転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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未来を巡る戦い⑩

教会跡上空での戦闘が始まってから、既に数十分の時間が経過していた。

 

その間、朱莉は聖女を一人で抑え続け、ザフィーラはリーゼ姉妹の強化術式を解除し、ヴィータはフェイトを狙っていた敵将の注意を引き付け、なのは達は聖女により制御を奪われたリオン達との戦闘に移り、フォワード陣は加勢に駆けつけたクアットロとノーヴェの助けを借りて地上を制圧していた。

 

それぞれがそれぞれの役目を果たすべく奮闘するこの戦場で、『彼等』もまた戦っていた――

 

 

 

「いい加減、墜ちろッ!」

≪Blaze Buster.≫

「ぐぁぁ!!」

 

神尾の放つ砲撃が、拘束の術式に囚われた少女を飲み込む。

訓練の末に習得した炎熱の性質を伴う砲撃は、聖女からのブーストを受けた少女の障壁を打ち砕き、多大な魔力ダメージを負わせる。しかし――

 

「まだ……まだぁ!」

「マジかよ……本当にダメージ入ってんだろうな……!?」

 

砲撃が止んだ後も変わらずに飛翔し、向かって来る少女の姿に少しずつ不安が募っていく。

当然作戦開始前にはやてから生死体の少女と交戦した時の話は既に全員が聞いており、少女達にダメージが入っていないのではなく、たちどころに回復しているのだと頭では理解している。

しかし、それでも実際に目の当たりにすると、その脅威度は話に聞く以上に感じられた。

 

その上、今は前回とは異なり聖女による強化で魔力が向上しているのだ。

敵の魔法一つ一つから感じる魔力のプレッシャーが、神尾の精神をガリガリと削っていた。

そして……その時は訪れる。

 

「貰ったァ!」

「く、拙っ……!」

 

僅かに集中が綻んだ一瞬、神尾が見せた隙を突いて少女は杖を突きつける。

一瞬で先端に魔力が収束し、砲撃の特徴である環状魔法陣が生まれ――

 

「勝っ――」

「IS機動――『ライドインパルス』」

 

直後、光を伴った突風が駆け抜けた。

気付けば神尾の眼前から少女の姿は消えており、代わりに神尾のさらに上空からバラバラと少女の持っていた杖の残骸が目の前を落ちていく。

 

「まさか――!」

 

神尾が残骸の落下元を目で追うと、そこに彼女は居た。

 

「ぁ、ぐぅ……! くそっ、俺の、デバイス……を、よくも……!」

「……こんなものか。まぁ、想定の範囲内だな。」

 

少女の首を掴み吊り上げる、紫色の短髪をなびかせる長身の女性。

後姿ではあるが、両脚部から伸びる彼女の能力を現す特徴的な光のブレードがその正体を雄弁に語っていた。

 

「トーレ……ナンバーズ……!?」

「……ん?」

 

思わず零れたその言葉を聞き取った女性……トーレが、少女を掴んだまま神尾の方を振り向く。

 

「何故私の名を……いや、そうか。()が言っていた『私達の事を知ってる者』と言うのはお前達の事か。」

「え、()……?」

「いまさら何を。『ナンバーズ』の事も知っていたのだ、知らぬはずもあるまい。」

「あ、あぁ、まぁそうだが……」

 

当然神尾もトーレ達ナンバーズの父に当たる人物について心当たりはある。

だが、神尾が気になったのはその()()()の方だった。

 

――確か、ナンバーズってスカリエッティの事は『ドクター』って呼んでたような……

 

そこまで考えて、そう言えばこの世界のスカリエッティは転生者だったなと思いだし、それならば彼女達が自分達の味方であってもおかしくはないかと僅かに抱いていた警戒を解いた。

 

「とりあえず、ありがとう。助かったよ。」

「礼は要らない。私は与えられた役割をこなしているだけだ。お前も自分の任務に戻ると良い。この少女はこちらで捉えておく。」

 

それだけを告げると、トーレはライドインパルスの高速機動で地上へと降りて行った。

その行き先を目で追うと、そこにはいつの間にか直方体の結界に酷似した檻……『プリズナーボクス』が生み出されていた。

 

――アレは、多分オットーの『プリズナーボクス』……って事は、他にもナンバーズが来てるって事か。

 

戦闘に集中して周囲の警戒が疎かになっていた事を反省しつつ周囲を改めて確認すると、作戦開始前には居なかった影が10人程増えていた。

 

「……っと、いけねぇ。俺も早く皆と合流しねぇと!」

 

ミッドチルダの銀盾と言う部隊の活躍は、個人の戦闘能力が高い事以上にその連携の高さによるところが大きい。

今の神尾のように、敵に分断されて1対1の状態に持ち込まれているというのは非常に拙い状況なのだ。

 

「この付近で銀盾が集まってるのは……あそこか!」

 

すぐさま周囲を見回して戦況を把握した神尾は、見慣れた顔ぶれが集中している空域へ翔けだした。

 

 

 


 

 

 

「くそっ、これでも喰らいやがれ!」

≪Diffusion Bullet.≫

 

敵の少女?の一人が、こちらに構えた杖の先からまるでショットガンのように拡散する2色の弾幕を放って来る。

その一発一発から感じる魔力量は、それらが散弾の一つとは思えない程に多く、喰らえばただでは済まない事が一目瞭然だ。

 

