転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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ちょっと長めになりました


未来を巡る戦い④

空で、地上で、屋外で、屋内で……至る所で魔力が炸裂し、光と音が生まれては消えていく。

つい数分前まで静寂と平穏に包まれていた街並みには瓦礫が散乱し、また一つ大きな音を立ててオフィスビルがその仲間入りを果たした。

 

地上は大量の土煙で覆われており、今も戦っている筈のティアナ達の姿は見えない。

時折フリードに乗ったエリオとキャロが見え隠れしている事から恐らくは今も無事だろうとは思うが、聖女の補助魔法がある以上万が一と言う心配は尽きない。

 

想像よりもずっと強かった朱莉ちゃんが聖女と交戦している今の内に、私も彼女に加勢したいけど……今は先ず()()3()()の無力化が先らしい。

 

≪ごめん、朱莉ちゃん。私も直ぐに加勢したいけど、もうちょっと時間かかりそう。≫

≪良いって良いって、私も時間稼ぎくらいならもう暫くできそうだしさ~……ただちょぉ~っと勝つのは厳しそうだから、限界が来る前にはお願いね。≫

≪うん……頑張ってみるよ。≫

 

朱莉ちゃんの元へ向かおうとした私の前に立ちはだかった少女達を見て、私はそれまでの認識を改めざるを得なかった。

 

「お前達か、聖女()に歯向かう組織と言うのは……」

「時空管理局とか言ったな。その傲慢さ、身をもって思い知らせてやろう。」

「貴様等を倒した後は、愚かにも聖女様に挑むあの女だ。……尤も、我等が貴様等を倒すよりも、聖女様があの女を墜とす方が早いだろうがな。」

 

チリチリと肌を焼くような激しい魔力を放つ少女、周囲にダイヤモンドダストを発生させている事から強烈な冷気を纏っている事が予想される少女、常にパリパリと放電を繰り返している少女……彼女達はそれぞれ先程まで最高評議会の3人が使用していた身体である、『リオン』『バルト』『クリーム』の3人だった。

 

「……はやてちゃん、フェイトちゃん、やっぱり私もこっちを済ませてから朱莉ちゃんの加勢に行くね。」

「あぁ、正直助かるわ……ったく、あの聖女とやら、一体何したらこんな事になるんや……?」

「わからないけど……でも、あの3人もきっとさっきの娘みたいに人格を弄られてるみたい。多分、それ以上の調整をされたのかも……」

 

彼女達から感じる魔力は聖女以外のどの敵よりも強烈な物だった。

それが彼女達の身体が特別性である事から来る物か、入れられたリンカーコアの能力による物かは分からないけど……するべき事は一つだ。

 

「私は『リオン』ちゃんを倒すよ。あの子の魔力が一番大きいからね。」

「そうか、なら私は『クリーム』ちゃんやな。最高評議会から聞いた話によれば、あの子は電気に耐性があるらしいからな。」

「じゃあ私は『バルト』だね。……早く倒せたら、助太刀に行くから。」

 

そうそれぞれの相手を見定め、私達は一斉に翔けだした。

 

「二人共……一気に倒すよ!」

「ああ!」

「うん!」

 

 

 


 

 

 

「危ない! ティアッ!」

 

飛来する瓦礫からティアナの身を庇う様に割り込んだスバルが、リボルバーナックルの一撃のもとにそれを砕き、ティアナと背を合わせるように並び立つ。

 

「助かったわ、スバル!」

「どういたしまして! それより、もう大丈夫?」

「大丈夫って……何が?」

「何って……ほら、トラウマ。……一応アレから初めての実戦でしょ?」

「ええ、その事ならもう大丈夫よ。アンタこそ、また無茶してないでしょうね?」

「全然平気! まだまだやれるよ!」

 

