転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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最後の方ちょい難産です


フェイトとバルトの戦い③

 

「『Photon Lancer multi shot』――『fire』!」

 

リニスの放つ大量のフォトンランサーが、敵の弾幕を次々に破壊していく。

以前彼女から聞いた事があったが、今のリニスの魔力は下手をすればはやてにも匹敵し得る程であるらしく、リミッターを外した今の状態ならばこれほどの魔力を一気に放出してもさほど問題無いのだとか。

 

「リニスが戦ってる姿を見るのは10年前の時の庭園以来だが、相変わらず頼もしいな……!」

「ほう、彼女は当時から今のような実力を備えていたのかね? 確か彼女は本来『教育隊』の所属と聞いていたが……惜しいな。彼女が執務官の地位に就けば、より活躍の機会も増えるだろうに。」

「あー……その辺りは本人の意思を尊重してやってくれ。リニス自身が望んで教育隊にいるんだ。」

「ふむ……仕方ないか。ならば彼女が育てる、未来の人材に期待するとしよう。」

「おう、それなら期待して良いぞ。何せフェイトもリニスの教え子だ!」

「ははっ、そうか! それは素晴らしい実績だ!」

 

神宮寺とバルトもそんな会話を交わしながら、向って来る誘導弾を的確に捌いている。

リニスが合流した事で二人の負担が減り、余裕が戻って来たのだ。

 

いや、理由はそればかりではない。

良く観察してみれば、敵のバルトが操作する誘導弾の動きが微妙に変化してきている。先程のような一斉攻撃ではなく、空域中の誘導弾の数を増やすように……皆は気付いているのだろうか。

 

≪皆、弾幕の動きが少し変わって行ってるみたい。何かあるかも知れないから、気を付けて。≫

≪了解。伝えてくれて助かった、フェイト!≫

≪確かに少しずつですが、こちらに向かう誘導弾が減っている気がしますね。警戒しましょう。≫

≪いや、待て……私には奴の狙いが分かる。次に来るのは()()()()()()()()()()()()()だ。そして、狙いは恐らくフェイトだろう。≫

≪! 私……≫

 

いや、考えるまでもない事だ。

バルト達と神宮寺、そして新しく合流したリニスも私を守る立ち回りを今まで続けていた。私が作戦の要となっているのは向こうからも筒抜けだろう。

 

≪奴はとにかくお前の策を潰したいのだ。或いは、そうする事で私達の誰かにお前を庇わせる策……≫

≪奴の狙いはわかった! 俺達はどうすれば良い?≫

≪リニスと神宮寺は今は何もするな。フェイトとアリシアも、そのまま動かず計算を続けてくれ。私が対処しよう。≫

≪対処って、どうやって――≫

≪来るぞ! 私に任せておけ!≫

 

神宮寺がバルトの言う『対処』について尋ねようとした、まさにその時。

敵のバルトが纏っている氷の障壁が一際眩く輝いたかと思うと、青い砲撃が霜を纏いながら放たれた。

最初は1m程だったその直径は、途中で敵のバルトが出していた誘導弾を取り込み続け、その度により大きく、より速くなっていく。

そして、最終的にその直径は5mにまで膨れ上がっていた。

 

――思ったより、ずっと大きい……!

 

バルトは私に動くなと言った。

だけど、この大きさ……そして魔力。もしも彼女が対処をしくじるような事があれば……!

 

私の全速であれば十分回避は可能……でも、姉さんの計算ももうすぐ終わる。ここで大きく動けば、また姉さんに負担が……! だけど……!

 

「言ったはずだ、私に任せておけとな。」

「バルト……!」

 

私が躊躇したのは一秒にも満たない間だっただろう。でも、彼女達はその短い時間で私の前に集まった。……私の盾になる為に。

 

そして、集まった9人のバルト達はその身を以て砲撃を受けとめ……

 

≪神宮寺、今だ。私ではない。敵を視ろ。今なら――≫

 

氷に包まれながらも最後にそう伝え、沈黙した。

 

「――っ! 『王の財宝』!」

 

神宮寺の周囲に無数の揺らぎが発生し、そこから同数以上の光り輝く剣が射出される。

いや、よく見ればあれは剣ではない。皇のレアスキルによって生成された『魔法剣』だ。

 

何の魔法が剣になっているのか私には判別できないが、その無数の剣は砲撃に取り込まれた事でぽっかりとトンネルのように空いた弾幕の隙間を一直線に突き進む。そしてその先には……

 

――穴……? 氷結の障壁に何で……まさか!

 

さっきの砲撃は誘導弾を取り込む事で巨大化していた。もしもアレが取り込む対象に、障壁自身も含まれていたとしたら……!

