最初に動いたのは、聖女だった。
「『バスター』。」
こちらに突き出した手の平から放たれたのは、極端な程に簡略化された構成の砲撃だった。
練り上げられた魔力の束を纏めて放つ……本当にただそれだけの基礎の魔法。感じる魔力の異質さは気になるけれど、肝心の魔力量自体はまだ熟練の魔導士の扱う範疇……決して規格外と言う程ではない。
≪Protection.≫
様子見にしたって単純すぎるそんな魔法を、聖女が何故今更になって放って来たのか、疑問に思いつつも障壁で受けようとした私だったが……
「な……ッ!」
その砲撃は、奇妙な事に
「なのはッ!!」
「なのはちゃん!?」
「……大丈夫、まだ全然戦えるよ。だけど、この感じは……」
二人の心配する声に答えつつ、受けたダメージを確かめる。
直前にフィールド系の障壁を張ったのが功を奏したか、直撃を受けたもののそれによって即意識を失う程のダメージは無い。しかし、砲撃が障壁をすり抜けた事もそうだが、直接この身で受けて彼女の魔法について私はさらに大きな違和感を抱いた。
――想定よりもダメージが重い……? あのくらいの魔力量だったら、ダメージはもっと少ない筈なのに……
「ふむ……やはり貴女方のような普通の魔導士相手ならば、
聖女は一人納得したように頷くと、夥しい数のシューターを待機状態で生成する。
その一つ一つから、さっきの砲撃から感じた不思議な魔力波動を感知できた。
≪はやてちゃん、フェイトちゃん、聖女の攻撃は多分だけど障壁でガードが出来ない……なるべく躱すようにね。≫
≪さっきの様子を見てまさかと思ったけど、やっぱりそう言う事やったか……≫
≪私は元々回避主体だから良いけれど……なのははどうするの? なのはの機動力だと、回避にも限界が……≫
フェイトちゃんの心配は尤もだ。
私の得意な戦法は自身の障壁の堅さを活かし、敵の攻撃を受け止めながら長距離砲撃による一撃で撃ち抜くと言った物。
それが実質封じられた今の状況に対する不安は、私自身も当然抱いている。だけど――
≪安心して、私だって障壁が使えない状況を想定した訓練は一通りしてたから。≫
≪なのは……うん、分かった。≫
私だって正体が分からない"滅び"に対抗する為の訓練の中で、今に近い状況の想定はしていた。
それに、フォワード陣との模擬戦でも障壁を縛った状態での戦闘は何度も行っている。
本来の戦い方からすれば付け焼刃も良い所だが、十分実戦レベルでは身についているのだ。
そして――
「……レイジングハート、あの魔力の解析を頼める?」
≪
「それでも一応、ね。お願い。」
≪All right, my master.≫
さっきの現象……カラクリがあるとすれば、それは恐らくあの魔力そのものに秘密がある。聖女はあの瞬間、間違いなく他の魔法を使用していなかったのだから。
だから、先ずはその性質に何かしらの方法で対抗できないかを調べてもらうのだ。
もしかすれば、何か手立てが――
「無駄な事を……この魔力はそれそのものが別次元の代物。三次元に住む人間が四次元を認識できないように、この世界のデバイスが解析できるようなものではないのです。」
「だとしても、対策を考えない理由にはならない……諦めないって、そう言う事だよ。」
「良いでしょう。ならば、貴女から墜としてあげましょう……この力で以て!」
そう聖女が宣言した瞬間、彼女が待機させていた射撃魔法の照準が私一人に合わせられ、同時に放たれた。
――速い!
「レイジングハート!」
≪Divine Shooter.≫
迫りくる無数の光弾……恐らくはさっきの砲撃同様、障壁では防げない。
万が一の事を考えて、こちらの機動力を犠牲にするアクセルシューターではなく、動きながらの使用も可能なディバインシューターを20個生成、迎撃を試みるが――
「ッ! ――やっぱり……!」
衝突して爆発する筈だった聖女の光弾は、私のディバインシューターをすり抜けて迫って来る。どうやら魔法そのものによる干渉が出来ないと言う事らしい……ならば!
「"アクセル"! レイジングハート!」
≪Short Buster.≫
コマンドワードにより加速したディバインシューター達がそのまま聖女を狙い、更に追撃のショートバスターを放つ。
互いに干渉が不可能ならば、聖女にもこの攻撃を防ぐ手段が無いはず!
あとは……
「この射撃魔法を躱さないと、ね……!」
予想通り私のショートバスターすらすり抜けた光弾群は、既に私の至近距離まで迫っている。
確実に私を仕留めるつもりなのだろう、全てが誘導弾であり込められている魔力も多い。一つや二つなら平気だけど、全てを受けてしまっては流石に大ダメージは免れないだろう。
――躱すなら、ショートバスターが目晦ましになっている今の内!
