転送魔法で跳んだ先で私を待っていたのは、この事態を想定していたかのように迎撃を試みるトーレのIS――ライドインパルスの光刃だった。
「――こちらに来たぞ、チンク! オットー!」
「分かってる! 予定通りにオットーは連絡を!」
「うん!」
連続して放たれるライドインパルスを障壁で防いでいる間に何やらやり取りを交わしていたチンクとオットーだったが、間もなくしてオットーが私に背を向けて何処かへと飛び去った。……恐らくは増援でも呼びに行ったのだろう。私がここを狙う事は、如何やら想定されていたらしい。
「……ジェイル・スカリエッティですね、貴女達をここに配置したのは。」
「そうだ。そしてお前がここに来た時は、なのはとの戦いで不利を悟ったと言う事だとも聞いている。」
「――
そう言って、妙に身長が高いチンクが投擲してきたのは無数の短剣。金属製のそれは、投擲された時には既に彼女のISによって変質しており――
「『ランブルデトネイター』!」
「貴女達の能力は全て知っています。」
私が障壁でそれを防いだ瞬間、内側から破裂するように爆発した。
チンクのIS『ランブルデトネイター』は、一言で言ってしまえば『触れた物を爆弾にする能力』だ。
ただの金属製の短剣と侮れば手痛い打撃を受ける……確かに面倒な能力ではあるのだが、知っていれば対処はそれほど難しくはない。
――まぁ、問題があるとすれば……今の爆発でなのはに私の居場所がバレた可能性が高いと言う事でしょうか。
ただでさえ急がなければならないと言うのに……!
「――今の爆発は!?」
目の前から突然消えた聖女の奇襲を警戒していた私の耳に届いたのは、突如地上から上がった爆発の音だった。
音のした方向に目を向ければ、遠くの地上から立ち上った煙が音の発生源を伝えてくれる。
≪あの場所は確か……そうだ、オットーのプリズナーボクスがあった場所だ!≫
≪プリズナーボクス……≫
ナンバーズの皆が援軍に来ている事は知っていた。
リオンちゃんとの戦闘中にもその姿は確認していたし、彼女達が力を貸してくれるのであれば心強いと思っていたのだ。
あのプリズナーボクスに関しても、恐らくは負傷した皆の治療を行っているのだろうと考えていたのだが、そこで起きた爆発……まさか、聖女はあそこに……?
何らかの事故があった可能性もあるが、聖女が姿を消したタイミングと合い過ぎている。
直ぐに飛翔魔法で移動を開始した私の眼前に、アースラからの物だろう通信が届いた。
『なのはちゃん! 大変だよ!』
「! エイミィさん、まさか今の爆発って……!」
『そう! 聖女が皆で回収したリンカーコアを取り返そうとしてるみたい!』
「リンカーコア!? どういうことですか!?」
切羽詰まった様子のエイミィさんから移動しがてら話を聞くと、銀盾やナンバーズの皆が生死体を無力化する為に回収したリンカーコアは、簡易的な封印処置を行った後、あのプリズナーボクスの中に集められていたのだそうだ。
そして聖女の目的は、その集められたリンカーコアの回収なのだと言う。
『聖女がリンカーコアを何に使うつもりかは分からないけど、絶対に碌な事にはならないよ! だから急いで、お願い!』
「はい!」
そのやり取りを最後に通信を切り、断続的に爆発が続いている現場へと全速力で向かう。
≪でも、どうしてリンカーコアを……?≫
私とは違い、聖女は天使の力を扱うのにリンカーコアを必要としていなかった。
だからこそ彼女は使わなくなったリンカーコアを戦力とする為に、生死体に埋め込んで私兵としていた筈なのだ。
≪単純に出力を上げるつもりなんじゃないか? 天使の力を扱えるようになったなのはに、対抗する為に。≫
≪でもそのリンカーコアは天使の力に適応できてないんだよ?≫
そんな状態のリンカーコアがいくら増えても、出力に影響するとは思えないんだが……
