転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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未来を巡る戦い⑧

――どうなってんだ、これは?

 

周囲が土煙で覆われた戦場。嬢ちゃん達の偽物と本物を相手取る事になった俺は、拳に纏わせる魔力を攻撃目的から防御目的に切り替えて敵の動きを観察し、偽物にのみ共通する共通点を見つけた……筈だ。

 

生前の殆どを武につぎ込んできた俺の経験から言っても、ほぼ間違いなかったように思う。だが――

 

「今だッ!」

「隙ありッ!」

 

嬢ちゃん達は偽物も本物も、同じような敵意を向けて襲って来る。

魔力の動きから狙っている場所を割り出す事も出来るし、そこにこそ癖が出ていた。

 

――背後のヴィヴィオって呼ばれてた嬢ちゃんは脚を狙った蹴り、正面から突っ込んできたスバルってぇ嬢ちゃんの狙いは肋骨……いや、鳩尾か……!

 

この時点でヴィヴィオは十中八九偽物だ。

魔力の狙いと眼の動き、加えて蹴りの機動が素直すぎる……恐らくはこの偽物を操作している使い手は、近接戦闘に於けるフェイントに詳しくないのだろう。

或いは偽物を操作する限界なのかもしれないが……どちらでも同じ事だ。"偽物はフェイントを交えない"……この特徴はヴィヴィオもスバルも同じだった。

 

――まぁ、素直な攻撃を一切交えなけりゃフェイントの効果も半減するが……コイツの場合は()()()()()()じゃあねぇ感じなんだよな……

 

こればかりは培ってきた勘による判断なので言葉にしづらいが、少なくとも俺のこの勘は外れた事は無い。

一方でスバルは魔力の狙いと眼の動きは肋骨を狙っていながら、筋肉の動きは鳩尾を狙ってやがる……

何なら、途中まではこっちの対応次第で狙いを変える事まで織り込んだ動きだ。

人体の急所2点狙いは殺意高くねぇか?

 

――その分、本命としての説得力は高いんだがな!

 

俺は確信を持って拳を振るう。

防御用に纏っていた魔力を攻撃用に切り替え、敵の攻撃を躱すのと同時に突き入れる最速のカウンターだ。

戦闘に於いての理想論……"敵の攻撃は確実に躱し、こちらの攻撃を確実に当てる"を体現する会心の一撃だった。

 

だがそれは――

 

――またかよ……ッ!?

 

拳の軌道に土煙が割り込んだ直後、命中する筈だった拳が空を切る。

輪郭がぼやけたスバルは、まるで土煙に溶けるかのように姿を消した。

そして、それと同時に……俺の脚に鋭い衝撃が走り、両足が払われて俺の身体は一瞬宙に浮いた。

 

――なっ、ヴィヴィオの方が本物だと……!?

 

驚愕も束の間。即座にその姿を視界に収めると、足を水平に振り抜いたヴィヴィオに重なるように、もう一人のヴィヴィオの姿が一瞬見えた。

 

――そうか……! 本物の上に敢えて偽物の幻を重ねて……!

 

種が分かればなんて事は無い。

これまでしてこなかった、本物に偽物を被せると言う芸当を初めて見せたと言うだけの話だ。

 

――だが詰めが甘いな! いくら足を払ったって言っても、それだけじゃあ俺は止まらねぇ!

 

のけ反るように崩された体勢をバク宙の容量で更にのけ反らせ、両手を支えに倒立する。

そして、敵が何らかの行動を起こすよりも早く、魔力を乗せた襲撃を見舞った。

 

 

 

……が、

 

――偽物……ッ!? ば、バカな!!?

 

再び俺の攻撃は空を切る。

あり得ない事態に目を凝らせば、俺が蹴った偽物の背後の何もない空間から"ずるり"と本物らしきヴィヴィオの姿が飛び出してきた。

 

――……! さっき重なるように見えた幻もフェイク! 既に本物とズレた位置に偽物のヴィヴィオが生み出された後だったか!!