 

――バルトは知っていたんだ。自分の魔法だから、その弱点まで……!

 

障壁の穴は自動再生により塞がりつつある。バルトが教えてくれなければ見逃していただろう一時的かつ致命的な隙。

敵のバルトは『しまった』と声が聞こえそうな表情で障壁の穴から神宮寺を見る。彼が放った無数の剣を見る。

 

幾つかの剣は誘導弾により相殺されるが、それでもあの数と速度だ。がら空きとなった道を、一直線に飛来するその全てを撃ち落とすには到底足りない。

 

「――ッ!」

 

やがてその一つが着弾すると同時に剣は弾け、そこから生じた()()()()が彼女の身体を拘束したのが見えた。

 

――電気属性のバインド……そうか、魔法剣なら!

 

神宮寺の王の財宝に込められる魔法は、『種類』と言う区分けでは実はそれほど多くない。

誘導弾や直射弾と言った射撃魔法や砲撃のように、真っ直ぐ進んで敵に当てるシンプルな術式は込められるが、強化魔法や障壁のように動かない魔法や継続的な効果を及ぼす魔法は込められない。そして、拘束魔法……バインドもその『込められない魔法』の一つだった。

 

しかし、それも皇のレアスキルで魔法剣の形になれば射出出来るようになるのだ。10年前に虚数空間に落ちそうだった母さんを、神場が作った謎の球で押し留めた時のように……!

 

 

 


 

 

 

明確な手応え。

魔法剣が奴に突き刺さり、拘束した光景に俺は一種の期待を抱く。

 

「良し、当たった! もしかしたらこれで障壁の再生も……!」

 

皇に貰った魔法剣にはいくつかの種類がある。

種類と言っても単純に属性変換の種類の話だが、その中には当然術式の阻害も出来る『電気』のバインドもあるのだ。

そして射出したのは全てが電気属性のバインドだ、障壁の回復にも影響すればこの時点で……!

 

しかし、俺の期待と裏腹に障壁の自動修復は止まらず、折角空いた穴は完全に塞がってしまった。

中にいる敵のバルトの身体は今だ拘束されており、動きは封じられているが、それも長くは持たないだろう。

やはりあの障壁は自動再生……感電しようと関係無かったのだ。

 

「く……駄目か……!」

 

期待が外れた事で、思わず声が漏れる。

 

「――駄目じゃないよ。」

「! フェイト……いや――」

 

誰にともなく漏れた呟きだったが、それに答える声が耳に届いた。

 

「ありがとう、神宮寺……コレで、確実に当てられる。」

「アリシア!」

 

声に振り向くと、丁度バルディッシュがカートリッジの薬莢を2発分排出したところだった。

そしてフェイト……いや、アリシアが敵へ向けた右手の先には、荒れ狂う雷を閉じ込めた青い水晶を思わせる魔力球があった。

 

「フェイト、バルディッシュ! 行くよ!」

≪Yes,sir.≫

 

アリシアがそう言うと、彼女の魔力が急激に高まるのを感じた。

そしてアリシアの右手の魔力球に、二つの環状魔法陣が発生すると発動ワードが唱えられた。

 

「『トライデントスマッシャー』!」

≪Trident Smasher.≫

 

「ぅお……ッ!?」

 

その砲撃を俺が見る事が出来たのは一瞬だった。

気が付けばその砲撃は敵に直撃しており、至近距離で雷が落ちたかのような轟音を響かせる。

一瞬で網膜に焼き付いた三叉槍(トライデント)を思わせる雷の残光だけが、彼女が放った砲撃の姿を示していた。

 

「トライデントスマッシャーか……雷の速度で進む砲撃なんて、どう躱せって言うんだか……」

 

断言できる。あの砲撃は躱せない。

例え転送の術式を使おうにも、術式の構築が終わるより早く着弾するからだ。

……まぁ、なのは辺りは規格外の障壁で防いでしまいそうだが、敵の障壁はそこまで常識から逸脱していない。今の一撃で決着は――

 

「まだ……! ――うん、止めは任せて!」

 

次の瞬間、アリシアからフェイトに切り替わった事で彼女の身体が電気を纏った。

着弾地点は未だに煙に覆われていて確認出来ないが、実際に砲撃を放った二人には手応えで分かったのだろう。どうやら敵は今の一撃で終わらなかったらしい。

 

しかし、もう数秒と経たずに完全な決着はつくだろう。

雷に続いて、フェイトは次元魔法によるヴェールを纏った。あれは彼女が音速を超える時に使用する防護膜だ。

 

「油断するなよ……って、もういないか。いや、()()()()()のか。」

 

せめてもの忠告をと思ったが、声が届くより早くフェイトは敵の位置に移動していた。

 

