「おのれ……! 虚仮にしおって……!」
憎々し気にそう言った敵の少女が、再び大量の誘導弾を放出する。
使う魔法は先程と同じで、障壁で身を守りながら氷結の誘導弾の物量で圧し潰すと言うのが彼女の基本戦法の様だ。
コレについてバルトに念話で尋ねた時、彼女は言っていた。
≪元々私は後方から二人の支援をするポジションだったのだ。身を守りながら援護射撃に徹する私と、前衛で戦うクリーム。そして遠距離の敵を殲滅するリオン……と言った具合にな。≫
――つまり、彼女は本来この距離での戦闘を熟すタイプではなかった。
もしも敵がそれを知っていれば、何が何でも3vs3の形に持って行こうとしたはずだ。そうしなかったと言う事は、敵はバルトの記憶を持っている訳ではない。
あくまでもバルトが使う魔法の使い方を知っていると言うだけなのだ。
<バルトと神宮寺なら、絶対に道を拓いてくれる……最後は私とフェイトにかかってるんだね。>
<そうだね、一番重要な役割……だけど、私達なら大丈夫だよ。絶対。>
<――うん!>
9人のバルトが放つ誘導弾と、神宮寺が王の財宝から放つ大量の直射弾が敵の差し向ける弾幕の大半を削る。
それでも敵の思考で起動を変える誘導弾は不規則な軌道を描きながら、その内の幾つかが私達の所にまで届く。
当然ながら私も黙っている訳には行かない。射撃魔法やバルディッシュの斬撃で迎撃しつつ、移動を強制され続ける。
私が動けば、当然敵との相対座標が変わる。
この後使用する魔法は、予めその弾道を作る軌道計算が不可欠だ。相対座標を変えると言う事は、今も演算を続けている姉さんに負担を強いる事になるのだ。
<姉さん、ゴメン。やっぱり動かない訳には……>
<私なら大丈夫。フェイトの思うように戦ってよ! 最後に私がちょっと修正すれば良いだけなんだから!>
<……ありがとう、姉さん。>
姉さんはそう言ってくれているけれど、やはりあまり動かない方が修正もしやすいはずだ。
可能な限り、敵との相対座標を変化させない事を意識して戦おう。
そんな意識を読まれたのだろうか、それともただ焦れただけなのか……敵の誘導弾の傾向が変化した。
それまでは周辺空域中の弾幕の濃度を維持しつつ、絶え間なく攻め続ける動きだったのが、弾幕の追加が間に合わなくなっても構わないと言わんばかりの総攻撃へと。
「ぐ……ッ! これは、流石に今の身体では厳しいぞ……!」
9人のバルトの表情が強張る。
「拙いな……手遅れにならない内に、切り札を切るべきか……?」
神宮寺の王の財宝でも迎撃が間に合わなくなる。
短期決戦を選んだ敵の判断は、悔しい事にこちらの計画を打ち崩しつつあった。
<うぅ、あと少し……! あと少しなのに!>
姉さんの軌道計算が終了するには、まだ少しの時間が要る。あまり訓練で補える部分でもない、恐らくこのままでは間に合わない……!
――神宮寺に切り札を切って貰う……? でもそれは本来、対聖女に使用する筈の切り札だ。今の彼女に通用するかは分からなくても、手札は一枚でも多く保持しておきたい……!
一度演算を取りやめて、もう一度私と姉さんの砲撃で誘導弾を破壊するべきだろうか。
敵のこの総攻撃は、防ぎきってしまえば先程までの弾幕濃度に戻すのに時間がかかるだろう。そうなってしまえば、違う攻め方も見えて来る……
……いくつか思いつく中では、コレが最善に思える。
しかしこれは、私達がこの総攻撃を防ぎきれる事が前提の策だ。
そして私が方針を切り替えたとしても、結局神宮寺が切り札を切る事になるかもしれないし、私が砲撃を撃った途端に敵も先程の戦い方に切り替えるかもしれない。
そのどちらだったとしても、私達は無駄に魔力を消費させられる。……敵の作戦勝ちなのだ。
これは敵がそう言う"罠"を張っていない事に賭ける事にもなる。
――どうする……! これは誘いなのか、それとも……!
私が判断を渋ったのはたったの数秒に過ぎない。しかし、その数秒で神宮寺は限界を悟ってしまったらしい。
「くっ……仕方ねぇか……! 出来れば取っておきたかったが……」
眼前を覆い尽くす幾千の光弾に向けて手を翳す神宮寺の正面に、直径5m程の揺らぎが生まれたその瞬間――
「――『fire』!」
聞き馴染みのある一声を合図に、数えるのも億劫になる程の光の束が敵の弾幕を貫き、破壊した。
「なっ……!」
「今のは、一体……?」
それに驚き、切り札らしき王の財宝の揺らぎを閉じる神宮寺と、乱入者の正体を見極めるべく視線を向けるバルト。
だけど私は……私達は、今の一瞬でその正体が分かった。
先程の魔法は規模こそ極端に大きいけど、私も使えるフォトンランサー・ファランクスシフトだ。
そして先程感じた魔力波動の持ち主は……!
