転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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vs聖女⑨

<本当に大丈夫?>

「うん。シャマルも完治したって言ってたし……それに、皆が戦ってるのに私がビクビクしてる訳にも行かないよ。」

 

姉さんの心配そうな声にそう答え、私は上空へと向けた視線の先……なのはのスターライトブレイカーを防いでいる聖女の姿を、つぶさに観察する。

 

仮想空間を使用した訓練では幾度となく対峙した私の経験から言って、あの砲撃の規模と威力は他の魔法とは文字通り桁が違う。

1vs1の状況でさえそう感じられるあの魔法は、今この瞬間に於いては銀盾やはやて達の魔力さえ取り込み、その威力を更に高めているはず……それを障壁一枚で防げている事実が、天使の力の強大さをどんな言葉にも勝る説得力で伝えていた。

 

……それでもスターライトブレイカーならば、或いはあの障壁さえ貫いてくれるかも知れないと言う私の小さな期待は実る事無く、程なくしてスターライトブレイカーの光が細くなり――やがて消えた。

 

<……本当にスターライトブレイカーも克服されちゃったんだね。あの聖女を倒す方法なんて、あるのかな……>

 

姉さんはその光景を見て不安を大きくしてしまったようだけど、私はそうは思わない。

確かになのはのスターライトブレイカーは、今までどんな困難だって撃ち抜いて来た。先の見えない不安の闇を、いつだってその光で切り拓いて来た。

だからその一撃が防がれた事による動揺は、仕方のない事だと思う。

 

だけど……と、私は聖女から少しだけ視線を動かし、二人の姿を目に写すと言い聞かせるように口を開く。

 

「あるよ、絶対。だって――」

 

私が今も見つめる二人の表情は、姉さんも見ている。

ならば伝わる筈だ、私が信じる希望の根拠も。

 

「――はやてが、なのはがまだ諦めてないから。」

 

スターライトブレイカーが防がれてなお怯まず、更に次の一手を探る二人の姿が教えてくれる。

希望は強い力の事を指すのではなく、強い意思が伝える物なのだと。

 

「……行くよ。姉さん、バルディッシュ!」

<――うん!>

≪Yes,sir.≫

 

 

 


 

 

 

――直撃した……今度こそ。

 

私がなのはに放った無数の誘導弾は今度こそ回避の隙を与えず、その全てがあらゆる方向から彼女に襲い掛かった。

スターダストフォールで瓦礫の盾を構えていない今の彼女に誘導弾を防ぐ術はなく、どこか体の一部で防ぐにしても全方位からほぼ同時に直撃を貰ってはどうしようもない。

これでなのはは墜とされ、鬱陶しい銀髪オッドアイ達も動揺する筈。そうすれば、その隙を突いてこいつ等も一網打尽に出来る……

 

 

 

――その筈だったのに……

 

「……全く、今度はどんな小細工をしたのですか?」

「教えると思う?」

「いいえ。ですが、そうですね……答える気が無いのなら――」

 

煙が晴れた時、なのはは変わらず無傷でそこに居た。

バリアジャケットにもまるでダメージは無く、どう防いだのかも見当がつかない。だが、それならば――

 

「つまらない手品のタネが割れるまで、只管に撃てば良いだけの事。」

 

そう言って、再び私は無数の誘導弾を放つ。

今度は一斉に直撃させたりはしない……一つずつ、しかし絶え間なく着弾させ続け、先ずはその薄っぺらいベールを……!?

 

――殺気!

 

「――くっ……!?」

「……惜しい。」

 

ギリギリ身を躱したところに現れたのは、ライオットザンバー状態のバルディッシュを構えたフェイト・テスタロッサだった。

彼女は呟く様に一言だけ残して、そのまま私から距離を取るように飛翔する。

そして、私が再びなのはへと視線を移した時には既に……

 

――な……っ! バカな、一体どうやって……!?

