転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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開戦

『――よし、結界は安定したな。はやて、こちらも突入の準備が出来次第応援に向かう。』

「了解や。期待してるで。」

『ああ。』

 

張られた結界の状態を確認したクロノ君とそんなやり取りを交わし、通信を切る。

天を見上げれば複数の結界が重なった事で薄く色づいた空がゆらゆらと波打ち、耳を澄ませば先程まで届いていた鳥のさえずりや風の音の一切さえも凪いでいる。

 

――これでもう後には退けん……進むだけや。

 

教会の上空を包囲するように待機している最高評議会の3人に念話を飛ばし合図を送ると、長い呪文を詠唱する彼女達の足元を中心に巨大な魔法陣が展開され、そこから伸びた帯状魔法陣がさらに大きな……教会を丸ごと包み込むほどの魔法陣を描く。

 

作戦の始まりを告げる……そして、あわよくばこの一撃で決める為の広域殲滅用の儀式魔法。

かつて無法地帯だった次元世界を力で平定した、彼女達の最大の一撃だ。

 

≪≪≪Annihilator.≫≫≫

 

その発動ワードが唱えられた瞬間、炎熱・氷結・電気の属性魔法が互いに打ち消し合う事なく束ねられ、教会の上空より一筋の砲撃となって打ち下ろされた。

 

「……おっそろしい威力やなぁ。」

 

大地を抉り抜いたその魔法は、傍に立つ私達に微振動の一つも感じさせない。

それはその破壊力の全てが一切のロスなく対象に降り注ぐ事を意味する。

長時間の詠唱と複数の工程を要する儀式魔法の中でも、その威力は群を抜いていた。

 

やがて光が止んだ頃、まるで忘れていたかのように土埃が一斉に巻き上がり視界を埋め尽くす。

一斉に飛翔して教会があった箇所を見下ろせば、コルク栓を抜いたようにきれいな断崖のそこに光の壁のような物が見えた。

 

「――やっぱり、そう簡単にはいかんよな。」

 

その壁の正体は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の複雑怪奇な障壁魔法だ。

 

――これが天使の魔法か。

 

以前なのはちゃんから聞いた事がある、朱莉ちゃんが一度だけ使用したと言う防御魔法が恐らくこれなのだろう。

……だとすると、聖女は天使の力をほぼ完全に手中に収めたと言う事になる。

 

「挨拶も無しにこの仕打ちとは……警察機構の名が泣きますよ。」

「……時には強行突入も必要な手段や。特に、次元世界の危機とあってはな。」

 

聖女が防御魔法を解除した事でその全容が明らかになった。

彼女達が立っているのはその内装から考えても私達の予測通り、以前戦った地下大聖堂だろう。

だが、そこに居る戦力は私達の予想よりも多かった。

 

生死体にリンカーコアを埋め込んだ事で蘇ったであろう者が、目測だけでざっと40人以上。それに混ざるようにして銀髪オッドアイの転生者も20人程……その中には、時空管理局の地上部隊に所属している筈の『マルク』の姿もあった。

 

 

 


 

 

 

「お、おい! あれ機動六課じゃねぇのか!? 何で敵対してんだよ!?」

 

私達と敵対するはやて達の姿を見た転生者達の一部に動揺が広がる。

転生者の殆どには理由を説明していたけれど、どうやらまだ話が伝わっていない者が居たのだろう。

 

――無駄に混乱が広がる前に、さっさと沈めるとしましょうか。

 

「彼女達は私が貴女達に伝えた未来の事を知りません。ですから、当然私達の本当の目的も知らないのです。そして、計画に必要なピースを手に入れる過程で生まれた誤解から敵対してしまったのです。」

「な、なら本当の事を伝えれば……!」

「そんな事をすれば未来が変わってしまう。これまでしてきた準備が全て無駄となり、私達はろくな備えも無いままに新しい未来に立ち向かわなければならなくなる。……どちらが()()()()()()()リスクが大きいか、分かりますね?」

「うぐ……」

 

囲い込んだ転生者には未来の情報を開示している。

即ち、『なのは、フェイト、はやてを始めとした機動六課及び、時空管理局の全滅』を。

彼等はその未来を許容できない。だから私の計画についてきた。

 

「彼女達の命と未来を救う為に、私達はまだ止まる訳には行かないのです。例えここで彼女達を倒す事になっても。」

「……く」

 