「――リニス!」
「遅れてすみません、フェイト。対処していた敵が、想定以上に強く……」
<全然! ナイスタイミングだったよ! ね、フェイト!>
<うん!>
「来てくれてありがとう、助かったよリニス!」
「お礼であれば、後で私をここに転送してくれたプレシアにもしてあげてください。」
言われて気付いた。リニスがここに来ているにもかかわらず、一緒に行動していた母さんがこの場に居ない事に。
「そう言えば、母さんは……? 確かリニスと一緒に行動してたよね?」
「プレシアはまだ戦闘中ですが、恐らく向こうももう
そう言ってリニスが視線を向けたのは、かつて教会があったところに開いた大穴。
釣られて視線を送れば、まるで私の問いに対する答えであるかのように大穴の底から夥しい程の雷が天に昇る。
「……私をこうして
母さんがそこまで本気を出さなければいけない相手……それ程の使い手がいたなんて……
「プレシアならば大丈夫です、フェイト。今は目の前の敵に集中しましょう。……まだ、終わってはいませんから。」
「! うん、そうだね……力を貸して、リニス!」
「お任せを。」
……とんだ不幸もあったものね。まさか、よりにもよってこんな使い手に見つかっちゃうなんて。
今回の戦い……正直私は最初から乗り気ではなかった。
だってそうでしょう? 元々私は終わらない戦いに疲れて、軍から逃げたのだから。
あの騎士が巨大な炎の渦を使い戦力が散り散りになって、チャンスだと思った。
近くに居た他の将の内、あの子に忠誠を誓っている2人は早々に飛び出して行って、渋々従っていた1人もこの周辺を守ると言う役割の為に出て行った。
残された将は私だけ。咎める者は誰も居ない。あの子が何か言って来たとしても、ここに居れば良い訳も立つ。
面倒な戦闘にはなるべく関わらず、後は時間が経つのを待っていようと思っていたのに――
「……時空管理局ってのは、本当に優秀なのね。こんなやる気の無い女一人、見逃さないなんて。」
「貴女の潜在魔力は、この周辺では聖女の次に多い……隠れる事も、見逃す事も不可能です。」
「私は本当に貴女達と戦うつもりはないのよ。ただ時間が経つのを待っているだけなの。」
「あら、だったらそのまま大人しくリンカーコアを摘出されてくれないかしら?」
「それは嫌よ。折角あの子ともう一度話せるようになったんだもの。」
「……ならば、仕方ありませんね。」
そんな会話を最後に始まった、久しぶりの戦闘。
高密度の魔力結晶を支配し、その魔力で戦う黒衣の魔導士と、もう一人は帽子で耳を隠しているのだろう、恐らくは守護騎士の女性の二人組。
その二人共が相当の実力者だったが、特に黒衣の魔導士の方は手の内の底が見えない。次元魔法を使った魔法のコンビネーションは、私やあの子でなければ対処は出来なかっただろう。
私が"極光"と"深淵"の性質変換を使った時は二人共驚いていたが、直ぐに戦い方を切り替えて順応してきた。
当たれば一撃で決着がつけられる私の魔法は中々二人には当たらず、しかし二人もまた私の極光のカーテンを破れない。
状況は千日手。私としてはそれでもかまわなかった。
だけど状況は変わった。
突然黒衣の魔導士が、次元魔法で相棒である金髪の守護騎士を転送したのだ。
「……どうしたの? 折角の二対一の優位性を自分から崩すなんて。」
「私の娘が少し危なそうだったから、そっちを助けに行かせたわ。それに……あの子がいたら、私は本気を出せないもの。」
その言葉と同時に私は言いようのない危機感を抱き、その場を飛び退る。
すると先程まで立っていた地面から、悍ましさすら感じる程濃密な魔力が無数の紫電となって天へと昇って行った。
――今の魔力量……カーテンで受けきれるキャパシティを超えている……!
「あら、貴女も私と同じ研究者気質だと思ったのだけど……結構、勘が良いのね?」
「……こう見えて、昔は軍の長をしていましたからね。」
「フェイトが居た地球で言う、昔取った杵柄……って奴かしら。」
「言葉の意味は知りませんが、きっとそうでしょう。」
本当に、とんだ不幸もあったものだ。
軍を抜けた時、漸く解放されたと思ったのに……もう、本気で戦わなくても良いと思えたのに。
「……改めて、時空管理局本局、機動六課……"大魔導士"、プレシア・テスタロッサよ。」
「……元・戦略魔導軍将……"大魔導士"、ベルタ・マギ・ミュレーよ。」
こんな名前も、もう名乗る事は無いと思っていたのに。
裏でプレシアvsベルタの大魔導士対決が始まってますが、次回は普通にフェイトさんの戦闘に戻ります。
よってわざわざドイツの人名を検索したりして名前を付けたベルタさんですが、以降の戦闘はカットとなります。