なのはちゃんからの頼みでフレースヴェルグを撃つ前、確かに私は彼女から一つの推測を聞いていた。
ざっくり説明すると、『聖女は障壁と攻撃を同時に使用できない可能性がある』と言った内容だ。
そして恐らくその推測は当たっていたのだろう。私のフレースヴェルグを障壁で防いでいる間、聖女からなのはちゃんへ放っていた砲撃がピタリと止んでいたのだから。
その実体験が聖女と戦う際に役に立つ可能性が高い情報だと判断した私は、駆けつけてくれた銀盾達にもその情報を共有した。
せめて何かしら明確な対処法が見つかるまで、何とか持ちこたえられるようにと。
そして、その結果――
「……一体、これはどう言う事や……?」
私の目の前で、彼等は私の予想を大幅に上回る活躍を見せていた。
聖女が放つ誘導弾は彼等にその軌道を読まれているのか当たる事は無く、逆に聖女は自身に向かって来る砲撃や直射弾を回避し切れていない。
特別大きな魔力が込められた砲撃は確実に回避している物の、脅威が低いと判断した魔法に関しては既に回避を諦めているのか直撃を許しているのだ。
「――はやて。」
「! シグナム、ヴィータ! そっちはもうええんか?」
「はい。地上の制圧が完了したと判断された為、はやてに加勢するべく駆けつけたのですが……」
報告もそこそこに聖女の方をみたシグナムが、そこで言葉を呑む。
ヴィータもどこか釈然としない様子でその光景を見ながら、私達の内心を代弁するように口を開いた。
「……アレが本当にアイツなのか……?」
彼女達ヴォルケンリッターが私の元に来るより遥か昔、シグナム達を襲った転生者の正体が聖女の身体を支配するユニゾンデバイスと同一である事はほぼ間違いない。
ザフィーラが嘗て襲撃者が使用した魔法から学んだと言う白い魔力を彼女も使っていたし、何より彼女自身が襲撃者であった事をにおわせる発言をしている。
だが、だからこそ今の彼女の姿がシグナム達から聞いた襲撃者と重ならない。
銀盾達の実力を侮っている訳ではないが、それでも数の利だけでこうも押し留められる程度の脅威ではない筈なのだ。
「――! そうか、もしかしたら……」
「なんか分かったんか、シグナム?」
何か思い当たる節があったのか、独り言のように呟いたシグナムに私は尋ねた。
「コレはあくまで推測なのですが……恐らく、今の彼女は
「未来視が……?」
シグナムが立てた推測は、聖女が見る未来が周囲の転生者によって変化し続ける為、未来視の光景が滅茶苦茶になっているのではないかと言う物だった。
確かにそれならば銀盾の皆が聖女に対して立ち回れる理由としては分かりやすい。
彼等にはなのはちゃんの様な圧倒的な魔力量も、フェイトちゃんの様な速度も無い。魔法の種類だって、全員分合わせても私の扱える種類よりはるかに少ないだろう。
だが彼等だって皆高い実力を持っているし、『他者の魔力で敵の位置や攻撃を感知する特技』も相まって、全員が揃った状態の彼等を墜とすのは至難の業なのだ。
……まぁ、非公式な訓練ではよくフェイトちゃんに墜とされているんだけど。
ともかく、未来視が使えない今となっては彼等の予測能力の方が聖女のそれを上回っているのだ。
だからこそ彼等は被弾していないし、聖女は彼等の攻撃を捌き切れていない。
いや、捌き切れていないと言うより……
「……でもよぉ、聖女にもダメージ入ってねぇんじゃねぇか? アレ……」
そう零したヴィータの一言が真実なのだろう。
聖女は確かに彼等の攻撃を幾度となくその身で受けているが、それを気にしている様には見えない。
――やっぱり、何か決め手が必要か……
この膠着している状況、決着をつける一撃さえ用意出来れば勝ち目も見えて来る。
だが、肝心のその決め手が見つからない。
……いや、そもそも決め手に要求されるのはあのスターライトブレイカー以上の一撃だ。
そんな物を使える者がこの場に居るのかさえ……
≪はやてちゃん、聞こえる?≫
≪! なのはちゃんか! 何かあったんか!?≫
≪うん、ゴメン。ちょっとそっちに行くの遅くなりそうで……≫
さっきからなのはちゃんが姿を見せない事に関しては疑問に思ってはいたが、どうやら彼女の方で何かあったらしい。
直ぐに事情を問おうとした時、彼女の方からそれは告げられた。
≪今から朱莉ちゃんと聖女を倒す為の準備をするから、しばらくの間聖女の注意が私達の方に向かないようにしてほしいんだ。≫
≪聖女を倒す準備!? 朱莉ちゃんがそう言ったんか!?≫
≪うん。どれだけかかるかは分からないけど、お願いできるかな?≫
朱莉ちゃんが……天使がそう言った以上、この戦いに於ける勝ち目はもうそれしかない。