私がそう言うと、彼等は覚悟を決めたように機動六課と対峙する。

未だに迷いはあるようですが、まあ良いでしょう。その迷いが関係無くなる程、私が強化してやれば良いだけの事。

 

「共に戦う覚悟を決めてくれて、ありがとうございます。そんな貴方達のために、私も力を添えさせていただきますね。『ブーストアップ』。」

「これは……魔力が、溢れて来る……!」

 

ただでさえ一定以上の強さを持つ転生者に対して、私は更に補助魔法をかける事でその力を底上げする。

かけた魔法は『ブーストアップ』。キャロが得意とする補助魔法を天使の力で構築し直し、あらゆる能力を引き上げるように改造した魔法だ。

当然効果範囲には私が蘇らせた将や兵士達も含まれており、これで実力の伴わない兵士も十分に戦える戦力になっただろう。

 

「――! 聖女様っ!」

「心配せずとも分かっていますよ。」

 

将の一人……便宜上『忠臣』と呼称している将が焦ったように駆け寄って来るが、当然私もそれは既に()()いる。

 

「また逢いましたね、シグナム。」

「"雲霞……」

 

私と一部の将以外では反応できないであろう速度で至近距離まで接近してきたシグナムは、既に居合いの構えを取っていた。

一瞬遅れて反応した転生者と兵士達は慌てて距離を取るべく飛翔する。

強化された速度もあって、この攻撃の範囲からは一瞬で抜け出せたようですが……恐らくシグナムの狙いはこちらの密集陣形を崩す事。元々仲間意識が薄く連携に向かない彼等は彼女の思惑通り、散り散りになってしまった。

 

――と、相手は思うでしょうね。

 

「……滅却"!」

 

そんな事を考えている間にシグナムのレヴァンティンは鞘から抜き放たれ、溢れ出した炎の大渦が私と『忠臣』を飲み込んだ。

 

 

 


 

 

 

「良し、向こうの陣形は崩れた! 皆、先ずは生死体の身柄を確保や! ヴィータ達がリンカーコアを摘出して無力化した後に――っ!?」

 

上空から戦況を把握してそう指示を出すはやての脇を、何者かが高速ですれ違う。

その正体を目で追ったはやては、驚愕の余り思わず叫んだ。

 

「シグナムッ!!」

 

すれ違ったのは……否、吹っ飛ばされていたのはシグナムだった。

彼女に任せた役割の危険性は十分承知していたが、それにしてもあのシグナムがこの一瞬でここまでの打撃を受けると言うのは流石に予想していなかったのだ。

 

「大丈夫よ、はやてちゃん! シグナムのダメージは直ぐに私が癒すから、はやてちゃんははやてちゃんの仕事を!」

 

そう叫んだシャマルによって受け止められたシグナムが即座に治療されるのを見て安心したはやては、先程の一撃を放ったであろう聖女の方を見て言葉を失った。

 

「――まったく、私はこの通り無傷なのですから、そんなに怒らなくても……」

「いえ、貴女に対して刃を抜いた罪……この程度では済ませられません……!」

「なん……やと……?」

 

そのやり取りと立ち位置を見て、先程シグナムを吹っ飛ばしたのが聖女ではなく()()()()()()()()()である事実がはやてのさらなる動揺を誘った。

 

――アホな……! 前回戦った時も確かに奴らの実力にはバラつきがあったけど、それでもここまで極端な奴は居らんかったはずや……!

 

そして即座にはやては先程の光景を想起する。

 

――っ! そうや、さっきの補助魔法の光! まさか、他の生死体達も同じくらいの強化を……!

 

そう思い立ち周囲を見回せば、彼女の想像とそう遠くない光景が広がっていた。

 

「くっ……! こいつ等、思ってたよりも……っ!」

「ははははっ! こりゃすげぇや! 力がどんどん湧き上がって来やがるゥ!」

 

「ちぃっ、魔力と速度で完全に上を取られたな……! 技量が拙いのだけが救いだが……!」

「オラオラァ! そうやって余裕ぶってられんのも今の内だけだぜぇ!?」

 

相手を格下と思って各個撃破を狙った銀盾のメンバーがやや押されているのだ。

いや、それだけならばまだ良い。

問題は――

 

「貴女、フェイトって言うのよね? あの時とは身体が違うけど、私の事わかる? リベンジさせてよ!!」

「く……この子、まさか……?」

 

シグナムが吹っ飛ばされた事に気が向いていた時だろうか、一目散に飛び出した少女がフェイトちゃんにしつこく襲い掛かっていた。

その言動から恐らくはあの時に人格を造り替えられていたあのリンカーコアの持ち主だろうと想像は付いたが、その実力は前回と比べて格段に上がっている。

 

何よりも厄介なのは、アイツはフェイトちゃんの魔力の使い方からヒントを得て、更に強くなる可能性があると言う事だった。

 

――分断して周辺勢力を各個撃破するつもりが、完全に裏目に出とる……!

