに値する内容なのだろうな?」

「はい。今後の()()の為に、確認しておきたいんです。」

 

そう告げると、少し考えてリオンは納得してくれたのだろう。

 

「……分かった、許そう。」

 

そう言って、スカリエッティの対面の席を譲ってくれた。

 

「ありがとうございます……なら、早速質問ええか?」

「勿論。」

「……"聖女"の正体について、アンタは何処まで知っとるんや?」

 

"聖女"が影武者であると分かってから、ずっと頭の中にあった疑念。

私はその答えについて、スカリエッティならば知っているのではないかと考えていた。

そして、願わくば私の考える()()と違う返答を望んでいたが……

 

「正体か……私も断定はできないが、恐らくは()()()()()()()"ユニゾンデバイス"だろう。もっとも、あくまでも予想ではあるがね。」

 

――やっぱりか……

 

彼の提示した推測は、私のソレとほとんど同じだった。

一つだけ付け加えられた『相当に質の悪い』と言う部分に関しても、ある程度想像は付く。

それはあの時の"彼女"の様子を思い返してみても察する事は出来た。

 

「……そうか、分かった。」

「おや? 根拠を聞かない辺り、君も既に同じ答えが出ていたと察せられるが……それにしては顔色が悪いね。違う答えを期待していたと言う事かな?」

「……いや、あくまで最終確認や。私達のする事は変わらん……例え、()が相手でもな。」

 

そう、確認は終わった。

ならば次は備える番だ。

新たに見えてきた敵は、これまでのような相手とは確実に一線を画した力を持つだろう。

その備えには、万全に万全を期さねばならない。

 

「……確認は以上です。こちらの用事を優先していただき、ありがとうございました。それと、もう一つ御三方にお願いがあるのですが……」

 

今出来る事を脳内にリストアップしながら私は席を立ち、再びリオンへ譲ると、一つの頼み事を告げた。

 

 

 

「――成程、奴はそれほどの脅威だと。」

「はい。」

「むぅ……俄かには信じられんが、良かろう。"彼"の確保はこちらでしておこう。だが、"あの部隊"はレジアス中将の()()()()()だ。こちらでも便宜は図るが、確約は出来ぬぞ。」

「はい、後はこちらで交渉します。」

「そうか。ならば今日明日中にでも奴には伝えておく。」

「ありがとうございます。それでは、私達はこれで……」

 

『レジアス中将との交渉』をやる事リストに追加しつつ、最高評議会の三人に礼をしてこの場を去ろうとした時、フェイトちゃんが一人だけ取り調べ室に残ったのが見えた。

 

「……フェイトちゃん? どうしたんや?」

「ごめん、はやて。先に行ってて。多分、あの人の取り調べの内容は私達にも関係があると思うから。」

「……そう言う事なら、私もここに残るわ。フェイト、そう言う事よね?」

「うん、母さん。」

 

どうやらフェイトちゃんが考えている事は、プレシアさんにも伝わったらしい。

2人の共通点を思えば、恐らくはテスタロッサ家に関係があるのだろう。

 

「……そうか、分かった。後で話しだけでも聞かせてな?」

「うん。」

 

私はそれだけ言うと、なのはちゃんを連れて地上本部を後にした。

『レジアス中将との交渉』は最高評議会からの伝言の後の方が有利に進む筈なので、早くとも明後日以降の予定が取れたタイミングになるだろう。

と、なれば――

 

「なのはちゃん。明日のフォワード陣の訓練には私も混ざるけど、ええか?」

「え? うん、大丈夫だけど……突然どうしたの?」

「いや、ここ最近はデスクワークばっかりやったからな。ちょっと魔法戦の勘を取り戻したいんや。」

 

今は少しでも力を蓄えなければ。

……今度の相手は"天使"なのだから。




スカリエッティの過去編に出てきた銀髪オッドアイはセバスチャンです。
名前が登場せず妙に意味深な感じになってしまったのは、彼の本名に関するメモが消えたせいです。(もう本名セバスチャンでも良いかなとは思っている)
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