そう軽口を叩くように互いの様子を確認する二人は、やがて周囲を取り囲む土煙を鋭く睨む。

ビルの破損や倒壊、瓦礫が地に落ち砕ける度にこう言った煙が戦場を……特に地上を覆い隠しては視界を狭めていた。

土色の膜一枚を隔てた先に浮かぶ人影は、最早そのシルエットさえも正確な形として捉えられない。

 

その様子を改めて確認したスバルが、苦々しく呟いた。

 

「……それにしても、何とも戦いにくいね。瓦礫は飛んでくるし……何よりもこの土煙。敵と味方の区別が付きにくいよ。」

「そうね……っ!」

 

スバルに相槌を打った直後、ティアナが警戒を強めながら土煙の一角……上空から彼女達へと近づく影に、クロスミラージュの照準を合わせる。

緊張の一瞬……果たして土煙の膜を割いて現れたのは、フリードに跨ったキャロとエリオだった。

 

「お待たせしました! ティアナさん!」

「二人共、無事で安心したわ。早速報告お願い!」

「はい、先ず敵勢力の比率なんですけど――」

 

エリオとキャロは先程までこの状況を打開するべく、ティアナの指示で空から周辺の状況の偵察を行っていたのだ。

ティアナ達の傍に降り立ったフリードから降りた彼等は、互いの安否確認も程々に二人に偵察結果の報告を始めた。

 

 

 

「成程、地上に居るのは向こうも少数……やっぱり殆どの敵は空戦適性持ちって訳ね。」

「そして、今あたし達は遠巻きに包囲されてる……と。」

「はい、今はヴィヴィオちゃんが一人で敵の部隊を攪乱してくれてますけど……」

「敵の動きからして、指揮官が居る……って事よね。相手の実力が分からない以上、不利な状況でヴィヴィオが接触するより早く、この状況をひっくり返さないと。」

 

エリオ達が空から敵の配置を調べている間、ヴィヴィオは土煙の中を駆け回り敵の混乱を狙った奇襲を繰り返していた。

目的の見えない敵の動きを阻害すると同時に、上空のエリオ達に視線が向きにくくすると言うのを狙い、ティアナが頼んだのだ。

 

当然ながらその役割が持つ危険性はティアナも理解しており、なるべく迅速にヴィヴィオの元に向かえるよう策を講じ始めた。

 

「あたしがウイングロードを上空に伸ばして、ヴィヴィオと合流するってのは?」

「賭けね。今あたし達を包囲している敵に気付かれて、向こう側もウイングロードを走ってきたら、あたし達は常に背後から追われたままヴィヴィオの元に行くことになる。最悪の場合上空の部隊と挟み撃ちで、今より拙い状況になるわ。」

 

エリオ達がティアナに伝えた情報では、敵の地上部隊は精々15人前後。対して上空の部隊はその3倍程はいたという話だった。

先程の偵察ではフリードの機動力を活かして逃げ回ったり、土煙を利用して敵の眼を誤魔化す事で直接的な戦闘を避け、事なきを得ていたのだが、ウイングロード(発光する一本道)の上ではそれも難しいだろう。

 

「ぅ……そっか、良い考えだと思ったんだけど……」

「包囲を抜ける為に上空を活かすってのは、確かにセオリーだから何も間違ってないわ。ただ、上空の戦力比の方が多いって言うのが厄介ね……」

 

申し訳なさそうに項垂れるスバルをフォローしつつ思考を巡らせていたティアナは、やがて先程のスバルの考えと自身の言葉からヒントを得て、一つの策を思いついた。

 

「……()()()()か……! 皆、考えが纏まったわ。耳を貸して。」

「うん!」

「「はい!」」

「クル!」

 

思いついた作戦をひそひそ声で共有するティアナの言葉に、信頼と期待を込めて耳をそばだてるスバル達。

 

「ここは相手の心理的盲点を突くわ。先ず――」

 

 

 

 

 

 

ティアナ達が作戦を共有したその数十秒後、彼女達を包囲していた部隊の間に伝令の念話が飛び交った。

 

