『――クロノ君、背後から狙撃!』
「分かっている。」
≪Stinger Snipe Execution Shift.≫
僕が操作する無数のスティンガーが背後から高速で迫る狙撃砲を迎撃、そのまま着弾点を割り出して真っ直ぐに飛翔する。
あとは標的をスティンガーが自動で補足し、撃ち抜いてくれるだろう。
今の狙撃砲に込められた魔力からして、ブーストされた魔力以外は脅威ではなさそうだったからな。
そう判断し、狙撃手の事を頭の片隅に追いやり、エイミィへ確認を取る。
「エイミィ、スカリエッティ氏が送り込んだと言う部隊の状況を。」
『うん! 今のところ怪しい動きは無いよ。既に交戦状態の所に加勢して、順調に相手の勢力を捕縛して行ってる。』
「そうか……」
あの時の通信でスカリエッティが言っていた内容を信じるのであれば、彼の目的は僕達と同じく滅びの阻止だ。
管理局の中でも極一部にしか知らされていない予言の内容を知っていた事からも、『最高評議会から協力を要請された』と言う彼の言葉の信ぴょう性は高いが……
――まったく、最高評議会の秘密主義っぷりもいい加減にして欲しいな……!
しかも彼の部隊の一部が持っているアームドデバイスには、ロストロギアが組み込まれている事も確認できた。
管理局と協力関係にあるとは言っても、個人でロストロギアの携行及び使用する事は管理局法で十分罪に当たる。
更に言えば、直接話を聞いた訳ではないが、その出所さえとんでもない厄ネタである可能性があるのだ。
――まさかあのロストロギア、管理局の保管していた物が流れた訳じゃないだろうな……くそ、ここ10年近く感じて来なかった胃痛が……!
じくじくと訴える懐かしい痛みに手を添えていると、エイミィから追加の報告が届いた。
『クロノ君、地上でティアナちゃん達の部隊が敵を複数人拘束してるって!』
「分かった。地上に残存した敵の戦力はどうなっている?」
『少なくとも今はアースラのセンサーにも引っかかってないみたい。多分地上は制圧できたんじゃないかな。』
「ふむ、それならば彼女達だけでも継続的な拘束は可能か……了解だ。こちらでも目は光らせておくが、地上に救援に向かうような敵の動きがあれば知らせてくれ。以上だ。」
『了解!』
通信が途切れ、再び眼下の戦場に意識を戻す。
拘束中の敵戦力が生死体の少女であった場合、完全に無力化する為にはヴォルケンリッター達の持つリンカーコアの摘出技能が必要不可欠だ。
前回交戦したはやてからの報告によれば、リンカーコアが生死体に入っている限り、聖女から供給される魔力によって永遠に復活してくると言う話だ。
よって最優先とするべきは交戦中のヴォルケンリッターに加勢し、戦闘を終わらせる事なのだが……
「どうやらその辺りの事情も知っているらしいな……」
スカリエッティの部隊がヴォルケンリッター達の加勢に積極的に動いているのを確認し、ここは彼女達に任せるべきと判断した。
思えば生死体は元々スカリエッティが生み出した物であり、聖女の能力についても知っていた節がある。おまけに転生者である彼であれば、生死体の戦力の無力化に何が必要かを知っているのは当然なのだ。
「だったら僕も、今は一人でも多く敵の捕縛を進める為に動くとしよう。」
≪Stinger Blade Battalion Shift.≫
生成した数百個のスティンガーをその名の通り『
「時空管理局提督、クロノ・ハラオウン、これより加勢する!」
『スカリエッティも動いたか。』
空中に投影された現地の映像でその事を把握し、一先ずは安堵のため息を吐こうとしてそれが出来ていない事に気付く。
いつの間にか、あの少女の身体がある事を当たり前に感じていたようだ。
投影されたもう一つの映像……高町教導官と交戦している『リオン』に目を遣り、考える。
――まさか今更、身体が無い事に違和感を感じるとはな……
以前は想像もつかなかった感覚に少々の戸惑いはあるが、今は自分達が出来る事を優先しようと生体ポッドに備え付けられた専用の端末から信号を飛ばす。
それは自分の身体である『リオン』へと意識を繋げる信号だが、やはり『リオン』の中にある魔力が邪魔でパスが通らない。
まさかこのような弱点があるとは思わなかった……いや、他人のリンカーコアを操り、『リオン』の中に押し込む聖女の能力の方がイレギュラーなのであり、スカリエッティの設計には問題は無かったのだろうが……
――だがこのままでは埒が明かぬ。
何度試してもこちらの信号がリンカーコアを押し退けられる訳ではない……それは分かっているのだが、映像を見る限りこちらの干渉が『リオン』のスペックに何の影響も与えていない事は火を見るよりも明らかだった。
――せめて魔法の阻害でも出来れば、高町教導官の助けにもなるのだが……
そんな事を考えていると、スカリエッティの戦力が戦う映像を見ていたのだろう、副議長がぼそりと呟いた。
『……それにしても、スカリエッティが送り込んだ彼女達だが……持っているデバイスにロストロギアが組み込まれているように見えるのは私だけか?』
――!?
ちょっと待って、それ聞いてないぞ?
確認の為に再び件の映像に目を移すと、そこには副議長の言うように何らかの高エネルギー結晶体を埋め込まれた大剣を振るう大柄の騎士の姿が映っていた。
『た、確かにアレはロストロギアのようだが……連絡は受けているか?』
『いや……そもそも、あのようなロストロギアについての報告も来ていない。つまり……』
『管理局の認可が無いどころか、出所すら知らぬロストロギアではないか……!』
まさか、アレ持って『最高評議会からの要請で来ました』とか言ったのかアイツ等!? 何かあったら管理局側の責任問題になるじゃないか!
えっ、嘘でしょ……? 胃が痛い。無い筈なのに凄く痛い。こんな幻肢痛あるんだ……じゃなくて!
「あぁ、あのロストロギアに関してだったら安全性は保障しますよ。」
『そういう問題ではないだろう! ロストロギアの扱いに関して管理局法では厳しく――』
……待て、思わず答えたが、今の声はまさか……!
『き、貴様、ジェイル・スカリエッティ! どうしてここに、いや今はそれよりも……!』
『あのロストロギアはどう言う事だ!? 使用するのであれば何故、何の報告も上げなかったのだ!?』
声の主へと目を向けると、そこに居たのはやはりジェイル・スカリエッティだった。
ここに来た理由よりも先に評議員が例のロストロギアについて尋ねると、奴は「ああ、そうだったね」等と呟いて理由を説明し始めた。
『――つまり、管理局内に居る聖女のスパイを警戒して報告を上げなかったと?』
「そう言う事だね。セキュリティをすり抜けて、データベースを直接改竄しても良かったのだが……」
『まさか、やっていないだろうな。』
「流石にね。こう見えて私にも良識はあるのだよ。」
――どの口がそう言うのだ……
まぁ、良い。一応こいつの言い分についても理解は出来る。
実際に映像には聖女のスパイだった局員が、聖女側の戦力として交戦している姿が映っている。
スパイの存在が事実であった以上、幾ら追及しても躱されるだけだ。
ならばと、もう一つの疑問を投げかける。
『ここに来た理由は何だ。』
「っと、そうだった。早速本題に入ろう。」
こちらの問いかけに対し、勿体つけた様子で我ら3人の前に歩を進めたジェイル・スカリエッティは、我等の方に顔を向けてこう尋ねた。
「貴方達があの戦場へと再び立つ……その手伝いをしに来たのですよ。」
地味に言動に体の影響が出始めている最高評議会。