ミッドチルダの上空に夥しい数の光が飛び交い、平穏の象徴だった街並みが瓦礫へと変わっていく。
「スバル!」
「っ! うん!」
ティアナの合図を受けたスバルが敵の魔導士の障壁を一際強く殴りつけて怯ませると同時に敵の背後に回り込むようにステップしたその直後、スバルの攻撃で入った障壁の亀裂にダガーの様な魔力刃が突き立った。
「「ハアァッ!」」
敵の正面からはティアナが魔力刃へと魔力を乗せた襲撃を叩き込み、広がった亀裂を中心に障壁が砕ける。
それと同時に、敵の背後からは激しく駆動するリボルバーナックルの一撃が飛び散る障壁の欠片を砕きながら隙だらけの背中へと吸い込まれるように叩き込まれた。
「――ッ!!」
二人のコンビネーションに対応できなかった敵は断末魔を上げる事も無いままに倒れ、その身体は空気に溶けるように消失した。
「……ふぅっ! ありがと、ティア!」
「礼は最後! エリオ達から『見つけたかもしれない』って念話があったわ! 直ぐに向かうわよ!」
「っ、方向は!?」
「向こうよ!」
「了解、『ウイングロード』!」
ティアナから話を聞いたスバルは直ぐにヒビの入ったアスファルトを叩き、崩れたビルの間を縫うようにウイングロードを伸ばすと、ティアナを背負い全速力で駆け出した。
「……大分ボロボロだね、この街も。」
「ええ、そうね……ッ! 上よ、スバル!」
「大丈夫、分かってるよ!」
瓦礫の街並みの上空に架かる光の道……そのさらに上空から無数の光弾が降り注ぐが、スバルは決して広いとは言えないウイングロードの上を少ない動きで蛇行して次々と回避する。
「そこ! 『クロスファイアーシュート』!」
その間に敵の位置を把握したティアナが素早く照準を合わせ、カウンターの魔力弾を叩き込み撃墜していく。
「流石ティア!」
「このくらいは当然よ。……それにしても、随分と開いて来たわね。」
「"天の眼"か……完全に開いたらダメなんだよね……」
そう言って上空を見るスバルとティアナ。その視線の先では、銀盾のメンバーが空を埋め尽くさんばかりの敵を相手取って戦っており、さらにその上空では天蓋を裂くようにして開きつつある巨大な瞳が彼女達を見下ろしていた。
先程から彼女達が戦っている魔導士達も、その瞳の中から無限に沸き出して来ており、銀盾のメンバーが大部分を減らしてくれているとはいえ、いくら倒しても終わりが見えない。
「滅びを避ける条件として、あの眼の破壊は絶対よ。今も銀盾の皆が時々アレに攻撃を続けているけど、効果が出てるのかも分からない……やっぱり、アレを発生させている何かを探し出して破壊しないと……!」
「やっぱりロストロギアかな?」
「多分ね。……っと、そろそろ見えるわスバル。エリオにはあたしから念話を送っておいたから、確認出来次第飛び降りるわよ。」
「了解!」
「……居たわ! あそこ……って、敵に囲まれてるじゃない!」
ティアナがそう言って指差す先には、多数の魔導士に包囲されたエリオとキャロの姿があった。
「『ディバイン……バスター』!」
「『クロスファイアーシュート』!」
直ぐに空中に身を翻したスバルがディバインバスターを撃ち込み、吹き飛ばされた魔導士達が何が起きたか理解する前にティアナのクロスファイアーシュートがとどめを刺していく。
「スバルさん、ティアナさん! ……これなら!」
≪Stahlmesser.≫
包囲が緩んだ事で防戦一方の状況から解放されたエリオが、電撃の魔力刃を付与したストラーダを振るい包囲の穴を広げると、キャロの補助魔法を受けたフリードリヒがキャロとエリオを伴って抜け出した。
「来よ、天地貫く業火の咆哮! 竜咆召喚! ≪ギオ・エルガ≫!!」
そしてキャロが咆哮召喚を残っていた敵の集団に撃ち込むと、大規模な爆発が起こり、周辺が土煙に覆われた。