 

 


 

 

 

トライデントスマッシャーの着弾地点に近付いた時、煙を突き破って地上へと真っ逆さまに落ちていく影が見えた。

その眼は閉じられており、意識を失っているように見える。だが――

 

「気絶したフリで逃げようったって、そうは行かない!」

「チッ……! ここまでか……」

 

気絶したフリを続け、地上を覆う土煙の中に逃げるつもりだったのだろう。

私がザンバーフォームのバルディッシュを振りかぶると、観念したように目を開き……まるで散弾銃のように氷結属性の直射弾を放ってきた。

 

「くく……まぁ、当たらんだろうな――ぐぅ……ッ!」

「……これで、今度こそ決着。だね、姉さん。」

<うん! お疲れ、フェイト!>

「ふふ、姉さんこそお疲れ様。バルディッシュもね。」

≪Thanks.≫

 

散弾の隙間を縫い、すれ違いざまに一閃。

今度こそ完全に意識を断ち、そのまま力の抜けた身体を抱きかかえた。後はこの身体にバルトが戻れば、ここは一件落着なんだけど……

 

「……確か、聖女に入れられたリンカーコアを取り出さないといけないんだよね?」

<うん。だからヴォルケンリッターの誰かに引き渡すのが一番なんだけど……>

 

周囲にはヴォルケンリッターの姿はない。

早くなのはやはやてを助けに行かないといけないし、一旦神宮寺に預けようかと考えていると、突然目の前の空間が揺らいだ。

 

「――それだったら、私に任せてちょうだい。」

「母さん!」

 

揺らぎの中から現れたのは、次元魔法の転移で駆けつけてくれた母さんだった。

その隣には、意識を失った状態で拘束されている生死体の少女も確認できる。先程チラッと見た戦闘は、無事母さんの勝利で終わったようだ。

 

「母さんもリンカーコアの摘出が出来るの?」

「ええ、途中でヴォルケンリッターがリンカーコアを摘出するのを見たからね。もう覚えたわ。」

<えぇ……>

 

アレって夜天の魔導書の機能とかなんじゃ……? いや、確かに機能として実装出来たって事は、魔法でも可能なんだろうけど……

 

「……ホラね?」

 

姉さん共々、内心で動揺している間に、母さんは有言実行とばかりにささっとリンカーコアを摘出して見せた。

するとそれから間もなく、抱えていたバルトの身体が身動ぎをする。リンカーコアの摘出を確認出来たバルトが、この身体に帰還したのだろう。

 

「――ん、如何やら無事に戻って来れたようだな。」

「はい。……えっと、おかえりなさい?」

「む? ああ、ただい……」

「バルトさん?」

「――ッ!!? ……な、なんだプレシア女史か。何故殺気を……」

 

どう声をかけるのか考え、私がかけた無難な挨拶に答えようとしたバルトが一瞬震え、母さんの方を見る。

 

<なんか……今の母さんの声凄く冷たかったね。>

<いやぁ、今のはフェイトが原因な気がするなぁ……>

<私? 何で……?>

 

姉さんの言葉に釈然としない物を残しつつも、取りあえずバルトに確認して抱えていた手を放す。

バルトは多少ふらついている様子だったが、自分の魔法でしっかりと浮遊した。

戦闘が出来るかは分からないけど、少なくとも安全な場所まで向かう事は出来そうだ。

と、言ったところでバルトが母さんの隣に浮いている少女に目を向け、咎めるような口調で母さんに問いかけた。

 

「……ところでプレシア女史。貴様が抱えているその少女、()()()()()()()()()()()()()()ようだがどういうつもりだ?」

 

その言葉で私もその少女へ、そして母さんへ視線を向ける。

確かに少女はぐったりしている物の、その体内からは生死体の疑似リンカーコアとは異なる魔力の波動を感じる。

母さんが自力でリンカーコアの摘出が出来るのは、今見た通りだ。では何故彼女のリンカーコアはそのままなのだろうか。

問いかけの返答を待っていると、母さんは「ああ、その事ね」と何でもないように答えた。

 

「そうね……この子のリンカーコアを今摘出するのは、なんとなくだけど却って拙い気がしたの。先にスカリエッティの勢力と合流して、そこで安全に取り出すつもりだったのよ。」

「……分かった。貴様がそう感じたのならば、折角だから同行しよう。私もこの身体に戻れたはいいが、直ぐに戦うのは厳しそうだからな。」

 

母さんがどうしてそういう判断をしたのかは分からない。多分、母さんも何かしらの直感でそうしただけで、明確な理由を説明できるわけではないのだろう。

バルトも母さんの返答に納得してくれたと言うより、何かしないか監視の意味で付いて行くと言った雰囲気だ。

 