ならば彼女の問いに対する答えもまた、一つしかない。
≪ああ、任せとき! 何分でも何時間でも、絶対に私達が稼いだる!≫
念話が途切れ、シグナムとヴィータに今の会話を共有すると、二人が覚悟を決めたように頷いた。
方針は決まった、私達の役割も……後は、ただ実行するだけだ。
「――これで良し……かな。」
「連絡は済んだみたいだね~……じゃあ神谷クン、よろしく~!」
「ああ、じゃあ……やるぞ! ――
朱莉ちゃんに促された神谷君が深呼吸の後に使用したのは、彼が鍛錬の果てに編み出した独自の結界だ。
結界は私を中心とした直径5mと結界魔法としてはかなり狭いが、この広さがこの結界の限界でもある。
結界を張ったばかりだと言うのに神谷君の額にはじんわりと汗が浮かんでおり、余裕が無い事が分かる。
悪戯に彼の負担を増やす訳には行かない……そう判断したのは朱莉ちゃんも同じだったらしい、先程までの緩い雰囲気は霧散し、有無を言わさぬ表情で告げた。
「じゃあ……早速やるよ、なのはちゃん。」
「うん……良いよ、来て。」
私の背後に回り、背中の中心……丁度心臓とリンカーコアがある付近に手を置いた朱莉ちゃんに、準備が出来た事を告げた途端――
「ッ! ――ふッ、ぐ……ッ!!」
胸の内側に台風でも入れられたような感覚。
身体の中で暴れているのは当然風なんかではなく、もっと純粋な力の塊だ。
「要領は魔力と同じだよ! 早く制御を!」
「……ぅ、っく! ――ああぁッ!」
掴み所が無く、方向さえ定まっていないソレを、魔力を操作する感覚で強引に制御して、何とか体の外に出したその瞬間――
「……! ぐぅぁッ! ――はぁー……! はぁー……!」
身体から溢れ出したエネルギー……天使の力は指向性の定まらぬままに放出され、神谷君の結界に
それと同時に神谷君が大きく呻き、呼吸が忽ち荒くなる。
「ご、ゴメン神谷君! 大丈夫!?」
「はぁ、ふぅ……あ、ああ何とかな……まだ、後一発くらいなら耐えられると思う……!」
「無理はしないようにね。ただでさえ
「お……おう……!」
コレが彼がここに呼ばれた理由……
この結界の堅牢さは他の結界とは文字通り次元が違う。
何せこの結界の内と外では時間も空間も繋がっていない……時間と空間の連続性を断絶する固有の結界なのだ。
だからこそ、この結界を越える事は天使の力でも不可能だ。何せ、越える先が無いのだから。
ただし、その代償にこの結界は酷く狭く、そして干渉を防ぐ度に神谷君の魔力は抉られたようにごっそりと減る。
額にじんわりと浮かんでいた汗は、今はもう玉となって首を伝っている。
……たった一度防いだだけでコレなのだ。今のような失敗は、彼の為にもしたくない。
「……朱莉ちゃん、今の感覚が残っている内にもう一度お願い。」
「やってる私が言うのも何だけど、なのはちゃんのリンカーコアにもかなりの負荷かかってるからね。」
「大丈夫……神谷君が頑張ってるんだから、私はもっと頑張らないと。」
「……はぁ。無理は程々にね、二人共。いざとなったら私の力で回復させるからね。」
「うん、その時はお願い。神谷君もね。」
「……ああ、無理はしない。」
そして――再び私の中に台風が入れられる。
滅びを回避する為に……聖女に勝つ為に、私がこれを制御しないといけないのだ。
何が何でも……!
「――ぅああッ!!」
「お、おぉ……もう球体に制御出来るんだ……これは、もしかしたら思ったより早いかも……?」
さっきよりも強引に、だけど繊細に……スターライトブレイカーよりも制御の難しいそれを手の平から球体にして取り出してみれば……
「はぁ……はぁ……! た、たったの……これだけ……!?」
その大きさは掌ほどの小さな魔力弾だった。
たったこれだけの中に、胸に入れられた台風が詰まっている……そして、実戦で私が制御しなければならないのは、これの数百倍なのだ。
「大丈夫、制御する方法を身につければ例えどれだけ量を増やしても負荷なんてかからないよ。」
「そ、そう言う物……なのかな……?」
朱莉ちゃんは軽く言うけれど、今の私にはこれを軽々と扱えるイメージがまるで湧かなかった。
神谷君の実力ですが、純粋な戦闘では他の銀盾よりもずっと弱いです。
無印、A'sの頃から戦闘は他よりも苦手と描写していましたが、訓練の内容を自分の長所である障壁・結界に集中させてからはその差が一層広がったって感じですね。
彼の障壁・結界の適性の高さは実は特典に由来するので、フェイトさんで言うところの飛翔魔法と同じレベルの適性です。(普通は到達できないレベル)
なので鍛えた分、適性補正で普通の障壁でもとんでもない硬さになってます。(なのはさんのプロテクションとほぼ同じレベル)