 

二重、三重の幻によるフェイントは、今までの偽物を操っていた者とは正反対の人物像が見えて来る。

 

――敵を惑わし、手の平で踊らせる事を好む性格……! 新手の敵か!

 

そんな事を考えている間にも、ヴィヴィオはこちらの攻撃後の隙を突かんと迫って来る。

右手に集められた虹色の魔力は眩い輝きを放っており、もろに受ければ流石に大ダメージは免れない。

あらん限りの魔力をつぎ込み障壁を張った直後、その拳が放たれた。

 

 

 


 

 

 

「――紫電一閃!」

「ぐぅ……ッ、ぉおッ!!」

 

拳に込めた私の魔力が炸裂し、逆立ちと言う無理な姿勢で受けたレナードを吹っ飛ばした。

直前に障壁が張られたようだが、この手応えからほぼ間違いなく障壁を貫通出来た筈……今が好機だ!

 

≪エリオ! そっちに行ったよ!≫

≪了解!≫

 

先程()()()()()()()()()()通り、レナードを吹っ飛ばした方向に居るエリオに伝えると、その直後に雷のような音と共にエリオの魔力が放出されたのを感じる。

どうやら上手くパスは出来たらしい。

 

≪よくやりましたわ、ヴィヴィオ。次は――≫

≪――了解、姉さん。≫

 

まさかクアットロ(姉さん)達が来るなんて思わなかったけど、こういう時の彼女は非常に頼もしい。

既にティアナの幻影は極一部を残して解除され、クアットロ姉さんのシルバーカーテンに置き換わっているらしい。

その分負担が軽くなったティアナも、今はこの土煙のドーム内で姉さんの作戦の下で動いているそうだ。

 

そんな事を思い返しながら指定された位置で待機していると、ティアナから念話が届いた。

 

≪行ったわ! ヴィヴィオ!≫

≪うん、わかった!≫

 

程なくして土煙が不自然に揺らめくと、マーカーのような模様とカウントダウンする数字を空中に描いた。

姉さんが幻影を操作し、レナードが飛んでくる位置とタイミングを示してくれているのだ。

 

そしてカウントが0になると同時に土煙を割き、レナードが再び私の眼前に飛び込んできた。

 

「――ぐっ、また嬢ちゃんか……!」

 

そして私が再び攻撃を浴びせようとした瞬間、レナードは空中で姿勢を立て直すと吹っ飛ばされた勢いを利用して蹴りを放ってきた。

思わず身構えるが――

 

≪大丈夫ですから、そのまま引き付けなさい。≫

 

そうクアットロ姉さんから指示が入り、私はそれに従う事にした。

するとレナードの視線は何かを追うように上へと向かい……

 

「させるか!」

 

と、上空へ向けて蹴りを放つ。

込められていた魔力が刃となって、あらぬ方向を切り裂いたのが分かったのだろう。

レナードは焦ったように私の方に顔を向けるが、視線は右へ左へと動き、私を捉える事は無い。

 

そう、既に彼女はもう私達の事を正しく知覚できていないのだ。

見える光景だけでなく、耳にする声も音も……感じる魔力さえ既に幻のソレだ。

こうなってしまった彼女は、クアットロ姉さんに世界の全てを掌握されたのと同じ……もう既に決着は付いていた。

 

――今の彼女に何が見えているのか、私には分からないけれど……きっとそれがクアットロ姉さんの言う"劇場"なのだろう。

 

≪さぁ、とどめを……!≫

 

そしてそんな哀れな姿を彼女も見ているのだろう、何処か興奮した様な声でそう告げる姉さんには、流石に私もちょっと引いた。

 

「……紫電、一閃!」

「なっ……ぐぅっ、あああぁぁっ!!!」

 

……まったく、相変わらずクアットロ姉さんはやる事と趣味がえげつない。

 

 

 


 

 

 

ヴィヴィオの一撃による魔力ダメージでレナードが失神し、土煙のドームが解除された。

中に居たスバル、ティアナ、エリオの三人は周囲を見回し、ヴィヴィオの足元で倒れているレナードを確認すると安堵のため息を吐いた。

 

