――なのはからの反撃が激しくなった……?
その変化に最初に気付いたのは聖女だった。
絶え間なく放つ砲撃の隙間から、または自身の放った砲撃をすり抜けて聖女の元へと向って来る砲撃の頻度が明らかに増えている。
加えて込められた魔力量と威力も徐々に大きくなっており、障壁越しに感じる圧力も増していた。
――砲撃の起点が増えている? ……そうか、確か彼女のデバイスには……
少ない情報を前世の記憶で補い、聖女はなのはの変化に当たりを付ける。
既に彼女は周囲のはやてとフェイトには目もくれず、その思考の大半をなのはに割いていた。
――はやての魔法は問題無く捌ける。フェイトの攻撃は
先程なのはの砲撃を障壁で受けた時、聖女は確信していた。
『高町なのはの砲撃は天使の身体にもダメージを与えうる』と。
勿論ダメージと言ってもかすり傷程度が精々だろう。しかし、彼女はなのは達の後にも
肝心なその戦いで影響が残るような事があってはならず、故にこそ聖女はなのはの撃墜を迅速に行うべく動いた。
――この状況……未来視の
聖女の未来視は周囲の転生者が多ければ多い程、その射程が短くなる。
これは転生者と言う存在が未来を用意に変える性質を持つからであり、彼等の一挙手一投足で無数の未来の可能性が未来視に映し出される為だ。
同時に幾つもの光景を映し出そうとした結果、映像同士が干渉しあう事で聖女の眼にはそれがノイズとして映る。
当然、聖女はその弱点を知っていたが、それでも迷う事無く砲撃の間へとその身を滑りこませた。
――なのはの攻撃にもノイズが混じっている……彼女も転生者か? いや、念話ではやてやフェイトの指示を受けている可能性もある。……この眼で直接確かめるか。
聖女にとっても高町なのはの存在は特別だ。
天使の身体を得て盤石に思える未来だが、たった二つだけ残る懸念が聖女にその行動を選ばせた。
しかし――
「させない……ッ!」
「――フェイト・テスタロッサ!?」
そんな聖女の前に一瞬現れたノイズを裂いて、なのはの戦友が立ちはだかった。
「――ハアァッ!」
「っく、コレだから厄介ですね、転生者というのは……!」
聖女の前に回り込むと同時にバルディッシュで斬りかかると、ライオットザンバー・ランページの機能で追従するもう一つのバルディッシュもまたアリシアの操作で斬りかかった。
私の振るう太刀筋とは別の角度……それも、人の腕ではほぼ不可能な軌道でのトリッキーな斬撃との連撃に、聖女は障壁が間に合わないと思ったのか
すかさず私はその回避先へ照準を合わせ、無手の左手を向けると砲撃を放つ。
「サンダーレイジ!」
≪Thunder Rage.≫
「チッ……!」
完璧なタイミングで放ったサンダーレイジは惜しくも障壁で防がれてしまったが、今の一連のやり取りは私達に十分な手応えを感じさせた。
興奮した様な声で、姉さんが話す。
<やった!
<うん! ……このまま追撃をかけるよ、姉さん!>
先程の聖女の回避は、未来が見えているにしては明らかに動きが大きかった。
なのはの砲撃の様な『面』の攻撃ならばまだしも、私の攻撃は斬撃……『線』の攻撃だ。
未来が完璧に見えていたのならば、回避の動きはもっと小さく済ませていた筈……つまり、はやての推測は正しかったのだ。
――≪フェイトちゃん……フェイトちゃんが転生者やって事を見込んで、試して欲しい事があるんや。≫
はやての推測では、聖女の未来視は完全ではない。
転生者とそうでない者……即ち、私と姉さんの動きでは、見る事の出来る未来の限界や精度に大きな差がある。
前回の地下大聖堂での戦いと今回の交戦ではやてはそれに気づいていたらしく、はやては私達に一つの頼みごとをした。それが――
「貴女は私と姉さんの
「……なるほど、はやての入れ知恵ですか。」
聖女は私と姉さんの斬撃を回避する事を諦めたのか、障壁を張る事で私達の攻撃から身を守っている。
その障壁は普通の魔法とは比べ物にならない程強固で、私達の攻撃では突破できない事が確信できた。しかし……突破できない障壁なんて、私達は小学生の頃から見てきた。
そして、すでにその対処方法も確立している。
「バルディッシュ!」
≪Thunder Rage――≫
障壁に斬撃を浴びせながら、先程のように左手に砲撃の術式を構築する。ただし、それは――
≪――Occurs of Dimension Jumped.≫
「なに……!?」
障壁を無視してその内側を攻撃する、
――直撃! これで聖女は感電する筈……そして!
聖女にサンダーレイジが直撃したのを確認し、同時に背後から迫る魔力を感知していた私は彼女の背後に回り込む。
そして感電の影響かボロボロと崩れていく障壁に対してなのはの砲撃が突き刺さると、一瞬の抵抗の後に障壁は破壊され、聖女は更になのはの砲撃をその身に受ける事となった。
――ここだ!
