「――うん、大丈夫。これならまだ戦える……!」
聖女の誘導弾を防ぐ為の犠牲にした左脚を始めとし、シャマルに治療をして貰った箇所の調子を確かめながら空を見仰ぐ。
その先では、私が抜けた代わりにミッドチルダの銀盾……私のクラスメイト達が、はやてちゃんの元に駆けつけたところだった。
だが……彼等では恐らく聖女には勝てない。
彼等の連携は確かに凄まじい。
互いの魔力で他者の魔力を感知する能力や、一切の意思疎通を図らずに熟される精密なコンビネーション等、まさに他の部隊とは次元が違う物がある。
しかし聖女を相手にするには、圧倒的に火力が足りない。
その上、聖女には未来視がある。いくら正確な連携を以てしても、未来を視られては攻撃は当たらない。
そして彼女の攻撃は、魔法で防げない……単純に、聖女の能力が攻防共に優れ過ぎているのだ。
だからこそ――
「待ってて、はやてちゃん。直ぐに行くから!」
聖女と戦おうとする親友の元へ駆けつける為に術式を組み、飛翔魔法を使おうとしたその瞬間、それを制止する声が私の耳に届いた。
「待って、なのはちゃん。」
「え?」
聞き馴染みのある声に振り返れば、そこには聖女に受けた傷を癒す為に地上へ降りた、天野朱莉ちゃんの姿があった。
「なのはちゃん。キミが今、あそこに行ったとして……何か勝算があるの?」
「勝算……」
「そ。対策もなしに何度挑んでも、あの子には勝てないよ。」
朱莉ちゃんの言葉は尤もだ。何の策もなく勝てる相手とは思えないし、スターライトブレイカーまで防がれた今の私にはその策もない。だけど――
「例え勝ち目が無くても、私が行かないといけないんだよ。……予言に記された光である私なら、きっと何か勝つ方法がある筈だから。」
そう……今の私が折れずにいれるのは、皮肉な事にかつて私の心を追い詰めたこの予言なのだ。
滅びを回避する可能性が私にしかない……つまり、私には滅びを回避する方法がある。
それさえ戦いの中で見つけられれば……!
しかし朱莉ちゃんは私の言葉に首を横に振ると、言った。
「それじゃ駄目だよ。きっとまたさっきの二の舞になる。」
「でも……!」
こうして話している間にも皆は戦っている。速く加勢に行かなければ、もしかしたら彼等の中から犠牲が――
「まあ落ち着いてアレを見てみなよ、きっとなのはちゃんが思うよりは時間はあるからさ。」
「え?」
そう朱莉ちゃんに促され、はやてちゃんの方へと視線を送った私が見たのは、予想とは違った光景だった。
既に戦闘は始まっており、銀盾達がはやてちゃんと連携して聖女を攻撃していた。
しかし、予想通りだったのはそこまでで、意外にもその戦闘の様子は拮抗しているように見えた。
それは銀盾達の連携が、私や聖女の予測を上回っていたから……と言う訳ではなく――
「聖女の攻撃が、あまり当たってない……?」
聖女の誘導弾の追尾性は脅威的だ。
私と同等以上の魔力感知技術と未来視を組み合わせた聖女の誘導弾は、魔法をすり抜ける性質も相まって躱す事はほぼ不可能。
しかし、私が瓦礫で防ぐしかなかったあの誘導弾は、私の時と比べて明らかに追尾性能が落ちていた。
勿論狙いは正確ではあるのだが……彼等が相手している誘導弾は、私の時のように行動を先読みするような軌道で向かうと言った事が無い。
そして逆に誘導弾の軌道を呼んだ銀盾達は、聖女の誘導弾同士で相殺させたり、神場くんの生み出した謎の銀色の玉で起爆させる等で対応している。
あの誘導弾を相手に、銀盾達は今まで誰一人被弾せずに戦えているのだ。……最初に一人墜とされていた気もするけど。
――だけど、どうして誘導弾の精度が落ちてるの……?
「……それはね、彼等が君と同じ転生者だからだよ。」
「え……!?」
私の心の疑問に答えるような言葉が朱莉ちゃんの口から飛び出し、血の気が引いた感覚と共に私は振り返る。
きっと、今の私の表情は大層
本来ならば何が何でも今の表情を見られないようにするべきだし、動揺なんてそもそもするべきではなかった。だけど……
――バレた……!? いや、心の声に答えたって事は、小学生の頃から……!
