転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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未来を巡る戦い①

――『朱莉ちゃん、今度の作戦なんやけど……』

 

隊舎内に割り当てられた自室でごろごろしていた私の元を訪れたはやてちゃんは、緊張した面持ちでそう切り出した。

何でもHE教団の聖女ちゃんが天使の身体にユニゾンし、自由に扱っているのだとか。

そしてその聖女ちゃんを止める為に私について来てほしいのだと、彼女は頼みに来たのだ。

 

正直なところ面倒だなと言う感情が無い訳ではなかったけれど、話を聞く限りかなり厄介な状況……そして確かに、これは私達の管轄の問題と言えなくもない事態だった。

 

転生者同士の戦闘は互いに同意の上での決闘であれば問題無し、天使は不介入と言うのがルールだ。

そしてそれは『天使は極力転生者の行動に介入しない』と言う原則に基づくもの。

今回の様に、その意思が聖女ちゃんと言う転生者の物だとは言え、天使が転生者と戦うと言うのは完全にルール違反となるのだ。

 

だから私は『あくまでその聖女ちゃんの状態を見てからどうするべきか判断する』と言う条件付きで「いいよ」と答えた。

 

 

 

そして今、私はその聖女ちゃんの姿と力を目の当たりにした。

 

――なるほど、これは確かにちょっと拙いね……

 

正直"ユニゾンデバイスの転生者"と言う物を侮っていたと言うほかない。

いくら身体を手に入れたとはいえ、天使の力を人間が扱うには限界があるはずだ……なんて甘い期待は持つべきではなかった。

 

――見たところ天使の力の完璧なコントロールに加えて、魔力も織り交ぜて出力を強化してるね……天使の力は自分の意志で性質を変えられるとは言え、それがここまでの相乗効果を生むとは……いや、『そういう性質』に調整して使っているのか。

 

もう完全に天使より天使の力を上手く扱っているんじゃないの? アレ。

私達は基本的に鍛錬とか研究とかしないからなぁ……なぁんて、無駄な思考してる場合じゃないよね。

聖女ちゃんがリオンちゃん達を拘束した今が好機だ。

 

――奇襲を仕掛けて、一瞬で無力化する!

 

天使の力の波動を極力隠蔽し、全速力で空を翔ける。

神様にオーダーは出来ない。オーダーした能力は一時的にとは言え、()()()()使()()()()()()()

私が時間を止めてしまえば、止まった時の中で聖女ちゃんも動けてしまうのだ。

 

すれ違ったはやてちゃんの驚いた顔が、私を見て僅かに弛緩したのが見えた。

安堵の表情と言う奴だろう、私としてもそれに応えたい思いは強い。これでも一応は天使の端くれなのだから。

 

だからこそ、この一瞬にありったけを撃ち込むつもりだった。

 

一瞬で接敵し、翳した手を中心に幾重にも折り重なるように現れた無数の魔法陣。

天使の力でのみ起動する、この世界の規格の外にある砲撃魔法だ。規格の外にあるが故に、この世界の力では防御不能と言う、ルールに縛られた天使だから扱う事を許された力。

 

……しかし、それは――

 

「見えていますよ。」

 

攻撃を予知していた聖女ちゃんの反撃によって、正面から撃ち破られた。

 

「ぅぐッ!??」

 

全身を包む閃光。身体にのしかかる強烈な圧迫感。

景色が高速で流れて行き、やがて"ズドン!"と言う衝撃と共に止まる。

 

咄嗟に張った障壁のおかげでこれと言ったダメージは無いけど、吹っ飛ばされた先で何処かの建物に突っ込んでしまったらしい。

 

「ふぅ……まったく、結界で人払いしてなかったら大惨事だったねぇ、これは。」

 

見た感じ、何かの会社のオフィスらしい。

幾つかの簡素なデスクを巻き込んでめり込んでいた壁から「よっこいしょ」と抜け出して窓を見ると、不思議そうな表情でこちらを見つめる聖女ちゃんと目が合った。

 

思っていた手応えと違うと言った様子で、砲撃を放った自らの手と私を見比べている。

 

――あの様子からして、一応私に対する未来視も完全じゃないみたいだね。

 

一応天使も特異点って訳だ。まぁ、本来この世界にはいない存在だからねぇ……

 

それにしてもだ。まさか、あの至近距離で私の砲撃を砲撃で返して来るなんて、流石に予想外だったよ。

砲撃の出力に加えて、咄嗟の戦闘勘や判断力まで負けてるかぁ~……

 

「……やれやれ、私もなのはちゃんに訓練つけて貰うべきだったかなぁ?」

 

天使に戦闘の経験なんてある訳ないんだから、手加減して欲しいよ全く。

 