だが、俺達は誰一人障壁も張らずに攻撃の術式を組み始めている。

それは自棄になった訳でも、相打ちを覚悟した訳でもない。

 

「神谷、任せた!」

「おう! "障壁結界"!」

 

今の俺達の背後には、神谷が居るからだ。

神谷は特典の関係で障壁や結界の適性が最初から高く、10年前からその系統の術式の訓練をし続けて来た。

今では障壁と結界の術式を組み合わせた独自の防御魔法を完成させ、時空管理局全体で見ても防御系統ではトップクラスの使い手だ。

 

「サンキュー、神谷!」

「良し! こっちの術式はいつでもOKだ!」

「こっちも砲撃行けるぜ!」

「同じくだ!」

 

その神谷が生み出した最高高度の障壁は、幾ら聖女からブーストを受けた少女達だろうと破る事は出来ない。

その間に俺達は十分に時間をかけて術式を組む事も、タイミングを合わせる事も可能だ。

さらに、神谷の隣では既に神場が切り札の魔法を作り始めている。決着は時間の問題だった。

 

「させるかよ!!」

「くたばれ!」

 

当然少女達もそれを黙って見ている訳はない。

2つあるリンカーコアを共鳴させた強力な砲撃を、数人が同時に放って来る。

だが――

 

「ば、バケモンかよ!?」

「今のは俺達の全力だぞ……」

 

神谷の障壁には罅も入らない。

そして、目の前には全力の砲撃を放った反動で動きが鈍った少女が数人。

 

「結界解除!」

「よっしゃぁ!」

「お返しだ!」

「こいつも喰らっとけ!」

 

俺達の連携に合図は要らない。

攻め時と誰かが感じた時の僅かな魔力の動き一つ、それだけで全員が合わせられる。

神谷の結界が解除されるとほぼ同時に放たれた俺と神王の砲撃が少女達を飲み込み、ついでとばかりに神田の放った鎖状のバインドが少女達を拘束する。

このタイミングでバインドを使った理由は一つ……神場の準備が完了する予兆を感じたからだ。

 

「ナイスタイミングだ、神場! 今、出来たぜ!」

≪Isolating Chain.≫

 

術式を完成させた神場が正面に向けた両手の指先全てから魔力の鎖が伸び、少女達の心臓付近……リンカーコアを束縛するように潜り込んだ。

 

「聖女との魔力のパスを遮る絶縁体を埋め込んだ! これでもう奴等は回復できない!」

「流石だぜ、神場ぁ!」

「最高だぜ、神場ぁ!」

「お前絶対ク○ピカ参考にしただろ神場ぁ!!」

 

神場の活躍で自然とこちらの士気が上がり、切り札を封じられた少女達は愕然とした様子で棒立ちになる。

 

「な、なんで……!?」

 

それもその筈、神場の魔法で魔力のパスが断たれた途端、聖女のかけた補助魔法まで解除されたのだ。

 

「なるほどな……あのレベルの補助魔法をどうやって長時間維持してるのか疑問だったが、聖女からの魔力供給が前提の魔法だったか。」

 

考えてみれば当然だ。

強化魔法と言うのは『強化をし続ける魔法』だ。対象の強化をしている間、術式に込めた魔力は消費され続け、それが尽きた時に強化もまた解除される。

効果が高ければ、それだけ維持に必要な魔力もまた多くなると言う理屈なのだ。

 

普通の術式ではないと分かっていたが、パスを通して魔力を供給し続けなければ維持も出来ない……いくら強大な力を手にした聖女でも、その理屈ごとひっくり返す事は出来なかったようだ。

 

「ど、どうする……逃げるか……?」

「逃げられる訳無いだろ! ()()()()()!」

 

もう彼女達に勝ち目はなく、既に戦意も喪失していた。

 

「戦う気が無いなら投降しろ。もう続ける意味も無いだろ。」

「……」

 

こちらの投降を促す呼びかけに俯く少女達。

 

――やれやれ、ようやく終わったか……

 

と、安堵しかけた時だった。

 

「……だ……!」

「ん?」

「……いやだ……!」

 

少女の一人が震える声でそう言った。

 

「はぁ……諦めが悪いな。もうお前達に勝ち目は――」

「いやだ、いやだ! 俺は……俺は()()()()にはなりたくない! ここで投降なんてしたら……きっと俺達も()()()()()!」

「――!!」

「は……? 『変えられる』って、一体何の事……」

 

俺は少女の声が震えていたのはてっきり屈辱や悔しさからだとばかり思っていたが……彼女の言葉を聞いた他の少女が浮かべた表情で、それが違ったのだと理解した。

 

――これは……恐怖か。

 

そう言えば、さっき別の少女が『逃げるか?』と言った時にもこの少女は言っていたな。

 

――『逃げられる訳無いだろ! ()()()()()!』

 

と。

負けが分かっていても逃げる事も降伏する事もできないのは、聖女に対して抱いている何らかの恐怖が原因だったのだ。

 

そうなると、次に少女達がとる行動は決まって来る。

 

「ぅ……うわアアァァァッッ!!」

「アアアアアッ!」

 

破れかぶれの特攻だ。

『最後の最後まで逃げも降伏もしなかった』と言う"事実だけ"を求める特攻。

聖女に対しての言い訳を作る為に、彼女達は戦い続けるしかないのだ。

 




聖女って何なんやろな……(今更)
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