≪奴等が動いたぞ! 魔法で作った青い光の道を上って包囲を出るつもりだ!≫

≪俺も見えた! 道は北東に伸びてる! 上をガキ共が走ってるぞ!≫

 

その伝令にやや焦りを見せる聖女の兵士達。

だがその動揺を即座に吹き飛ばすような言葉が、一人の兵士から発せられた。

 

≪バカ共が、今がチャンスだろうが! 隠れる場所もねぇ一本道の上だぞ! 今の俺等なら追いつける!≫

 

その言葉にそうだそうだ! と士気を高めた兵士達は、我先にとウイングロードを目指して駆ける。

少女の身体となった事で歩幅は小さくなったものの、聖女の魔法で絶大な強化を施された今、彼女達の速度はかつての自分達を遥かに凌駕していた。

 

あっと言う間にウイングロードの根元にたどり着いた彼女達は、これまた一目散に道を駆けあがる。

ここで戦果を得て聖女からの覚えが良くなれば、自分だけは"変えられない"かもしれない。ティアナ達は知らない事だが、彼女達が功を焦るのにはそう言った事情があった。

 

「追いついたぜ、ガキ共ぉ!」

「逃げられると思うなよ!」

「お前らはここで終わりだ! さっさと諦めろ!」

 

地上よりやや薄い土煙が視界を遮るウイングロードの前方。うっすらと見えるティアナ達の影を確認した兵士が声を上げると、彼女の後に続く兵士達も口々にティアナ達を威圧する言葉を投げかけ始める。

 

「ちっ、諦めの悪いガキめ! これでも喰らえ!」

 

その内の一人がそう吐き捨てて射撃魔法を放つ。

しかし前方を逃げる影はまるで速度を落とさず、手ごたえを感じられない。

 

「は? 外したのか?」

「ははは! この距離で外すとか、お前ちゃんと訓練してたのかよ!?」

「チィッ! だったら直接捉えてやるまでだ!」

 

その場に居る全員がティアナ達を捕える事に夢中だった。

逃げるティアナ達は、空戦適性が無い彼女達にとってこの戦いで得られる数少ない功績だ。

自分達の自由な未来のために全員が必死だったのだ。

 

「ほぅら! 直ぐに追いついたぞ! 諦めろ!」

 

だからだろうか、それともこの土煙のせいだろうか。間近でティアナ達の顔を直接見た彼女さえも気付かない。

 

――ウイングロードを駆けるティアナ達が、自分達の接近にまるで反応していない事に。

 

「捕まえ、た……ぁれ? ――痛っ!?」

 

逃げるティアナの腰に組み付こうとした彼女の身体が、ティアナをすり抜けてウイングロードの上に落ちる。

そのまま脇目も振らずに逃げるティアナ達の背中を呆然と見つめる彼女に、後続の兵士達も直ぐに追いつくと訝し気に尋ねた。

 

「あ? お前何やってんだそんなとこで?」

「まさか負けたのかぁ? あんなガキに?」

「い、いや……違ぇ……っていうか、あいつ等――」

 

そして周囲から向けられた呆れるような視線に弁明する為、彼女が口を開きかけたその瞬間――

 

「「「「「「「「「「「「――は?」」」」」」」」」」」」

 

彼女達が立っている足場(ウイングロード)が突如として消滅した。

そして重力に従い落下を始める彼等の周囲を、いつの間にか無数の光弾が取り囲んでいた。

 

「「「「「「「「「「「「――はぁっ!?」」」」」」」」」」」」

 

 

 


 

 

 

響く轟音に空気が震え、魔力爆発により土煙が散らされる。

 

「クロスファイアーシュート、全弾命中っ! 今よ、キャロ!」

「はい! 来よ、天地貫く業火の咆哮! 竜咆召喚! ≪ギオ・エルガ≫!!」

 

そして、俺の指差す先……無数のクロスファイアーシュートにより発生した魔力爆発の中心へ、キャロの竜咆召喚が撃ち込まれた。

その着弾点から意識を失った追っ手達が落下していくのを確認し、俺達は再びヴィヴィオとの合流を目指して土煙の中を駆けだした。

 

