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「……確かに私の防御力は、一般的な魔導士達のそれに比べれば遥かに脆い。それは認めざるを得ない。」
クリームとの念話で今後の方針を決めた直後。
時間にして数秒程度ではあったが、恐らくはこちらの念話が終わるのを待っていたのだろう、奴は徐に口を開き……弱点が露見した時とは打って変わり、余裕さえ見せた様子でそう告げた。そして――
「だが、それが分かったところでお前達に何が出来る? 攻撃を当てる事も出来ないお前達に……!」
そして、そう言い切った瞬間、奴の眼がそれまで以上に眩く光を放ち始めた。
自身を強化している電気の魔法の出力を限界以上にまで引き上げたのだろう、その機動力と反射速度がより強化されたのだと言う事が肌で感じられた。
「なっ……! まさか、まだ速くなるのか!?」
その様子を見て、最も奴に近い位置に居た神崎が緊張した様子で杖を構え直し、その隣ではクリームの内の一人が怒りとも焦りとも取れる表情で呟いた。
「くそ……奴め、あの身体を壊すつもりか……!? アレは私の身体だと言うのに……!」
その言葉を聞いた俺が、クリームの方へ僅かに視線を向けた時……クリームの直ぐ脇を閃光が奔り、既に神崎の腹部には奴の拳がめり込んでいた。
「ぐぇッ!?」
「まだだっ!」
衝撃から数拍遅れ、漸くダメージを受けた事を認識した神崎が呻く。
そしてそのまま感電し、まともに障壁さえ張れない状態の神崎へと奴はラッシュをかけ始めた。
「――くそっ!!」
先程まで神崎の隣に居たクリームが奴の猛攻を止める為、拳に魔力を纏わせて背後から攻撃を仕掛けるが……それを察知した敵の少女は、未だに感電している神崎に対して簡易的なバインドをかけると同時に振り返り、クリームに向けて鋭い回し蹴りを放った。
「ハァッ!」
「っ!」
「拙い……ッ!」
例え本来の実力が奴と同等かそれ以上だったとしても、今のクリームは身体が違う為その力を十全に扱えない。
攻撃のパターンを見抜けていたとしても、恐らく一撃耐えられるかどうかが精々だろう。速度に開きがあると言うのは、そう言う事なのだ。
だが次の瞬間、俺は信じられない光景を見た。
「何……?」
「くっ……ぉおおッ!!」
クリームが、あの敵の連撃を捌いたのだ。
放たれた回し蹴りは、クリームが予め起動させていたシールド型の障壁に対して吸い込まれるように向かって行き、触れた……と、同時にクリームがまるでその脚を滑るように移動し、一瞬で双方の距離をゼロにする。
「――ッ!!?」
「……ラァッ!!」
そして、若干少女らしくない掛け声と共に放たれた正拳突きを、敵の少女は瞬時に大きく距離を取る事で回避した。その顔には隠し切れない動揺が滲んでいる。
「何を――」
「今だァーーーッ!!」
クリームが何をしたのか考えるのは後だ。
敵が想定外の反撃を受け、その集中を乱したこの好機を逃す手はない。
念話を使う事も忘れ、大声で叫ぶ。
その相手は、このチャンスに逸早く気付き、既に動いていた。
「言われずとも、だ! 『二重詠唱』、『共鳴魔法』!」
≪Struggle Bind.≫
「ッ!」
素早く背後に回り込んでいた神無月が自身の
『二重詠唱』により2つ同時に発動した全く同じ魔力量の同じ魔法は、『共鳴魔法』の条件を満たしその効力を倍増させていく。
一瞬にして数十本もの縄状の魔法に取り囲まれては流石の少女も躱しきれず、その縄の一本が逃れようと飛翔する少女の脚に巻き付いた。
「くっ……! このッ!!」
少女も直ぐに魔力を込めた手刀で以てその縄を断ち切り、身動きを封じられる事だけは回避したが、既に異変は彼女の身に現れていた。
「これは……私の魔法が……!」
ストラグルバインドは、元々拘束力はそこまで高くない魔法だ。
魔法生物や魔力で身体を構成したモノに対しては効果が高いが、それはストラグルバインドの本来の性質に起因するところが大きい。
その性質は、
少女の眼は先程までの輝きを失い、その速度もまた著しく落ちていた。
「ッ……だが、こんな物もう一度……!」
「させねぇよ!」
≪Short acceleration.≫
「チィッ……!」
これこそまさに千載一遇の好機だ。
俺は再び強化魔法を発動させようとしている少女に超加速した一瞬で接近し、両手に備えた氷結の魔法剣で攻撃する。
それをギリギリ回避した少女は俺から距離を取るでもなく、即座に電気の砲撃によるカウンターを放って来た。
「ぅおっ!!」
至近距離、それも攻撃の直後と言う事もあって回避は出来ない。
仕方なく両手の魔法剣で切り払うと、既に少女は俺から距離を取っていたが、強化魔法の使用はまだ出来ていないようだった。と言うのも、既に周囲の銀盾達の放った多量の誘導弾が少女を取り囲んでおり、それを捌くのに手一杯だったからだ。
「――鬱陶しいッ!」
僅かな間隙をついて、少女がその全身から放電するように魔力を放つ。
周囲の誘導弾が一瞬で破壊され、確保した時間を使って少女はその身に再び強化魔法を身に纏い――
≪Isolating Chain.≫
「なっ……!?」
その隙を神場に突かれた。
それもその身に受けたのは、少女にとってストラグルバインドよりも凶悪な魔法……聖女との