<決めるよ、姉さん!>
<任せて!>
このまま聖女を斬撃と砲撃で感電させ続ければ、もう彼女がいくら未来を視ても関係無い!
私達の勝……
「――一つ、勘違いしているようですね。」
――え?
聖女の姿が遠ざかる。何故? 動けない筈だ。だって、私の砲撃を身に受けたんだから。
――いや、違う、私が落ちてるんだ……
お腹から伝わる魔力ダメージの痛みでそれを理解した時には、既に私の意識は朦朧としていて――
<フェイ…! しっ………て、フェ……!>
――姉さんが何か叫んでるけど……駄目だ、何て言ってるのか分かんないや……
フェイトちゃんが聖女の砲撃を受けて墜ちていく。
たった一撃……真・ソニックフォームで防御力をとことん削っていたと言うのも理由の一つだが、そもそもの威力が並外れて高いのがここからでも分かった。
「ふぇ、フェイトちゃん! しっかりして!」
私の速度ではフェイトちゃんの落下には追い付けない。
せめて意識を取り戻させられないかと呼びかける私に、はやてちゃんからの念話が届く。
≪なのはちゃん、フェイトちゃんの事は地上のシャマルに頼んだから大丈夫や! 今はそのまま聖女に攻撃を続けてくれ!≫
≪はやてちゃん……うん、分かった。≫
旅の鏡による転移術と高い治療技術を持つシャマルならば、フェイトを安全に回復させられるだろう。
はやてちゃんの言葉で幾分か冷静になった私は、引き続き聖女に攻撃を浴びせるべく意識を再び聖女の方へと向ける。
私がフェイトちゃんの方を向いている間も、レイジングハートはブラスタービットを操作して聖女に絶え間なく砲撃を行っていてくれていた。
しかしそれでも聖女を捉えることは難しいらしく、最小限の動きで躱されている。
……いや、それだけではない。少しずつではあるが、聖女との距離が縮まってきている。
加えて聖女は、その状態のまま再び大量の誘導弾を放ってきた。
――拙い、今のままだとあの大量の誘導弾は処理できない!
このまま攻撃に専念すれば、今度は間違いなくあの誘導弾により撃墜される。しかし誘導弾の回避にリソースを割けば、聖女は今よりも遥かに早く距離を詰めて来るだろう。
どちらかの脅威を対処すれば、もう片方の脅威に詰められる……どうしようもない二者択一。
そんな危機的状況で、地上から何か大きな物が破壊された様な音が響いた。
≪なのは、行ったぞ!≫
≪ヴィータちゃん……! ナイスタイミング!≫
それは今まさに私に必要だった、最高の支援物資の準備が出来た事を知らせる合図。
次の瞬間、地表を覆う土煙を突き破って巨大な塊が私の方へと飛んできた。
「『スターダストフォール』!」
すかさず私はその塊を魔力で捉え、支配する。
スターダストフォールはこう言った物質に対して作用する、サイコキネシスの様な側面を持つ魔法で、アニメでは直接的な魔法が通用しない敵に対してこう言った物質をぶつけて攻撃している描写があった。
……もっとも、その時の塊はこんな人の身長を優に超えるサイズではなかったが。
「って、コレって確か……」
支配下に置いた物質をよく見れば、そこには見慣れた人物が描かれており……
『ジェイルフォン新型モデル来月発売決定! 予約受付中!』と言う文字が躍っており、描かれていた妙にさわやかな笑みを浮かべたジェイル・スカリエッティと目が合った。
――ま、まぁ確かに看板が付いている分普通の瓦礫よりは頑丈かも……?
見た目こそややシュールではあるが、何を隠そうこの看板付きの巨大な瓦礫こそが聖女の誘導弾に対抗する支援物資だ。
それを目にした聖女が、まさかと目を見開いたのが一瞬見えた。
そう、その通り。これから私が放つのは、まさに攻防一体の一撃だ。
「スターダストフォール……ファイア!」
≪いけ! ジェイル・スカリエッティ! たいあたり だ!≫
レイジングハート、こういう時にそう言う事言わない。
瓦礫の位置と角度を調整して発射された瓦礫は、その途中で私に向けて放たれた誘導弾を次々に破壊し、そのまま聖女へと殺到する。
≪相手の魔力と干渉しないのに
≪ああ。まぁ、これも透過されたら流石にどうすれば良いのか分からなかったが……無事に狙い通りの成果を上げられたようで何よりだ。≫
生憎とジェイル・スカリエッティの看板付き瓦礫は、魔法で強化された聖女の拳で砕かれてしまったようだがもう遅い。
今も地上からはヴィータが次々に支援物資の瓦礫を打ち上げてくれており、それを私の術式で次々に捉えているのだ。
「……まさか、このような方法で対応されるとは思いませんでしたよ。高町なのは。」
「奇遇だね、私もだよ。」
……やっぱり
切り所が中々無かったので若干強引にぶつ切り。
なのは「きさまがどれだけ誘導弾を放とうと関係の無い処刑を思いついた……」(ズゥラァッ!)
なお、思いついたのはレイジングハートの模様。