転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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vs聖女⑧

――おかしい。

 

高町なのはが姿を消してから、かれこれ15分は経っただろうか。

私を包囲する転生者達の攻撃をあしらい続ける中、私の脳裏には絶えず一つの疑問が浮かんでいた。

 

「戦闘中に他事を考えるとは、随分と余裕があるようだ――なッ!」

――おかしい。

 

そう言って背後から放たれたシグナムの紫電一閃に対して、魔力で強化した掌を添えて受け流しつつ……私が抱く疑問が増えたのを実感する。

 

「アイゼン!」

≪Explosion!≫

――おかしい。

 

ラケーテンフォルムへと変形させたグラーフアイゼンによる一撃を正面から掴み、噴出機構の推進力を合気の要領で利用し逆に放り投げる私の視線は、あれから常に()()の姿を探していた。

 

「上の空に加えて余所見か!? 集中力足りてねーんじゃあねぇかぁ!?」

 

挑発するように口々にそう叫びながら放たれる彼等の攻撃は、最早避ける必要もない。時折混じる砲撃以外は、それこそ少し強い風の様なもの……精々私の髪を靡かせる程度の意味しか持たない。

 

「……」

 

それでも魔法は魔法。直撃すれば爆発するし、その影響で煙は発生する。

視界が遮られる事が煩わしくて腕を一振り。魔力を込めた事で生まれた突風が、直ぐに煙を散らす。

どうしてこうも無駄な抵抗をするのかと言う疑問さえ、その煙と同様に意味の無いモノとして散らされて消える。

 

――いや、既に答えは出ている。

 

()()から15分も経っているのだ。

高町なのはに私の砲撃が直撃していない事は、微かに感知したシャマルの魔力の残滓が教えてくれていた。

多少のダメージを負っていたとしても、助けたのがシャマルである以上は既に完治している筈なのだ。

だと言うのに、彼女が姿を見せていない。

他でもない、()()高町なのはがだ。

 

――未来視が使えない以上、直接聞くしか無いようですね。

 

この場で最も事情を知っている可能性が高い人物に狙いを澄まし、強化した飛翔魔法で一瞬のうちに距離を詰める。

 

「何を企んでいるのか、話して貰いますよ……八神はやて。」

「ほぉ……? 随分と私の事、警戒しとるみたいやなぁ?」

「貴女ではありませんよ。()()()()()()()()()()()()()()な彼女の事です。」

 

余裕を崩すまいとするはやての表情が、ほんの僅かに緊張する。ただそれだけで私の考えが正しかったのだと確信し――

 

 

 

「スターライトブレイカアアアアァァァァー!!」

「――ッ!?」

 

直後、上方から感じた膨大な魔力。

同時にはやての背後にシャマルの旅の鏡が開いた事には気付いたが、そちらへと対処する時間も惜しい。

即座にそう判断し、上空から降り注ぐ極大の砲撃に対して障壁を構える。

 

「――ぐっ……! この手応え、間違いなく高町なのはの……!」

 

スターライトブレイカーを受け止めた障壁が軋む音を聞きながら、思考する。

 

――一体何時の間に魔力集束を……!?

 

障壁越しのスターライトブレイカーから感じ取れる魔力波動は、間違いなく転生者達の物……だが、私は彼等の魔力が集束していくのを見ていない。

彼女はまさか、私の知らない奥の手を持っている……?

 

いや、だがそれももう問題は無い。

 

「――八神はやてには逃げられましたが、代わりに貴女を引き摺り出す事が出来た。そう考えれば、十分に成功と言っていいでしょう。」

 

スターライトブレイカーを防ぎ切った障壁を解除すると、こちらを見ていた高町なのはと目が合った。

何か迷いを振り切ったような、覚悟を決めた目だ。

 

「行くよ……レイジングハート!」

 

そう宣言する彼女が手に持った杖を一振りすると……周囲に一瞬で無数の魔法陣が現れ、夥しい量の魔力弾が濁流のように溢れ出した。

 

「質より量と言う訳ですか……愚かとしか言えませんね。」

 

見たところ、彼女はスターダストフォールによる瓦礫を漂わせてもいない。

私は今度こそ彼女を確実に墜とすべく、無数の誘導弾を放ち差し向けた。

 

――……? 何でしょう、この何とも言えない感覚は……?

 

視界に映る高町なのはに、奇妙な違和感を覚えながら。

 

 

 


 

 

 

――『頼み?』

――『うん、君にしか頼めない事なんだ~』

 

そんな念話が彼女……天野朱莉から繋げられたのは、つい数分前の事だ。

 

――『そうか……それは確かに、俺以外には難しいな……』

――『不安?』

――『まぁ、な……ちゃんと出来るかもそうだし、こう言うのって無許可だと拙いだろ。管理局法的に。』

 

頼まれたのはシンプルな役割をこなす事。

ただし、管理局法に引っかかりかねないような魔法を必要とする類の。

 

――『じゃあ、今の内に許可取っちゃいなよ。もう直ぐ念話も出来なくなっちゃうし。』

――『いや、元々アイツには勝手に念話しちゃいけないって仲間内の取り決めがあってな……まぁ、直接向かうわ。近いし。』

――『えぇ……? 何か面倒な縛り付けてるねぇ~……』

――『天使のお前なら分かるだろ? 転生者同士のちょっとした約束だよ。』

 

