転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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未来を巡る戦い⑤

「全員でかかって来な! 俺はレナード、聖女より"将"の称号を受けた一人よ! この見た目で油断してると、痛い目見るぜぇ!」

 

深い紫色の長髪を一つ結びにしている少女は自身をレナードと名乗った直後、振り上げた脚を地面に勢い良く叩きつけると同時に、全身から噴き出す莫大な魔力を地面に流し込んだ。

 

「!」

 

次の瞬間、レナードの姿はスバルの懐に入り込んでおり、既に右の拳が腹部へと迫っていた。

 

――腕のガードは間に合わない! バックステップで威力を……!

 

瞬時にそう判断し、マッハキャリバーの車輪を高速回転させるが――

 

「な、バインド……っ!?」

 

ギャリギャリと地面を擦る音に注目してみれば、その両足は既に地面から伸びた鎖によって縫い留められていた。

 

――いつの間に……いや、さっきの踏み込みか!

 

踏み込むと同時に魔力を流し、地面を伝わせる事でバインドを遠隔発動させたのだ……スバルがその事に気付いた時には、レナードの拳はスバルの腹を捉えていた。

 

「ッ! ぐ、ぁ……!」

 

足を地面に固定された事により、スバルの腹を打ち据えた衝撃は逃げ場を失い彼女の体内で暴れ狂う。

視界が白く明滅する中で何とか意識を繋ぎとめたスバルは、そのまま腹に突き刺さった拳を掴もうと腕を動かすが……

 

「っと、案外タフな嬢ちゃんだなぁ! 今のは本気で意識奪うつもりだったんだが……」

 

一瞬早くその手を躱され、距離を取られてしまった。

 

「く……っ!」

「スバルッ!」

 

あまりにも重いダメージを受け、膝から崩れ落ちるスバルを庇う様に立つティアナとエリオ。

エリオはストラーダを、ティアナはガンズモードとダガーモードのクロスミラージュをそれぞれ構えており、レナードの動きに注意を払っていた。

 

「スバルさん、大丈夫ですか!?」

「ぅ……うん、ギリギリ……防御は出来たから……」

 

キャロはスバルの元へ駆け寄り、フィジカルヒールをかけている。

スバルはあの一瞬で咄嗟にフィールドタイプの障壁を発動させており、それが功を奏して比較的軽傷で済んでいたのだ。

 

その会話を聞いていたティアナは心底ホッとするが、それと同時にレナードに対する警戒度を大幅に上方修正した。

 

――地面を伝うバインドを併用した高速の踏み込み……空戦適性の無い俺達にとって最悪の相性だな。

 

≪エリオ、足元に注意しなさい。キャロがスバルの治療を済ませるまで、あたし達で守るのよ。≫

≪はい!≫

 

そう二人が気合を入れたその瞬間……

 

「――私も居る事を忘れるな!」

 

その声に反応したレナードが二人に背を向けると同時、大きな音と目も眩む閃光が衝撃を伴ってティアナ達を飲み込んだ。

 

「くっ……!」

 

ビリビリと身体を苛むその衝撃の正体は、ヴィヴィオが練り上げた虹色の魔力による一撃をレナードが防いだ事で発生した魔力爆発の余波だった。

 

――余波でこの衝撃……!? やっぱりあの二人が使う魔力量は、俺達の物よりもずっと……!

 

その事実に圧倒されそうになるティアナだったが、直ぐに思い出す。

自分達はずっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()事を。

 

――そうだ、最初から分かっていた事じゃないか。いつだってなのはさんが設定する仮想敵は、俺達よりも格上だった。

 

そもそもが滅びを齎す相手を想定しているのだから当然ではあるが、ティアナ達は訓練中に於いて()()()()()()()()()()()()()()()()()

常に戦い方には工夫を強いられたし、負けた事だって1度や2度ではないのだ。

それに気づいた時、ティアナの心から迷いは消えた。

 

――格上に対する挑み方なら、十分教わって来た!

 

思い返してみれば、そもそもいつだって一番強い相手と模擬戦してきたのだ。

ハンデこそあったが、その力は誰よりも近い場所で体験して来ている。

だったら……

 

≪キャロ、もうそろそろスバルは全快するわよね?≫

≪! はい!≫

≪だったら今の内に補助魔法の準備もお願い。内容は――≫

 

今は備える時だ。

状況を整え、策を練り、ヴィヴィオも加えた全員でレナードを倒す。

今までだって強敵相手にはそうして挑んできたのだから。

 

――良し! スバルとエリオにも話は通したし、後はヴィヴィオと合流出来れば……

 

ティアナがそう考えた丁度その時、レナードの回し蹴りを防いだ衝撃を利用して飛んできたヴィヴィオがティアナ達の目の前に降り立った。

 

「くっ……ティアナ、エリオ! どうして退かないの!? アイツは……」

「格上なんでしょ? そんな事は貴女の戦いを見れば分かるわよ。貴女一人じゃ旗色が悪いってのもね。」

「だったら――」

「だから、よ。アイツを倒す為には、あたし達全員でかからないと。」

「っ!」

 

そうティアナが伝えるとヴィヴィオはハッとした表情を見せ、僅かに考えた後に尋ねた。

 

「……アイツを倒す策があるのね?」

「生憎、それは今考え中よ……でも、絶対に活路は見つけるわ。」

「……分かった、貴女を信じるわ。ティアナ。」

「! ……ええ、任せなさい!」

 