「何とかなったね、ティア。」

「……えぇ。私達だけで倒せなかったのは、ちょっと残念だけどね。」

 

スバルが真っ先にティアナに駆け寄り声をかけると、ティアナは少し残念そうな表情でそう答えた。

途中からクアットロが来た事や、彼女の作戦に合わせると言う連絡を受けていたスバルはティアナを宥めるように肩を叩く。

 

「あー……まぁ、そこは今後の課題って事にしとこうよ。」

「……うん、そうね。全く……次から次に目標が出来て、キリが無いわ。」

 

そう言って笑顔を浮かべたティアナに、安心した様子のスバル。

エリオとキャロも自然と二人の下に集まり、それぞれの無事を確認し合う事数秒、スバルが思い出したようにレナードの方を振り向く。

 

「そうだ! あの子……レナードって言ったっけ? ちゃんと拘束しないと!」

「あ、それならもう大丈夫そうですよ。さっき赤い髪の女性が、ヴィヴィオのバインドの上から更にワイヤーで縛ってました。」

 

エリオが言ったように、ヴィヴィオとノーヴェが何やら話しているその足元で、レナードは失神しているにもかかわらずストラグルバインドの上から鋼鉄製のワイヤーで更にぐるぐる巻きにされていた。

その近くには、ノーヴェが倒していたのだろう追っ手の4人も同様に縛られて転がされている。

 

「……ホントだ、あんなに縛る必要あるのかな?」

「聖女の能力を警戒してのことですわ。」

 

その扱いに疑問を零すスバルに答えたのは、先程シルバーカーテンでフォワード陣のサポートを行ったクアットロだった。

 

「父様のお考えでは、聖女のユニゾンデバイスとしての能力はリンカーコアの蒐集と制御。……彼女の中に入れられたリンカーコアを通じて、何をしてくるか分かりませんから。」

「そ、それって、自爆みたいな……?」

「そこまでは何とも……ですが、パスが伸びている以上、何も出来ないと言う事は無いかと。ですから――オットー!」

 

そこで言葉を区切ったクアットロが上空に呼びかけると、また一人彼女の仲間と思しき人物が降りたった。

 

「――こうしてそれらに対抗できる可能性を持つ人材を連れてきているのですわ。」

「僕を呼んだって事は、無力化できたんだね。」

「ええ、あちらに。後はお願いね。」

「分かった。」

 

クアットロがレナード達の処理を任せると、オットーはヴィヴィオ達の方へと飛んで行った。

 

「……後はお願いって、何する気?」

「見ていれば分かりますわ。」

 

そう言ってクアットロが向けた視線の先で、レナード達がノーヴェとオットーの手で一所に集められた直後……

 

「結界……!?」

 

彼女達を捉える檻のように、青い結界が何重にも張られた。

 

「あれは『プリズナーボクス』と言って、結界とは少し違いますが……まぁ、似たようなものですわね。物理的にも、魔法的にも完全に隔離するオットーの能力ですわ。」

「……でも、アレだけじゃ聖女の攻撃で壊されちゃうんじゃ……」

「えぇ。ですから、あれはあくまでも彼女達が逃げられないようにする為の物ですわ。リンカーコアの摘出が出来るヴォルケンリッターをここに呼ぶまでの、ね。」

 

そんな会話をしている内に、オットーは『プリズナーボクス』を維持したまま、再び空へと飛翔する。

他の無力化した敵を捕らえに行くつもりなのだろう。

 

「そう言う訳ですから、貴女達には彼女達の監視をお願いしますわ。私達はまた他の敵を無力化しなければいけませんので。」

 

最後にそう言い残してクアットロはノーヴェと共に別の戦場へと向かって行った。

 

「……行っちゃったね。」

「そうね。」

 

去っていく彼女達の頼もしい背中を見て、スバルがティアナに念話で尋ねた。

 

≪……()()クアットロが味方って、なんか違和感凄くなかった?≫

≪違和感しかなかった。≫

 




???「……っくしゅん!」
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