私が転生者である事に気付いていたのか。
それを確かめようにも呼吸が乱れているせいで碌に声にならず、ただ喉を震わせるだけの私に、朱莉ちゃんはキョトンとした表情を向けた。
「あれ? もう知ってる筈だよね、私が天使だって。」
「え……!? あっ……そ、そう言えば……」
――天使……って事は、多分あの時の神様の使いだよね……? なら私の事を知っていてもおかしくないか……
そう言えば、さっき聖女が朱莉ちゃんを天使と言っていたっけ。
はやてちゃんとフェイトちゃんだけはその存在について知っていたようだけど、私は彼女のその言葉で漸くその存在に気付いたものだからすっかり忘れていた。
あの二人が知っていて信頼していたのなら、少なくとも私達に害をなす存在では無いのだろう。……聖女の様な例外を除いて。
「まぁ、もうちょっと詳しく話すと――」
彼女の正体を再認識した事で私の動揺が落ち着いて来たのを見た朱莉ちゃんは、私に不足していた知識を補う様に説明を始めた。
「――ん? どうしたんだ神宮寺、そんなところで。」
「っ! あ、ああ神谷か。なのはにちょっとした相談があってな。――ただ、今は取り込み中みたいだ。先にティアナに確認済ませて、なのはには後で念話で聞く事にするよ。……お前こそ、何でここに?」
「俺は朱莉に呼ばれてな。何か俺の協力が必要らしい。」
「そうか。……まぁ、天使直々の呼び出しって言うなら、お前なら問題無いって判断されたんだろうな。」
「ん? 何のことだ?」
「ま、気にすんな。取りあえず俺はティアナの方に行ってくる。」
「いや、気になるだろ……って、行っちまったか。何だったんだ……?」
「――そう、だったんだ。」
「そ、だからあの子は私の手で止めるべきだったんだけど……」
一対一の勝負で負けてしまったと……
……なんて言うか、全部の事情を知った後だと朱莉ちゃんの敗北のショックの大きさが随分と変わるな。
この世界で一番強い力を与えられた天使が、その力を奪われた挙句に上回られた……って言うのだから。
「流石の私も、まさかあの子があそこまで天使の力を制御出来るようになってるなんて思ってなかったからね~……正直な所、私はもうあの子に勝てないだろうね。」
珍しく真剣な表情でそう言う朱莉ちゃんに驚く。
何故ならあの時、朱莉ちゃんは確かに言っていたのだから。
「確か朱莉ちゃん、あの時は『私が回復したら、何とかできる』って……」
「うん。だけど、あの子を倒せる可能性があるのは私じゃない……なのはちゃん、そしてレイジングハート。君達だけなんだ。」
「え……」
≪え、俺も?≫
「引き止めた理由の一つも、今のを伝える為だよ。知らずに無茶な攻撃を仕掛けて、もしもキミ達が完全に戦闘不能にされちゃったら……今度こそ本当におしまいだからね。」
「で、でも……」
「なのは!? お前も朱莉に呼ばれたのか!?」
「――っ! か、神谷くん!? どうしてここに!?」
彼女の言葉にまだ驚きが残っているところ、突然割り込んできた神谷くんに対して思わず身構えてしまう。
一体何時から近くに……もしかして、私達の話を聞いていたんじゃ……?
「あ~私が呼んだんだよ。ちょっと協力してほしい事があってね。」
「そ、そうだったんだ……」
「流石に今のは傷付くぞ……なのは?」
「ご、ゴメンね神谷くん。」
神谷くんの様子はどうもいつも通りって感じだ……この様子だと、少なくとも私が転生者である事には気付いてないのかな……?
「取りあえず、よく来てくれたね神谷君。君となのはちゃんにちょっとだけ協力してほしいんだ。」
「……協力?」
「なのはと俺にか?」
協力してほしいと言われれば当然するが……ふと神谷君と目が合うが、どうにも神谷君はピンと来ていない様子。
どうやら協力するよう呼ばれはしたが、厳密に何をして欲しいとかは聞いていないようだ。
二人で朱莉ちゃんの言葉を待っていると、彼女は一つ頷いて私達の疑問に答えた。
「うん、聖女を何とかする方法はもう決めてるんだけど、ぶっつけ本番はリスクも高い。今の内に練習しておきたくてね。私の力も、なんとか練習ができる程度には戻って来てるからさ。」
「それは勿論、大丈夫だけど……」
「あー……もしかして、俺が呼ばれたのって結界担当か?」
「そう、例えどんな作戦を立てても練習段階で気取られちゃったら効果は半減だ。だから練習が終わるまでの間……と言っても数分で済ませるけど、私の力を向こうに気取られないようにする必要があるのさ。」
そう語る彼女の様子から、その練習は練習と一言で片づけてはいけない緊張感が伝わって来た。
一体何をする気なのか……気になって尋ねた私に、彼女は悪戯を企てるように片目を閉じてこう言った。
「目には目を……だよ。」
……と。
朱莉となのはが転生者関係の話をしている間、シャマルは墜とされた神楽坂の救助と回復に向かってます。
だから人払いの為に前回神楽坂を墜としておく必要があったんですね。