「……どう、リオンちゃん? 魔法は使えそう?」
「誰がリオン
あの後、追いついたはやてちゃんが思念通話で呼んでくれたシャマルさんにリンカーコアを摘出して貰い、早速リオンちゃんが身体に戻って来たのだが、やはりと言うか『リオン』の疑似リンカーコアが完全にダメになっていた。
彼女の身体で使用された『オーバーロード』の副次的な作用の様で、どうしようもないらしい。
その為、今の彼女は私に抱えられた状態だ。
「ゴメンね、私がもっと早くに倒せていたら……」
「いや、元々は我等が身体を奪われた失態に因るもの。貴様が気にする事ではない。それよりも――」
そこで言葉を区切ったリオンちゃんは私の方を見つめると……
「……先程から私の扱いがおかしいと思わんか?」
「えっ?」
そう言うリオンちゃんの様子は、確かに何処か不機嫌そうにも見える。もしかして、彼女の機嫌を損ねるような事をしてしまったのだろうか……?
「――なんだ、そのキョトンとした顔は!
「……あっ。」
そう言えばこの姿に慣れてしまっていたけど、そう言えばこの人って管理局の最高評議会なんだっけ。
「……忘れとったんか。」
「あ、あはは……ほら、出動先で小さい子供の保護する時とかあるからつい……」
「なのは、それ何のフォローにもなってないよ……」
いや、はやてちゃんもフェイトちゃんも分かってたなら言ってよ。おかげでリオンちゃん……じゃなくて、最高評議会の人もすっかり拗ねちゃってるし……
「もう良い、早く地上へ降ろせ。どの道、今の我では何の役にも立たぬだろうしな。」
「う、うん……あっ、じゃなくて……はい。」
「……くっ、おのれジェイル・スカリエッティ……!」
と、言われても私も直ぐに聖女と戦わないといけない。今は予想以上に強かった朱莉ちゃんが戦っているおかげで何とかなっているけど、それでもいつまでも持つ訳じゃないだろう。
「シャマルさん、お願いしてもいいですか?」
「ええ、皆さんはこのまま聖女を――」
シャマルさんにリオンちゃんを預けようとしたその時だ。
「――危ない!」
そう叫んで飛んできたのは、はやてちゃんだった。
彼女は私達の直ぐ傍にやって来ると、こちらに向けて飛ばされて来た何かを受け止める。
その正体を認識した瞬間、私達の間に緊張が走った。
「……く、ぅ……!」
「あ……朱莉ちゃんっ!」
それは全身に夥しい魔力ダメージの痕を残した、天野 朱莉の姿……それが意味するのは――!
「……どうやら、私が梃子摺っている間に彼女達はやられてしまったようですね。」
「聖女……!」
朱莉ちゃんが飛ばされてきた方向に浮かぶ彼女を見た瞬間、その異質な魔力に総毛立つ。
それは奇妙な感覚だった。
発している魔力量は、私と比べてそれほど大きな差はない筈なのに……まるで勝つビジョンが見えない。
――攻撃が当たる気がしない。そして、攻撃を防げる気がしない……!
そんな直感。
「ご覧のように、
「く……っ!」
「――はやて?」
「はやてちゃん……?」
何だろう、今のやり取りの違和感は……確かに朱莉ちゃんの意外な実力は凄まじいものだったし、そんな彼女の敗北は衝撃的だ。
だけど、私達は常に自分達以上の実力者との戦いを想定して訓練してきたはずだ。
今更格上の敵が現れたってだけで、どうしてはやてちゃんがここまで怖気付くんだろう……?
「それとも……貴女達は本当に
「天使……?」
聖女の言葉がいまいち理解できない。
彼女の言う『天使』とは何の事だ? 朱莉ちゃんの強さの理由もそこにあるのか?
少なくとも、はやてちゃんと聖女はそれを知っている……?