彼女はその眼で未来を視る。
だったら、視界に捉えられれば回避のしようがない。
意を決してこちらから魔力弾に接近……聖女が私の姿を補足する前に回避する算段だ。だが……
――っ! 追って来る……! 魔力感知で操作している!
私の動きに合わせて、全ての光弾が緻密に動いて追って来た。
先程の聖女との距離は30mはあった。
それでなおこの精度で操作できると言う事は……
――魔力感知の技術が、私と同じかそれ以上に高い……!
考えてみれば当然だ。彼女は今でこそ人間の身体で活動しているが、その正体はユニゾンデバイス……それも、リンカーコアを直接蒐集し支配すると言う、高度な技術で以て生み出されたデバイスなのだ。
魔力感知なんて、生まれた時には身についていた事だろう。
――これは、拙いかも……!
私の魔法をすり抜けて、私に大ダメージを与えられる威力を持った誘導弾……!
彼女が『
――自分から距離を詰めたのは失策だったかな……? いや、この弾速なら遅かれ早かれか。
聖女の誘導弾は、私がアクセルフィンで飛翔するよりも若干速い。
例えあの時距離を取っていても、この状態になるのが少し遅かった程度の誤差でしかない。
それに例え私の速度が弾速を上回っていても、何処までも居って来る魔力弾が相手じゃいつかは捕らえられる。未来視も併せたら尚更躱せない……!
――どうせ躱せないのなら……!
ダメージを負っても構わない場所……例えば片足で全て受け止めれば、まだ……!
≪待て、なのは! 一つ思いついた!≫
「レイジングハート……?」
半ば自棄っぱちなその発想を実行しようとした時、待ったをかけたのはレイジングハートだった。
そしてその直後、私と聖女は同時に互いの魔法が直撃し……
私達は魔力爆発に包み込まれた――
戦闘開始直後に繰り広げられた一瞬の攻防――
既に聖女へ攻撃するべく飛翔していたフェイトは、気付けば背後で起きた大規模な魔力爆発に向けて叫んでいた。
「なのはァーーーッ!」
「待つんや、フェイトちゃん! なのはちゃんの事は心配やけど、今するべき事はこっちや!」
咄嗟になのはの元へ向かおうとするフェイトを、はやてが言葉で制する。
彼女はこの空域で起きたもう一つの魔力爆発の発生源……聖女の方を見ていた。
――なのはちゃんの方で爆発したと同時に、聖女になのはちゃんの魔法が全弾直撃した……! たとえ幾つかを障壁で防いでいたとしても、全くの無傷とはいかんはずや!
追撃するなら今しかない。
そんなチャンスを生んでくれたなのはの為にも、ここは聖女に攻撃を仕掛けるべきと言うのがはやての考えであり、それはフェイトにも直ぐに伝わった。
「――遠き地にて、闇に沈め!」
≪≪≪Diabolic Emission.≫≫≫
「トライデントスマッシャー!」
≪Trident Smasher.≫
同時詠唱による3重の空間攻撃と、アリシアと共鳴したフェイトの放つ15本に分かれた砲撃が、聖女のいる爆発の中心部へと殺到する。
そして最初に起きたのとは比べ物にならない規模の魔力爆発が発生し、今の総攻撃が聖女に直撃した事を物語っていた。
「まだや! 彼方より来たれ、やどりぎの枝――」
「追撃、行くよ姉さん! ライオット――」
しかし二人共天使の存在を知っている事もあって、朱莉を倒した聖女を今の攻撃で撃墜できたと言う確信はない。
故に即座に更なる追撃を叩き込もうとして――
「――鬱陶しいですね。」
「なっ……!」
「!」
聖女の声と同時に煙を裂いて放たれた砲撃を確認した瞬間、全ての詠唱を破棄してギリギリそれを回避する。
そして現れた聖女の姿に、信じられない物を見たような表情ではやてが呟いた。
「む……
「……何もおかしな話ではないでしょう? 今の私が使っている身体が
聖女はその身に傷を一つも負う事無く、はやての前にその姿を現した。
それはつまり、なのはの攻撃もはやて達の全力の攻撃さえも通用しなかったと言う事。
その恐ろしい事実に、はやてが打ちのめされようとしたその時――
「――む?」
聖女が何かに反応し手を翳すと、そこにシールドタイプの障壁が生成される。
その直後、障壁ごと聖女の身を
「! 今の砲撃は……まさか――!」
はやてとフェイトが振り向いた先に、未だに漂う魔力爆発の煙から身を乗り出して杖を構えるその姿が見えた。
「ほら、諦めなければ対策は見つかるんだよ……ね、レイジングハート。」
≪
「なのはちゃん!」
「なのは!」