切っ掛けは何だっけ……? あぁ、そうだ。確か前世でストーカーされてたって言う、女性の転生者がそう言ってたんだった。

……まぁ、本人はストーキングされるのを嫌がった結果、今生では男に生まれてたけど。……そんな事は今どうでも良いか。

 

そんなこんなで直接会いに行こうとして、その直前で彼女達の会話を聞いてしまったんだ。

そう……天使の事情を打ち明ける朱莉と、()()()()()()()()()()()を。

 

同時に今までなのはと過ごした日々が脳裏を過った。

 

小学生の入学式で初めて見たなのは。

桃子さんと手を繋ぐ彼女の姿を見た時、俺は本当にリリカルなのはの世界に来たんだと感動したものだ。

 

朱莉に守られるように抱えられたユーノと出会い、レイジングハートと魔法を得たなのは。

思い返せばユーノとの出会いは最悪の形だったと思う。勝手な思い込みで追い回し、非殺傷とは言え魔法を向けた事は今でも俺の中で最大の汚点だ。

 

地球に降り注いだジュエルシードと言う脅威に、共に立ち向かったなのは。

ジュエルシードを二つ宿した怪物との戦いは、何処か夢心地だった俺に、初めて今居るのが現実だと実感させた。

 

いつしか日課となった訓練で模擬戦するなのは。

事情を知った今になって振り返れば、確かになのはの訓練の様子には違和感もあった。

周囲の転生者が他の転生者から色んな影響を受けて様々な魔法を開発していたのに対し、彼女にはそれが一切なかった。

勿論、彼女の琴線に触れる魔法が無かっただけかも知れないが……それでも彼女は周囲からの影響を受ける事が極端に少なかった。……まるで、『高町なのは』のイメージから離れすぎないように意識しているかのように。

 

その事に気付いた時、俺は強い眩暈に襲われた。

彼女がそうする理由に……いや、()()()()()()()()()()()()()()()()に気付いたから。

 

――そうか、俺はあの時……ユーノだけじゃなく、なのはまで追い詰めていたんだな。

 

転生者だと判明したユーノを追い回した時、俺の脳裏にあったのは『こいつをなのはに会わせない』と言う思考だけだった。

言い訳になるが、一応は『邪な思惑でユーノになった転生者からなのはを守る』と言う理由からの行いだったのだ。

……そしてその結果、バカだった俺はバカなりに守ろうとしたなのはを誰よりも追い詰めていたって訳だ。

 

――まったく、どの面下げて会うって言うんだ。なぁ、神宮寺 雷斗(おれ)

 

その時会った神谷には、後でなのはに念話するなんて言ったが、どうにも話しかけ辛くて……結局、そのまま作戦開始の時間が来てしまった。

 

 

 

「――本当にやるのね? 多分、一番危険な役割だと思うけど。」

「ああ、時間は何が何でも俺が稼ぐ。……俺以外にはやりたくても出来ないからな。」

「……そうね、余計な質問だったわ。」

 

地上で待機していたティアナと作戦をすり合わせている内に、最後のキーマンであるシャマルも合流。「今回、私忙しすぎませんか!?」と弱音を吐きつつも、彼女はポジションについてくれた。

 

「タイミングは聖女がなのはの不在に疑問を抱き始めた時だ。……自分で引きずり出したと思わせるのが、一番疑問を持ちにくい。」

「ええ、そうね。……それと、口調には気を付けなさいよ?」

「……ああ、分かってる。」

 

――正直、そこが一番不安ではあるが。

 

≪今や!≫

 

「――っ! 合図だ!」

「了解!」

 

同時に目の前に開いた旅の鏡に身を潜らせる。

その直後、俺の眼下にははやてに肉薄する聖女の姿があった。

 

――こんなタイミングかよ! はやて、大丈夫なんだろうな!?

 

迷いは一瞬、直ぐに自分の役割(ロール)を思い出し、デバイスの切っ先を聖女に向ける。

構えているのは俺の愛用のデバイスだが、今は魔法によってその形を変えていた。

かつてテレビで見た、彼女のデバイスに。

 

すっ……

 

叫ぼうとして、言い知れぬ緊張感に口を結ぶ。

これを口にすれば、もう後戻りはできない。誰よりも危険な場所で、何よりも恐ろしい攻撃に晒されるだろう。

 

だけど――それはアイツがずっとやって来た事だ。

 

アイツはいつだって、一番危険な場所に居た。

ジュエルシード事件でも、闇の書事件でも……そして今も!

常に最前線で、誰よりも責任を背負っていた筈だ! 自分が負けたら終わりだと言う重圧と、常に付き合っていた筈だ!

 

そこに縛り付けたのは誰だ!? アイツに"なのは"と言う役割を演じ(のロールプレイを)させたのは誰だ!?

 

――お前だろう、神宮寺(おれ)

 

「スターライトブレイカアアアアァァァァー!!」

 

気付けば叫んでいた。その魔法の名前を、なのはの声で。

そして『王の財宝』から、前日になのはに頼み込んで入れて貰った魔法……今回の作戦での俺の切り札、『スターライトブレイカー』が放たれた。




なのは「実は割と楽しんでました」

補足としてティアナの役割は、王の財宝の揺らぎを幻影魔法でミッド式の魔法陣に偽装する事です。
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