 

こちらの作戦をそのままカウンターするような手法……未来を見る事が出来る聖女ならば、確かに可能だろう。

前回の戦いで聖女が積極的に動かなかったせいで、その能力の恐ろしさを知らず知らずの内に過小評価してしまったのだ。

 

――いや、反省は後や! 先ずはこの状況を何とかせな……待て、聖女は何処や!? 聖女の姿が消えた!?

 

視線を戻した時には既にそこに聖女の姿はなく、慌てて周囲を見回すはやての耳に小さな悲鳴が届いた。

 

「ぅぐ……っ! 貴様……!」

「先程の私の教会を消し飛ばした魔法を放ったのは貴女達ですね? 流石にあれ程の威力の魔法を何度も撃たれては、私も兵達のフォローが忙しくなりそうなので封じさせていただきます。」

 

見上げた先には最高評議会に肉薄し、バインドで縛り付ける聖女の姿があり……

 

「……おや? その身体は……成程、では貴女方が時空管理局の最高評議会ですか。随分かわいらしい姿になりましたね。」

「くっ……誰が好んでこのような……!」

「ああ、別にその部分はどうでも良いのです。貴女達の使っているその特別性の身体……ちょっと利用させてもらいますよ。」

「なに……!?」

 

瞬間、彼女達の姿が白い光に覆われ……次の瞬間には彼女達は意識を失ったようにぐったりとした状態になっていた。

 

――まさか、あの魔法で強引に身体とのパスを断ち切った? なんでそんな……ッ!! 拙い!

 

元々あの身体はジェイル・スカリエッティによって作られた仮初めの物だ。体にそもそもの意識はなく、最高評議会は本体である脳髄が入った生体ポッドからその身体を遠隔で動かしている。

だが、もしもそのパスが切られてしまえば、その身体は生死体と同様の物なのだ。

 

「止め……!」

 

今の状況で更に敵の戦力が増える事だけは阻止しなければならない。

慌てて飛び出そうとするはやてだったが、彼女を一瞬で追い抜き聖女に肉薄する影があった。

 

――フェイトちゃんか!?

 

その速度を見て一瞬そう考えたはやてだったが、靡くオレンジ色のポニーテールを確認して理解する。

 

――朱莉ちゃん!

 

天使である彼女が、Aランク魔導士としてではなく天使として力を貸してくれるのだと。

 

その期待に応えるように、朱莉の周囲に無数の魔法陣が展開される。

 

これなら何とかなるかもしれない。

 

はやての胸に灯った希望の光は――

 

「ぅぐッ!??」

 

「――え……?」

 

聖女の放った砲撃に吹っ飛ばされた朱莉の姿を見て、かき消された。




戦闘開始から1分経ってない内に色々起きすぎて文章量がえらい事になりそう。
今はまだ描写してませんが、他のヴォルケンリッター達もそれぞれ敵から襲われている状態です。
とは言っても、将と兵士の間には超えられない壁があるので将以外には苦戦しないのですが。

・最高評議会についての簡易的な補足
最高評議会の強さや能力に関しては完全に捏造です。
ただ、質量兵器飛び交う無法地帯だった次元世界を仮にとは言え平定しているので弱い訳はないなと。

それぞれ以下の属性変換資質を持ってます(赤青黄の髪色と一致)
リオン→炎熱
バルト→氷結
クリーム→電気

・儀式魔法『アナイアレイター』
最高評議会の3人で行う儀式魔法。
それぞれの属性を反発させず、打ち消し合わせず、束ね、混ぜ合わせて放つとても繊細かつ強力な魔法。
着弾点で属性同士が急速に相互反応を引き起こし、非殺傷設定で放った場合相手は消滅する。
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