カタカタとパネルを操作し、管理局が無数の管理世界に設置してある観測点の情報を収集していく。
先程の次元震はクロノ君の迅速な対応により即座に抑えられたものの、それでも一瞬発生してしまった次元の歪みは既に広範囲に広がってしまっていた。
クロノ君にも報告したように次元断層等の大規模な二次災害には発展していないが、それでも多くの管理世界でちょっとした揺れが発生したようだ。
暫くモニターに表示される情報と睨めっこを続け、十分なデータを得たと判断した私はクロノ君に通信を繋ぐ。
「クロノ君、詳細な結果が出たから報告するね! さっきの次元震は震域そのものは広いけど、何処もちょっと揺れた程度で済んでるみたい! どこも大きな問題は起こってないから安心して!」
『そうか、分かった。それで、リンディ提督は何と?』
「義母さんだったら、多分もう直ぐ駆けつけられるんじゃないかな? 久しぶりの最前線だからか、気合入ってたよ!」
『エイミィ、仕事中にその呼び方は……いや、良い。とにかく、配置に関してだが――』
――数年前、管理外世界『??????』 『???』国 『?????』にて
「――畜生、あのクソ神! なのはの世界に行けるって話じゃねぇのかよ!?」
少年は村の外れで己の内にある憤りをそのままに、天に向かって叫ぶ。
『さっさと地球に行かせろ』『神だったら見てんだろ』……彼の言葉の内容を正しい意味で理解できる者は彼の住む村にはおらず、また親が誰かも不明だった少年はこの村に於いて恐怖の対象だった。
常に苛立っていて、特に機嫌が悪い時に出会ってしまえば『
そんな彼に近付く者は居らず、何時からか村の外れにある崖上の広場は彼の場所となっていた。
そんなある日、少年は思いついてしまう。自身がなのはに会えるかもしれない方法を。
彼は転生の際に『イケメンになる事』の他に、とある能力を特典として貰っていた。
少年はその力を意識して、何も無い空間に両手で
「は、はは……っ! 出来た! 本当に出来た!」
――爪を立てるようにして
引き裂かれた先には奇妙な光と黒い靄が漂う、四次元を意識したような空間――虚数空間が広がっていた。
――『虚数空間を開き、自在に移動する能力』
それは時の庭園でなのはの窮地を助け、最終的にはプレシアの命も救う事でなのはとフェイト、二人からの
「今が原作でどの辺りか知らねぇが、時の庭園まで真っ直ぐに繋げればどうとでもなるだろ!」
そして、彼は……
「……ん? なんだアレ? 何か銀色の――」
「――ハッ! ……夢? いつの間に寝て……痛ッ!」
畑のど真ん中で目を覚ました銀髪オッドアイの青年は、唐突に奔った痛みに顔を顰め、頭を押さえる。
抑えた手の平を見て出血が無い事を確認した彼は、周囲を見回して
――あぁ、そうだ。畑仕事で鍬を振り上げた時、急に地震が起きて……
何の前触れもなく発生した揺れが原因で、振り上げた鍬が頭に当たったのだろう。銀髪オッドアイの青年はそう理解すると、先程見た夢に思いを馳せる。
「懐かしい夢だったな……最初は驚いたけど、今となっては良い思い出……だよ……な?」
名実ともに孤独だった彼に、たった一人の家族が出来た目出度い記憶なのだと。
ズキズキと痛む頭を押さえながら、彼はそうに違いないと納得する。
やがて「そうだ」と思い出したように彼は立ち上がり、
「結構な揺れだったみたいだし、安全を確認しないとな……」
そう言って落ちている鍬をその場に残し、彼は真っ直ぐ歩き出す。
そこは総人口数百名程の小さな村であったが、奇妙な事にそこに住む住民は
無残に破壊された廃墟の中を迷いなく進み、数少ない無事な家屋の窓から中の様子を見ると、そこに
彼女は何かを目で追うように視線を天井の方へ彷徨わせており、やがて幼い顔に似合わない笑みを口元に浮かべた。
「――見つけた……!」
少女が小さく呟いたその言葉を気にも留めず、畑からここまで歩いて来た青年は窓に嵌まった薄いガラスを軽く叩く。
すると少女は、まるで人が変わったかのように無垢な表情を青年の方へと向けた。
「――あ、お兄ちゃん!」
「無事だったか妹よ! 魔法の勉強は進んでるか?」
「うん、もうバッチリだよ! それでね、お兄ちゃんにお願いがあるの!」
「お、何だ? 何でも言ってみろ!