その間にスバル達と合流したエリオとキャロは、直ぐに先程までいた方向へと向き直ると、二人に警戒を促す。
「二人共……気を付けてください。奴らの中に、強い個体が紛れてます!」
「強い個体って……ッ!」
エリオの言葉の意味を理解するよりも早く、土煙の中から影が一つ飛び出してきた。
手には杖状のデバイスが握られており、その先端からは魔力刃がまるで薙刀の穂先のように伸びている。攻撃の軌道から、狙いはどうやらキャロのようだ。
即座に割り込んだスバルが敵の攻撃を障壁で受け止めると、微かな異音と共に障壁に亀裂が入った。
「成程、確かに他のとは明らかに違うね……! って事は、もしかしてこの先に……?」
「はい。僕達もこの建物に入ろうとしたら囲まれたので、きっとこの中に……!」
スバル達が部隊を分けていた理由は、上空に開きつつある"天の眼"の発生原因を探す為であり、その作戦に踏み切った理由は敵一体一体の実力が大した事ないのが大きかった。だが、それが戦力を一点に集中させた結果だったのだとすれば、この中にこそ敵の急所……天の眼を発生させている何かがある可能性が高い。
ティアナがそう考えたその瞬間、彼女の眼が土煙の中に蠢く無数の影を捉えた。
「『クロスファイアーシュート』! ……どうやら、ここが拠点と見て間違いなさそうね。」
ティアナが自身の魔法で煙を散らすと、その中からまるで軍のようにズラリと並んだ敵が現れた。
その数は先程までエリオ達を包囲していた数よりも多いように見え、今もキャロの竜咆召喚により地面に開いた穴から次々にその数を増やしている。
どうやら地下に敵の本拠点があったらしく、先程の一撃によりそれが掘り起こされてしまったらしい。
「凄い数……!」
「流石に4人でこの中に突っ込むのは無茶ね……先ずはスバルの援護に集中しましょう! ヴィヴィオにも念話は送ってるから、きっと直ぐに駆けつけてくれる筈よ!」
「「はい!」」
こうしている間もスバルは敵の攻撃を捌いている最中なのだ。今でこそ拮抗しているが、そんな状況で更にあれだけの敵に襲い掛かられては、流石のスバルも長くは持たないだろう。
ティアナは即座に状況を整理した後、エリオとキャロに指示を飛ばしつつ、自らもスバルの援護をする為に2丁のクロスミラージュを構えるのだった。
――時は遡り、
「……実践訓練ですか?」
機動六課隊舎内の仮想訓練所に、ティアナのそんな質問の声が響く。
彼女達は隊舎付近の広場にて銀盾達との顔合わせを済ませ、軽い運動で身体を解した後、仮想戦闘空間シミュレータを使用する為にこの部屋に集まっていた。
「ああ、連携を鍛えるにしても作戦を組み立てるにしても、先ずはそれぞれの戦力把握は必要や。そんで、それが一番分かるのはやっぱり実際に使う時やからな。"滅び"を想定した訓練とは言ったけど、今回はお互いの動きをしっかり知る事が主題って訳や。」
そう言って仮想訓練所の中央にホログラムで再現された、パノラマの様なミッドチルダの街並みを眺める八神はやて。
彼女が見つめる平和な街並みこそ、"滅び"との戦いの舞台になる可能性が最も高い候補地だった。
そして視線を再びティアナ達に戻すと、はやては声のトーンを若干落として釘を刺すように言った。
「とは言っても、勿論皆にはミッドチルダを守るつもりで、本気で戦って貰うで? じゃないと意味ないからな。」
真剣なはやての声を聴き、誰からともなく彼女がそうしたように自分達が背負う事になった街並みを眺め、その場に居た誰もが一層気を引き締めた。
「……実践訓練が出来るって事は、滅びの原因は大体わかってるのか?」
そう問いかけたのは、銀盾のメンバーの一人である神谷だ。
彼はここに来る前に聞かされた予言の内容と、はやての言葉から滅びの原因……より詳しく表現するならば、
滅びを防ぐ為の仮想訓練と言うのであれば、それについても何かしらの憶測が建てられたのだろうと期待しての問いかけであったが……その期待は叶わなかった。