 

……魔法に干渉されない筈の天使の力で編まれた私の誘導弾は、その全てが()()()()()()()後だった。

 

 

 


 

 

 

魔法をすり抜けると言う誘導弾を、俺が撃ち落としたのが分かったのだろう。

こちらを見る聖女の表情は、一目で分かるほどに動揺していた。

俺はそんな彼女に対して余裕の笑みを浮かべながら……

 

――あっぶねぇぇ! フェイトが来てくれたおかげで、()()()()()()()()()()()

 

内心バックバクだった。

 

聖女の魔法に対しては魔法による障壁も迎撃も無意味である事や、なのはがそれに対してどう対処したかに関してははやてから聞いて知っていた。

だが、生憎と俺はスターダストフォールやそれに似た魔法を得意としておらず、なのはと同じ方法による対処は出来ない。

 

しかし、はやてから受け取った情報は俺に一つの策をひらめかせた。

ただし一つだけ問題があるとすれば……

 

≪……驚いた、神宮寺だったんだね。その『なのは』。≫

≪……おう、本物のなのはを探させない為のダミー役だ。フェイトも俺の正体がバレないように協力してくれるか?≫

≪うん、勿論。でも……凄いね、()()が無ければまだ気付かなかったかも。≫

 

声に振り向けば、目をぱちくりとしているフェイトと目が合った。

彼女の反応で分かるように、見れば一瞬でバレるのだ。この対処法は。

勿論その正体が神宮寺(おれ)である事まで分かるのは、俺と付き合いの長い銀盾やフェイト達くらいだろうが、それでも『なのはではない』という事は一瞬で看破される。だって――

 

≪あの時、母さんが虚数空間に落ちないようにしてた魔法だよね、今の『銀色の玉』って。≫

≪ああ。神場の奴に嫌と言うほど詰め込まれて以来、一切使い道が無かった産業廃棄物だよ。≫

≪あはは! でも役に立っちゃったね!≫

 

そう……アリシアが言う様に、よりにもよってアレが役に立ってしまったのだ。

小学生の頃、事ある毎にむやみやたらと突っ込まれて来たアレが。

……まさか対して威力もなく、物理的に干渉できるってだけの魔法がここまで刺さる状況があるなんて思いもしなかった。今はアイツの悪ふざけに感謝しかない。だが――

 

≪……神場には言うなよ、アリシア。絶対アイツ調子に乗るから……!≫

≪え~? どうしよっかなぁ~?≫

≪頼むから! 今度何でも奢るから!≫

 

それはそれとしてドヤ顔されるのは何か腹立つので絶対に知られたくない!

 

≪――そこぉ! いつまでも喋っとる場合やないで!≫

 

っと、そうだった。

さっきの銀色の玉が聖女に見られなかったのは、あくまでフェイトが介入したからだ。

再びさっきと同じような攻撃に晒されれば、結局俺もまた同じ対応をしなければ防ぐ事は出来ない。そして、それは聖女にも解っている筈。

今度こそ確実に俺の手札を暴く為、さっきよりも念入りに追い詰めて来るだろう。

 

≪……そう言う訳だから協力してくれ。フェイト、アリシア。≫

≪うん。要するに私達が聖女の眼を引き付けて、ここにいるのがなのはじゃないってバレないようにすればいいって事だよね?≫

≪頼む。聖女はなのはの魔法を警戒しているから、攻撃は俺程は来ない筈だが……それでも回避優先でな。≫

≪了解!≫

 

そのやり取りを終えるやいなや、フェイトはライオットザンバーを構えて聖女へと向かっていった。

 

――さぁて……ここからが本番って感じか。

 

動揺から立ち直り、先程よりも多くの誘導弾を放ってきた聖女を見て、俺も気を引き締める。

 

――綱渡りだな。一つでも選択を誤れば、その瞬間にアウト。残弾が尽きてもアウトって訳だ……

 

