転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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遅くなりました。

ちょっと難産。



取引

…水面に広がる幾つもの波紋。その中からたった一つの波を見極めて、発生源を探るような感覚。今俺が行っている作業を言語化するとすれば、きっとそれが一番近い表現になるだろう。

活性化して居ないジュエルシードの魔力は、平時では魔力を感知できても本体の位置の判別が困難だ。集中すればその波紋を感知できるが、野生動物の気配の様なノイズも拾ってしまう。山と言う環境はこの方法で探すにしても非常に難しい難所だ。

 

いったいどれほど集中していただろうか、ようやく目的の波紋を見つけ出した俺は瞑っていた目を開く。

 

「見つけ…た?」

 

ふと、目の端に真剣な表情でじゃんけんの相子を繰り返している二人が映り込む。何をしているのかと言う疑問は浮かんだが、銀髪オッドアイと言う分かりやすい外見が彼らの目的を雄弁に語っていた。やはり彼らもここのジュエルシードを探しに来たのだと。

何故じゃんけんをしているのかは知らないが、これはチャンスだ。この隙にジュエルシードを封印し、さっさと撤退してしまえば彼らは追いつけまい。

 

≪アルフ、ジュエルシードを見つけた。でも近くに銀髪オッドアイも居る。封印後即撤退予定。すぐに動ける?≫

≪早いね!?今ちょっと温泉に入ってたんだ!5分だけ待ってておくれ!≫

≪分かった。≫

 

…まぁ、5分くらい何てこと無いだろうとじゃんけんしている彼らに視線を戻す。

彼らはじゃんけんに夢中のようで、決着が付くまでは動かないだろう。一体何をそんなに真剣になっているのかは知らないが、こちらとしても助かる。…この隙に倒してしまっても良いのではないだろうか?彼らもジュエルシードが目当てでこの場に居る以上は敵同士のハズだ。

そう考えた瞬間に決着が付き、片方が拳を掲げて喜んでいる。

一息に意識を刈り取ろうと魔力を高めた次の瞬間、勝った方と目が合った。そして掲げたその拳から、銀色の魔力弾が発射されたのだ。

 

 


 

 

「「あいこでしょ!」」

 

…お互いにチョキ。これでかれこれ21回目の相子だ。…コイツ、態とやってるんじゃないだろうな?

 

「…お前態とやってないか?」

 

神王(コイツ)も同じことを考えていたらしい。そんな失礼な口を利くと言う事は神王(コイツ)も態とじゃなかったのだろう。

 

「違ぇよ。誰も得しないだろ?そんな事しても。」

「だよな?」

 

正直時間は無い。ここらで勝負に出るとしよう。

 

「…俺は親切だから教えてやるよ。俺は次にグーを出す…!」

「だったら俺はパーを出してやるよ…!」

 

互いに手を目の前で組み、心理戦を持ち掛ける。…相手はパーを出すと言ったが、その実違う手を出す心算だろう。俺もそのつもりだからだ。チョキはさっき出した。多分相手も連続して同じ手と言うのは考えにくい。それにグーに負ける手だ出す可能性は低い。だがグーを出すと言った相手にグーを出すだろうか?相子をこれ以上続けるのはお互い嫌だろう。だったら一周回って…正直にパーか?なら俺の手は…!

 

「「あいこでしょ!」」

 

相子だ。お互いにチョキ…

 

「お前パー出すって言ったよなぁ!?」

「お前もグーを出すんじゃなかったのかよぉ!?」

「出してたらお前負けてんだぞ!感謝しろよなぁ!?」

 

もう互いに何考えてるのか分からん。

 

「「あいこでしょ…」」

 

と思考を放棄して出した手はパー。相手はグー…えっ。勝った!?勝った!!

 

「っしゃあああぁぁぁ!」

「くっそ、お前…不意打ちだぞ!?」

残念(ざぁんねぇん)でぇしたぁ!ちゃんとお互いに手を出してたから不意打ちじゃないですぅ!」

 

思わず拳を掲げる。もう勝った事よりも相子のループから抜け出せたことのほうが嬉しい!