「いや、いくつか関連する言葉は出て来てるんやけど、まだ肝心な事は分かっとらん。せやから今回の訓練内容も、
「……そうか。因みにその『関連する言葉』ってのは?」
「それに関しては訓練中に伝えるわ。今更やけど、滅びの予言の内容は管理局内でもトップシークレットや。知ってる
「――って話だったけどさ、あんなのどう考えても無理じゃない?」
訓練を終え、ロールバックされた事ですっかりいつもの平穏が戻ったミッドチルダにて、ティアナがそうぼやく。
『あんなの』とは、訓練開始直前にはやてさんから告げられた予言の続きにある"天の眼"の事だろう。
『守護者達が地を去るとき 天の眼が開き滅びは来る』
先程の訓練、結果は俺達の敗北で終わった。
あの後結局俺達は敵の本拠地を攻めきれず、その間に天の眼は開き切ってしまい、その瞳から放たれた巨大な砲撃がミッドチルダ全域を包み、世界は滅びた……と、言う事らしい。
いくら想定された滅びの可能性の一つだとは言え、アレは流石に理不尽なのではないかとも思えるが、かと言って予言で滅びとまで言われた脅威だ。あれくらいの事は本当に起こるのかも知れない。
少なくともはやてさんはそう考えているのだろう。
「…バル! スバル!」
「――はっ! え、えっとどうしたのティア?」
気付けば思考に没頭してしまっていたらしく、若干不機嫌そうなティアナが俺の方を揺すっていた。
「だから、反省点よ! ……訓練後は反省会で修正点を洗い出す、いつもやってる事じゃないの。」
「あ、うん。そうだね。反省点……反省点かぁ……」
この場合、俺に求められているのは"ティアナの反省点"だ。
基本的に自分の反省点は相手から聞く事で、客観的な視点から欠点を見つけるのが俺達の反省会のいつもの流れ。
だけどティアナが立てた作戦自体は、今振り返ってもそこまで悪くはなかったように思う。
飛翔魔法が苦手であり天の眼に攻撃が届かない俺達は地上で敵の拠点を探し、飛翔魔法が使える銀盾達は俺達が地上で動きやすくなるように無限沸きする敵を引き付け、時々天の眼の破壊を試みる。
正確な情報が判明していない状況で即席で組んだ役割分担としては、まあまあ及第点ではあるはずだ。
負けた原因はシンプルに敵が多かった事と、銀盾のメンバーの実力を甘く見ていた事だった。
彼等はあれだけの敵を相手に戦い続けていたにもかかわらず、消耗は俺達よりも遥かに抑えられていた。
聞けば、彼等は小学生の頃から常に互いの魔力感知を鍛え続けており、今では銀盾の魔力全てが眼の様なものになっているらしい。
以前、なのはさん相手に俺達フォワード全員で挑んだ模擬戦でティアナが使った霧の感知の様なものだろうかと考えると、その異常さが良く分かる。
あの霧の中で自由に状況を把握できていたのはティアナだけだった。それはあの霧がティアナの魔力だったのが理由であり、俺達にそれが出来なかった理由もまた然りだ。
要するに、
そしてそれをフルに使う事で魔力消費を限界まで抑え、敵の攻撃は当たらず、こちらの攻撃は敵に当たると言う異次元の連携を生み出している。
ちなみに彼等の中でただ一人、神宮寺と言う人だけは離れていた期間が長い為若干連携が弱いらしいが、彼は固有の能力……見せて貰ったけど完全に王の財宝だったが、それを使う事で彼等以上に戦えるのだとか。
……そんなビックリ集団の特性を初対面で理解した上で作戦に組み込めと言う方が無理な話だろう。
一応そんな自分の意見を交えつつ伝えると、ティアナは頷きを一つして……とんでもない事を言い出した。
「でも、はやてさんはそれを承知の上で『彼らと連携できるようになれ』と言ったのよ。だったら、あたし達もアレが出来るようにならないとね。」
「ちょっと待ってティア、久しぶりにちょっと話についていけない。」