一度きりの切り札であるスターライトブレイカーはもう使った。聖女に障壁を張らせて時間を稼ぐ事は、もう出来ない。

幾つか砲撃魔法も借りてはいるが、通常の魔力弾程のストックは無い。牽制にしかならないだろうが、それでも使いどころは選ばなくてはならないキーカードだ。

かと言って、魔力弾のストックだって中々扱いが難しい。温存しているなのはの魔法には、小学生の頃に入れて貰った物も混ざっている。

明らかに魔力量も構築も甘い術式のそれらは弾幕の水増しには使えるかもしれないが、下手に使えば俺の偽装が暴かれる要因にもなりかねない。

 

朱莉が言ってた準備がいつ終わるのか分からない以上、この手札で可能な限り時間を稼がなければならないって訳だ。

……そして、そんな事を考えている間にも、俺の周囲を聖女の誘導弾が取り囲んでしまった。

 

フェイトもシグナムやヴィータに加勢する形で果敢に斬りかかってはいるが、誘導弾を幾つか差し向けられており、思ったようには攻めさせて貰えていないようだ。

幾度か間合いを詰める事には成功しているが、連撃を加えるだけの余裕は与えて貰えず、容易に回避されている。

ライオットザンバーで誘導弾を切り裂けないかも試していたが、シグナムのレヴァンティンやヴィータのグラーフアイゼンとは違い、やはりすり抜けていた。斬撃を放つと言っても、あれもやはり魔法と言う事なのだろう。

 

――さっきよりも弾速が遥かに上がっている……! 聖女も本気で見極めに来ているな。

 

正直もう神場の魔法に頼らなければ防げない段階だ。

当然だが、聖女の眼は今も俺に向けられている。使えば俺がなのはではないと気付かれる可能性が非常に高い。

しかし、使わなければ俺の役割である時間稼ぎも果たせるか危うい。

 

――仕方ない……か。だったらせめて、なるべく聖女の誘導弾で隠れるようにして……!

 

王の財宝の揺らぎが開く。勿論揺らぎはティアナの幻影魔法により、なのはが使うミッド式の魔法陣に偽装されている。

そして、その中から……()()()()()()()()()()()()

 

――え?

 

俺は一瞬、射出する魔法を間違えたのかと思った。

だが、直ぐにそれはあり得ないと思いなおす。この世界で生まれてからと言う物、ずっと使って来た能力だ。中に収められている魔法がいくら増えようと、今更そんなミスはしない。

 

――まさか……!

 

放たれた魔力弾は聖女の誘導弾に接触すると、相殺するように爆発した。

それが意味するところは一つ――

 

≪ちょっと、神宮寺! そう言う魔法を使うなら最初にそう言いなさいよ!≫

≪済まん、助かった……ティアナ!≫

 

ティアナの幻影魔法だ。

幾つも発生させている揺らぎに加えて、神場の魔法もアドリブで偽装してくれたのだと理解した。

 

≪見た目と魔力波動を誤魔化しただけよ。軌道や弾速をじっくり観察されたら多分違和感が出るから、気を付けなさい。≫

≪ああ、分かった。引き続き頼めるか。≫

≪なのはさんの教えを受けた一人として、役割は果たすわ。任せなさい。≫

 

――頼りになるな、全く……!

 

確かに見た目は偽装されているが、弾速や軌道は誤魔化せない。

それそのものに推進力がある魔力弾に比べれば当然遅いし、軌道も重力の影響を強く受ける。

だが、それは俺が上手く扱ってやればいいだけの話だ。

 

――ここまでアシストされておいて、今更弱音なんか吐けるかよ!

 

俺はあくまでも時間稼ぎだ。墜とされるまで戦い、その時間をなるべく遅らせるのが俺の役割。

だが、撃ち落とされるまでは俺が『高町なのは』なのだ。

 

――なのははどんな強敵にも怯まない、どんな脅威からも逃げない。そして……

 

アイツがずっと背負って来た『なのは』と言う重責……今だけは(偽物)が勝手に背負わせて貰う。だから……

 

――最後は絶対に勝つんだよ!