「これで後ろの心配は無くなったわね。行きましょう!」

「はい!」

「上手くいったね! 流石ティア!」

「スバルがくれたヒントのおかげよ、助かったわ。」

 

今回の作戦、決め手になったのはスバルの発言だ。

彼女が思いついた作戦……上空に作った道から逃げると言うのは血路を開くよりも安全で、追われる可能性を鑑みても少なくとも包囲と言う状況からは抜けられる……場合によっては殿を残したり等、多少の差異はあるだろうが、概ね空戦適性が無い魔導士が包囲された状況でとる行動としてはまさにセオリー(定石)だった。

 

だが今回の戦場では上空には空戦適性を備えた敵が多く存在している。

上空からの挟み撃ちと言う可能性がある以上、簡単には選べない……だからこそ、そのセオリー(定石)を利用したのだ。

 

自分達が包囲している標的の傍から光の道(ウイングロード)が上空へ伸びたのを見れば、殆どの場合その道を伝って逃げると考えるだろう。

その道を直接駆け上がる人影が見えればなおさらだ。

 

取れる選択肢は二つ、『追う』か『待ち伏せる』か。

だがこの土煙だ、地上からはウイングロードを見失う可能性が高い。当然追っ手の中で『追うべきだ』と言う考えが強くなる。

そこで俺はダメ押しとして、敢えて念話を追っ手に繋いだのだ。

 

幻影魔法の応用で声を変え、『バカ共が、今がチャンスだろうが! 隠れる場所もねぇ一本道の上だぞ! 今の俺等なら追いつける!』とメッセージを飛ばした。

 

あとは近くの瓦礫の影にオプティックハイドで身を隠し、追っ手の全員がウイングロードを駆けあがったのを確認し、俺達は悠々と土煙の中を駆けだした。

 

そうしてしばらくの間は幻影の俺達を追わせ、幻影の内側に仕込んだ簡易的なサーチャーに反応があった事を確認してウイングロードを解除。

落下する追っ手を一網打尽にしたと言う訳だ。

 

――急に足場の感覚が消えると一瞬思考が止まるのは、身をもって知ってるからな……

 

まぁ、過去の苦い経験も経験と言う事だ。

克服できていなかったら今回の作戦も思いつけなかったかもしれないし、案外あれも乗り越えるべき試練だったのかもしれないな。

 

「――っと、魔力探知に反応! ヴィヴィオが居たわ! 恐らく交戦中!」

「方角は?」

「一時の方角! この先10m程の角を曲がれば見える筈よ!」

 

狭い視界の中で現在地を記憶の地図と照合しながら瓦礫の街を駆け、曲がり角を抜けるとそこには……

 

「――ヴィヴィオッ!」

「ッ!? ティアナ!? 退いて! コイツは他の連中とは格が違う!」

「ぁん? なんでぇ、もうアイツ等を撒いて来たってのか? いや……」

 

いったいどれ程の時間戦闘を続けていたのだろう、既に欠けていない所が見当たらない程に破壊された街並みの中心で構えを取るヴィヴィオと、彼女と対峙する一人の少女の姿だった。

少女は少し意外そうな表情を浮かべると、次の瞬間獰猛な笑みを浮かべて俺達の方へ向き直った。

 

「アイツ等と念話が通じねぇって事は、もう全員倒してきたか……面白れぇ。」

 

そして溢れんばかりの魔力を滾らせると、少女はこの場の全員に対して告げた。

 

「全員でかかって来な! 俺はレナード、聖女より"将"の称号を受けた一人よ! この見た目で油断してると、痛い目見るぜぇ!」




そう言えば将の名前を決めていなかったなって書いてる途中で気付くっていう。
今回のレナードさんは山籠もりしてた武闘家の人です。

-2023/06/29 追記-
ヴィヴィオのセリフを少し修正しました。
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