 

「じゃあ神谷呼んで来るわ。」

「じゃあ俺はこれからフェイトをじっくり………あっ」

「ん?」

「…やべっ、見つかってんじゃん。」

 

掲げていた拳から空に向けて魔力弾を放つ。戦闘が必要になった時の合図だ。きっとこれで神谷も来てくれるはず。

 

「おい!見つかってんぞ、しかもこっちに突撃してくる≪Protection≫!」

「じゃんけんしてる場合じゃなかったよな、やっぱりぃ!≪Protection≫!」

 

お互いにプロテクションでガードする。直ぐに衝撃。スパーク音と共に突風が吹き、草木が揺れ、砂埃が舞う!

フェイトは二人同時に仕留める心算らしく、負担は半減している。空中とは違い、攻撃の方向も制限されている。だがそれでも尚、苛烈な攻撃に忽ちプロテクションが軋み始める!

 

「うっそだろ!?俺らだってあれから魔力量増やしたんだぞ!?」

「フェイトも魔力量増やしてるんじゃね!?」

「そうか、その可能性あるなぁ!」

 

スパーク音が激しい為、若干大きめの声で互いに会話する。

 

「おい、そっちあとどれくらい持ちそうだ!?」

≪おい、聞いてるか。このまま会話続けながらよく聞け。≫

「分かんねぇけど、1分は先ず持たねぇ!」

≪分かった、何だ?≫

「くっそ、おい!そっちでどうにか出来そうか!?」

≪今フェイトの攻撃で砂埃が舞ってるだろ?それに二人いる分攻撃のスパンが若干遅い。≫

「出来たらやってる!お前は!?」

≪そうだな、それで?≫

「出来ると思うかぁ!?」

≪この砂埃の中にバインドを一つ隠す。それで後は掛かるのを待つ。どうだ?≫

「無理だと思う!!」

≪行けそうだな、それ。≫

「なら聞くなぁ!!」

≪じゃあフェイトが次にそっちに行ったタイミングな。≫

 

大きい声で会話して注意を引き、本命の作戦は念話で行う。マルチタスクの訓練が活きたな!

神王のプロテクションからガァン!と音がしたタイミング。隙を見て目の前にバインドを設置する。後は掛かってくれるのを待つ。

神谷!神宮寺!早く来てくれ!

 

 

 

――「フェイトちゃん!」

 

えっ、この声は…

 

 


 

 

空に魔力弾を打ち上げるのは、戦闘になった合図。それがフェイトかジュエルシードの暴走体かは分からないが、暴走体ならフェイトも来るはずだ。

そう思い、今出せる全速力で駆け付けた。

 

現場に到着して先ず目に入ったのは、一ヶ所だけ不自然に発生した砂埃。中の様子は分からないが、砂埃が点滅している事と聞こえるスパーク音からして、戦闘になっている相手はフェイトで間違いない。

 

「フェイトちゃん!」

 

と呼びかけると、直ぐに砂埃の中からフェイトが飛び出してきた!

 

≪プロテクション!≫

 

どうやら同時に攻撃もされたらしい。オートガードでなかったら墜とされてたな…

フェイトは前回の事で警戒しているのだろう。連撃に繋げる事無く、寧ろ少し距離を取った。だが、目から戦意は消えておらず、こちらの隙を窺っている。

…戦う気満々のフェイトには悪いが、今回の目的は()()()()()()

 

「フェイトちゃん!話を聞いて!」

「…名前、何で?」

「皆から聞いたの。あなたの名前がフェイトだって。」

「そう。…何?」

「えっ。」

「…要件。」

 

…話を聞いてくれるみたいで安心したが、本題はここからだ。…俺が今から持ち掛ける()()は、或いは銀髪オッドアイ達の努力を裏切る事にもなりかねない。皆フェイトに勝つ、または認めさせる為に努力していた。…多少動機に不純な所はあるが。

…それを今から、台無しにしてしまうかもしれない。

 

≪なのは、大丈夫?≫

≪ユーノ…あぁ、少し緊張するが大丈夫だ。最後に全部上手く行けば、皆も納得してくれるはず…多分。≫

≪そう…だと、良いんだけどね…≫

 

思わず、地上でこちらを見上げる二人に目を遣った。緊張を解す為、一度深呼吸をする。

 

「フェイトちゃん、相談があるの。」




本来もう少し先まで書いていたんですけど、どうにも区切りが悪くてこの辺りで切る事に…
取引の内容に関しては魔法がバレた事と密接に関係してます。

次回は予定通り3日後に挙げられると思います。

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