そしてティアナは一先ず、策を練る時間を稼ぐための作戦を伝えた。

作戦と言っても、どちらかと言えば簡易的なフォーメーションのような物だが、それでもヴィヴィオ一人で戦うより負担は軽い筈だと考えたのだ。

 

そしてティアナが右手に構えたガンズモードのクロスミラージュから放たれたクロスファイアーシュートを合図に、作戦は動き出した。

 

 

 

「……ほぉ?」

 

眼前に迫ったクロスファイアーシュートを難なく手で打ち消したレナードは、ティアナを守るようにエリオと並び立ったヴィヴィオを少し興味深そうに見つめた。

それはあまりにも目的が見え透いた陣形であり、そんな陣形を自身と並ぶ程の戦闘経験を持つと思われるヴィヴィオが取った事に対する興味だった。

 

――さっきダメージを負った嬢ちゃんを完治させる時間稼ぎ……そして、その司令塔はあの銃使いの嬢ちゃんってとこか……? いや、どうもそれだけって感じでもねぇか。

 

先程何事かのやり取りを交わしていたヴィヴィオとティアナの様子から、レナードはそう当りを付けた。

自身が彼女達の立場であったならばどうするか……もしもヴィヴィオの立場であれば、どう言う考えのもとにあのような行動に移るか。

 

――俺ならこういう場合……この土煙を利用するな。その為に動けない嬢ちゃんを先ず治し、土煙の中に身を隠す。或いは、逃げて俺の情報を仲間に伝える……ってとこか。

 

いずれにせよ、レナードにとってヴィヴィオ達が自由に動けるようになるのは不都合な事だ。

最初の方に一瞬だが見えた女性……高町なのはの魔力は、以前の聖女を遥かに上回っていた。

もしもあの女性に自身の情報を伝えられ、1vs1で戦う事になれば、例え聖女からの補助魔法を受けている今の自分でも分が悪いだろう。

 

――まぁ、幸いにして()()も分かりやすい陣形だ。遠慮なくそこを突かせて貰うとするか……

 

そう考えたレナードは片足を上げて魔力を集中させると……

 

――≪縛震殴(ばくしんおう)≫!

 

先程スバルに見舞ったのと同じ一撃を繰り出した。

ただし、バインドの対象はヴィヴィオとエリオの二人。それに加えて、攻撃の対象は……ティアナだった。

 

「司令塔が誰か、分かりやすすぎるぜ……嬢ちゃん!」

 

バインドで足を縫い留められたヴィヴィオとエリオの間を一瞬で通り抜け、レナードはティアナをその射程に収めた。

ヴィヴィオもエリオもその接近に反応しつつも、足の動きを封じられた所為か動作が間に合っていない。

それどころか、ティアナに至ってはまるで見えていないのか、動く素振りも無かった。

 

――なんでぇ、こんなもんか。ちょっとは期待したんだがなぁ……

 

加速した思考の中で、レナードは自身の拳が真っ直ぐティアナの腹へと吸い込まれて行くのをつまらなそうに見る。

やがてその拳はティアナの腹に触れ……

 

 

 

……る事は無く、すり抜けた。

 

――なんだと……?

 

直後、レナードが状況を理解するよりも早くティアナをすり抜けて眼前に現れたのは、機械仕掛けのローラーブーツによる蹴撃だった。

 

――この足はあの嬢ちゃんの……! 防御は間に合わねぇ……!

 

攻撃の直後と言うどうしようもない間隙を突いたその一撃を躱す事は出来ず、レナードは咄嗟に張ったフィールドタイプの障壁で受ける他なかった。

しかしそれでも威力は殺しきれず、脳を衝撃で揺らされながら吹っ飛ばされる。

 

――既に、完治してたってのか! まんまと騙されたぜ……!

 

吹っ飛ばされながらそう称賛するレナードだったが、ティアナの仕掛けはそれだけでは終わらなかった。

 

「――今よ!」

 

ティアナの幻影と僅かにズレた位置からティアナの指示が飛んだ瞬間、キャロが使用した多数の補助魔法がエリオとヴィヴィオの能力を強化する。

そしてレナードのかけたバインドの効果が切れたと同時に、未だ空中に居るレナードに対して追撃をかけて来た。

 

――俺のバインドの効果時間まで見切って……あの嬢ちゃん、案外やりやがる……!

 

『縛震殴』の術式は、一瞬で敵に接近し必殺の一撃を与えるのが本懐であり、バインドはあくまでもその補助でしかない。

その為バインドの効果もその為に調整されている。

即ち効果時間を短く、その分縛りをより強固にといったカスタマイズがされていた。

だが、今回はそれを逆手に取られたのだ。

 

「「"紫電一閃"!!」」

「ぐぅ……っ!!」

 

ヴィヴィオとエリオ……キャロの補助魔法を受けた二人の紫電一閃を受け、レナードは更に吹っ飛ばされることになった。

 

 

 

「やったね、ティア!」

「喜ぶのはまだよ、スバル。アイツがあれくらいで倒れるようには思えないわ。」

「同感ね。さっきの紫電一閃も、しっかり防いでいたわ。あれでは最低限のダメージしか入ってないでしょうね。」

 

最初の意趣返しが出来たからか、喜びを露わにするスバルを宥めるティアナとヴィヴィオ。

だがそこに焦りはない。

この状況も想定の内なのだから。

 

「でも、欲しい情報はいくつか得られたわ。これを基に、次の作戦を練る!」

 

ティアナの作戦はまだ終わらない。




本当はもうちょっと先まで書きたかったのですが、思ったほど進められませんでした。

-2023/06/29 追記-
ヴィヴィオのセリフを少し修正しました。
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