「天使って……まさか!?」
「!? ま、まさかフェイトちゃんもなんか!?」
どうやらフェイトちゃんも天使と言う物については知っていたらしく、二人は様々な要因から動揺しているようだ。
二人共目に迷いが浮かんでおり、受けた衝撃の大きさを隠しきれていない。
きっと何かを知っている二人にとっては、朱莉ちゃんの敗北はそれ程の物だったのだろう。
でも――
「どうやら、知らないのは貴女だけだったようですね。高町なのは。」
「……そうみたいだね。だけど、そんな事は関係無い……私達のやるべき事は変わらない! 貴女を倒して、"滅び"を止める! ――そうでしょ、二人共!」
私達の今までの努力は変わらない、これからの使命になんの影響もない!
二人にそう伝えると、はやてちゃんもフェイトちゃんの動揺も消えたようで、再び目に力が宿る。
「……あぁ、そうや! 私達はその為に力をつけて来たんや!」
「そうだね……なのはの言う通り、元々私達の手で解決するつもりだったんだ。何も変わらない!」
「そうですか、あくまでも敵対を選ぶと……愚かな選択をしましたね。」
聖女がその眼を僅かに吊り上げて二人を睨むと、彼女の発する不思議な魔力の威圧がさらに一段階大きくなる。
「正直貴女達を引き込めれば盤石だったのですが、しかしこうなってしまっては仕方ない。私もここで捕まる訳には行かない理由がある以上、非常に残念ですが……ここで貴女達を倒すしかないようですね。」
「……シャマル、リオンちゃんと朱莉ちゃんを連れてここを離れるんや。」
「で、ですが……! いえ……わかりました。」
そして受け取ったリオンちゃんと朱莉ちゃんを抱えたシャマルが、旅の鏡を通ろうとしたその時――
≪なのはちゃん、私の調子が回復するまで何とか頑張って……そうすれば、何とか出来るから。≫
≪朱莉ちゃん……うん、わかったよ。……後で天使についても教えてね。≫
≪そうだねぇ~……うん、良いよ。後で、きっとね。だから頑張れ、なのはちゃん。≫
≪――うん!≫
彼女からのエールを受けて、嫌が応にも魔力が高まるのを感じる。
「その魔力……! 貴女の協力が得られない事が、心底残念ですよ……なのは。」
そう話す聖女の表情は本当に残念そうで、彼女にも彼女なりの行動理由があるのだろうと言う事が伝わって来る。
でも、私達はこうして敵対してしまった。もうどちらかが倒れるまで戦うしかないのだ。
「……なのはちゃん、気ぃ許したらあかんで。」
「分かってるよ、はやてちゃん。でも――」
だけど、だからこそ私も残念で仕方がない。
もしも彼女が滅びを招く存在でさえなければ……もしも、言葉を交わす事を許された関係として知り合えていたなら……
「……少しだけ、私も同じ気持ちだよ。もしも貴女がその力を正しく使ってくれる味方だったら、きっとどんな脅威も困難も乗り越えられた筈なのにって……」
このあまりにも広すぎる次元世界の脅威は、何も予言の滅びだけではない。
未開の地に、滅んだ世界に、伝説の都に……驚異の種はいつだって、何処にだって埋もれている。
彼女を乗り越えても脅威は消えないのだ。だから――
「だから、この戦いで私が勝ったら……ちゃんと話そう。意味はないかも知れないけど、一度だけでも。」
「……そうですね、そう言えば貴女はそんな人だったような気もします。だからこそきっと――いえ、それももう意味はない事ですね。」
何かを言いかけた聖女は、しかしその言葉を飲み込み……右の手の平をこちらに向ける。
「――良いでしょう、もしも貴女が今の私に勝てたのなら……その先に未来が続くと言うのなら、貴女の望む限りいくらでも話しましょうか。」
聖女の魔力が変化する。
穏やかだった魔力の流れが何処までも鋭く、狂暴な波動を帯びていく……
だけど、もうこの場にそれで怯む者は居ない。
それぞれのデバイスを構えるはやてちゃんとフェイトちゃんに続くように、私もまた臨戦態勢に入る。
「――いくよ、レイジングハート!」
≪All right, my master.≫