そんなこんなしている間に神宮寺とリニスも合流し、母さんは最後に私を見て言った。

 

「――そう言う事だからフェイト、貴女は先にあの子……なのはちゃんを助けてあげなさい。」

「うん。……神宮寺とリニスはどうする?」

「そうだな……あの戦闘に介入するには、在庫が心許ない。切り札を温存する意味でも、様子見に留めておく。」

 

そう言ってなのは達の方を見る神宮寺。その視線の先では絶えず破壊と熱波を生む巨大な炎の玉が生まれては、莫大な魔力が籠もった砲撃に撃ち抜かれて爆発する光景が続いている。

 

「いざという時は駆けつける……って言いたいが、アレに飛び込むのは自殺行為だな。……フェイトもキツイと思ったら、直ぐに戦闘空域から離れろよ。」

「うん、わかってる。リニスも同じ?」

「はい。……本当に行くのですか、フェイト? あそこは見ての通り死地ですよ?」

 

勿論、簡単ではない事は分かっている。

全距離に対応できるとは言っても基本的に近接型の私に、果たして何処まで力になれるかも分からない。だけど――

 

「あら、リニス。私は今のフェイトなら戦えると踏んで、助けてあげなさいと言ったのよ。……私の見立てを信じなさい。」

 

そう。他でもない、誰よりも私を心配してくれる母さんがそう言ってくれたのだ。

なら私にも力になれる事があるに違いない。……そして何よりも、私自身があの子の力になりたいんだ。

私のそんな気持ちが伝わったのかも知れない。リニスは母さんの言葉を受けて私を見た後、納得半分諦め半分と言った様子で溜息を吐くと、

 

「……そうですね、プレシアがそこまで言うのであれば。……ですが、神宮寺さんの言う通り、くれぐれも無茶はしないでくださいね。」

 

そう、言ってくれた。

 

「うん……行って来る!」

 

 

 


 

 

 

「――やっと片付いたよフェイト! ……あれ?」

「フェイトなら今あそこにいますが、アルフも行きますか?」

 

受け持った空域を制圧して駆けつけたあたしに、そう言ってリニスが示したのはまさにこの世の地獄と言えるような光景だった。

巨大な炎の塊が、ピンク色の砲撃と互いに喰らい合うその衝撃は、十分な距離を取っているにもかかわらず、ビリビリとした空気の震えとなってここまで届いている。

 

「…………………………行くよ。あたしはフェイトの使い魔だからね。」

「やめておきなさい、今の貴女ではまだ力不足よ。」

 

震える喉から無理やりに絞り出したその言葉は、ピシャリとプレシアに否定された。

『力不足』……フェイトといつも一緒にいたあたしが、ここ最近常に感じて来た言葉だ。

だけど、それだけで納得できる程あたしの『一緒にいたい』って思いは軽くない。

自身の力不足を否定できないにもかかわらず、あたしは食い下がろうとする。

 

「そ、そうは言うけどさ……!」

「危険な場所で無理に寄り添われる事は、あの子だって望んでいないわ。分かっているでしょう?」

「………………く……っ!」

 

そんな事は分かっている。

食い下がろうとする自分の言葉にさえ力が籠っていないのが、まさにその証明だった。

フェイトが向かったと言う戦場をもう一度目に焼き付ける。

……アレがフェイトが今戦っている場所なんだと思うと、それが無性に遠く感じた。

 

悔しいけど……あたしは、あそこには行けない。

音すら置き去りにするフェイトには……もう、追い付けない。

 

――そうだよ、確かアニメでもそうだったじゃないか。

 

……アルフ(あたし)がフェイトの隣に立つ事は、もう……

 

「貴女はプレシアの言葉をちゃんと聞いていましたか? アルフ。……プレシアは"まだ"力不足だと言ったのですよ。」

「リニス……?」

 

振り向いた先のリニスの顔がぼやけている事で、漸くあたしは自分が涙を流している事に気付いた。

そしてリニスに「ほら」と言葉を促されたプレシアは、少し視線を泳がせながら口を開く。

 

「……力になりたいのなら、先ずは強くなりなさい。……あの子に追い付く為の力を手に入れたいなら、協力してあげない事も無いわ。」

「……うん、ありがと。プレシア……」

 

不器用にそう励ましてくれるプレシアの言葉で、当たり前の事を思い出す。

 

――そうだ、この世界はアニメじゃない。リニスがいる、プレシアがいる……だったら、あたしだってフェイトの隣に……!

 

……待っていてくれフェイト。

今は力になれないけど……いつかまた、きっと追い付いて見せるから!




バルト(今は口挟まんとこ……)
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