え!? いくら時間が引き延ばされているとはいえ、1週間であんな
ここ最近順調に思えてきた俺達の訓練は、ここへ来てとんでもない課題にぶつかるのだった。
「――どうしました? もう限界ですか?」
身体に力が入らない。
いや、力だけではない。魔力も、気力も、ありとあらゆる力を使い果たした身体は、まるで動くことそのものを拒否しているかのように重かった。
そして、それは私だけではない。
私の他にも3人、
生前は大魔導士と呼ばれていた事を思えば、ここで意地の一つでも見せておきたい所なのだが……
――……駄目ね、コレはしばらく動けそうにない。
意識がハッキリしているのが逆に不気味だ。
でも、これが嘗て私が見つけ出した属性……"極光"の効果であるならば、対抗する事は不可能ではないはず。
次回以降の反省点を脳裏に纏めながら、私はもう何度目とも知れない疑問を投げかける。
「……あな、たは……」
「ん?」
「貴女は、この力を使って……何をするつもりなの?」
問いかけた私の口から漏れ出た声は、生前の年齢からは考え付かない程に幼い声だった。
幼い少女を模して造られた器に入れられて数日経つが、自分の在り方が揺らぎそうでこの感覚には未だ慣れない。
だが、"彼女"はこんな感覚をアレからも何度も体験してきたはずだ。
今の彼女があの時の彼女ではなくなっているかもしれない……そう考えると恐ろしくて、今まで中々この疑問を直接投げかけられなかった。
しかし、もうそう言ってはいられない。
彼女がここまでの力をつけてしまった理由の一端が私にあるのなら、場合によっては……
「……残念だけれど、それは答えられないわ。」
「……そう。」
「でもこれだけは信じて。私は決して、私利私欲の為にこの力を使う訳ではないって事を。」
それだけ言うと、彼女は「しばらく休憩してて」とだけ告げて地下大聖堂を出て行った。
それからしばらくして身体が動くようになり、姿勢を正していると私に声が投げかけられた。
「……あまりよぉ、無茶はしねぇ方が良いと思うぜ?」
「貴女は……確か私と同じ将の一人だったかしら?」
「おいおい、覚えてねぇのかよ!? ……ま、今はそこはいいや。俺が言いてえのはよ、アイツのようになりたくなければ素直に言う事聞いた方が良いって事よ。」
そう言って彼女が示すのは、今も恍惚の表情で床にのびている少女だった。
彼女の事は覚えている。彼女も私と同じく将と呼ばれる一人であり、今の彼女を崇拝する信者の様な言動が強烈な少女だ。
「アイツも俺もよ、あんた等よりも前に一度目覚めた事があるんだが……アイツはその時に
「あの子が……?」
「おう、元はなんて言うか……かなり粗暴って言うか……」
彼女がそう口にした瞬間、それまでうっとりとした表情で寝ていた少女がガバッと起き上がり、彼女に対して詰め寄り始めた。
「ちょっと!? なに人の過去を勝手に話そうとしてるんですか!?」
「っと、分かった! 悪かった、もう言わねぇから! な!?」
「謝った程度で許すとでも……!」
「ほら、あー……アレだ。聖女も『私闘は厳禁』って言ってただろ? な?」
「分かりましたよ……聖女様の言葉ですから。もうさっきの話はしないでくださいね? 私の汚点なんですから。」
今まで怒り心頭と言った様子だったのが、あの子の言葉を引用しただけで一瞬で収まる……確かにこれは異常だ。
視線を彼女に向けると、「ほらな、おっかねぇだろう?」と言わんばかりの表情で見つめ返して来る。
確かに、あんな姿を見てしまえば逆らおうなどと言う考えは浮かばないだろう。
しかしその恐怖は同時に、あの子に変えられていない証明でもある。
その気になれば変えられるのであれば、いっそのこと最初から従順に作り変えるのが一番手っ取り早い筈だ。それをしない事が、私には逆に希望に思えた。
この思考は彼女により変えられた物でない……私はそう信じる事にした。