「『ランブルデトネイター』!」
もう何度目かの爆発……しかし、今度は私の足元から。
爆発したのは足元に投擲された短剣だ。外したのではなく、意図的にそこを狙ったと言う事は……
――土煙……これが狙いでしょうね。
続く戦闘によりめくれ上がったアスファルトの下、剥き出しの地表に突き立っていた短剣が爆発した事で巻き上がった大量の土煙が私の視界を埋め尽くす。
高速機動を得意とするトーレと相性が良く、チンク自身を含む全員の攻撃の瞬間も悟らせない……確かに厄介な戦法ではあるが、それでも彼女達には私に勝てない理由がある。
――貴女達は転生者ではない。
私の未来視には既に彼女達の攻撃が見えている。
いくら視界を塞ごうと、何度虚を突こうと、どれだけ隙を伺おうと関係無い。転生者でない以上、攻撃のタイミングも狙いも何もかもが筒抜けだ。
「無駄です。」
「ぐ……ッ!」
土煙を割いて現れた刃を躱し、カウンターに天使の力で増強した蹴りを放つ。
腹部を捉えたその一撃でトーレは吹き飛び、辛うじて形を残していたビルの支柱を砕く。
支えを失ったビルは崩落し、トーレを生き埋めにした。
「トーレ!」
彼女が埋まった瓦礫の元へ、慌てた様子でチンクが駆け寄る。
恐らくはアニメの彼女とは違い、こう言った荒事の経験が無いのだろう。優先順位を誤った彼女に内心ほくそ笑みつつ、目的である封印されたリンカーコアが入れられたケースの山へと手を伸ばし……その瞬間、未来が見えた。
「こ……これは……!」
「――チッ……やっぱりクアットロみたいには上手く行かねぇか。」
伸ばした手を止めた私に、背後のチンクから声がかかる。
「どうした? それが目的だろう……取らないのか?」
「く……!」
このリンカーコア達は……いや、正確に言えばそれを入れたケースは全て、既にチンクの『ランブルデトネイター』で爆弾化されている……!
一つや二つ程度は問題無いが、これほどの数が全て爆発すれば流石のこの身体でもダメージは必至……
恐らくは戦闘不能にはならない……天使の身体は人間なら致命傷となるような傷を受けても、天使の力で再生できる。
そもそもこの身体は厳密には生物ではないのだから……だが、その分再生には天使の力を大きく消耗する事になる。
――だが、なのはに勝つにはこれしかない!
一瞬の葛藤の末、私は手ではなく全身でその山に突っ込む事で山と積まれたリンカーコア全てを
「――"コアコレクト"!」
「マジかよ……ッ! 『ランブルデトネイター』!」
「――ッ!!?」
現場に到着する寸前、異常なエネルギーの高まりを感知して障壁を張った瞬間――目の前が閃光に包まれた。
――この爆発……今までとは全然……!
天使の力で補強された障壁がビリビリと震える。
爆発の衝撃が通り過ぎた後を見回せば、周辺の建造物は基礎から吹き飛び、爆心地の地形は大きく抉られていた。
――一体、ここで何が……
≪なのは、あそこに人影が……!≫
「っ!」
レイジングハートがそう言って示した先――すり鉢状の爆心地の更に中心の土から、埋まっていた体を起き上がらせた女性の人影が見えた。
女性はふらつきながらもその両足でしっかりと地を踏みしめると、私の方へとその顔を向ける。
「――っ! 聖女……」
「……あぁ、なのは……――ふふ、少しだけ……遅かったですね……!」
彼女は全身を傷だらけにしつつも、その顔にはうっすらと不敵な笑みを滲ませていた。
そして……
「今しがた、私は目的を果たしました。貴女に勝つ為の力は、今――完成した!」
――その全身から、虹色の魔力が噴き出した。
展開を早める為にちょっとカットしたので、分かりにくくなっているところがあればご指摘お願いします。
ちなみにオットーの連絡は援軍を呼ぶ為の物ではなく、周囲にいた仲間達を避難させる為の物です。