身に纏った自身の強化魔法の力を感じる反面、聖女との繋がりと聖女の強化魔法の力を感じられなくなった少女は狼狽えつつ、それでも戦意が衰える兆しはないようだった。
「ま、まだだ……! お前達を倒して、もう一度聖女様に繋ぎ直してもらえば……!」
そう、例え聖女とのパスが途切れ、魔力の供給と聖女の強化魔法が無くなったとはいえ、彼女にはクリームの特異体質と特有の強化魔法がある。
まだ戦う力は十二分に持っている。だが――
「いや、もう終わりや。」
≪Diabolic Emission.≫
≪Diabolic Emission.≫
≪Diabolic Emission.≫
≪Diabolic Emission.≫
≪Diabolic Emission.≫
≪Diabolic Emission.≫
「…………は?」
少女が再び唖然とした表情で固まった。
彼女を中心とした前後上下左右数m先の6か所同時に、はやての魔力がデアボリックエミッションの前兆である黒点を生む。
それでも聖女とクリーム両方の補助魔法があれば、きっと彼女は効果範囲から余裕をもって逃れられただろう。しかし、今の彼女には聖女の助けは無い。
「くっ……!」
彼女が動いたのと、デアボリックエミッションの空間攻撃が開始されたのはほぼ同時だった。
そして、効果範囲から逃れようとする少女に向かって急接近する影が複数。
「そこを退けェッ!!」
少女は自らの逃走ルートに立ち塞がった影達に向けて、そう叫びながら拳を振りかぶる。
だが影……クリーム達は、一様に構えを取ると同時に淡々と告げた。
「ふん、断る。」
「貴様ァァッ!!」
急激に広がるデアボリックエミッションの空間攻撃の範囲から逃れる為には、クリーム達の相手をしている暇はない。
だが、クリーム達は少女の動きを完全に読んでおり、逃走を許さない。
直ぐに包囲された少女の破れかぶれの一撃がクリームに虚しく弾かれた直後、少女とクリーム達はデアボリックエミッションの空間攻撃に飲み込まれた。
「――いや、えっぐぅ……」
「Sランクの広域攻撃6発同時って……」
予めはやてから念話で退避するように促された俺達は、そんな光景を安全圏から眺めていたのだが……
≪何をまじまじと眺めとるんや! 早よクリームちゃんの身体回収せえ!≫
≪わ、悪い! つい……!≫
突然繋げられた念話に思わずはやての方を見れば、そこには疲労困憊と言った様子のはやてが居た。
流石にあのレベルの魔法を一度に6発も使えば、一時的な魔力切れに近い状態になってしまうようだ。
一対一の時に使わなかったのも、万全の状態の敵に躱されたら終わりだからだろうな……
そんな事を考えながらも俺達ははやての言った通り、デアボリックエミッションの攻撃が終わるタイミングを見計らって、クリームの身体を回収する為に翔けだした。
「――っと、これで全部だよな?」
「ああ。クリームの本来の身体と、さっきまで使ってた生死体の身体が10体……これで全部の筈だ。」
攻撃が終わった後、効果範囲内に居たクリーム達は全員意識を失った状態で確保された。
敵の少女はリンカーコアが受けた魔力ダメージによって、生死体達は……どうやら胸元についている機械がショートした事で動けなくなったようだな。恐らく、クリームはこの機械を通してこの身体を動かしていたんだろうな。
「おー、お疲れさんや。ありがとな、皆。まさか、全員回収してくれるとは思っとらんかったわ。」
「はやて? もう調子は良いのか?」
「うん、魔力切れ言うても一時的なもんやからな。少しすれば治る程度のもんや。それより、さっさとクリームちゃんの身体から
そう言ったはやてが俺の背負っているクリームの身体に向けて手を翳すと、意識を失ったクリームの身体からリンカーコアが摘出された。
「……はやても出来るんだな、それ。」
「リインとユニゾンしとるからな。まぁ、やり方教われば私だけでも出来そうやけど、あまり使う機会も無さそうやしなぁ……っと、これで良し。後は連絡を……」
と、はやてがデバイスの通信機能を使用しようとした時、背負っているクリームの身体が
「いや、良い……既にこの身体に戻っておるわ。」
「っと、そうでしたか……お身体の方に、後遺症等はございませんか?」
「……うむ、疑似リンカーコアにも大きな問題は無いようだ。これなら少し休めば戦えるだろうが……」
そこまで言って、はやての方に目を向けたクリームは自嘲するようにフッと笑う。
「どうやら、我等がこれ以上出張っても足手纏いになりかねんようだ。精々あの聖女に再び身体を盗られぬよう、身を隠しておくとしよう。」
「すみません。今回の事は、私達の想定できる事態だったにもかかわらず……」
「……貴様はどうにも責任感が強すぎるな。奴に油断したのも含め、今回の件は我等の失態だ。……っと、おい貴様、もう背負っていなくても良いぞ。」
言葉の途中でパンパンと肩を叩かれ、背負っていた手を離すと、クリームはやや覚束ないながらも飛翔して見せた。
「……まぁ、そう言う訳だ。貴様等は疾く、高町教導官の元へ行ってやれ。バルトの方は、もう解決したようだからな。」
そう言ってクリームが視線を送った先でも既に戦闘は終わっており、フェイトがなのはの元へ翔けだすのが見えた。
ちょっとプロットよりも決着を早めたので、あっさりした感じになりました。
あと今回フェイトの方も戦闘が終わっていますが、あくまで時系列的にほぼ同時と言うだけで次回フェイトの戦闘も描写する予定です。