 

 


 

 

 

『――ここは……そうか、我等は奴に……』

 

時空管理局本局内の機密区画にて、最高評議会の議長がそう言葉を漏らした。

彼等は聖女との戦闘の末、自身が遠隔で操作していた『リオン』『バルト』『クリーム』との通信に使用していた魔力のパスを断たれ、この区画で意識を取り戻したのだ。

 

『不覚を取ったか……! だが、再びパスを繋げば――』

『……無駄なようだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

『何!? つまりそれは……!』

 

最高評議会書記の言葉に評議員がそう反応を示すと、書記が操作したのだろう。端末の一部から光が伸び、空中に映像が投影される。

そこに映っていたのは、先程まで自分達が居た戦場……そして、今さっきまで自らの分身であった『リオン』『バルト』『クリーム』が、身体の調子を確かめるように動いている光景だった。

 

『……既にあの身体は敵の手中にあると言う事だ。』

『くっ……』

 

その光景を見た評議員が悔しさを滲ませた声を漏らす。

長いブランクがあった事等言い訳にもならない完全な敗北……そしてその末の光景は、彼等の心に深い衝撃を与えていた。

 

しかし、そこに映る別の光景を見て、彼等は即座に通信を繋ぎ声を荒げた。

 

『――八神部隊長ッ! 何を呆然としている!』

『ひっ!? さ、最高評議会の御三方でしたか……!』

『我等は貴様の実力を見込んで指揮を託したのだぞ! 何があろうと戦場で思考を止めるな!』

 

咄嗟の事で映像の偽装もせずに通信を繋いだため、眼前に突如現れた3つの脳髄と言う光景に、はやてから短い悲鳴が上がる。

だが、それが功を奏したのだろう。朱莉(天使)が敗れたショックから立ち直ったはやては、直ぐに状況を把握した。

 

『アレは……リオンちゃん達が動いて……!』

『見ての通りだ。アレはもう我等の制御下を離れた。』

『今あの身体を動かしているのは、奴が突っ込んだリンカーコアだ。』

『そんな……! 御三方はご無事ですか!?』

『我等は問題無い、あくまであの身体は仮の物だからな。だが……』

 

最高評議会の安否を確かめるはやての問いに議長はそう答え、その言葉の続きを書記が引き継いだ。

 

『――だが、あの身体はお前達が良く知る"生死体"とは訳が違う()()()だ。』

『特別性……?』

『全盛期の我等の力を再現する為に、あの身体に組み込まれた疑似リンカーコアは我等の魔力と同じ特性を持っている。』

『奴等があの身体に慣れてしまえば、恐らくアナイアレイターも使う事が可能だろう。』

『なっ――!?』

 

教会を一撃で破壊し、更にその地下数十mを一瞬で抉り抜いたあの魔法が使えると聞き、はやてが動揺する。

対して議長は『もっとも、アレは3人の魔力を寸分の狂いなく同調させる必要がある故、暴走するのが関の山だろうがな。』と補足すると、話を続ける。

 

『だが、その身に宿る魔力が脅威である事に変わりはない。奪われてしまった以上、迅速に無力化せよ。必要であれば……破壊も許可する。』

『! ……分かりました。』

 

議長の言葉に、表情を一層引き締めるはやて。

それを見て、議長は通信を切る前に告げる。

 

『こちらでもあの身体の制御を奪えるか、或いは奴らの動きを妨害できないか試すつもりだ。健闘を祈る。』

 

そう言って通信を切ろうとした時、『ですが』とはやての声が届く。

 

『――ですが、()()は尽くさせてもらいます。』

 

その言葉を最後に、はやての方から通信は切られた。

 

『ふん、小娘め……余計な気を使いおって。』

『全くだ。あの身体が破壊されれば、今度こそ望んだ体を作らせる口実となるものを……』

 

再び静寂と薄闇に包まれる機密区画にて、評議員と書記が何かを誤魔化すように口々に呟く。

そんな様子を見て、議長が自身の意見を述べた。

 

『……だが、折角使い慣れた身体だ。手放すのは惜しいものだ……ほんの少しだけ、な。』

『まぁ……そうであるな。』

『犯罪者共に使わせるには勿体無い身体ではあるな……』

 

それが呼び水となったように、評議員と書記もそれぞれ少しだけ本音を吐き出した。

なんて事は無い、結局のところ普段使っている内に思いのほか愛着が湧いてしまったと言うだけだ。

気に入った服を取られた様なものなのだと誰に言い訳するでもなく呟きながら、彼等は自身の作業に戻った。

あの身体を取り戻して再び戦場へ戻る為に。

 




スカ○エッ○ィ「君達には"適性"があると信じていたよ」
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