「ふふ、そうだよねぇ~……私は、お兄ちゃん達の妹だもんね!」
二人が話している間に、周囲にはどこからともなく銀髪オッドアイの青年達がぞろぞろと集まって来る。
彼等は全員、現在のこの村の住民であり――元々この村に住んでいた者達を襲い、村を奪った少女の『
少女は彼等へと嘲る様な視線を送ると、その小さな口から一つの『
「直ぐに戦う準備をして集合。仕掛けるよ、お兄ちゃん達。」
「「「「「はい。」」」」」
「……ふふ、待ってなさい――高町なのは……」
「≪Chaos Buster≫!」
「く……っ! ショートバスター!」
黒虹色の砲撃をギリギリで躱して放ったショートバスターだったが、やはり出力が不足しているのだろう。魔力で強化した手刀で切り払われてしまった。
だが、私もいつまでも同じ攻撃を繰り返さなければならない程、手札が乏しい訳ではない!
「レイジングハート!」
≪Axel Shooter.≫
「っ!」
ブラスタービットが生成した無数の魔力弾をみて、聖女が僅かに顔をしかめる。
どうやら今の一瞬で、このアクセルシューターがこれまでと全く違う事を看破したようだ。
……とは言っても、術式には一切手を加えてはいない。
単純に
だが、たったのそれだけで大きな変化がこの魔法には起こる。
「援護お願いね、レイジングハート!」
≪All right, my master.≫
レイジングハートに一言そう告げて、私は聖女との距離を詰めるべく
そう、使用者が変わったと言う事は、アクセルシューターのデメリットを負う者も変わると言う事。
レイジングハートが制御しているのであれば、アクセルシューターの発動中も私は自由に動けるのだ。
尤も、代償としてレイジングハートが制御しているブラスタービットはその間、私に追従するだけになってしまうのだが……それでもこの魔法の汎用性は、そんなリスクが関係無い程に高い。
「≪Loyal zapper≫!」
≪-Burst-≫
私の接近を阻もうとする聖女の誘導弾を消し飛ばし――
「≪Chaos……」
≪-Buster-≫
「――っちぃ!」
聖女からの砲撃の対処や牽制――
≪-Bind-≫
「鬱陶しい……ッ!」
果てはバインドで聖女の注意を引く等、サポートには非常に特化した魔法となっているのだ。
だからこそ――
「ショートバスター!」
「ストレイトバスター!」
「ディバインバスター!」
私は接近と攻撃に専念できる。
だが、しばらくそうしているとやはり火力不足という問題が浮き上がる。
レイジングハートの援護の甲斐もあって、砲撃の幾つかは聖女の身に届いた。
だがその殆どは発動までの時間が少なくて済むショートバスターであり、ダメージとして期待できるストレイトバスターやディバインバスターは特に念入りに回避されており大きなダメージは与えられていない。
――やっぱり決着を狙うならスターライトブレイカークラスじゃないと……! だけど……
スターライトブレイカーの様な分かりやすいチャージを必要とする集束砲撃を聖女に当てるには、乗り越えなければならない課題が幾つかある。
その一つが聖女の使う短距離転送魔法だ。
転送魔法の術式は基本的に移動しようとする距離が長ければ長い程複雑になり、構築に必要な時間も長くなる。
だが今の聖女が使っている様な短距離転送――それもたった数m程度の距離であれば、ほぼノータイムで移動が可能なのだ。
勿論彼女自身がデバイスである事による、処理速度もあるのだろうが……どちらにしても、これでは大ダメージを狙えるような砲撃を当てるのは難しい。
更にはスターライトブレイカーを当てる為の布石として使えるレストリクトロックも、どういう訳か聖女には通用しなかった。
動きを封じなければ直撃させられないだろう集束砲撃を決めるには、最低でもこの二つの課題をクリアしなければならないのだ。
≪……何か無いかな、レイジングハート?≫
≪そうだな……転送魔法に関しては、当てがなくもない。≫
≪ホント!?≫
≪ああ、闇の書事件の時にリインフォースが使った……って言うか、奪って書き換えた結界があっただろ?≫
≪……あっ、そう言えば!≫
あの時の結界には、転送魔法の転送先の情報に介入して転送先の座標を変えると言う処理が組み込まれていた。
エイミィさんの話では書き換えられた転送先に規則性は無く、完全にランダムになっていたらしいが、もしもその転送先を固定できるなら……!