 

お前(本物)にしか果たせない役割だけは……とどめは任せるぞ、なのは!

 

 

 


 

 

 

「――どう? 操作にはもう慣れて来た?」

「うん、大分コツは掴んだと思う。」

 

直径5mしかない狭い結界内を、薄桃色の魔力弾が私の意志で縦横無尽に飛び交っている。

結界の淵にも、その中にいる私達の誰にも触れる事なく、延々と。

 

「……使ってみると、不思議な力だね。凄く強くて、魔力とも全然違う質なのに良く馴染む……」

 

扱う前は水と油だったそれは、一度制御に成功すればまるで元々一つだったようにスムーズに溶け合う。

しかし、その性質は変わらない。

私の魔力が混ざっているのに、普通の魔法には干渉しない事も出来る力……

 

「そう言う物だからね。仕組みの解説は、ちょっとこの世界に無い言葉が幾つも必要だから出来ないけど。」

 

そう言うと朱莉ちゃんは自身の手から魔力弾を放ち、私の操作する魔力弾に差し向ける。

そして次の瞬間二つの魔力弾は接触し、激しい爆発が起こる。

手の平サイズの魔力弾同士の衝突で発生したとは思えない程の爆風に、思わず腕を盾に頭を守る。

 

「くっ……! 朱莉ちゃん……!?」

 

急に何をするのかと目で訴えると、朱莉ちゃんは満足気な笑みを浮かべてこう言った。

 

「今のが相殺できたなら、力の操作は十分出来てるって事だよ。」

 

詳しく聞けば、もしも私の魔力と天使の力のバランスが悪いと、今の魔力弾は透過してしまったり一方的に私の魔力弾だけが破壊されていたらしい。

そして、今のがこの先の手順に進めるかどうかを測る最後のテストだったのだと言う。

 

「これで、いよいよ最後のステップに行ける……思ってたよりもずっと速くて驚いちゃった。正直、後数十分は覚悟してたんだけどね~。」

 

朱莉ちゃんはその笑顔のまま「流石教導官、魔力の操作に関しては私よりもずっと上だね。」と言うと、一転して表情を引き締めた。

 

「――ここからが地獄だよ。なのはちゃんのリンカーコアに私の力を深くまで流し込んで、強引に適合させる……覚悟は良い?」

 

本当の地獄を知っている天使がそう言うのだ、きっと私の想像を絶する苦痛を伴うのだろう。

しかし、それについてはこの訓練を熟す中で既に聞いていた事。彼女の問いも、あくまで心の準備を済ませたかの確認でしかない。

 

……恐らくは聖女もこれをやったのだろう。きっと私よりもずっと時間をかけて。

それと同じ成果をこの短時間で得る為の方法がこれしかないのだ。

だったら、私の答えは一つ。

 

「何時でも良いよ……覚悟なら、ずっと決めてる。」

 

そう言って背を向けると、少しの間をおいて朱莉ちゃんの手がリンカーコアの位置に添えられ……私の四肢がバインドで固定された。

 

「ゴメンね、暴れられると危ないから。」

「……大丈夫、分かってるよ。」

 

ホントはちょっと驚いたけど、ついでにちょっと恐怖がぶり返しちゃったけど、それを気取られないように深呼吸して……

 

「――良いよ……やって。」

「うん。……今までずっと頑張って来た貴女に、こう言うのは変かも知れないけど……頑張って。」

 

朱莉ちゃんがそう言った直後、私のリンカーコアに激痛が走り――

 

 

 

――そこから先は、覚えていない。




あまり細かい描写は出来なかったので補足しますが、レヴァンティンやグラーフアイゼンの様なアームドデバイスならば物理的に干渉する事で聖女の誘導弾に対処できます。
これはあくまでも頑丈な作りが強みのアームドデバイスだからで、インテリジェントデバイスやストレージデバイスではフレームの強度の関係で不可能(やると即破損する)です。
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