≪直ぐにはやてちゃんに聞かないと!≫
≪――なるほどな、リインの結界か。≫
≪うん! それと、バインド以外で聖女の動きを止める方法って無いかな?≫
≪バインド以外か……確かレストリクトロックは効かなかったんやったな。≫
≪そう、発動はしたんだけど、捕らえる前に解除されちゃって……≫
≪分かった、こっちの皆と相談してみるわ。少しだけ待っててな!≫
≪ありがとう!≫
急に繋げられたなのはちゃんとの念話を終えて、様子を窺っていたフェイトちゃん達に内容を共有する。
そして、ユニゾン中のリインフォースにも結界の件を尋ねると……
<転送先を好きな位置に固定するのは難しいですが、転送先の座標を転送前と同じ座標に書き換える処理であれば可能かと。……ただし、その間は全ての転送魔法に影響が出てしまいますが。>
との事だった。
そちらも重ねて伝えると、銀盾の一人――神楽坂くんが手を挙げた。
「思ったんだけど、フェイトの電気で感電させるのは出来ないか?」
その言葉に彼以外の銀盾達が一様に頷く。
嘗てフェイトちゃんとの戦いでその身に受けた攻撃だった事もあり、彼等にとっては印象深かったのだろう。しかし、その案は他ならぬフェイトちゃん本人によって却下された。
「聖女には既に一度攻撃を当てているけど、その際に聖女は感電しなかった。……原因は分からないけど、シグナムと同じように感電中でも動ける方法を持っているか……」
「もしくは、そもそも感電しないか……やな。本体がデバイスで、身体が天使や……もう何が原因で感電を防いでいるのかも分からん。」
「そうか……」
「だったら俺のレアスキルで聖女を捕らえるバインドを作るってのはどうだ?」
続いて手を挙げたのは、神場君だった。
彼の能力であれば、確かにどんな性質のバインドだろうと作り出す事が出来るだろう。
「――いや、恐らくだが通用するまい。」
しかし、一見行けるかと思われたその提案に割り込む声があった。
普段あまり聞く事のない声に振り向けば、そこにいたのは時空管理局最高評議会の一人であるバルトちゃんだった。
「高町教導官と聖女の戦いは私も見ていたが、高町教導官のバインドを解除した方法は恐らく術式の看破だ。発動から聖女を捕らえるまでの一瞬よりも早く、その式を看破して解除する方法が奴にはある。恐らくは未来視だろうがな。……とすれば、例えどのようなバインドを作ろうと同様の方法で解除されてしまうだろう。」
「なるほど……因みに、その対処法が取れないバインドと言う物は無いのでしょうか。」
「無い。……これは拘束術式の根幹に関わる機構なのだ。どんなバインドでも、それがバインドである限りは拘束する為の『式』と、解除する為の『解』が存在するものなのだ。」
「そうなると、俺には無理か……イメージした魔法は作れるが、ルールを無視できる能力じゃねぇからな……」
そう言って項垂れる神場君。
今まで様々な作戦で中核的な役割を担って来た神場君の能力が通用しないと聞いて、銀盾の皆の中に暗い沈黙が訪れ……
「――って、ちょっと待てよ? な、なぁバルトちゃん!」
「ばっ、バルトちゃん!?」
急に顔を上げた神尾君の呼びかけに動揺するバルトちゃんだったが、彼はそれを気にする余裕もないと言った様子で問いかける。
「さっきチラッと言ってた事って間違いないのか!?」
「チラッと……? どの事だ?」
「聖女がバインドを解除している方法が未来視だろうってとこ!」
「あぁ、その事か……」
言われてみれば、確かに先程バルトちゃんはそんな事を言っていた。
だがそれが一体――うん? 未来視……?
「高町教導官のバインドが無力化された際の様子から、聖女の対処法は術式の看破である事が明白だ。恐らくはバインドの解除に成功した場合の未来を視る事で、一瞬で『解』を見つけるのだろう。一種のカンニングだな。」
そうでなければ、高等魔法であるレストリクトロックが一瞬で解除されるなどあり得ん。と、バルトちゃんが続けていたようだが、既に私の耳にそれは届いていなかった。
――バインドを一瞬で解除しているのは未来視による物……でも、未来視には明確な対抗策がある……!
神尾君もそれに気づいたから改めてバルトちゃんに尋ねたのだろう。
どこか興奮気味な様子で、彼は銀盾の皆に呼びかけた。
「聞いただろ、皆……――俺達の出番だ!」
「「「「「応!!」」」」」